第2話 新たな門出
確信犯だ。俺のパーティ……元パーティのホームグラウンドであるハルミタの町からメッチャ遠い場所でクビを宣告したのは悪意しか感じられない。
依頼の事はペテロに任せっぱなしだったから今回も何も言わなかったけど
どうせクビにするつもりならホームで言えゃぁあ!
ない! ない! 情の欠片すらもありはしない!
アイツらは人の皮を被った悪魔だ!
俺がここでのたれ死んだら満足なのか?
ムカつく! ムカつく! ムカつく!
それと夕食寸前でクビを宣告した事も許さねえ!
せめて飯を食った後のゆるふわな空気で言えよぉ〜!
仕方ないので携帯食をモグモグと頬張りながら考える。
飯はどうする?今日の寝床は?
これから先よりも今だ。今生き残る事だけを考えろ。
都合よく食える魔物が現れる?
ない。そもそも魔物なんか食えたものじゃない。
人間に害を与えても食える奴が動物で
人間に害を与えて食えない奴が魔物だ!
都合よく盗賊に出くわす?
これも望み薄だ。運良く出くわしても俺みたいにマワシ一丁の男が金を持ってるなんて思うはずがない。多分冷たい目であしらわれる。
……となると。
「ごめんくださ〜い。ごめんくださ〜い」
麓に立派な山小屋を見つけたのを思い出した。
行きは人の気配などなかったけど今は光が灯っている。
「……どなたかな?」
俺のノックに応じてくれたのは初老の男性。隣で不思議そうに俺を見つめている若い女性。
……娘さんかな?もしくは不倫現場。
「えぇーと、俺は今日寝るところがなくて……ですね。よろしければ俺を晩ご飯を御同伴に預かりまして一晩泊め——」
バタン!
勢いよく扉が閉められて鍵をかけられた。更に追撃の魔法の結界によりセキュリティは加速した。
フンッ!優しさを知らない家族め!……一応断ったから軒下で寝かせてもらおう。
誰もが経験済みとは思うが軒下というのは案外過ごしやすい。風は防げないにしても魔物や野犬に襲われる心配がない。
それに真上にあるであろう暖炉の熱が心地良くて一度住んだらもうここでいいやと堕落させる魔力がある。
そうでも言っておかないと、とてもじゃないが軒下などでは寝れない。腹も減ってるし!
…
……
それにしてますムカつくジジイだ。
人が下手に出ていれば冷たくしやがって。
なんか続々この家に小汚い連中が集まって来てるじゃないか。数は10数人。口元は布で隠しており手には剣やナタの武器を持っている。
仮装パーティか?……というかさ。
これなら俺でも入り込めないかな?
……神聖なるマワシをこんな事に使いたくないけど顔に巻いて……手にちくわでも持ってればいいでしょ?
あくまで俺は客人。客人だから堂々と。
いつの間にか見張りがいた。コイツも顔を隠していたけど今は俺も仲間だよ?
だから堂々と!
「ご苦労〜。お疲れ様〜」
「あ!?……え?」
「ん、どったの? お疲れ〜」
「お、お疲れ様……です?」
ほらね! ほらね! 見張りも通してくれたからこれで俺は立派な客人です!
扉を勢いよく開け放ち
「邪魔するぜ!メインディッシュには間に合ったみたいだな!」
さっきからいい匂いが漂って来てるせいで寝れなかったんだよ! 飯だけでもご馳走になっておさらばする! 10秒で終わらせる。
「な……なんだお前は!?」
「俺だよ俺。忘れたなんてなしだぜ〜」
覆面男が俺を見て即座に警戒した。
一目見て状況を判断する。
初老の男と娘さんは縄で縛られており武器を突きつけられている。
何人かの覆面男が金品を袋に詰め込んでいる真っ最中。
これは……流石に……
「え?お前ら強盗なの?」
「テメェこそ何者だあ!?」
「見てわからないのか? 俺は仮装パーティと勘違いした……一般人だよ」
顔を隠していた。マワシを取って素顔を見せる。
この後の展開はお察しの通りだ。
俺が強盗を押し出して初老の男は感激して俺に全財産を譲ってくれて娘さんは俺にベタ惚れ。
俺は『やれやれだぜ』と言いながらご飯をご馳走になり平和な一日を満喫する。
「なんだこの褌一丁の変態野郎は……丁度いい。俺たちは人殺しの覚悟はしてるってのをアーモンド卿に教えてやる」
両手を広げて手のひらを合わせ腰を深く落とす。
「土俵フィールド……解放。生憎今日の俺はすこぶる機嫌が悪くてなぁ。稽古をつけてやるから全員まとめてかかってこい!」
俺の威勢の良い啖呵に呼応したかのように一斉に襲いかかってくる強盗達。しかし見えない壁に阻まれるように俺には近づけない。
唯一近づけたのは指示をしたリーダー格の男だけ。
「なんだ!? 魔法を使ったのか!?」
「この神聖なる土俵に上がれるのは俺とお前の2人だけだ。他の奴らは大金星でも期待して座布団持ってろ」
「くっ! まとめてかかって来いなんて言って卑怯な奴め!」
床に拳をつき呼吸を合わせる。
奴との呼吸が合うまで待とう。
秒を待とう
分を待とう。
日を待とう。
一月だろうが一年でも待ち続ける。
高温であろうとも形を変えずより硬く強固なものとする鋼の心と化す!
……。
「おおい、ふざけてる場合じゃねぇぞ。お前らやっちまえ!相手は変態野郎だけだ!」
「ボス! 近づけねぇんです!」
「見えない壁みたいなのが邪魔して——」
「ボスのちょっと良いとこ見ていたーい」
悪党どもがワチャワチャわめいている。
……。
…………もう待てない!
行司もいないからいいよね?
「 はっけよい! 」
拳を床から離す。そして手のひらを強盗に向かって突き出すと強盗は見えない壁に触れ姿を消した。
「決まり手は OSHIDASHIだな 」
ーーーーおまけーーーー燃やされた1ページーーーー
ツッパリ。
張り手を繰り出し相手の体勢を崩すSUMOUWAZA。
遥か昔に御前試合で鬼無双が繰り出したツッパリに耐え、それどころか睨み返した若者がいた。
試合に敗れこそしたものの鬼無双相手に10秒間耐えるという偉業に王はいたく感激し若者に勲章を与えた。
それ以来若者は【ツッパリに耐えた事がたった一つの勲章】を胸に魔物を討伐していった。
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あらゆる攻撃に気合で耐える男 ヤン・キの名は今現在において知らぬものなき無敗の英雄として扱われている。