第1話 追放
「ジェイク……今まで我慢してたんだけどさ」
「ん? なに? 俺らの仲じゃん。遠慮せずに言ってくれよ。まぁ——俺には察しがついてるがな」
「そ……そうか!? そうだよな!?」
依頼をこなしている最中、リーダーであるペテロが深妙な顔をしていた。多分さっき拾い食いして腹を壊したんだろう。このパーティも中々大所帯になってきたし俺に見張りをやれという事だな。
やれやれ。一人で野糞も出来ないとはとんだ甘ちゃんだぜ。
「お前、パーティから抜けろよ」
「ああ。ちょちょっと抜け出して魔物とかいなさそうな場所を探してくるよ」
「なんかえらくあっさりだな? 納得してもらえるように理由とか色々考えてたんだけど」
「おいおいおい! 俺らが一緒に冒険者やり始めて何年経つと思ってんだよ。言葉で言わなくたって……わかるぜ」
俺はペテロに対してグッと親指をあげた。
俺とペテロは同じ村で育った。
勇者に憧れて村を飛び出して右も左もわからなくてもなんとかやってこれた。
俺とペテロは戦友であり親友だ。
言葉など不要!そして野糞用の穴を掘る事なんて苦でもないぜ!ただし素手で穴を掘るのは疲れるのでスコップ……だと周りにバレる可能性があるから——
「剣を借りてくぜー」
「……待て!」
俺がくたびれた剣を片手に腰をあげるとペテロが待ったをかけてきた。
物言いか? 物言いなのか?
「ああ。俺たちは長い付き合いだよな。だからわかる。ジェイクは勘違いをしている。俺はお前をこのパーティから追放すると言ってるんだよ」
頭が真っ白になっていく。関係あるのかわからないけど肝臓をやられた冒険者の糞は真っ白だったなぁ。
現実逃避はほどほどにペテロに何故なのか聞いてみよう。
「……え? なんで?」
「俺は気にしないけどさ、最近苦情が凄いんだよ……待て待て!余計な事は考えるな!俺が全部言い終わってからだ」
思考さえもペテロに却下されて俺は頷く事しかできない
「ジェイクは町なら普通の格好してるけどさ、一歩外に出ると半裸じゃん? ふんどし一丁じゃん? 見栄えが悪くて恥ずかしいって文句言われてんだよ。仲間内からもギルドマスターからも」
「これはマワシだ! それに半裸の格好ってんなら女戦士のアリティアだって似たようなもんじゃねえかよ! なんだよ鋼鉄のビキニアーマーって!? 敏捷性重視か知らねえけどさ……逆に動き辛そうだわ! ガチガチ当たって見てるこっちが肌負けしそうだわ!」
「アリティアからも言われたんだよ。『ジェイクのように見っともない奴がいるパーティにはいたくない』ってな。それと……アリティアを悪く言ったら——お前でも許さないぞ」
ペテロが俺に向けた殺気は本物だった。獲物を狩る血肉に飢えた野獣の眼光。
……こいつアリティアが入った時、凄く嬉しそうだったもんな〜。
『ジェイク、アリティアに格好いいとこ見せたいんだ。頼めるか?』
『しょがね〜な〜。ペテロの土俵入りだぁぁ!!ひぃがあぁぁしぃぃぃ——』
こんな感じであれ以来俺は裏方に徹してお前たちの仲を後押ししてたのに。
付き合ったらこれかよ。
ペテロはもうダメだ。少し前から思ってたけどダメダメ!
「それにジェイクは適当に生きていけるだろ?……あ。そうだった。このパーティも成長してきてる。俺はこれ以上ジェイクに……親友でもあるお前に頼りっぱなしは嫌なんだよ!」
「ペテロ——」
ペテロは瞳に涙を溜めている。俺を追放する事に対して罪悪感でもあるのかとも思ったけど……
「嘘つけ」
「なに!?」
「言ってる事がとっ散らかってるぞ。せめてさっきのセリフは最初に言えよ。予想外の事が起こるとあたふたするお前の悪い癖だ」
荷物をまとめ……る程もない。雑嚢に替えのマワシが入ってるのを確認する。それとちくわ。
パーティの面々に別れの挨拶をするがみんな素っ気なかった。手で追い払う仕草をする奴もいればクスクスと笑う奴。
もういいや。
名前だってまだ決まってない奴等なんて俺が知るか!
最後に焚き火の近くで食事を作っているビキニアーマーの変態女に挨拶しておこう。
「アリティア〜。世話になったなぁ〜。お前のおかげで今日から俺は無職でーす。明日から乞食生活でーす」
「それはよかったじゃない。アンタが居なくなって私は勿論、みんな清々してるわよ」
やめろ……みんなという言葉を使うのはやめろ。自分の意志をあたかも全員の総意のように言いくるめる卑怯な話術。
コイツ 口喧嘩だけ強いからもう退散しよう。
「はいよ。お世話しました。どうかお気をつけて。貴殿の旅の発展を心より願っております」
「ジェイク——これ。餞別」
俺が踵を返そうとするとアリティアが俺を呼び止めた。
なんだ?一夜限りの過ちでもおっ始めるつもりか?
渡されたのは書類。……ここに落ち合う場所でも書いてるのか?
「……なにこれ?」
「貴方の食費と宿代の借用書よ。今だから言うけどジェイクは1ヶ月前からギルド【黒鋼の羽】をクビにしてたのよ。高利貸しから借りといたから早く返したほうがいいわよ」
「お前……今度会ったらマジで押し出すからな」
「その訳わかんない言葉がムカつくのよ! それ持って早く消えなさいよ!」
……なんなの?俺はそんなに悪いことしたか?
俺がブスくれているとアリティアが口を開いた。
「1ヶ月よ……ジェイクは1ヶ月も前にギルドから除名されていた。貴方はそれに最後まで気づかなかった。それがどういう意味かわかるわよね?」
……基本的に魔法やスキルを使う為にはギルド連盟に加入しなければならない。そして除名されたら今まで得たスキルと魔法は剥奪される。だからすぐに気付く。普通は絶対に気付く。
魔物相手にスキルも魔法もないまま戦うなんてあり得ないからだ。
でもそれはあくまで基本的には——だ。
俺のスキル【SUMOU】はギルド連盟とは別次元の場所に位置している。誰にも理解されないスキル。
わんぱく横綱では力士である横綱の高みは理解できないのと一緒。
アリティアも、ペテロでさえ理解できなかった。
「ジェイクが普段からどれだけ何もしないのか知れる良い機会だったわ。ペテロに迷惑ばかりかけて……この役立たず!」
「はいはい。説教が終わったのならもう行っていいですかー?」
「ッチ!この穀潰し!さっさとのたれ死ねっ!足の裏から腐っちゃえ!」
コイツ……酷い。
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