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4. 告白

  


 早いもので、僕は王立学園の2年生に進級した。休みの日に家に帰ると、学園を卒業した姉さんに会った。


 「ノア、久しぶりじゃない」

 「姉さん、久しぶり……結婚おめでとう」

 「ありがとね」

 

 と言いつつ僕にデコピンをかましてきた。理不尽な姉である。こんな姉さんだがセシル義兄さんには溺愛されており、二人は来月結婚式を挙げることになっている。


 「あんたも、グレイスをしっかり幸せにしなさいよ」

 「……」

 「何、辛気臭い顔してんのよ。グレイスと喧嘩でもしてるの?」

 「いや……何でもないよ」

 「ならいいいけど……大事なことはちゃんと言葉にして伝えなさいよ」


 珍しく真面目な口調で姉さんは言った。

 

 僕とグレイスは喧嘩をしているわけではない。しかし、2年生になってからどうにもグレイスに避けられているのだ。少なくとも僕には心当たりがなく、ちゃんと話したいとは思っているのだが……


 



 「グレイスに避けられてる?」

 

 学園に戻って、僕はそのことを友達のジェームズに相談した。ジェームズはグレイスと同じく絵を描くのが大好きで、グレイスとよく絵の話で盛り上がっている。ジェームズも『縦ロールのお嬢様が絵を描くなんて思ってもみなかった……』と語ったものだ。


 「そうなんだよ……話しかけようとしてもすぐに理由をつけて逃げられるんだ」


 無理やり引き止めることもできたかもしれないが……グレイスに嫌われているかもと思うと怖い。


 「そうか……俺は最近話したけど。大事な絵の具をなくしたって言っててさ……俺からグレイスに聞いてみようか?」


 グレイスがジェームズに僕の知らないことを相談していることを知り、胸がざわついた。やっぱり自分で話してみるとジェームズに言おうとしたが……


 「ノア〜!」


 甘ったるい声でエレナ・ウォーカーが話に割り込んできた。エレナは男爵家に養子にとられた元平民で、今年から学園に転入してきた。金髪碧眼の愛らしい容姿とその天真爛漫な性格に、多くの男が夢中になっている……らしい。僕はただ道を教えてあげただけなのに、それからやたらと話しかけてくるのだ。あまつさえグレイスに話しかけようとするのを邪魔してくるのには腹が立つ。


 「何、ウォーカーさん」

 「もぉ〜、エレナって呼んでくれていいのに!」

 

 仲良くもないのに、何を言っているんだろうか……


 「あのね、グレイス・ローランドについて話したいことがあるの。放課後、教室で待ってるね」


 勝手にグレイスを呼び捨てるなと言いたい気持ちを抑え、承諾する。


 「おい、ノア。あの女と会うつもりか?」

  

 ジェームズが心配そうに言った。


 「グレイスについての話っていうのが気になるんだ」

 「……気を付けろよ。最近、お前があのエレナっていう女に恋してるっていう噂があるんだ」

 「はあ!? なんだよそれ」

 「俺も信じてるわけじゃねえ、お前がグレイスを重いくらい好きなのは知ってるよ。でも騙されてるやつも結構いるんだよ。だから十分注意しろ」


 何となく嫌な感じがする。一体どうしてそんな噂が……





 放課後、教室に行くとそこにはエレナしかいなかった。


 「ノア! 待ってたよ」

 「……グレイスについての話って何」


 早くその話を聞いて帰りたい。そしてグレイスとちゃんと話さないと。

 

 「あのね……私、グレイス・ローランドにいじめられてるの」


 は? 何を言っているんだこいつは?

 呆然としている間にエレナは涙を流し、僕に抱きついてきた。


 「ウォーカーさん、離れて」

 「だって、怖いの! グレイス・ローランドってノアと仲良い私に嫉妬して、陰口を言ってきたり、叩いてきたりするの!」


 とりあえず、エレナを僕から引き剥がす。女の涙は信用ならない。僕が姉さんから学んだことである。


 というか、言っていることがまったくわからない。グレイスはそんなことをする子では決してないし、僕を恋愛的な意味で好きではないから嫉妬なんてありえない。


 「それ、証拠はあるの?」

 「へっ?」

 「証拠もないのに、よくそんな嘘つけたね」

 「で、でも……わざとよ!グレイス・ローランドがわざと、証拠が残らないようにしてきて……ノアはだまされてるのよ!」

 「それ以上、僕の婚約者を侮辱するな」


 こんなところに来るべきではなかった。どうにかして噂も消しておかないと。


 「待ってよ!」


 エレナが腕を掴んできたので、思わずふりほどくと、エレナの制服のポケットから何かが落ちた。

 慌ててそれを拾おうとするエレナよりも先にそれを拾う。


 「これ……グレイスの絵の具……」


 エレナが落としたのは、いつか僕がグレイスにあげた翡翠色の絵の具だった。あのとき僕の絵を描いてくれてからは使っていないようで、中身はほとんど残っている。

 

 「ち、違うわ!それは私ので」

 「ここに、グレイスの名前が刻印されているじゃないか」


 そういえばジェームズが、グレイスが絵の具をなくしたと言っていたことを思い出す。


 「ウォーカーさん、ちゃんと説明してもらうよ」


 エレナは真っ青な顔をして何かつぶやいた。


 「何で、こんなことに……私がヒロインなのに……」




 それからエレナは言い逃れできないと思ったのかグレイスの絵の具を盗んだことを認めたので、とりあえず一緒に先生に報告した。まだやることはあるが、とにかくグレイスに会いたい。





 グレイスのいそうな場所を探す。たまにグレイスがスケッチをしていた、花壇がある学園の裏庭にに行くと、そこでグレイスとジェームズが何やら話していた。

 話しかければよかっただろうに、何となく隠れてしまう。グレイスは泣きはらしたような目で、ジェームズを見て言った。


 「……好き、好きなの……」


 

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