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2. 贈り物



 僕がグレイスと初めて会ってから2年が過ぎた。今日は一ヶ月ぶりにグレイスに会える日である。プレゼントを用意したのだが、喜んでくれるだろうか。


 「あんた、グレイスのこと考えてるでしょう。ニヤついてるわよ」


 うるさい。

 姉さんはこの国の貴族が13歳から15歳まで通う王立学園で寮生活をしているのだが、今は休暇中で家に帰ってきている。僕とグレイスも来年からはそこに通うことになる。


 「姉さんこそ、セシル義兄さんに会えるのが楽しみなんだろ」

 「ばっ、そんなんじゃないわよ! ただ休暇中は会えなかったから……」


 顔が赤いけど? 姉さんと同い年の婚約者でグレイスの兄であるセシルのことが、姉さんは大好きなのだ。初めこそ猫をかぶっていた姉さんだが、いつの間にかセシルの前では化けの皮が剥がれていた。なぜかセシルの方もこんな姉さんを気に入っているようで、二人のバカップルぶりはこちらが恥ずかしくなるほどなのだ。


 僕とグレイスはと言うと、普通に仲良くやっている、と思うのだが……グレイスは相変わらず僕よりも絵を描くことの方が好きなようだ……






 「グレイス、久しぶり」

 「ノア様!お久しぶりです」


 グレイスがにっこりと笑う。最近は僕の前でもよく笑うようになってくれて、僕は本当に、本当に嬉しい。


 「キャサリン、会いたかったよ。今日も綺麗だ」

 「ばっ、ばかなこと言わないで! ……わ、私もセシルに会いたかったけど……」


 うわあ……さっそく姉さんたちは二人の世界に入っている。


 「グレイス、二人のことはほっといて行こう。新しい絵を見せてくれる?」

 「は、はい」



 そうしてグレイスは様々な絵を見せてくれた。やっぱりグレイスの絵は上手だな……優しいグレイスの性格が表れている気がする。


 「そうだ、プレゼントがあるんだ。これ、珍しい絵の具なんだよ」


 そう言って絵の具のセットを渡すと、グレイスは顔を輝かせた。珍しいものを取り寄せただけでなく、ひとつひとつにグレイスの名前を刻印してもらった。


 「ありがとうございます、ノア様! 素敵な色……大切にしますね」

 「せっかくだから使ってみてよ」


 グレイスは嬉しそうに顔をほころばせる。


 「それでは、ノア様を描いてもよろしいですか?」

 「僕を?」

 「あ、えっと……この絵の具の翡翠色が、ノア様の瞳の色によく似ているので……」


 グレイスが少しはにかんで言った。グレイスが絵を描いているところを見てみたいと思って言ったのだが、僕を描いてくれるとは思ってもみなかった。


 「もちろんいいよ」


 

 ちょっと恥ずかしいような気もするが……僕の真正面に座り、真剣な眼差しで筆を動かすグレイスを見つめる。こうやって心置きなくグレイスを眺められるのはいいな……幸せだ。

 グレイスには高価なアクセサリーをあげるよりも、絵の具をあげたときの方がよっぽど嬉しそうな顔をする。本当におもしろい令嬢だ。


 「好きだな……」


 うわっ、口に出てた。グレイスは絵を描くのに集中していて気づいていない様子で、ほっとする。

 僕は、グレイスにずっと惹かれ続けている。多分、グレイスは同じ気持ちではないけれど……でも、グレイスの一番近くにいるのは僕だと思う。今では、婚約を結んでくれた両親を褒めたたえたい気持ちだ。来年からは学園に通うから毎日グレイスに会えるし、焦る必要はないはずだ。


 

 「できました!」


 おお……自分の顔というのがなんとも言えないが、素晴らしい出来だ。


 「ありがとう。僕の顔ってこんな感じなんだね」

 「ノア様は綺麗な顔立ちで、描きがいがあります」

 「……昔は女の子に間違えられたりしてたから、好きではないんだけどね」

 「そんな、私は好きですよ。それに、私の悪役顔よりもよっぽど……」


 『好き』という言葉に頭がいっぱいになって、後半はよく聞こえなかったが……いやいや、落ち着け。彼女は顔が好きと言ったんだ。勘違いするな。だが、僕は初めて自分の顔に感謝した。


 「ノア様はキャサリンお義姉様によく似ていらっしゃいますよね」

 「ええ……すごく不本意なんだけど……」

 「ふふ、お義姉様はとても素敵な方ではありませんか。お兄様もお義姉様のことが大好きで、学園でも有名なカップルだと聞きますわ」

 「あの二人、学園でもあんななのか……グレイスはあんな風にならないでくれ……」


 グレイスが姉さんのようになったら僕の世界は終わる。婚約者といちゃいちゃしているのはちょっと……いやすごく羨ましいけれど。

 そんなことを考えているとグレイスの顔が少し曇っていた。


 「そうですよね……」

 「グレイス、どうかした?」

 「いえ……そうだ、私たちも来年から学園に通うことになりますね」

 

 そう言うグレイスの顔は晴れない。


 「楽しみじゃないのか?」

 「いえ、ノア様と学園に行けるのはとても楽しみですが…………婚約破棄……」


 最後の方はつぶやくように言っていてよくわからなかったが、グレイスも一緒に学園に通えることを楽しみにしていると聞いて、僕の心は軽くなった。


 うん、本当に楽しみだ。



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