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三章 ワーキャットの里帰り 三話

 俺は湧き上がる怒りを抑えることをせずに会議室に入室した。

 俺たちの登場に、会議室にいた獣人たちは全員恐怖で凍り付く。

 それもそのはずだ。レフィーナには魔力を全開にして威嚇し続けろと頼んである。更に、こういった室内ではオリヴィアは人間の足でいることが多いのだが、ここはあえてメリュジーヌ本来の姿でいてもらっている。

 会議室の人員配置は、奥のスクリーン横にいかにも偉そうな初老のミノタウロスの男が座っており、その横に男前なワーウルフの中年男性が立っている。

 多分だが、ミノタウロスのおっさんがカールハインツ中将で、ワーウルフのイケオジがクリストフ大佐だろう。

 そして左右に並べられた長テーブル前のパイプ椅子に30代ほどと思われる軍人たちが座っている。

 俺は開いていた椅子に座ると、隣にサラを座らせる。レフィーナとオリヴィアは俺たちの護衛とばかりに後ろに立ってもらった。

 もちろん、全て軍人たちを威圧するための演技だ。

 俺たちの変貌ぶりに、連れてきたボニファーツ中尉は会議室の入り口で唖然として立ち尽くしている。彼には後で謝らないといけないな。


「アルドミラから来た、アキトです。今日は僕と連携して戦いたいという申し出を受けて、貴重な時間を割いてやってきました」


 出来る限り柔和な雰囲気を作り出すように努めながら笑顔で話す。これはヴィクトール元帥の真似だ。

 俺の自己紹介を聞いて我に返ったのか、クリストフ大佐が答える。


「――わ、私は王都の防衛を任されているクリストフ大佐だ。アキト君、良く来てくれたね」


 見た目はすごくカッコいいおじ様って感じなのに、見ているこっちが悲しくなるくらい動揺していて、せっかくの美形が台無しだ。

 となりのおっさんなんて、レフィーナの魔力に当てられて喋れなくなっている。あれで本当に中将かよ。威厳も何もあったものではないな。


「当然ですよ。僕はリネルの里をギドメリア軍から守るためにこの国に来たんですよ? それなのに、あなた方は戦力を北東へ集中させるつもりらしいじゃないですか。リネルの里の防衛に回すはずだった戦力まで北東に持っていかれるのは我慢なりません」

「アキト君、それは」

「クリストフ大佐は黙っていてもらえますか? ぼくはカールハインツ中将の意見が聞きたいんです」


 クリストフ大佐には悪いが、今あなたに中将を弁護されるのは困る。ボニファーツ中尉の話が確かなら、大佐は自分の大隊を北東へ向かわせることに反対のはずだ。

 俺は軍隊の運用なんて門外漢だし、どっちが正しいのかなんて分からない。それぞれにしか見えていない事、知らされていない事があると思うので、ここで正しさを追求するのは無意味だ。

 それならば、俺は自分の理想に近い形で戦ってくれる人を支持したい。

 カールハインツ中将。あなたは俺の目的の邪魔になる。何とか言ったらどうだ。言えたらだが。

 レフィーナは今も魔力を全開にしてこの部屋にいる人々に圧力をかけている。そして、より一層強い魔力の流れを作って中将に浴びせているのだ。

 中将が感じている魔力による圧迫感は尋常じゃないはずだ。それこそ、呼吸が上手く出来なくなり、喋ることすらままならなくなるレベルで。


「レフィーナ」


 ある程度の所でレフィーナに合図を送ると、レフィーナは魔力を最上級種族レベルにまで下げた。

 すると、魔力による圧力から解放された中将は盛大にむせ返った。近く似た大佐が声をかけて無事を確認している。

 少しやりすぎたかもしれない。

 中将は俺を睨み付けながら、弱々しい声で尋ねてきた。


「……何が望みだ」

「望みですか? それはもちろん、王都周辺の町や里、村を守る人員を増やして欲しいということだけですよ」

「守るだけでは勝てん。現に北東の戦場は魔王軍の物量を前に押し込まれつつある。今は北東の大型基地で持ちこたえているが、いつ突破されてしまうか分かったものではない。我々には各地に必要以上の軍人を配置しておく余裕などないのだ。今こそ、ハウランゲル軍の総力を結集して魔王軍を討たねばならん。敵は国内に入ってきているのだぞ、アルドミラの人間であるお前にはこの危機的状況が分からないのか」


 分かるよ。バカにするな。

 けど、だからといって各地の守りを薄くして北東に増援を送れば大丈夫って話でもないだろう。


「増援が欲しいのなら、守りを減らすよりも先に、アルドミラ軍に協力を要請するべきではないでしょうか?」

「したところで、お前のような義勇軍ならともかく、アルドミラの正規軍が動くとは思えんな」

「やってもいないのに、どうして分かるのでしょうか?」

「分かるさ。去年の夏、アルドミラの北にある都市が陥落した際に、我々はアルドミラからの援軍要請を断ったからな」


 なんだって?

 どうしてそんなことをしたんだ。

 俺の表情から言いたいことが分かったのか、中将は続ける。


「北部の国境を守っていたアルドミラ軍を魔王軍が打ち破って要塞都市に侵攻したのと同じタイミングで、魔王軍はこちらにも攻撃を仕掛けてきていた。その際に我々はアルドミラの勇者と呼ばれていた少女と共闘したのだが、あろうことかその勇者は敵を倒すためにハウランゲルの北東の門を巻き込んで破壊したのだ」

「えっ……」

「おかげで門を修繕するのに莫大な金と貴重な魔力、そしてハウランゲル北部の過酷な冬を乗り切るための備えの時間を裂くことになったのだ。そのような状況で援軍になど行けるわけがない」


 ハルカの奴、何やってんだよ。完全にこっちが悪いじゃないか。俺の怒りをどこに向ければいいんだ。


「待ってください。そのような理由なら、ドレン要塞都市の奪還に協力して頂けなかったのは仕方がないことではないですか。それはアルドミラ軍も理解しているはずです」

「援軍要請を断った際に、アルドミラ軍の勇者から恩知らずだと怒りの手紙を頂戴した。こちらは北門での戦いを支援したというのに、お前たちはこちらを助けることはしないのか、だそうだ」


 うちのハルカが申し訳ありませんでした。

 今すぐに連れてきて床に頭をこすりつけて謝罪させますので許してもらえないでしょうか?

 普通なら中将が自分に都合のいいでたらめを言っているのでは疑うところかもしれないが、ハルカの人となりを知っている身から言わせてもらえば、おそらく真実だろう。

 あのバカ勇者。自分が門を破壊して迷惑をかけたという意識は全くないんだろうな。戦いには勝ったし、このくらいの犠牲で済んで感謝しなさい、とか平気で言いそうだから嫌だ。

 いや、もうハルカの事はどうでもいい。ともかく問題なのは今回の戦いにアルドミラの正規軍は参戦しない可能性があるということだ。

 俺が守りを固めて籠城すれば大丈夫だと思っていた理由の一つが、同盟国のアルドミラも黙っていないと思ったからだ。

 アルドミラ軍も援軍に駆け付けた上で守りに徹していれば、ギドメリア軍は物資が尽きて撤退するしかなくなる。けれどアルドミラ軍が来ないのであれば、そもそも守り切れない可能性が高まってきた。

 俺が黙っていると、中将はニヤリと笑う。


「そんなにリネルの里が守りたいのなら、お前も北東の基地で敵を抑えている隊へ合流するといい。義勇軍として歓迎しよう。アルドミラの勇者アキト」


 くそっ。中将は俺を戦力として取り込めると考えているようだ。

 俺の表情を見て、ハルカの言動に責任を感じていると思ったのだろう。実際、ハルカが悪いのは確定だし、同じアルドミラ出身の人間として多少責任も感じる。

 振り返るとオリヴィアも困ったような顔をしていた。俺と目が合うと苦笑いを浮かべる。

 しかしこの状況、ハルカは援軍要請を断ったハウランゲルに腹を立てたのだろうが、ゲルミアさんは違うのではないだろうか?

 ハルカのストッパー役としてリクハルドさんが付いているはずだし、彼が正しい報告をゲルミアさんにしてくれている可能性は高い。となると、アルドミラ軍に連絡を入れれば快く援軍を送ってくれそうではあるな。今のところアルドミラはギドメリアに攻撃されていないので、それなりの人数を動かせるはずだ。


「お断りします。僕の代わりにアルドミラの勇者ハルカを援軍として向かわせましょう」


 俺がハルカの名前を出すと、中将は両目を見開いて驚いた。


「バカな、よりにもよって勇者ハルカだと? あれほど罵詈雑言が書かれた怒りの手紙を寄越した小娘が援軍になど来るわけがない」

「あなた方が頼んだ場合はそうでしょうね。ただ、僕が頼めばハルカは必ず来ます」


 俺が自信満々に言い放つと、中将は俺から目をそらさずに言う。


「根拠はあるのか?」

「僕はドレン要塞都市で彼女の命を救いました。それからというもの、彼女は僕の事を兄のように慕ってくれています。僕が頼めば彼女は絶対に来ます」


 むしろ、来させます。脅しの言葉を手紙にしたためてもいいぞ。

 彼女が動けば、リクハルドさんやゲルミアさんも動くはず、そうすればアルドミラとハウランゲルとの間に生まれてしまった誤解が解けるはずだ。


「……分かった。要請を出してみよう。君の名前を出していいのだな?」


 俺に対しての呼称が『お前』から『君』に変わった。少しは俺のことを認めてくれたのだろうか。こんなことなら脅し作戦なんてやらなければよかったよ。中将は普通に話の通じる人じゃないか。


「はい。僕の事は義勇軍の勇者ではなく、ミルド村のアキトと呼んでくれた方が話は通じると思います」

「ミルド村のアキトだな。すぐに取り掛かろう。私は失礼する」


 中将が席を立つと、これまで黙って俺たちの会話を聞いていたクリストフ大佐が中将を呼び止めた。


「お待ちください。私の大隊の編成については」

「アルドミラが援軍を寄越してくれるのなら、お前の隊は通常通り動けばいい。援軍が来ないのであれば、先ほど伝えた通り大隊を北東の基地へと向かわせることになる」


 中将は早口でまくし立てると、すぐに会議室を出て行った。

 俺はクリストフ大佐と目を合わせると、先ほどまでとは打って変わって自然体で提案した。


「とりあえず、援軍が来てくれることを想定して、一緒に編成を考えませんか? 俺も出来る限り協力しますから」


 大佐は俺の砕けた態度に少しだけ驚きつつも、小さなため息を吐いて返事をした。


「そうですね。お願いします」

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