表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/227

二章 ミルド村のアルラウネ 四話

 俺とオリヴィアが新しいミルド村での生活に慣れてきたところで、今後の方針について話し合う事にした。

 俺の家で話し合いをしても良かったのだが、年長者の意見も聞いておきたいと思い村長の家を訪れていた。

 今回の話し合いメンバーは、俺とオリヴィア、村長のお爺さん、レフィーナと何故かついてきたパプリカのパールだ。


「それで、今日は何の用なのかな?」


 村長は隣に座って本を読んでいるパールを撫でながら尋ねる。孫とお爺ちゃんって感じの絵面で面白い。年齢差的には曾孫か。


「ミドリがヤマシロから無事に帰ってきたら、次は何処へ向かおうかと思いまして、お爺さんの意見も聞かせて欲しかったんです」

「アキトの目的は今までと変わっていないのだろう?」

「そうですね。人間以外の種族の女性を探したいと思っています。当然ですが、ギドメリア以外の場所で」

「ふむ。実はアキトが旅立ってから、私なりに色々調べてね。アルドミラ国内にはオルディッシュ島のノーベ村以外に異種族の村は存在しないという事が分かっている」

「えっ!? そ、そうなんですか?」


 何という事だ。いきなり国内で彼女を見付けるのが難しくなってしまった。


「アルドミラ軍やミルド村に来る業者や旅人に聞いて回っていたのだが、異種族がまとまって暮らしているのはオルディッシュ島とミルド村くらいのものらしいよ。後は各地に散らばって暮らしている少数と、軍人として戦っている者がいるくらいらしい」


 ドレン要塞都市に軍人以外の異種族がいないわけだ。

 お爺さんの調査によると、昔はもっとアルドミラに異種族が暮らしていたらしいのだが、ギドメリアとの戦争が長引くにつれて異種族が暮らし辛くなってしまったらしく、海外へ移り住んで行ったという。

 オリヴィアも言っていたが、この国の人間は異種族に対して無意識に畏怖の目を向けているらしく、その視線にみな耐えられなくなったそうだ。

 現在は認証魔石の登場で緩和されているらしいが、暮らしやすくなったわけではないので出て行った異種族が戻ってくることはほとんどないという。

 思った以上に深刻だな。


「ってことはやっぱり外国に行くしかないか」

「そうね。オススメは南半球の大国カザルードよ。あそこは少ないけど人間も住んでいるし、何よりアキトちゃんの大好きなハーピーがいるわ。ハーピーは人間と共存しないと生きていけない種族だし、アキトちゃんにピッタリよね」

「カザルードか、有力候補ではあるな。けどハーピーは早めに相手を探して決めてしまうから、俺がカザルードに行った時に未婚で同年代のハーピーがいない可能性もあるのが怖いな」


 せっかく南半球まで来て空振りで終わるのは辛い。

 すると、村長のお爺さんが何か思い付いたように口を開いた。


「そういえば、ハーピーは女性しかいない種族だったね」

「ん? そうですよ。人間の男との間に生まれる種族です」

「なら、同じような異種族を探すのも手ではないかな? 確か、ラミアがそうだったと思うが……」

「えっ? そうなんですか?」

「うむ。ラミアは人間や人魚、竜人、リザードマンなど多くの種族と子供を作ることが出来る女性種族だ。私が若いころはこの村にラミアがいたんだよ」

「へえ……オリヴィア、俺そんな話聞いてないぞ」


 俺がオリヴィアへと視線を向けると、彼女は困り顔で笑ってみせた。


「ば、バレちゃったか」

「秘密にしてたのか?」

「だって、それを言ったらアキトちゃんはお姉さんの故郷に行きたがるでしょう?」

「もちろん」

「嫌よ、私。化け物扱いされて追い出された国に戻るなんて」

「あっ……ごめん」


 オリヴィアはラミアの5倍の寿命を持って生まれたメリュジーヌだ。

 見た目もラミアには無い翼と両腕の鱗と爪がある。そういう扱いをされて国を出たのなら、絶対に戻りたくないだろうし、あまり人に言いたくないという気持ちも分かる。


「では、オリヴィアさんの故郷とは違う国のラミアならどうだい? この国に住んでいたラミアのほとんどはヤマシロに移り住んだという話だよ」

「ヤマシロですか? オリヴィア、お前この国に来る前はヤマシロにいたんだよな? ラミアはいたか?」


 俺が尋ねると、オリヴィアはこれまた困った顔をした。


「なんだよ、それも言いたくないのか?」

「だ、だって……」


 何かトラウマのようなものを踏んでしまったのか、オリヴィアは俯いてしまう。

 どうしたものかと思っていたら、オリヴィアは小さな声で語り始めた。


「ヤ、ヤマシロのラミアって、蛇巫女のことだもの」

「蛇……巫女?」


 名前からして嫌な予感がする。


「言ったでしょ、ヤマシロはラミアや竜人に優しい国だって。竜人の巫女は数が少ないから有名になるんだけど、大きな町の神社には蛇巫女って呼ばれているラミアの巫女がいるものなのよ」


 ラミアの巫女か。いいね。すごくいい。かなり興味あるぞ。

 それにヤマシロは日本の事だろうし、文化的にも馴染みやすくて暮らしやすそうだ。


「私はその蛇巫女の頂点的な扱いだったのよね……蛇竜の巫女だから」


 そういえばこいつ、神社でやらかしたんだったな。

 好みの少年に囲まれて理性の限界が来たから逃げるようにヤマシロを出たって言っていたし、ヤマシロの神社には行き辛いのだろう。


「じゃあ、オリヴィアはミルド村に残ってもらってもいいぞ?」


 俺がそう言うと、オリヴィアは泣きそうな顔で俺の腕を掴んだ。


「酷いわ、アキトちゃん! そんなことされたらお姉さん寂しさで死んじゃうから!」

「村にはレフィーナもいるし、寂しくないだろ」

「えっ? ぼくは次の旅には付いて行くつもりだよ?」


 レフィーナがポカンとした顔で告げた。「当然でしょ」と顔に書いてある。


「いや、そしたら村の守りが」

「大丈夫だよ。だからこそ、パールたちがいるんだから。4人いればぼく一人分くらいの働きは出来るはずだよ。ね?」


 レフィーナが問いかけると、パールは読んでいた本を閉じて頷く。


「れふぃーな様がいない間は、わたしたちが村を守ります」


 パールは自信満々で答えると、再び読書へと戻った。

 オリヴィアが俺を掴む手に力を込める。


「分かったよ。ヤマシロは候補に入れるけど、次の行き先はもう少し考えよう。帰ってきたミドリにもう一度ヤマシロに向かおうって言うのも気が引けるし」

「……分かったわ」


 オリヴィアが渋々手を離したところで、村長のお爺さんが口を開く。


「ではやはり、残る候補地としてはハウランゲルだろうね」

「そうなりますよね。やっぱり」


 俺個人の知識としては、そこが一番有力だと思っていたのだ。

 明確にどんな種族が住んでいるとか、人間との関係はどうかなどは知らないが、アルドミラとは同盟国で行き来もしやすく、オリヴィアも行ったことがない場所なので嫌がらないだろう。

 ハウランゲルと聞いて、パールが発言した。


「獣人の国ハウランゲル。本によると東部は広い草原地帯、北西部は未開拓の森や渓谷があるようですね。王都であるボルテルムは南西に位置し、アルドミラの王都と比較しても見劣りしない巨大さと賑わいがあるそうです」

「良く知ってるね、パール」


 レフィーナが感心するようにパールを褒める。


「このくらい常識なのです」


 パールがどうだと言わんばかりに笑みを浮かべると、隣にいた村長のお爺さんが頭を撫でてあげた。俺もやりたかったが…位置的に手が届かない。


「しかしアキト、ハウランゲルもギドメリアと戦争をしているということを忘れてはいけないよ。北東の町には近付かないことだね」

「はい。分かっています。出来るだけ南側の町を旅することにします」

「アキトちゃんって翼や鱗が好きなイメージだけど、獣人はどうなの?」


 オリヴィアさん、この俺になんて質問をするのですか。

 そんなもの、好きに決まっているだろう。

 ワーキャット、ワーウルフ、ケンタウロス、ミノタウロス、ガルーダ、コボルト、サテュロス。

 どの種族がいるのか分からないが、みんな好きだと思う。

 もちろん、女の子がいればだが。ガルーダ、ミノタウロス、サテュロス辺りは男しかいない場合もあるので発言には気を付けないといけないな。

 安易にミノタウロスが好きだと答えて、男好きだと思われても困ってしまう。


「そうだなぁ……顔が人間からかけ離れすぎていると好みから外れる気もするが、基本的に獣人の女の子は好きだぞ」

「顔かぁ、アキトちゃんって面食いよね」

「そ、そうか?」

「そうよ。ミドリちゃん、レフィーナちゃん、ロゼちゃん。3人とも世界でもトップクラスの美人よ?」

「それは……なんていうか、偶然だよ。別にミドリレベルの美人じゃなくちゃ嫌なわけじゃないぞ」


 確かにオリヴィアが挙げた3人は俺が隣を歩いてもいいのかと戸惑うレベルの美人だ。

 オリヴィアは自分を挙げなかったけど、彼女自身もかなりの美人だしな。


「ふうん。なら、安心かな。お姉さん、獣人でミドリちゃんレベルの美人なんて見たことなかったから」


 獣人に可愛い顔の女の子はいないということだろうか?

 いや、そんなはずはない。前に出会ったワーキャットのサラは可愛かったからな。サラみたいな女の子に出会えればそれでいい。


「それじゃあ、ミドリお姉ちゃんが帰ってきたら、みんなでハウランゲルに向かうってことでいい?」

「そうだな。それが一番良さそうだ」

「お姉さんも、ハウランゲルには行ってみたかったし、異論はないわ」


 なぜレフィーナが話をまとめたのかは分からないが、俺とオリヴィアは頷いて返した。


「ハウランゲルかぁ。パール、ハウランゲルにはどんな野菜や果物があるのか調べておいて。妹が増えるかもよ」

「分かりました、れふぃーな様」


 レフィーナとパールが目を輝かせる。

 なるほど、こいつらの目的は新しい仲間を増やすことにあったようだ。

 ミルド村にしてみても、新しい野菜や果物の種が手に入るのはいいことなので、村長のお爺さんも調べてみると言い始めた。

 俺の恋人探しの旅が、いつの間にかミルド村の発展に利用されている気がするが、レフィーナが付いて来てくれるのは心強いので文句はない。

 次の目的地は獣人の国ハウランゲル。初の外国だ。楽しみでもあり不安でもあるな。

 俺たちはそれぞれハウランゲルに思いを馳せながら、村長の家を後にした。

 ミドリ。早く帰ってこい。

ハーピーも大きな分類だと獣人にカテゴライズされる種族ですが、男が存在しない特殊な種族なのでオリヴィアの中では別枠扱いになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ