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入れ替わりの先にある異世界 ~異種族と結婚するため、俺は冒険の旅に出る~  作者: 相馬アサ
第一部 似ても似つかぬ並行世界
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序章 相棒はドラゴンメイド 四話

 想像以上に旅立ちの準備に時間をとられ、俺とミドリは3日後の早朝にミルド村から出発した。

 見送りには村長と数名の村人が来てくれたが、カレンの姿はなかった。将来結婚すると思っていた男が突然人間の女は無理だと言って旅立ってしまうのだ、そのショックは計り知れない。原因は俺なので見送りに来てくれなくても薄情とは思わなかった。


「良い人たちでしたね。私も四年間お世話になったので、少し別れが辛かったです」


 ミドリが振り返って今までの暮らしを懐かしむように言う。

 既に村は見えなくなりそうなほど遠くにあった。


「別に一生の別れじゃないんだ。落ち着いたらまた会いにくればいいさ」


 やはりというか、村人の数名は知っている顔だった。

 俺の突然の旅立ちに驚いたり、涙したりしてくれた同年代の男たちはほとんど俺の世界の友人たちだ。

 彼らは俺との別れを惜しんでくれたが、俺としてはもう一生会えないだろうと思っていた友人たちにこの世界でも会うことが出来て凄く嬉しかった。

 結婚した後で余裕が出来たら、家族を連れて絶対に挨拶に来ようと思う。


「……にしても、やっぱりお前の荷物が無いのは気に入らないな」

「またその話ですか」


 旅立つ前にも散々した話を蒸し返されて、ミドリは嫌そうに小さくため息を吐いた。でも、気に入らない物は気に入らないのだ。

 現在、俺とミドリは王都を目指して徒歩の旅路にいる。

 村長が王都まで魔石で動く車を出してくれると言ってくれたのだが、ミドリが車を嫌がったので徒歩になった。

 狭い車内は苦手らしい。ミドリを置いていくわけにもいかないので、時間と体力がかかっても彼女と一緒に徒歩で旅立つことに決めた。

 幸い王都へは朝から一日歩き通せば夕方には着く距離らしいので、野宿の心配はない。

 村の警備をしてくれているアルドミラ軍の中隊長に王都まで護衛しようかと提案されたが、途中で軍隊へ勧誘されると面倒だったので辞退した。ミドリがいれば大丈夫だろう。

 さて、そんなミドリだが、現在は一切の荷物を持っていない。

 俺はというと、比較的大きめのリュックを背負い、護身用にと村長がくれた剣を腰に提げている。本物の剣に少しだけテンションが上がったが、よく考えると剣よりも銃が欲しい。けれど、この世界には銃が無いらしい。遠距離攻撃なら魔法を使えばいいからだろう。


「私だって、大変なんですよ? 半永久的に魔法を使い続けているんですから」

「本当かよ」


 ミドリは魔法で自分だけの異空間を作り、そこに荷物を入れているのだ。けれど、どうみても一切の負担はなさそうだ。今も涼しげな顔で歩いている。


「な、何ですかその顔は、アキト様の荷物だって入れてあげてるでしょう」


 ミドリは空中に裂け目のようなものを作ると、そこに手を突っ込んで俺の冬用のコートを引っ張り出す。

 今の季節は夏。コートはしばらく着ないのだが、ミドリのトンデモ魔法のおかげでアキトの持っていた服は全て持っていくことができた。


「うっ、それは感謝してるけど……」


 俺のリュックの中身はミドリの異空間に入れてもらえなかった保存食や水筒、調理器具、薬品などで埋め尽くされている。ミドリ曰く、「服以外は入れられないルール」だそうだ。意味が分からない。


「――アキト様、気を付けてください」

「え?」


 ミドリは手に持っていたコートを異空間に放り込むと、目の前にあった崖の上を指差す。

 そこには鋭い眼光でこちらを睨み付けている獣の姿があった。


「でかい……犬じゃねえな。狼か?」

「恐らくは魔犬と呼ばれる魔獣です。軍には飼いならした個体もいるようですが、あれはどうみても野生ですね」

「ま、魔獣? おいおい、こんなところで出てくるのか?」

「アキヒト様の世界にはいないそうですが、こちらの世界にはこの程度の魔獣は当然のように生息しています。気を引き締めてください」


 アキトの記憶によると、魔獣とは魔力を持った動物の事だ。

 前の世界では野生の狼を相手にしたことすらないっていうのに、いきなり魔獣とはついてないな。


「ちょうどいいですね。アキト様、魔法の練習をしましょう」

「はあ? 何言ってんだ、お前? なんでいきなり実戦なんだよ」

「訓練より実践の方が上達は早いので好都合です。ほら、来ますよ?」


 魔犬は崖から颯爽と飛び降りる。すると驚いたことに、着地の瞬間に地面が粘土のように変形して衝撃を和らげた。


「どうやら、大地魔法を使うようですね」

「ま、待て待て待て待て! こっちくるぞ!」

「ええ。ですから早く魔法で身を守ってください。私は後ろにいますので」


 いつの間にか俺の数メートル後ろに移動していたミドリが涼しい顔で言い放つ。契約者なら俺を守れよ!

 魔犬は牙をむき出しにしてミサイルのように突進してくる。


「ふざけんな、くそぉぉおおお!」


 俺は両手を前に突き出すと記憶の中でアキトが使っていた魔法をイメージする。


「『空間魔法・不可侵領域』!」


 アキトがミドリと契約することで得たのは空間魔法。

 空間魔法と聞くとワームホールみたいなのを作ったり出来そうな気がするが、俺が使えるのは初歩の魔法なので、空間に穴を開けたりは出来ない。

 空間魔法の初歩の初歩。それがこの不可侵領域だ。目の前の空間に何人も踏み入ることが出来ない領域を作り出す。言わば空気の壁だ。

 狼は俺が目の前に不可侵領域を張ったことに気付かずに突撃し、激突した。

 タンスの角に小指をぶつけると、途轍もなく痛いだろ?

 場合によっては骨折する事だってある。これはその物凄い版だ。ぶつけたのは顔で、全速力での突進。さらにぶつかった相手は押したり壊したりできるタンスではなく絶対に入ることの出来ない空間の壁だ。

 首の骨が砕けるほどの衝撃が襲ったに違いない。魔犬は顔をグシャグシャにして地面に崩れ落ち、動かなくなる。


「し、死んだのか?」

「恐らくは。見事なタイミングでの魔法でしたね」

「お、お前なぁ! たまたま上手くいっただけで、失敗していたら俺がどうなって――」

「待ってください。まだ終わりではないようです」


 ミドリに言われて俺は慌てて魔犬を確認する。


「そっちではありません。崖の上です」

「上?」


 視線を上に上げると、今現在地面に倒れて絶命している魔犬が最初にいた辺りに、三匹の魔犬が俺を睨んで佇んでいた。


「くそっ、群れで行動していたのか?」

「その様ですね。仕方ありません、二匹は私が受け持ちますから、アキト様は奥にいる一番大きい魔犬の相手をお願いします」

「普通逆じゃねえか!?」


 むしろ全部お前が相手をしてくれよ!

 俺が脳内でミドリに悪態をついていると、一番後ろのボスっぽい魔犬が崖から飛び降りて目の前の地面に着地する。地面は先ほどと同様に粘土のように変化して衝撃を吸収した。

 続いて二匹の子分も降りてくると、ボス犬が前足で地面を叩く。そのアクションが引き金となったのか、三匹の目の前の地面が盛り上がって岩の柱が飛び出し、俺目掛けて伸びてきた。


「『空間魔法・不可侵領域』」


 俺は岩柱を不可侵領域で受け止める。


「よし、上手くいった」


 しかし、今度は魔犬たちが柱の上を走って俺に近付き、不可侵領域を飛び越えて俺に襲い掛かってきた。

 まずい。非常にまずい。俺はこの魔法一つしか使えないのだ。

 目の前の岩柱を不可侵領域で受け止めるので精一杯で、魔犬たちを防ぐ不可侵領域をもう一個張るなど不可能だ。


「アキト様、もう一つの祝福です!」


 ミドリの声が引き金となって、俺の頭にアキトの記憶が流れ込む。

 竜人であるミドリとの契約によって得られた祝福は空間魔法と身体的な特徴だ。ミドリの身体的な特徴?

 そんなもの聞かなくても分かる!


「『竜の鱗』!」


 俺は叫びながら魔犬の牙を受け止めるように両腕をクロスさせて前に突き出した。

 上空から俺に飛び掛かっていたボス犬の牙は、俺の両腕に現れた翠色の鱗によって受け止められた。


「へへっ、犬っころごときが竜の鱗を食い破れるわけないよな!」


 俺の腕にぶら下がる様にして、がら空きになったボス犬の腹に蹴りをお見舞いして突き飛ばす。それと同時に不可侵領域に抑え込まれていた大地魔法の岩柱がただの土へと戻って地面へと崩れ落ちた。蹴られた衝撃で魔法を維持出来なくなったのだろう。

 俺は不可侵領域を解除してから、自分の両腕に発現した鱗を眺める。


「すげえ、本当に出た! それに傷一つ付いてない!」

「当然です。私の鱗ですよ?」


 血まみれのミドリが涼しい顔で言う。


「え――ミ、ミドリさん? その血は?」


 視線を下に落とすと、頭と胴体が綺麗に両断された魔犬の死体が二つ転がっていた。

 そういえば、いつの間にかいなくなっていたが、ミドリによって始末されていたのか。


「アキト様、相手の息の根を止めるまで気を抜かないでください」


 ミドリの視線の先には俺が蹴り飛ばしたボス犬がいた。

 蹴りのダメージはそれなりにきいたようだが死ぬほどではなかったらしく、起き上がって俺を睨みながら唸り声をあげる。


「くそ、しぶといな……俺に勝てないのは分かっただろ。もうどっか行けよ!」

「無駄でしょう。もし退却を選ぶなら最初の一匹が死んだ段階で逃げています」

「や、やるしかないってことかよ……」


 俺は旅に出る際に村長からもらった剣を鞘から抜くと構える。


「その構えは誰に習ったのですか?」

「剣道の授業だよ。実戦向きじゃないだろうから、後で正しい構えを教えてくれ!」


 ボス犬が正面から突っ込んできたので、俺は目の前に不可侵領域を張る。

 しかしさすがに三度目となると学習したのか、ギリギリのところで軌道を変えて不可侵領域への衝突を回避した。

 左側面からの噛みつきに対して、俺は剣を振りかぶってタイミングを合わせる。すると、踏みしめていた地面が突然柔らかくなった。


「んなっ!」

「アキト様!」


 ボス犬の大地魔法だ。近付いたことで俺の足下の地面も魔法の射程に入ってしまったのだ。

 俺はバランスを崩して左半身から地面に倒れこむ。残った右腕で何とか頭を守ると、ボス犬は俺の右腕に噛みついてきた。


「こ、こんなところで、やられてたまるかよ! 『空間魔法・不可侵領域』!」


 俺は自分が倒れこんでいる地面と身体の間に不可侵領域を張る。

 しっかりとした足場を手に入れたところで、俺は右腕を噛まれた状態のままで態勢を立て直し、地面に落ちていた剣を空いている左手で拾った。


「や、やるぞ……やるぞっ!」


 俺は覚悟を決めて、左手の剣をボス犬に突き立てる。

 しかし、ボス犬は後ろに飛び退いて俺の剣を回避した。


「くそっ!」


 仕切り直しだと思った次の瞬間、ボス犬の頭が消し飛んだ。


「――え?」


 頭を失ったボス犬の身体は血を吹き出しながら地面に倒れる。こんな恐ろしい事が出来るのはあいつだけだ。俺はすぐさま後ろにいるミドリの方向へ振り返り、そして驚愕した。

 俺の背後には鋭く尖った岩柱が迫っていたからだ。


「目の前の敵に集中し過ぎです。大地魔法を使う魔獣にあそこまでの接近を許してしまったのなら、一番に気を付けるのは真後ろの地面ですよ」


 ミドリが偉そうに俺に説教を垂れている間にも、岩柱は形を失って崩れていく。俺は自分の死がすぐそこまで迫っていた事を理解して尻餅をついた。

 情けない男と笑うか?

 俺と同じ経験をした奴だけ俺を笑え。


「ですが、初めての戦闘にしては私の空間魔法も上手く使えていましたね。不可侵領域を足場にするという発想は中々です。ちなみに不可侵領域を対象に重ねるように発動すると領域の外に弾き飛ばすことも可能ですので是非活用してみてください」

「そ、そうか」


 褒められているようだが、全く嬉しくない。有用そうなアドバイスも貰ったが、ちょっと今はそれについて考えている余裕はなさそうだ。

 空間魔法と竜の鱗を手に入れて、少しだけ高揚していた気持ちが一気に沈んでしまった。


「……あっ、ミドリ」


 俺は視界の端に映ったものを指指す。

 そこには一匹の魔犬の姿があった。こちらを警戒しているのか、かなりの距離を取っている。


「まだいたのですね。アキト様、戦えそうですか?」

「いや、正直休ませてほしい」

「そうですか。まあ無理もないです」


 ミドリは淡々とした口調で俺の意志を確認すると、遠くから俺たちを睨んでいる魔犬に向かって手を伸ばす。


「おい、あいつは襲ってこないんじゃないか?」

「私たちに対してはそうかもしれません。ですが、もともと人を襲うタイプの魔獣ですから、放置するとミルド村に向かうかもしれませんよ」

「そりゃあ、倒さないとダメだな」

「はい。では始末しますね。『空間魔法・虚空斬』」


 ミドリが手刀を横方向に薙ぎ払うと、狼の身体は上下に両断された。


「この魔法は上位魔法なので真似しようとは思わないでくださいね」

「いや、真似したくねえよ」


 今の魔法は名前や結果から察するに、空間を二つに裂く魔法だろう。裂かれた空間にいたものは同様に斬り裂かれるというわけだ。

 ここから魔犬の場所まで数十メートルはあったにもかかわらずミドリは移動することもなく空間を裂いた。見える範囲全てがこいつの射程だろう。


「しかし、最後の大地魔法を抜きにしても、あの程度の雑魚に苦戦するとは困りましたね」

「仕方ないだろ、不可侵領域と竜の鱗じゃ防御しか出来ないんだから――って待て、あの魔犬って雑魚なのか?」


 魔法も使ってきたし、RPGだったら負けが確定しているイベント戦かと思うくらいの強さだったぞ。 一人旅だったら早くも冒険が終了していた。


「魔法を使って来ましたが、知能は人間以下。中級に位置する魔獣ですね」

「中級……お前にとって中級は雑魚なのね」


 この世界の人間たちが主に契約するのは飼い慣らされた中級の魔獣だ。最初にミドリが言っていたように、あいつらは戦争で軍人の相棒を務めるレベルの生物のはずなのだが……。


「ちなみに、ミドリはあの魔犬を同時に何匹相手に出来るんだ?」


 今朝の会話から考えると16の4倍、64匹同時に相手出来る計算になる。


「……そういえばアキト様と契約したことで魔力量が上昇したことを計算に入れていませんでした。今の状態なら単純計算で256匹は同時に相手出来そうです」

「に、にひゃく?」

「はい。まあ、理論上は階級一つに付き4倍ほどの力の差があるのでそう言っているのですが、正直に言ってしまえば、あの程度の犬が相手なら何万匹だろうと私に傷一つ付けられませんよ」


 ミドリは出会ってから初めてとなる可愛らしい笑顔を浮かべた。返り血まみれの顔でなければ恋に落ちたかもしれない。


「や、やっぱりお前は次元が違うのな」

「その私と契約しているのですから、アキト様も自信を持ってください。下位の空間魔法でも練習すればほとんどの種族と渡り合えるポテンシャルがあります。頑張りましょう、打倒魔王です」

「待って勝手にハードル上げないで。いつ俺が魔王と戦うことになったんだよ」

「魔王を倒した方が恋人探しも楽になりますよ?」

「いや、おかしいだろ! どう考えても魔王を倒さずに恋人を探した方が難易度は低いよね!? ていうか、お前絶対魔王より強いだろ!」

「いえ、魔王は私より強いですよ」

「はあ!? いや、ちょっともう怖いんで逃げていいですか? お前より強い魔王とか何なのマジで。そんな化け物を相手に出来るのは神様くらいだろ!」


 ミドリが当たり前のように魔王軍を倒すとか打倒魔王とか言うので、勝算があるのかと思っていたが、魔王がミドリよりも強いのであれば勝てるわけがない。

 相打ち狙いでもミドリが四人以上は必要な計算になるのではないだろうか?

 俺はツッコミのし過ぎで乱れた呼吸を整えてから、剣を拾って鞘にしまう。


「……魔王とか魔王軍の事は後で冷静に話し合おう」

「私はいつでも冷静ですよ」

「お前な――いや、ツッコまないぞ。するだけ無駄だ。とにかく今は北にある王都に向かおう」

「はい。ですが道中は私の話を聞きながら魔法の練習をしてください。このままでは不安で眠れません」

「……分かったよ」


 自分の命を守るためにも魔法の練習は必要なので、魔王やその手下と戦う気は無いが魔獣に勝てるくらいには強くなっておく必要があるだろう。

 俺はしばらくの間、歩きながら魔力をコントロールして素早く思った通りの場所に魔法を発動する練習をするのだった。

初の戦闘相手は大地魔法を使う魔獣の群れでした。


空間魔法は下位魔法であろうとそんじょそこらの中級魔獣に遅れは取りません。

アキトがもっと魔法に慣れていれば全て一人で相手出来ていたでしょう。

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