二章 世界を旅するラミア 二話
当然と言えば当然だが、トウマを回復させた後で俺たちは看護師たちに物凄く怒られた。
レフィーナは何故怒られているのか理解できず不機嫌そうにしていたが、俺が「ルナーリア様に怒られた時と同じで、相談もなしに勝手に行動したことを怒られているんだ」と説明すると、渋々ではあったがトウマや看護師に頭を下げた。
その後、精密検査の結果、トウマの身体は完治していることが分かり、翌日には退院となった。
王都のホテルで一泊した俺たちは、ミルド村へと帰るトウマを見送るために南門に集合した。
「色々世話になったな、アキト、エメラルドさん、それにレフィーナちゃん」
「元気でね、トウマ。ラウネぶどう、ちゃんと育ててよね」
「もちろん。大切に育てさせてもらうよ」
たった一日で、レフィーナとトウマはずいぶん仲良くなった。もちろんウェインとも。
レフィーナは人間に敵対的なアルラウネという偏見の目で見てこない相手となら、すぐにでも仲良くなれるのだろう。
ミルド村のみんなも、レフィーナの根から生えた動く植物が多少トラウマになっていたが、いつかはそれを乗り越えて彼女を理解してくれるのではないかと思っている。
だから俺は、昨日の夜に思い付いた事を、この場で口にした。
「なあ、レフィーナ。トウマと一緒にミルド村に行ってくれないか?」
「え?」
「ミルド村はやっぱり俺にとって故郷だ。今回みたいな危機に陥ったら放っておくことなんてできない。だから、レフィーナにはミルド村のみんなを助けて欲しいんだ」
魔王軍は撃退した。
あれだけの人数のスパイを倒したのだから、当分は安全かもしれない。
けど、もう一度同じようなことが起きないとは言い切れない。この国に潜伏している魔王軍の人数など誰にも分からないのだから。
それ以前に魔獣の問題や、破壊された村の復興の問題もある。
アルドミラ軍だって、ミルド村に配置されていた部隊は全滅してしまったんだ。人手不足の可能性もある。
この状態で旅立っても、俺は事あるごとにミルド村の事を思い出して不安に駆られるだろう。
けれど、守るという一点に関して言えば、レフィーナは間違いなく最強クラスの種族。彼女が村にいてくれるのならば、これほど安心なことはない。
「でもアキトくん。ぼくは君にお礼がしたいんだ。友達として、アルラウネと人間の問題を解決してくれた君に協力したい」
「お礼なら、もうもらったよ。レフィーナは魔王軍に襲われた村を守るために一緒に戦ってくれた。俺やウェイン、トウマの怪我を治してくれたじゃないか」
「そんなこと……全然たいしたことじゃないよ」
「そうか? なら、お礼の内容を変更してくれ。俺の旅に同行して助けてくれるんじゃなくて、俺が気兼ねなく旅を続けられるように村を守ってくれよ」
レフィーナはトウマとウェインをチラリと横目で見る。
本心ではトウマやウェインと一緒にミルド村で暮らすのも悪くないと思っているのだろう。
「……勝手だよ、アキトくんは。本当はぼくが旅に付いてくるのが嫌なんじゃないの?」
「そんなわけあるか。本音を言えば、毎日だってお前を撫でまわしていたいと思っている」
「アキト様、それは気持ち悪いです」
「うっ……と、ともかく、これでも断腸の思いで言っているんだ。恋人が出来たら村に紹介に行くから、それまではお前が村を守ってくれ。これはレフィーナにしか頼めないことなんだ」
レフィーナはふっと口元を緩ませると、蔓を使ってウェインに飛び乗った。元々ウェインの上に乗っていたトウマの背中に抱き着く形だ。
「分かったよ。ミルド村の事はぼくに任せて」
「い、良いのか、レフィーナちゃん?」
「うん。ぼくはアルラウネとして、アキトくんの契約者として、何よりも友達として、アキトくんの故郷を守る。今決めた!」
レフィーナはウェインの上から俺を見下ろしながら不敵に笑う。
「気を付けてね、アキトくん。あんまり帰りが遅いと、ミルド村がぼくの森になっちゃうかもしれないよ?」
一緒にウェインに乗っているトウマが青ざめる。
冗談だとは思うが、冗談には聞こえない迫力があった。
「分かったよ。なるべく早くお前を迎えに行く」
「私にとってもミルド村は第二の故郷です。そんなことにならないように、私もアキト様のサポートに尽力します」
こいつのサポートは不安しかないが、今は突っ込まないぞ。
「それじゃ、ミルド村まで全速力だよ、ウェイン!」
「バウッ!」
「えっ? う、うわぁぁああああ!」
「あはははは!」
レフィーナの合図でウェインが急発進し、トウマの叫び声とレフィーナの笑い声が聞こえてくる。
トウマには悪いが、レフィーナの面倒は任せたぞ。
俺とミドリはレフィーナたちの後姿を、見えなくなるまで見送った。
王都内へ戻ると、ミドリが呟くように言った。
「レフィーナがいないのは寂しいですか、これでミルド村の守りは万全ですね」
「ああ。これで気兼ねなくハーピー探しが出来るってもんだ」
「そうですね」
しかし、あの時に見かけたハーピーはいったいどこにいるのだろうか?
知り合いのハーピーや、ハーピーの村があるならその場所などを聞きたいのだが……。
しばらく王都を散策しながら、ハーピーについて聞いて回っていると、見知った顔の男が声をかけてきた。
「よお、アキトの兄ちゃん。探したぞ!」
「レオさん?」
「私たちを探していたのですか?」
声をかけてきたのは王都での林業を取り締まっているレオさんだ。
「おうよ。あれからルナーリア様に貰った土地で育てる植物を選んだり、人員の人選をしたりと色々やっていたんだけどよ。一つ重要なことを忘れていたんだ」
「重要なこと?」
「名前だよ、名前。クイーンアルラウネの土地で育った植物は長時間燃えるって話だが、きっとそれ以外にも様々な違いが出てくるに違いない。その木を販売するにあたって、何て名前にしようかと悩んでな。出来ればレフィーナさんに名前を決めて欲しかったんだが……」
レオさんは話しながら、レフィーナがいないことに気付いたようで、キョロキョロと辺りを見回す。
「レフィーナなら、今はミルド村にいますよ」
「ミルド村? ニュースでミルド村が魔王軍に襲撃されたってやっていたが、何か関係あるのか? 確かミルド村は兄ちゃんの村だろう?」
もうニュースになっているのか。
村のアルドミラ軍は全滅したし、建物も半数が破壊されたのだから当然と言えば当然だ。
「彼女にはミルド村を守ってもらっているのです。私たちの故郷ですから」
ミドリの言葉で、レオさんはだいたいの流れを察したようで、それ以上その件に質問しようとはしなかった。
「そういうことなら、今度ミルド村に行く時にレフィーナさんに決めてもらうことにするか」
「レオさん、ミルド村に行くんですか?」
「ああ。ニュースを見た限り、かなりの被害がでたみたいじゃねえか。知り合いの大工たちと一緒に様子を見に行くつもりだ。家もそうだが、家具なんかも大量に必要になりそうだからな。何の木を仕入れて、どう加工するか、考えなくちゃいけねえ」
「よろしくお願いします。レオさん」
「おう、任せとけ。それじゃあな」
レオさんは俺を元気付けるかのように豪快な笑顔を見せると、手を振りながら立ち去ろうとする。
それをミドリが呼び止めた。
「待ってください」
「ん、何だ?」
「レオ様は、ハーピーについて何かご存じじゃないですか?」
おい。
今その話をしますか?
ミルド村が心配だなって話だったじゃないですか。そこで急に俺の恋人探しの話をすると、こいつ故郷がピンチなのに何やってんだって話になるじゃないですか。
頼むから空気を読んでください。
「ハーピー?」
レオさんは俺とミドリを交互に見ると、呆れるようにため息を吐いた。
「兄ちゃん、アルラウネの次はハーピーか?」
「いや、その……はい」
やばい、めっちゃ恥ずかしい。
なんか俺、節操なくない?
「しかし、ハーピーか。兄ちゃんと嬢ちゃんはハーピーについてどこまで知ってるんだ?」
「見た目以外は全く知らないです」
「私もです。恐らく疾風魔法を使うだろうということ以外は何も」
レオさんはハーピーについて何か知っているのか?
「そうか……何も知らないにしては中々良い種族に目を付けたな。ハーピーは人間と相性がいい」
「そ、それって」
レオさんの言葉に期待してしまう。
あの時、ハーピーの隣を歩いていた男はやはり恋人だったのだろう。
つまり、ハーピーは人間を恋愛対象として見てくれる種族ということだ。
「兄ちゃんの考えている通りだと思うぜ」
「マジですか!」
「ああ。けど、ハーピーと付き合うのはかなりハードルが高いのも確かだ。運次第とも言える」
「どういうことですか?」
「俺から聞くよりも、直接本人から聞いた方がいいだろう。リックの家を教えてやるから、行ってみな」
そう言うと、レオさんは手帳にペンで地図を描くと、そのページを千切って渡してきた。
「あの、これは? リックって誰ですか?」
「元材木屋の職人にして、ハーピーの婚約者になった男だ」




