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入れ替わりの先にある異世界 ~異種族と結婚するため、俺は冒険の旅に出る~  作者: 相馬アサ
第一部 似ても似つかぬ並行世界
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一章 アルラウネの森 十六話

「しょ、少佐! アルラウネです!」


 異種族の男の一人が気付いて叫ぶ。

 その声を聴いて、ヴァンパイアの男はやっと彼女の――レフィーナの侵入に気付いたようだ。

 レフィーナは魔力を自在に操作して小さくできる。ミドリと同様にヴァンパイアにも感知できなかったわけだ。


「ば、馬鹿な。魔力を一切感じないぞ!? 見た目はアルラウネに近いが、植物系の魔物ではないのか?」


 魔物と言われて怒ったのか、レフィーナはムッとした表情で、全身から魔力を放出してみせた。力の弱い異種族たちは一斉にレフィーナから距離を取った。本来は魔力感知能力を持たない俺達でも分かるほどにレフィーナの魔力は強大なのだ。

 ヴァンパイアの男は前に出てレフィーナに話かける。


「ま、待ってくれ。こちらに交戦の意思はない。魔物と勘違いしたことにも謝罪しよう」

「…………ぼくはプリンセスアルラウネのレフィーナ。君は?」


 レフィーナは辺りを見回してこの場にいる全員を確認すると、名を名乗った。

 本来なら可愛らしい少女の名乗りだが、放たれている強大な魔力のおかげでかなりの威圧感がある。

 そして、捕まっている俺とミドリを見ておきながら何も反応を示さないところを見ると、この状況を打開するために何かやってくれそうだ。ここは余計な口を挟まずに見守ろう。

 ミドリも俺と同じ結論に至ったのか、レフィーナに声をかけたりはしなかった。


「私はギドメリア軍のエグバード少佐だ。今は作戦行動中なのだが、アルラウネがこの村に何の用だ?」

「ぼくはクイーンアルラウネになるために新しい土地を探しているんだ。人間の村があったから、乗っ取ってそのままぼくの森にしようと思ってここに来た」


 レフィーナの奴、ずいぶん大胆な嘘を吐いたな。村のみんなが更なる恐怖の到来で青ざめてしまっている。

 ヴァンパイアはレフィーナが嘘を吐いているとは思わなかったようで、彼女への警戒を解きながら答えた。


「そうか。我々は今日中にはこの村を出る予定なので、その後は好きにしてもらって構わない」

「出ていく? そこの人間たちも連れて行くの?」

「いや、そのつもりはない」

「じゃあ、ぼくに頂戴。人間ってすごくおいしいって聞くから、食べてみたかったんだ」


 レフィーナはわざとらしく邪悪な笑みを浮かべると、全身から蔓やら根やらを伸ばして禍々しさを強調する。

 これには村のみんなだけでなく、ギドメリアの異種族たちもドン引きだ。


「す、好きにするといい。だが、我々がここを出て行ってからにしてくれ」

「出て行ってから? どうしてさ?」

「こいつらは人質だ。もしも準備が整うまでの間にアルドミラ軍が到着した場合に時間稼ぎに使う。そして、そこの木にワイヤーで巻き付けている二人を暴れさせないためにも必要な存在だ」


 レフィーナは俺たちと村のみんなを交互に見てから、再び邪悪な笑顔を見せた。


「そうだったんだ……ごめんね。もう手を出しちゃったよ」

「何?」


 次の瞬間、地鳴りと共に村のみんなの周囲の地面が蠢き、大量の植物が飛び出した。


「何だ、この植物は!?」


 村のみんなを囲うように植物が生えたために中の様子が視認できない。しかし、植物の壁の中から恐怖の悲鳴があがっている。


「くっ、お前の仕業か? 今すぐあの植物を止めろ!」

「無理だよ。ぼくはご馳走を目の前にして立ち止まれるタイプじゃないから」


 ヴァンパイアやその部下たちは一斉に植物の壁に魔法で攻撃する。

 しかし、次から次へと地面から伸びて再生する植物を減らすことが出来ない。


「ミドリ、これって?」

「レフィーナの足を見てください」


 ミドリに言われて視線を移すと、レフィーナの足から植物の根が大量に生えていることが確認できた。

 レフィーナはヴァンパイアと会話している間に根を伸ばしていたのだ。


「魔法ではないうえに部分的に魔力を抑えている様で、魔力の動きは全く感知出来ませんでした。やはりアルラウネとは恐ろしい種族ですね」


 突然、俺とミドリを木に巻き付けていたワイヤーが緩まって地面に落ちる。その音に気付いたヴァンパイアを含む数名の異種族がミドリに視線を移す。


「なっ!? 貴様、動けば人間どもを」

「――どうするというのです? 貴方たち如きではどうすることも出来ないでしょう」


 ミドリはヴァンパイアたちを無視して立ち上がる。


「どうやったんだ?」


 俺が尋ねると、ミドリは手の爪を軽く掲げる様にして見せてきた。

 その爪ワイヤーも切れるくらい切れ味が良かったのか?

 俺はミドリの爪に若干ビビりながらも立ち上がると、MVPであるレフィーナに礼を言う。


「助かったよ、レフィーナ」

「お礼ならウェインに言ってあげてよ。この作戦を考えたのはウェインなんだ」


 レフィーナはチラリと後方を振り返る。そこにはこちらを見守っている魔狼の姿があった。


「ウェイン……助かったのですね」


 ミドリが本心からの笑顔を浮かべる。こんなに素直に笑うミドリは初めて見た。


「ま、待て。お前たち、仲間なのか?」


 俺たちの会話から状況が理解できたのかヴァンパイアが尋ねてくる。俺はヴァンパイアを睨み付けながら答えた。


「レフィーナは俺の契約者だ。どうする? 降伏するか?」


 俺の一言で、魔王軍の全員が動きを止めた。

 勝ち目がほとんど無くなったことが分かっているのだ。しかし、その表情は戦意を失ってはいない。あの時の二本角の指揮官と同じだ。


「アルラウネと竜人、どちらも契約者なのか?」

「そうだ。二人とも俺の契約者だ」


 この質問が来たということは、こいつらの次の行動はもう予想できる。全員で俺の首を取りに来るはずだ。

 俺を殺せば、契約者の二人も連鎖現象で死ぬ。そしてこの中で人間である俺を殺すことが一番簡単であり、彼らが勝利できる唯一の方法になったのだ。


「アキト様……下がってください」

「嫌だ」


 俺の前に出ようとしたミドリを押しのける。


「な、なぜですか?」

「こいつらは、この村を守っていたアルドミラ軍の軍人を皆殺しにした。それに、抵抗した村の人間も何人か殺しているだろう。トウマとウェインのこともある。ミドリに守ってもらってこの場を切り抜けようなんて気持ちは全く湧いてこない」

「しかし……」

「俺が死ねばお前も死ぬんだ。不安な気持ちは分かる。けど、俺はお前の契約者だ。それでも無理だと思うか?」


 俺の言葉に、ミドリはため息を吐く。


「分かりました。レフィーナ、アキト様をサポートして戦いますよ」

「うん、分かった。ウェイン来て、暴れるよ!」


 レフィーナが声をかけると、後方にいたウェインが突っ込んでくる。


「行くぞ。あの人間を殺せば我らの勝ちだ。攻撃開始!」


 魔王軍は俺目掛けてありったけの攻撃魔法を放った。


「させません。『不可侵領域』」


 ミドリが俺の前面に広範囲の不可侵領域を張って、全ての攻撃を遮断する。

 俺はその隙にイメージを固めて魔法を放つ。


「『空間魔法・不可侵領域』!」


 俺は目の前の地面から橋を架けるイメージで不可侵領域を展開した。そして、その上を駆け上がって魔王軍の上空を取る。


「今だ!」


 俺は不可侵領域を解除すると、真下にいるヴァンパイアへ意識と魔力を集中した。

 これまでの道中でミドリに習った俺用の攻撃魔法。恐ろしいほどに強力な魔法だが、こいつらが相手ならためらわずに使う事が出来る。

 イメージするのは空間を切り裂く不可視の剣。


「『空間魔法・虚空剣』!」


 俺は魔法で作り出した不可視の剣を両手で握ると、そのまま真下にいるヴァンパイア目掛けて落下した。

 虚空剣はミドリが使う虚空斬の下位互換だ。しかし、その威力は他の属性の弱い魔法とは比較にならない。魔法耐性があるドラゴンの鱗以外で防ぐことは不可能だ。

 しかし、ヴァンパイアは飛び退くことで俺の攻撃を回避し、俺はそのままに地面に虚空剣を突き刺す形になった。


「くそっ!」


 虚空剣を引き抜いて攻撃しようとヴァンパイアを見ると、こちらに向かって手をかざしていた。


「『血液魔法・真紅の乱れ矢』」


 ヴァンパイアは自分の手首を爪で裂いて血を流すと、その血が数発の弾丸となって飛び出してきた。


「『大地魔法・絶対防壁』」


 レフィーナの大地魔法が発動し、地面の土が反り立つ壁となって俺を血液の弾丸から守る。


「た、助かった」


 安堵した瞬間、俺の目の前にウェインが現れる。


「ウェイン!?」

「グルル!」


 ウェインは即座に伏せの体制を取った。

 乗れという事だろう。言葉は分からないが気持ちは伝わってきた。

 俺がまたがると、ウェインは驚くべきスピードで走り出した。二メートル以上ある体格からは考えられない急発進だ。


「――んなっ!? これが、疾風魔法か?」

「バウッ!」


 ウェインが頷いて返す。

 風のように駆け抜け、魔王軍の一人に接近した。


「『火炎魔法・紅焔』!」

「なんのっ!」


 炎魔法で迎撃されたので、俺は右手に握っていた虚空剣で魔法を切り裂いてやった。


「ガルルッ、バウッ!」


 ウェインが文句を言うように吠える。


「何だ? 何か、ミスったか?」


 俺が尋ねている間も、ウェインは戦場を駆け抜けて魔王軍を翻弄する。


「くっ、疾風魔法か? 魔獣の分際で!」


 ウェインの動きに魔王軍の連中は対応できていない。

 速さで優っているということもあるが、ウェインは進行方向の選択が上手いのだ。こちらを狙っている敵との間にミドリやレフィーナと対峙している敵が入るように移動している。


「さすがです、ウェイン。『空間魔法――」

「あれは不味い! 『血液魔法――」

「――虚空斬』!」

「――真紅の濃霧』!」


 ミドリの虚空斬の危険性を魔力感知で察したのか、ヴァンパイアが血の霧を噴出して視界を奪ってくる。

 構わずにミドリが虚空斬でヴァンパイアがいた場所を薙ぎ払う。


「『血液魔法・真紅の乱れ矢』!」

「『火炎魔法・紅焔』!」

「『岩石魔法・岩時雨』!」

「『氷結魔法・氷柱槍』!」


 霧の中から魔王軍の声がしたかと思うと、魔法による総攻撃がミドリ目掛けて放たれた。


「なっ!」


 意表を突かれたミドリは、魔法の直撃を受けてしまった。


「ミドリ!?」

「グルル……アオーン!」


 俺を乗せていたウェインが吠えると、彼の咆哮が乱れ狂う風の魔法となって血の霧を押し流す。

 霧が晴れると、ミドリは翼で身体を覆うことで攻撃から身を守ったことが確認できた。

 しかし、同様に魔王軍にも一人の犠牲者も出ていない。


「……全員が避けた?」


 ミドリは虚空斬で横方向に薙ぎ払っていた。あれを避けるには高く飛び上がるか、地面に伏せるしかない。

 それを霧の中で全員が成功させることなど出来るのだろうか?


「ミドリお姉ちゃん。あの蝙蝠だ!」


 レフィーナが魔王軍一人一人の近くに飛んでいる小さな蝙蝠を指差す。


「なるほど、ヴァンパイアは身体の一部を蝙蝠へと変えられると聞きます。それを使って全員に魔力感知で得た位置情報を伝えていたのですね」

「その通りだ。だが、分かったところでどうしようもあるまい」


 再び放たれた魔王軍からの魔法攻撃をミドリが不可侵領域で防ぐ。


「よし、ウェイン。もう一度スピードで撹乱するぞ」

「バウッ!」


 再びウェインが疾風魔法で加速して魔王軍を翻弄する。そして避け切れない攻撃は俺が虚空剣で切り裂いてウェインを守る。これなら安全だ。


「ちっ、奴さえ倒せば終わりだというのに!」


 ちょこまかと戦場をかける俺とウェインにヴァンパイアが舌打ちする。

 いいのか? 俺にばっかり気を取られて?


「今だ!」

「そこです」


 その隙を突くように、ミドリとレフィーナが魔法で攻撃して、数名の敵を仕留めた。


「アキトくん! 戦う気があるのなら、もっと攻撃してよ!」

「バウッ!」


 レフィーナの言葉にウェインが同意するように吠えた。


「えっ?」

「ウェインが作り出したチャンスを無駄にしないでください。アキト様」

「…………なるほどね」


 俺は両足に力を入れてウェインを挟むようにして体制を安定させると、虚空剣を力強く握り込んだ。

 頭の中に、魔王軍に殺されたアルドミラの軍人たちを思い浮かべる。

 俺がミルド村を旅立つ時に声をかけてくれた彼らは、こいつらに殺された。

 俺は軍人じゃないけれど、アルドミラの国民だ。そして相手はギドメリアの異種族で、この戦いは奴らとの命の取り合いなんだ。


「行け、ウェイン。狙うは敵の親玉だ!」

「バウッ!」

「サポートするよ、アキトくん、ウェイン! 『大地魔法・岩の神殿』!」


 レフィーナが地面に手を付くと、ありとあらゆるところから岩の柱が無作為に飛び出した。


「くそっ、なんて魔法範囲だ!」


 魔王軍が悪態をつきながら地面から飛び出してくる岩の柱を魔法で破壊し始める。


「ウェイン、岩の柱を飛び回れるか?」

「グルルッ!」


 ウェインは唸るように返すと、岩の柱を飛び移りながら駆け回る。


「バウッ!」

「分かっていますよ、ウェイン! 『空間魔法・不可侵領域』」


 ウェインの合図でミドリが上空に不可侵領域を張る。ウェインはより高い岩の柱へと飛び移り続け、最後のジャンプで身を翻して上空の不可侵領域に逆さの状態で足を付けた。

 おいおい。これって、もしかしなくても、そういうことだよな?


「『多重領域』!」


 ミドリが不可侵領域の表面に二層目の不可侵領域を追加する。不可侵領域は張られた場所に先に存在していた物を外に押し出す力がある。そして今回の場合はウェインの四つ足が該当した。

 ウェインが空中の不可侵領域を蹴る力、二層目の不可侵領域がウェインの足を押し出す力、空中にいる俺たちを地表へと引き寄せる重力。

 三つの力が合わさって、俺とウェインは真下にいたヴァンパイア目掛けて突撃した。


「ちいっ、『血液魔法・真紅の乱れ矢』!」


 ヴァンパイアが自らの血液を飛ばして迎撃してくる。

 ダメだ。この角度では魔法を斬るよりも先にウェインに当たってしまう。


「だったら、こうだっ!」


 俺は虚空剣を迫りくる血液の弾丸へとぶん投げた。


「何だとっ!?」


 血液の弾丸を切り裂いて進む虚空剣をヴァンパイアは先ほどのように飛び退いて回避した。


「逃がすかぁ! 『アルラウネの蔓』!」


 俺は両手からアルラウネの蔓を出してヴァンパイアの右腕に絡ませることに成功した。


「駆け抜けろ、ウェイン!」

「バウッ!」


 地面に着地したウェインは、間髪入れずに走り出す。


「ぐぅ、させるものかぁ!」

「何!? うわぁあ!」


 俺の蔓に右腕を絡めとられているヴァンパイアは引きずられる形になると予想していたのだが、俺の予想以上にヴァンパイアは力が強く、逆に俺が駆けだしたウェインから転がり落ちる羽目になった。


「死ねっ!」


 ヴァンパイアは即座に剣を抜いて俺に向かって突き出した。


「『竜の鱗』!」


 両腕に出したミドリの鱗で剣を防ぐ。かなりギリギリだったが間に合った。


「へへっ、ただの剣じゃ俺には傷一つ付けられないぜ?」


 遠距離の攻撃魔法が使えない俺にとって、接近戦は対等に戦える距離でもある。そしてミドリの鱗という防御力と虚空剣があれば絶対に勝てる。そう思っていた。

 次の瞬間、左肩に噛み付かれるまでは。


「うぐぁぁぁああああ!」


 ヴァンパイアの吸血。

 辛うじて首に噛み付かれるのだけは避けられたが、竜の鱗を出していない肩に思いっきり噛み付かれた。

 俺は激痛で叫びながらも、右手に意識を集中させる。


「く、『空間魔法・虚空……剣』!」


 俺が虚空剣を作り出して攻撃しようとすると、ヴァンパイアは即座に俺を突き飛ばすようにして離れる。


「く、くそ」

「あの状況で魔法を使えるとは……」


 やはり魔法による攻撃は一呼吸先に察知されて避けられてしまう。そのまま追撃しようとするも、めまいを覚えて地面に倒れ込むように手を付いた。

 これが吸血か。外に流れた血液よりもヴァンパイアに吸い上げられた血液の方がよほど多いようだ。

 何とか立ち上がると、不敵に笑いながらこちらを見下しているヴァンパイアと目が合った。


「これで終わりにしてやる。『血液魔法――」


 俺に向かって魔法を放とうとしたヴァンパイアが、急にこちらへの攻撃をやめて持っていた剣を振る。

 すると、疾風魔法で突撃してきたウェインがその剣によって斬りつけられた。


「ウェイン!?」


 幸い浅く切られただけのようで、出血しながらも俺の近くまで駆け寄ってくる。


「ガルルッ、バウッ!」


 俺を鼓舞するかのようにウェインが吠える。血を流しながらも、ウェインはまだ諦めていないようだ。

 俺は噛まれた左肩に竜の鱗を出して無理やり出血を止める。


「アキトくん、大丈夫?」


 周囲を囲んでいる岩の柱の外からレフィーナの声が聞こえてくる。


「だ、大丈夫だ。こっちは俺とウェインに任せてくれ!」

「分かった。頼んだよ、アキトくん!」

「アキト様、前回と同じです。雑魚は私たちで片付けます」


 ミドリが言っているのは前の魔王軍との戦いの事だろう。俺はあの時にミドリに言われた言葉を思い出す。


『ああ。俺はお前の主らしく、敵の指揮官を討ち取ってやるよ!』


 俺は再びヴァンパイア目掛けて虚空剣を投げつける。

 虚空剣の強さは理解しているのか、ヴァンパイアは素早く剣を回避した。


「『アルラウネの蔓』!」


 俺は左手からアルラウネの蔓を出してヴァンパイアを襲う。


「ちいっ!」


 やはりアルラウネの蔓は魔力感知出来ないようで、少し不規則な動きをさせただけで簡単に奴の剣に絡ませることが出来た。

 これで奴との接近戦で気を付けるのは吸血だけだ。


「ただの剣では切り裂けないか」

「バウッ!」


 ヴァンパイアが蔓を斬ろうと剣を無理やり動かそうとしていたところに、ウェインが接近して足に噛み付いた。


「ぐっ! 『血液魔法・真紅の矢』!」


 ヴァンパイアは痛みに顔を歪めながら剣を放り投げて血液魔法でウェインを攻撃するが、ウェインは即座に飛び退いて俺のもとへと戻る。

 俺はウェインに飛び乗ると、アルラウネの蔓を手元まで戻して剣を回収した。


「行くぞ、ウェイン!」

「バウッ!」


 ウェインがヴァンパイアへと突撃する。


「『血液魔法・真紅の雨』!」


 今度はヴァンパイアが上空へと血液を投げる。

 俺は魔法の名前とその動作から前回の戦いで二本角の指揮官が使った炎の雨と同種の魔法だと辺りを付け、上空に魔力を集中させた。


「『空間魔法・不可侵領域』!」


 俺の予想は当たり、上空に張った不可侵領域に血液の弾丸が降り注ぐ。

 これで道は整った。ウェインは俺を乗せて一直線にヴァンパイアへと接近する。


「おらぁあ!」


 俺はすれ違いざまに剣を横薙ぎに叩きつけるように振る。

 剣先がヴァンパイアの脇腹をかすめ、血が噴き出した。


「ぐっ…………に、人間風情がぁ!」


 ヴァンパイアは斬られた脇腹を押さえて片膝を付きながらも、俺に対して憎しみの籠った視線を向けてきた。


「『血液魔法・真紅の霜柱』!」


 初めて目にする魔法は、地面に飛び散っていたヴァンパイアの血液全てが動き出し、棘のように飛び出す魔法だった。

 ウェインは予想外の魔法に驚きつつも何とかそれを避けるように立ち回ったが、最後の最後で足をかすめて倒れてしまった。

 乗っていた俺は転がり落ちるように地面に投げ出される。


「今だ! 『血液魔法・真紅の乱れ矢』!」

「『空間魔法・不可侵領域』!」


 迫りくる血液の弾丸を不可侵領域で何とか防いだが、効果範囲が足りずに少し離れたところ倒れていたウェインには数発の弾丸が命中してしまう。


「ふん。やっと小賢しい魔獣が大人しくなったか」

「てめえ、よくも!」


 俺はアルラウネの蔓でヴァンパイアを攻撃する。

 奴も回避するほどの力は残っていないらしく、右手でガードするだけだ。


「引っ張り合いならば、人間に遅れは取らん」

「そいつは……どうかなあ!」


 アルラウネは地上にいてこその種族だ。地に足を付けている時のアルラウネが少し人間よりも力が強い程度のヴァンパイアに負けるわけがない。

 俺は左手から出ている蔓の数を増やすと、増やした蔓を地面へと突き立てた。


「な、なにっ!?」

「これが本当のアルラウネの力だ!」


 アルラウネの蔓の力は最初からヴァンパイアに負けていなかった。ウェインの上に乗っていた時は地に足がついていなかったので力負けしただけだ。

 だからこそ、先ほどヴァンパイアから剣を奪った時は互角だったのだ。

 それならアルラウネが根を張るように、蔓で自分を地面に固定してやればいい。そうすれば本来のアルラウネの蔓の力だけで勝負することが出来る。

 ヴァンパイアは俺の予想通りに蔓に引っ張り上げられ、猛スピードでこちらへと引き寄せられた。

 この状態なら、回避することは絶対に不可能だ。


「『空間魔法・虚空剣』!」


 俺はこちらへと引き寄せられてくるヴァンパイアの首を虚空剣で斬り飛ばした。

虚空剣は上級種族から見てもとても強い魔法です。

射程の短い剣の形をしているので消費魔力が少なく、かつ攻撃力はトップクラスです。

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