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入れ替わりの先にある異世界 ~異種族と結婚するため、俺は冒険の旅に出る~  作者: 相馬アサ
第一部 似ても似つかぬ並行世界
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一章 アルラウネの森 十四話

 ミドリに捕まってミルド村まで飛行していると、途中の道端に倒れている魔獣を発見した。


「ミドリ、止まれ!」


 俺が声をかけるとミドリは空中で羽ばたきながら減速する。俺は尻尾に抱き着くように掴まっているので下に垂れ下がる形になった。


「何ですか?」

「いったん降ろしてくれ、下で倒れている魔獣がウェインかどうか確認したい」


 ミドリも地面に横たわる魔獣に気が付いたのか、すぐに魔獣の隣に降り立った。


「間違いありません。ウェインです」

「酷い怪我だな。何とかならないか? こいつが死んだらトウマも死んじまう」


 ウェインは後ろ脚や尻、脇腹辺りから血を流し意識を失っている。呼吸はしているが明らかに弱っており、いつ死んでもおかしくない状態に見える。


「それは……相棒のウェインの死を知ってショックを受けてしまうということですか?」

「は? いや、そうじゃなくて、契約獣が死んだら人間の方も死んじまうだろ?」

「死にませんよ?」


 ミドリは真顔で答える。

 レフィーナも何を言っているんだという顔で首を傾げている。


「アキトくん、連鎖のことを言っているなら、それが起きるのは人間側が死んだ時だけだよ?」

「えっ? どういうことだ?」


 俺が全く意味を理解できていないことが分かったのだろう。ミドリが手早く解説を始める。


「アキト様が言っているのは連鎖――正式には契約連鎖現象というものです。人間が命を落とすと、その人間に魂の半分を預けている契約獣や契約者も共に命を落とす現象のことです」

「魂を預ける?」

「はい。現在、アキト様の契約紋の中には私とレフィーナの魂が半分入っている状態だと考えられています。ですのでアキト様に死なれると私たちは魂の半分を失い、アキト様の後を追うことになります。ウェインもトウマが死ねば死ぬでしょう」


 反射的に左胸の契約紋に触れる。

 俺の中にミドリとレフィーナの魂が半分ずつ入っているっていうのか?


「そしてその逆はあり得ません。私たちが死んだところで、アキト様の契約紋の中にある残り半分の魂が次第に消滅していくだけでしょう」

「そんなこと……記憶にないぞ」

「でしょうね。それを知っているのは、人間以外の種族と軍属に就いている人間だけですから。一般の学校で教わる内容ではありません。むやみに広めると、一般人が躊躇いもなく魔獣と契約して危険ですから」


 俺が死んだら二人を巻き込んでしまうのに、二人が死んでも俺は死なないだと?

 なんて人間に都合が良い契約だ。吐き気がする。


「時間を取られ過ぎました。アキト様、村まで急ぎましょう。可愛そうですが、ウェインはもう助からないと思われます」


 ミドリは悔しそうに顔をしかめながら、再び翼を広げて飛び立つ準備をする。


「待って、それなら二人は先に行ってよ」


 レフィーナが自分を抱えようと近付いたミドリから一歩遠ざかる。


「ぼくはこの魔狼を治療してから行くことにする」

「治療……出来るのですか!?」

「任せて。『大地魔法・癒しの地』」


 レフィーナが魔法を使うと、ウェインの倒れている大地から草が伸び、ウェインの身体に絡みついていく。


「だ、大丈夫なのか、これ?」

「少し時間はかかるけど、怪我は治ると思うよ。問題は血を流し過ぎていることだね」


 そう言いながらレフィーナは自分の身体から蔓を伸ばしてウェインへ突き刺す。


「お、おい」

「安心してよ。ぼくの身体から直接養分と魔力を流し込んでいるだけだから」

「輸血みたいなものか……?」


 ミドリがレフィーナの肩に手を置く。


「お願いします、レフィーナ。ウェインは私の数少ない友なのです」

「うん。必ず助ける」


 俺とミドリはウェインの治療をレフィーナに任せ、再び空へと飛び立った。




「見えてきました。ミルド村です!」

「くそっ、見えない。どんな様子だ?」


 俺は這い上がる様にミドリの尻尾から背中まで移動して腰に手を回して抱き着く。うん、ここの方が安定感もあるし、前が見えるぞ。


「――っ! ア、アキト様!? よじ登って来ないでください!」

「悪い。今だけ我慢してくれ!」

「くっ……今だけですよ?」


 ミドリに抱き着きながらも何とか状態を反らして前方を確認する。

 遠くてよく見えないが煙が上がっていることは分かる。火事が起きているような気がして心がざわついた。

 まさか、火を放たれているんじゃないだろうな?


「酷いですね。北側は壊滅しています」

「壊滅!? ミドリ、この距離で見えるのか?」

「私は人間よりも視力が良いですから」


 ミドリは突然進路を左に変えて飛び始める。


「空から近付くと気付かれます。南側に回り込んで低空から村に侵入しましょう」

「村にいたアルドミラ軍はどうなってる?」

「北側に死体がいくつも転がっているようでした。家屋は破壊され火の手が上がっていますが、南側はまだ無事なようでした」

「やばいじゃねえか! 回り込んでいる場合か?」

「今現在、戦闘をしている様子はありませんでした。既にミルド村は完全な占領下にあるといっていいでしょう」


 ミドリが苦虫を噛み潰したように言う。

 手遅れってことなのか?

 いや、南側に回り込んで侵入するってことは、ミドリはまだ村のみんなの生存を諦めたわけではなさそうだ。


「……南側から気付かれないように侵入して、生存者を助けるってことか?」

「はい。村を守っていたアルドミラ軍が全滅したのなら、村の皆さんは大人しく降伏したのではないかと思います」

「だから南側は綺麗に残っている……か」

「あとは、無抵抗な人間を虐殺するような者たちでないことを祈るだけです」


 虐殺という言葉を聞いて、俺の中の魔力がより一層の熱を帯びた気がした。もしそんなことになっていたら、俺もミドリも何をするか分からないぞ。

 俺たちはミルド村に近付かないように南側に回り込み、そこから超低空飛行で村まで接近した。南側の柵を飛び越えて地面に着地する。

 ミドリの腰に捕まっていた俺は、急停止に付いていけずに振り落とされて尻餅をついた。


「いてて……」

「大丈夫ですか?」

「ああ。それより、早くみんなを助けよう」

「はい。魔力感知で魔王軍の位置は分かりますので、私から離れずに付いてきてください」


 ミドリが迷いのない足取りで進んでいくので、俺は周囲を確認して生存者を探しながらついて行った。


「これは……」


 南側に広がっていた畑を越えた先でミドリが突然進む方向を変えた。理由は分からなかったが、今はミドリを信じるしかない。


「おかしいぞ、ミドリ。村のみんなが誰もいない」


 南側のどこを見ても人の姿がない。畑には背の高い植物もたくさんある。身を隠すにはもってこいなので、少しくらい隠れている人たちがいてもいいはずなのだが……。

 よほど隠れるのか上手いのだろうか?

 目の前にあった家を見る。玄関や窓が開け放たれており、中に誰かがいるようには見えない。


「もしかすると、村のみなさんはどこか一か所に集まって身を隠しているのではないでしょうか?」

「俺もそう思った――っていうか、そうでないとこの状況はおかしいぞ」


 もぬけの殻となった家を遠目にいくつも見ながら、ミドリの後を進む。そうして少し進んだ先で、ミドリは何かを確信したように立ち止まる。


「申し訳ありません、アキト様。想定外の事態です」

「な、何だよ。何があった?」

「むこうにも、魔力感知が出来る種族がいるようです」

「えっ?」


 ということは、俺たちが南側から侵入したことがバレたってことか?

 俺はキョロキョロと辺りを見回してみるが、異種族の姿は見えない。


「まだ少し距離がありますが、確実にこちらを目指して進んできています」

「……迎え撃つか?」


 俺は魔法をすぐに使えるように心構えをしながら尋ねる。


「いえ……村の皆さんの安全が確保できていないのに、戦闘をするのは危険です」

「どうしてだ?」

「どこかに集まって隠れているのならいいですが、集められて捕虜にされている場合は下手に敵を殺すと村の皆さんに何をされるか分かりません」

「な、なるほど……」


 考えたくはないが、あり得る話だ。

 とすると、俺たちが取る選択肢は――


「ミドリ、こっちに向かってくる魔力って数まで分かるのか?」

「はい。上級種族が3人です」

「よし。なら逆に、こっちに向かってきてない魔力で、一か所にたくさん集まっているところはないか?」


 ミドリは素早く目を閉じた。集中しているのだろう。


「……ありますね。これは村の中央、村長の家付近です。10人以上の魔力を感じます」

「決まりだな」


 ミドリが目を開けて俺を見る。


「何がですか?」

「村のみんなはそこに集められているってことだ」


 きっと人質になっているに違いない。村人の人数なんて数えたことがないが、100人はいるだろうからな。それなりの人数で監視しなければ逃げられてしまうだろう。


「可能性は高そうですね」

「ミドリ、一旦引き上げてアルドミラ軍と合流し、村を包囲して魔王軍が降参するのを待つのと、全速力で奇襲を仕掛けてイチかバチかの賭けに出るのと、どっちがいい?」


 前者なら確実に勝てるとは思うが、人質にされている村のみんなに被害が出る可能性が高い。

 後者は俺とミドリの戦闘力や咄嗟の判断力次第だが、完全勝利か完全敗北、もしくは村のみんなに被害を出しながらも魔王軍を全滅させるパターンが考えられる大博打だ。


「どちらも御免被ります。私は村のみなさんに被害を出したくありませんし、勝率の低い賭けに出るほど愚かでもありません」

「じゃあ、どうするっていうんだよ」

「決まっています――」


 その瞬間、曲がり角の先から三人の異種族の男が飛び出してきた。

 俺とミドリを確認すると、先頭の一人が即座に火炎魔法を放つ。考えられ得る最速の動きだ。不可侵領域を張る暇さえない。

 ミドリはその火炎魔法を左手の鱗を使っていとも容易く弾き飛ばす。

 ドラゴンメイドの圧倒的な力の前に、三人の男たちはたじろぐが、すぐに気持ちを切り替えたのか、鬼のような形相で睨み付けてきた。

 彼らに向かって、ミドリは何の感情も感じさせない声で宣言する。


「降伏します」

連鎖の説明でミドリが言っていた魂の話は、この世界ではそのように考えられているというだけで、真実は分かっていません。

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