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三章 黒の竜王 二十話

 俺とハルカの放った魔法越しにコクヨウの声が聞こえてくる。


「ぐぅぅ……お、終わるものかっ! この俺がこの程度の魔法に負けるわけがない! 俺は――」


 俺とハルカの最上位魔法はコクヨウの身体ごと魔王城を破壊して、壁に大穴を開けた。

 俺たち四人は急いで半壊した魔王城から外に出ると、コクヨウを探す。


「…………マジかよ。もう少しダメージがあっても良いだろうが」


 コクヨウは俺の予想に反して五体満足な状態で夜の空に羽ばたいていた。両腕に多少の出血が見られるが、どう見てもかすり傷だ。


「……ふ、ふふふ……どうやら、俺の身体は俺の予想以上に頑丈らしいな」


 コクヨウは自分の両腕を確認して不気味に笑う。先ほどの攻撃は奴自身も死を覚悟するレベルの魔法だったのだろう。やはりミドリが良く使う斬撃系の魔法でなければあれ以上の傷を負わせるのは難しいのかもしれない。


「しかし、俺はもう油断しない。お前たちは必ずここで叩き潰す!」


 コクヨウが怒気の籠った声で叫ぶと、彼の身体が巨大化し、人の姿を捨てて一匹の黒竜へと姿を変えた。


「は、はは……まさにラスボスって感じだな」

「笑っている場合ですか。全身を覆う鱗の面積が増えた分、こちらが不利です」


 確かにそうなのだが、それ以上に見た目からくる威圧感で手足が震えそうだ。


「エメラルドって言ったわよね。あんたもドラゴンになって戦えないの?」

「私はドラゴンの姿よりも、竜人の姿の方が慣れています。それに力で勝る魔王を相手に身体を大きくするのは的になるだけです」

「……なるほどね。なら、こっちはスピードで勝負しましょう。行くわよ、アルベール!」

「うん!」


 ハルカとアルベールがコクヨウの周りを飛び回ると、下位魔法を連発して挑発する。

 あれはコクヨウからしたらかなり苛立つはずだ。その隙に俺とミドリで大技を決めてやるか。


「小賢しい、羽虫どもめ!」


 コクヨウは空高く飛び上ると、ハルカとアルベールから距離を取った。

 最悪な事実が発覚したが、あいつはあの巨体でハルカたちよりも速いらしい。月明かりに照らされた黒い鱗の竜が遥か上空からこちらを見下ろして口を開く。


「一人残らず消滅させてやる。『渾沌魔法・極式魔界破』!」


 コクヨウの口から放たれたのは超巨大な闇の塊だった。

 俺やハルカの最上位魔法とは規模が違う。込められた魔力が段違いだ。


「アキト! あれは避けられる大きさじゃない。受け止めるわよ!」

「分かってるよ! 『神風魔法・極式天空弾』!」

「『光明魔法・極式天界破』!」


 俺とハルカに続くように、ミドリとアルベールも魔法を放つ。


「『神風魔法・天空十字斬』!」

「『宝石魔法・極式天界宝珠』!」


 四つの魔法が渾沌魔法とぶつかるが、それでもなお押し込まれる。


「うぉぉおお! や、ヤバすぎる! 押さえきれねえぞ!」

「それでもやるのよ! 死ぬ気で魔力を振り絞りなさい! 止められなかったら、地上が吹き飛ぶわよ!」


 ハルカは俺が目を背けたかった現実を口にした。

 俺たちの頭上から放たれた渾沌魔法は目算だが数百メートルを越えたサイズをしている。あんなものが地上に落下したら、大地が吹き飛びその衝撃で周囲にも多大な被害が出るだろう。

 そんなことになれば、逃げだしたドラゴンたちだけでなく、町の外で暮らしていたギドメリアの民間人たちも一緒に吹き飛ばされる。

 そして今どこにいるかも分からない俺の契約者たちも巻き込まれるだろう。それだけは絶対に防ぎたい。

 コクヨウの奴、この国の王として俺たちを排除すると言っておきながら、結局は国民を蔑ろにした攻撃を仕掛けて来やがった。あんな口だけ野郎に俺たちは絶対に負けられない!


「ふむ。これはちと厳しいかもしれぬのう」

「でも、やるしかないよ」

「そうじゃな、ここが踏ん張りどころということじゃろう」


 迫りくる魔法とその先にいるコクヨウにだけ集中していた俺の耳に、地上から良く知った声が聞こえてくる。


「『炎天魔法・極式狐火玉』!」

「『聖花魔法・極式閃熱花』!」


 シラツユとレフィーナの巨大な魔力がコクヨウの渾沌魔法に直撃する。とんでもない魔力量だ。二人はため込んでいた魔力を全てここで使うつもりなのかもしれない。

 合計で六人による最上位魔法を受けて、ついに混沌魔法は打ち砕かれた。


「よ、よし……な、何とか乗り切った……助かったよ、レフィーナ、白露」


 だが、かなりの魔力を消費させられた。もはや俺の冷蔵庫内にある栄養剤を使っても、全員を回復させることは出来ないだろう。


「まだよ、アキトちゃん。気を抜かないで!」

「私が先行する、アキトたちも続け!」


 コクヨウの渾沌魔法が消滅した瞬間に、俺の横をロゼが通り過ぎていく。


「援護するわ、ロゼちゃん。『聖水魔法・極式竜玉破』!」


 オリヴィアが巨大な水の竜を放つ。初めて見たが、あれがオリヴィアの最上位魔法なのだろう。


「ミドリちゃん、アルベールちゃんも!」

「分かっています! 『神風魔法・連式天空斬』!」

「は、はい! 『宝石魔法・連式金剛斬』!」


 オリヴィアに促されて、二人は慌てて上位魔法を放った。いくつもの斬撃が水の竜と共にコクヨウへと迫る。


「次から次へと! 『渾沌魔法・地獄十字斬』!」


 コクヨウは両翼から放った十字の斬撃でオリヴィアの魔法を破壊すると、ミドリとアルベールの魔法は尻尾の鱗で弾き返した。


「あたしたちも行くわよ、アキト!」

「おう!」


 俺は先行しているロゼに追いつくために両翼から魔力を放出すると、ハルカと並んでコクヨウへと接近を試みた。


「『雷神魔法・連式雷鳴閃』!」

「『渾沌魔法・連式魔界破』!」


 ロゼとコクヨウの魔法がぶつかり合う。


「『雷皇翼』!」


 続いてロゼが雷を纏った翼で一撃を入れるが、コクヨウの身体には傷一つ付かない。


「気を付けろ、ロゼ。生半可な攻撃は通じない相手だ!」

「そうようだな。だが、やりようはある!」


 ロゼが目にもとまらぬスピードでコクヨウの周囲を飛び回る。ロゼのスピードはハルカやアルベールとは段違いだ。さすがのコクヨウも距離を取ろうとせずに、ロゼの動きを見切ろうとその場にとどまって集中している。

 とんでもない集中力だ。唯一の弱点だと思われる目を狙ったロゼの攻撃を、コクヨウは紙一重で回避し続けている。


「よし、ハルカ。俺たちもロゼを援護するぞ」

「待ってアキト…………あれってたぶん、リクハルドが使っていたやつと同じタイプの魔法だわ。だとしたら、きっとチャンスが来る」

「え?」


 リクハルドさんが使っていた魔法?

 一瞬何のことかと思ったが、魔眼で魔力の流れを見たことで思い出した。

 アルベールが教えてくれたハルカたちとコクヨウとの戦いで、唯一コクヨウにダメージを与えたリクハルドさんの火炎魔法。

 相手の身体に魔力を蓄積させてから爆発させる内部破壊魔法だ。それと同じ現象が目の前で繰り広げられていた。

 ロゼの魔力がコクヨウとぶつかるたびに彼の身体へと流れている。そしてそれは決して少ない量ではない。既に最上位魔法一発分以上の量がコクヨウの中へと流れ込んでいた。


「来るわ。アキト、タイミングを合わせましょう」

「分かった」


 俺は来たる一撃に備えて魔力を練り上げる。

 コクヨウは攻めてこない俺たち二人の挙動に違和感を覚えたのか、一瞬だけこちらへと視線を向けた。

 その瞬間にロゼが魔力を爆裂させる。


「『雷神魔法・極式聖天雷皇斬破』!」

「なっ――ぐぁぁああああああああああ!」


 コクヨウの身体を膨大な量の電撃が駆け巡る。

 あれだけの電気を流されたら、自由に身体を動かすことは出来ないはずだ。

 俺とハルカは即座にコクヨウへと接近すると、その両目に狙いを定める。


「行くわよ、アキト!」

「ああ! 食らいやがれ、コクヨウ!」


 ハルカが咄嗟に魔剣を二振りの状態へと分離させると、片方を俺に投げてよこす。

 俺は魔剣の片割れを掴み取ると、魔力を流してコクヨウの左目へと突き出した。


「『神風魔法・天空剣』!」

「『光明魔法・天界剣』!」


 俺たちがコクヨウの両目に剣を突き立てるのと同時に、ロゼはコクヨウの動きを止めていた電撃を解除した。感電覚悟で突っ込んだのだが、最高のタイミングで魔法を解除してくれたものだ。


「がっ、ああぁぁああぁぁあああ! き、きさまらぁあああ!」


 両目を潰されたコクヨウが、鋭い爪で俺たち二人を攻撃する。

 しかし、その両手は追い付いてきた二人によって阻まれた。


「『空間魔法・虚空斬』!」

「『宝石魔法・金剛斬』!」


 ミドリとアルベールの魔法は一瞬の時間稼ぎにしかならなかったが、その隙に俺とハルカはコクヨウの身体から離脱する。


「アキトちゃん、最後はお姉さんに任せて! 『水晶魔法・永久凍結』!」


 最後に追い付いてきたオリヴィアが、出鱈目な動きで暴れまわるコクヨウに接近すると、出血している左目の傷に触れて魔法を発動させた。するとコクヨウの身体がピクリとも動かなくなり、地面へと落下を始める。


「す、すげえ。オリヴィア、何をしたんだ?」

「妖術よ。あいつを身体の中から凍らせてやったの」


 そんなことをされたらさすがのコクヨウもひとたまりもないだろう。全身の血液が凍り付いたに違いない。心臓も止まったかもしれないな。

 俺たちは地面に落下したコクヨウの元へ降り立つと、周囲を取り囲んだ。


「ど、どうする? 心臓まで凍っているなら、死んだのと同じだよな?」


 まだ魔力は感じるが、それもどんどん減少している。死が近い証拠だ。


「あの、わたしとハルカちゃんに任せてもらえませんか?」

「いいけど、どうするんだ?」


 リクハルドさんたちの仇だし、トドメを刺したい気持ちは分からなくはないが、ハルカではなくアルベールが申し出たのは意外だ。


「わたし、さっきミカエル様と繋がった事で分かった事があるんです。魔王は――黒の竜であるコクヨウはここで殺しても数年から数百年後には転生して復活してしまいます。だから、その種族としての特性を破壊しないといけません」

「理屈は分かるけど、アルベールとあたしでそれが出来るって言うの?」

「出来るよ。今ならまだ、ミカエル様の魔力がわたしたちの身体に残っている。その力を使ってコクヨウの身体から闇属性を完全消滅させるんだ。そうすることで、闇属性を司る黒の竜として力が失われ、転生することが出来なくなるはずだよ」


 なるほど、つまりは浄化か。ミドリの腕から闇の浸食を取り除いたように、奴の身体から闇属性全てを浄化してしまえば、そこには無属性のドラゴンが残るだけになる。


「時間がない。ハルカちゃん、光明魔法のコツを教えて?」

「コツ? う~ん、アキト、なんとか説明してよ。あんたそういうの得意でしょ?」


 俺だって光明魔法は使えないのに、俺に振るってどういうことだよ。


「難しいじゃろう。普通、そう簡単に複合魔法は習得できん。本来は二人掛かりで発動する魔法じゃからな」


 俺たちの会話を聞いていた白露が首を振る。

 二人掛かりか、そういえばアルベールはオーラと二人掛かりで複合魔法を使っていたらしいな。


「ん? そうか、二人掛かりでもいいのか」

「どうしたの、アキト? 何か良い案を思い付いたの?」

「ああ。ハルカとアルベール、それと俺の三人でこいつを浄化しよう。俺の空間魔法とアルベールの宝石魔法を混ぜれば良いんだろ?」

「なるほどね。よし、時間もないし、それで行きましょう」


 ハルカは即座に納得して動かなくなったコクヨウに手をかざす。

 俺とアルベールはハルカからコクヨウを挟んで反対側に移動すると手を繋いで立つ。


「アキト、あんたは加護が無いわけだけど、魔力量は大丈夫なの?」

「ああ。俺にはこれがある」


 俺は冷蔵庫からレフィーナの栄養剤を取り出すと、一気に飲み干した。


「ちょっと、そんな便利な飲み物があるなら、もっとバンバン強い魔法を使いなさいよ」

「戦闘中に飲んでいられるかよ。効力がコクヨウにバレたら絶対に狙われて、飲む隙も与えてもらえないだろ。それどころか、奪われたら一大事だ」

「む、確かにそうか」


 何にせよ、これで俺の魔力は回復した。魔力量の釣り合いは取れたはずだ。


「じゃあ、行くわよ。どんな魔法にする?」

「ヤマシロのヒナノってエンシェントドラゴンは、破邪の光っていう魔法を使っていた。あの魔法は闇の浄化だけで傷は治らないから最適だろう」

「いいわね。じゃあ、それにしましょう」


 ハルカが魔力をコクヨウに向かって流して包み始める。


「俺たちもやるぞ、アルベール」

「はい。アキトさん、魔力量が同じになるように意識してくださいね」

「任せてくれ、そういう調整は得意だ」


 俺はアルベールと全く同じ量の魔力をコクヨウへと流す。

 そして俺の空間魔法とアルベールの宝石魔法を混ぜ合わせていく。タイミングは魔力の高まりで何となく分かった。

 三人が同時に口を開く。


「「「『光明魔法・破邪の光』!」」」


 聖なる光がコクヨウの身体を包み込み、闇を祓う。

 極限まで高められた魔法が発動を終えると、コクヨウの身体は灰のようになって崩れ落ちた。

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