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三章 黒の竜王 十七話

アキト視点に戻ります。

 魔王コクヨウはオリヴィアがクローディアを巻き込んで魔王城の外へと飛び出して行くのを黙って見送った。彼の位置からならクローディアを助けることが出来たと思うのだが動く素振りは一切見せなかった。クローディアの強さを信じているからなのか、助ける気がないのか、いったいどちらだろうか?


「クローディアは天使の相手をするはずが、竜族を相手にすることになったか」

「……助けに行かなくていいのかよ? オリヴィアは強いぞ?」

「だろうな、おそらくはクローディアと互角の実力があると見た。だが、俺にとってはどうでもいいことだ。むしろ、あの女とは戦いたくなかったので好都合だな」


 どういうことだ?

 女とは戦いたくないなどというタイプではないだろうし、ミドリの両親にした事を考えても竜族同士での戦いを嫌うタイプではないはずだ。


「あの女からは碧羅の魔力を感じた。まさかエンシェントドラゴンではない竜族の女に生まれ変わるとは思わなかったが、あいつに一度殺された身としては、弱くなった青の竜を殺すなどという小物のような復讐はしたくない」

「ヘキラ? オリヴィアが竜王の生まれ変わりだって言うのか? あいつはラミアの変異種族だぞ?」

「竜王か……俺を殺したことであの小僧が竜王と呼ばれていたかと思うと、怒りでどうにかなりそうだ。だが、この怒りをぶつけるのはあの女ではない。殺してもう一度転生させたところで、碧羅の奴は二度と記憶を持った状態で転生などしないだろう。ならば俺の復讐は、あいつや眩耀とかいう人間が創った国々を支配してやることくらいか」


 魔王は俺の質問に答えるつもりはないらしい。代わりに竜王と勇者に対する恨み節を聞かされたが、話が壮大すぎてすぐには頭がついてこない。

 俺とは違って魔王の言葉の意味を理解したらしいミドリが彼を鼻で笑う。


「……小物ですか。何百年も前に死んだ竜王と勇者に復讐するためにギドメリアを支配してアルドミラとハウランゲルに攻め込もうとするあなたは、十分に小物に見えますよ」

「なんだと?」


 ミドリは魔王に睨まれるが、臆することなく続けた。


「自覚したらどうですか? あなたの戦いは何百年も前に終わっている。昔の戦いを今の時代に持ち込まないでもらいたいですね」


 ミドリらしい挑発だ。これは怒り狂った魔王が攻撃してくるだろうと身構えたのだが、魔王はゆっくりと床に着地して怒りを鎮めるように息を吐いた。


「確かに、碧羅と眩耀との戦いに俺は負けた。そして奴らも死んだ今、エメラルドの言う通り奴らの子孫たちを苦しめて復讐心を満たすのは小物と言われても仕方がないな」


 魔王は反省するように呟いた後で、床に手を付いて魔力を増大させる。


「なっ!? 何をするつもりだ?」

「復讐をする気はなくなったが、お前たちを見逃すつもりはない。昔の戦いを引きずらない代わりに、現代のギドメリアの王として王城に侵入した敵国の者たちを確実に排除しよう」


 魔王が床へと魔力を流し込むと、俺の角が周囲から膨大な魔力が集まってきていることを感知した。ミドリとアルベールもそれが分かったのか即座に空を飛んで床から離れる。


「もう逃げることは出来ないと思え。『渾沌魔法・黒曜』!」


 魔王と同じ名前を冠する魔法。俺はその魔法名を聞いた瞬間に、白露の使っていた陽炎という名前の妖術を思い出した。魔王はヤマシロ出身で酒呑童子とは古い友人だと聞いた。ならば、この魔法は妖術の可能性が高い。


「ミドリ、アルベール、一旦距離を取るぞ!」

「無駄だ」


 俺が魔王から離れようと部屋の入り口に向かって飛行すると、目の前に黒い壁の様なものが現れて道を塞いだ。


「――っ! な、なんだこれ!」


 俺は急ブレーキをかけて激突を避けると、アルラウネの蔓を使って壁に触れてみる。特に触れることで傷を負ったり闇に侵食されたりするようなことはないようだが、普通の魔法とは違う雰囲気を魔人の角が感じ取っている。


「アキト様、この部屋全体が魔法で覆われているようです。しかも、これは魔王の魔力ではありません」

「その通りだ、エメラルド。この空間はほぼ全てをギドメリアの土地の魔力で維持されている。俺自身が消費している魔力はごくわずかだ。そして、俺を殺すか、解除する意思を込めた俺の魔力を新たに注がない限り、お前たちはここから出ることが出来ない」


 魔王の口ぶりからして、強力な魔法で無理やりぶち破るということも出来ない仕様だろう。厄介極まりない。


「『神風魔法・天空斬』」


 ミドリが壁に向かって魔法を放つと、壁の石材は破壊されたがその奥にあった黒い壁には傷一つ付かない。複合魔法ですら傷付けることが出来ないという事は、俺たちにはどうしようもないな。


「ミドリ、多分これは妖術だ。力押しじゃ勝負にならない」


 きっと魔法による攻撃を外の空間へと逃がすといった効果が込められているに違いない。魔王を倒さずに脱出するのは不可能だ。


「ほう、妖術を知っているのか?」

「ああ。ヤマシロでは酒呑童子とやりあったし、俺の契約者には白露がいるからな」

「酒呑童子?」

「知っているだろ? カゲロウって名前の悪鬼だよ」

「……陽炎はまだ生きているのか?」

「生きていた、だな。俺たちが倒した」


 さすがに驚いたのか魔王は目を見開いたが、その後すぐに不気味な笑みを浮かべ始めた。


「そうか、陽炎を倒したか。ということは、お前の契約者の白露とはあの狐か」

「そうだよ。カゲロウにトドメを刺したのは白露だからな」

「ふっ、ふふふ……面白い。面白いぞ、小僧。お前の名前は?」

「アキト……元は人間だが、今は魔人のアキトだ」


 魔王の目の色が変わった。これは俺が完全にターゲットにされたようだ。


「俺は黒曜。お前たちには魔王と呼ばれているようだが、ギドメリアでは黒の竜王と呼ばれている」

「お前に竜の王を名乗って欲しくはないな。コクヨウと呼ばせてもらう」

「ふん、好きにしろ。アキト、陽炎を倒したお前の実力を見せてもらうぞ」


 俺一人の力で酒呑童子を倒したわけではないのだが、今の俺はあの時の俺よりも遥かに強い。ミドリとアルベールがいれば酒呑童子と同じ極級種族のコクヨウにだって負けないはずだ。

 コクヨウは再び翼を広げて空中に飛び上がると、俺に向かって両手をかざした。


「まずはこれをどう防ぐ? 『深淵魔法・極式奈落玉』!」

「で、でけえ!」


 いきなりフルスロットルとは恐れ入った。

 この部屋を埋め尽くしそうなほどに巨大な魔法がコクヨウによって生み出される。脱出不能の室内でこれほどの大きさの魔法を出されては、避けることなど出来はしない。


「ミドリ、アルベール。カウンター任せたぞ! 『炎天魔法・灼熱聖域』!」


 俺は最近覚えた炎天魔法で防御魔法を発動させると、コクヨウの攻撃を受け止める。


「そんな魔法、時間稼ぎにしかならんぞ!」


 コクヨウが俺の魔法を見て馬鹿にするように叫ぶが、時間さえ稼げれば十分だ。俺の魔法が攻撃を受け止めている一瞬の時間を使ってミドリが飛び出すと、コクヨウへと狙いを定める。


「『神風魔法・連式天空斬』!」


 合計六発の聖なる風の刃がコクヨウへと迫る。


「ちっ、『渾沌魔法・連式地獄斬』!」


 コクヨウが黒い斬撃を放つと、ミドリの魔法が相殺される。冥界斬に似ているが、魔力の質が全く違う。ミドリの複合魔法と互角の力で作られた斬撃だ。相殺されはしたが、コクヨウが集中力をミドリの魔法へと移したおかげで俺に対する攻撃魔法は消滅した。


「なるほど、陽炎には今の様な連携で勝ったのか? だが、俺には通用しない」


 コクヨウはほとんど振り返ることなく竜の尻尾を使って後方から回り込むようにして迫っていたアルベールの魔法を弾き飛ばす。


「陽炎の球体系魔法を広めたのは白露だな? 魔力量に反して威力が高い。今の攻撃が本命か」


 くそ。俺とミドリが大技で注意を引いている隙にまずは一撃入れられると思ったのだが、そう簡単にはいかないか。


「わ、わたしの宝石魔法を尻尾で弾くなんて……」

「エンシェントドラゴンを超えた俺の鱗にはその程度の魔法は通用しない」

「エ、エンシェントドラゴンを……超えた?」


 超えたとはどういう意味だろうか?

 俺は魔眼を使ってコクヨウを注意深く観察してみる。すると、彼の身体から魔力の糸が伸びており、部屋の奥にある扉から外へと続いていることが分かった。


「そういうことか、コクヨウ。お前は人間の契約者を見付けたんだな。そしてその人を洗脳して無理やり契約したってことか」

「ほう、その目は魔眼だな?」

「そうだ。白露の魔眼でお前が人間と魔力で繋がっていることは分かっている。ミドリ、アルベール、朗報だ。あそこの扉の先に囚われている人間がいるはずだ」


 俺が扉を指差すと、コクヨウは何が面白かったのか噴き出して笑い始めた。


「何を笑ってやがる!」

「お前の勘違いが面白くてなぁ。人間と契約したところで俺に起きる変化は魔力の上昇だけだ。鱗が硬くなることはない。それは多くの契約者を持つお前が一番よく分かっている事ではないのか?」

「えっ? そ、それは……けど……魔力を使って硬度を上げるとか……」

「祝福で得たエメラルドの鱗でお前は同じことが出来るのか?」


 答えは分かりきっている。そんなことは出来ない。ミドリが進化したことで彼女から貰った祝福の鱗はより強固になったが、魔力を注いで硬度を上げるような性質は竜の鱗にはない。そもそも竜の鱗とは魔力の塊だからだ。


「お前は魔力の流れが見えるのだろう? なら、俺の身体に大地から流れ込む魔力が見えないのか?」


 コクヨウに言われて空中を浮遊している彼の足元に視線を落とす。

 この部屋自体が闇属性の魔力で作られた妖術に覆われているので気付けなかったが、よく見ると確かに床から闇属性の魔力が彼の身体へと流れている。


「な、なんだ? お前、大地と契約でもしているのか?」

「面白い発想だな。元人間は自分たちと大地を同列に見ているのか」

「う、うるせえな。答える気があるなら早く答えろよ!」

「……クローディアの能力は本当に役に立った。自然の魔力をこうも都合よく操作できる種族は悪魔以外には天使しかいないだろう。ギドメリアの国土の八割以上の魔力がこの王都、いや俺の城に集まるようになっている。この空間を維持するためだけにそんな膨大な魔力は必要ないと気付かないか?」


 コクヨウが笑うと、彼の魔力が数段階膨れ上がる。

 魔力圧縮など既に解除していると思っていた。これほどまでに巨大な魔力は今まで感じたことが無い。彼はギドメリアの大地から吸い上げた魔力を得て、本当にエンシェントドラゴンの更に上の種族へと進化したようだ。


「う、嘘だろ……なんだよ、この魔力」

「……アキト様、コクヨウの魔力量が私やレフィーナの倍を越えています」

「アキトさん、エメラルドさん! わ、わたしたちの勝てるような相手じゃないですよ!」


 見積もりが甘かった。

 俺と契約者の誰か一人が一緒なら、コクヨウにも勝てると思っていた。そしてミドリとアルベールの二人を連れた状態で彼一人と戦えるという条件がそろい、俺は心のどこかで勝った気でいたのだ。

 俺は今になってやっと、自分がどれだけ危ない橋を渡っていたのかということに気が付いた。この場にいる全員、生きて帰れない可能性があることを、コクヨウの魔力を肌で感じて理解した。


「やっと理解したようだな? 改めて自己紹介してやろう。俺は極級種族の更に上、神級種族へと至った黒の竜王。エンペラードラゴンの黒曜だ」

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