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三章 黒の竜王 十六話

今回はオリヴィア視点です。

 この戦いの最優先事項だったクローディアは倒した。

 ということは、作戦は次の段階に移行したことになる。ハルカちゃんや囚われた人間たちを何としても見つけて助け出さなくてはならない。

 しかし私の魔力感知では人間の位置を察知することは出来ない。ならば、捜索の障害になる魔王を倒す手伝いをする方が良いと思う。

 私は翼を広げると自分がクローディアと共に飛び出して来た窓へと向かって飛び立つ。


「――っ! これって……」


 窓へと近付いたことで気付くことが出来たが、魔王城内部に何か障壁の様なものが張られている。

 黒い霧のようなもので内部が満たされているが、私の魔力感知では何も感じないので普通の闇属性魔法とは違うようだ。


「『聖水魔法・竜玉破』」


 闇属性とは相性の良い聖水魔法を使って黒い霧に攻撃してみるが、私の魔法は吸い込まれるように内部へと消えたかと思うと、城の反対側から飛び出した感覚があった。


「どういうこと? 内部では魔力操作も受け付けなかったのに……」

「……ふふっ……あなたの契約者もこれまでですね……」


 地面に転がっていたクローディアが最後の力を振り絞るように口を開くと、私を嘲笑した。


「それは私にすら再現出来なかったコクヨウ様の魔法……もう中での戦いの邪魔は誰にもできない」

「邪魔できない……そうか、妖術ね!」


 魔王コクヨウはシラツユちゃんやグレンちゃんと同じヤマシロ出身のエンシェントドラゴンだ。ということは妖術を使うことが出来てもおかしくない。

 おそらくクローディアの言っていることは本当で、内部での戦いに干渉することは不可能だろう。


「……連鎖で死ぬ姿を見られないのが……心残りです……」


 そう言うとクローディアの身体から氷が消失し、切断されている胴体と右腕から血が流れ出た。きっとクローディアの魔力が完全に尽きたのだろう。


「アキトちゃんは負けないわ」

「何とでも言うがいい……今のコクヨウ様の強さは私の比ではない。あのお方は極級種族の更に上に……」


 クローディアの言葉の途中で彼女の身体は崩れ始め、乾いた砂へと変化していく。心臓を使った再生の副作用だろうか?

 最後まで話を聞くことは出来なかったが、彼女の口ぶりからして魔王は極級種族から更に進化したと考えるべきだろう。

 私は自分の頬を両手で軽く叩くと、気持ちを切り替える。


「考えても無駄。今は自分の出来ることをしないとダメよ」


 空へと飛び立ち周囲を見渡すと、東の空からこちらへと飛行してくる桃色のハーピーが目に映った。


「ロゼちゃん!」


 私は彼女の辛そうに飛行する姿を見て、慌てて近付いた。


「大丈夫!? どこかやられたの?」

「オ、オリヴィア、すまないが背中を見てもらえないか?」

「背中?」


 言われるままに確認すると、私はあまりの酷さに息を呑んだ。

 彼女の背中は赤黒く変色し、焼け爛れていたからだ。


「こ、この傷は……」


 果たして私の魔法で治せるのか?

 とにかくこんな空中ではロゼちゃんに負担がかかる、どこかに着地して治療しなくてはならない。


「ん、あれって……」


 私が地上へと視線を向けると、魔王城の正面入り口でこちらへと手を振っている二人の少女が見えた。レフィーナちゃんとシラツユちゃんだ。


「ロゼちゃん、私に掴まって」


 私は半ば無理やりロゼちゃんを抱きかかえると、手を振っている二人の元へと一直線に飛行した。


「うわぁっ! オリヴィアお姉ちゃん、勢い凄すぎ!」

「話は後よ! 二人とも、力を貸して!」


 私が叫ぶように声をかけると、二人は私が抱えていたロゼちゃんの背中の傷を見て表情を一変させた。


「『大地魔法・豊穣の地』!」

「『炎天魔法・癒しの炎』!」


 さすが二人とも判断が速くて助かる。


「『聖水魔法・聖なる泉』!」


 私たち渾身の回復魔法を一身に受け、ロゼちゃんの背中の傷が浄化され再生されていく。


「よかった……治りそうね」

「当たり前だよ。このぼくがいるんだから」

「うむ。傷跡も残らず治るじゃろう」


 治療が終わると、ロゼちゃんの背中はとてもきめ細やかですべすべの肌を取り戻した。


「た、助かった、ありがとう」


 ロゼちゃんは起き上がると、背中の具合をどうにかして見られないかともどかしそうに首を動かした。


「……自分では確認できないが、痕も残っていないのか? アキトに見せられるか?」

「気にするところはそこなのね」

「私にとってはアキトが全てなんだ」

「妬けるわね。大丈夫、とっても綺麗に治ったから安心して」

「そうか……よかった」


 ロゼちゃんが復活したところで、私たち四人はあらためてお互いの顔を確認した。


「全員、無事で何よりじゃ」

「私はかなり危なかったがな」

「それを言うならぼくもだよ。戦いの中で成長出来なかったらやられてた」

「お姉さんも、グレンちゃんに魔法を教わってなかったら危なかったわね」

「なあに、生きてここにいるのならそれだけで大勝利じゃよ」


 そう言って笑うシラツユちゃんは、どうみても心臓の辺りを突き刺されたように服が破れているのだが、大丈夫なのだろうか?

 元気そうなところを見ると、すでに治療はすんでいるということだろうが、場所が場所だけに少し心配だ。


「さて、みなは気付いておるか?」

「……何を?」

「魔王城じゃ。黒曜の奴、闇の妖術で結界を張りおった。これで奴を倒すことが出来るのは主殿たちだけということじゃ」

「な、なんだ、それは……妖術とはそんなことが出来るのか?」

「うむ。さすがの我でも簡単には破れない結界じゃな」


 シラツユちゃんでも無理なのか。


「シラツユちゃん、それなら私たちは今のうちにハルカちゃんや囚われた人間たちを探さない?」

「それがのう……ここら一帯を魔眼で確認したのじゃが、おそらく人間たちも城の中じゃ。我らには干渉できん」

「そんな……」


 つまり、私たちはここでアキトちゃんの勝利を祈る以外に出来ることはないということなのだろうか?


「案ずるな。簡単にとはいかぬが手が無いわけでも無い」

「どうするの?」

「ここに来る途中、各地からここへ魔力が流れているという話をしたじゃろう?」

「ええ」


 だからこそ、ここでは植物が育つし、大地に魔力が溢れているのだ。


「レフィーナは気付いておるじゃろうが、先ほどその流れが変わったのじゃ」

「そうだね。さっきまではこの辺りにもどんどん魔力が流れ込んで来ていたんだけど、今はここの大地からも魔力が吸い上げられている」

「ここからも? じゃあ、その魔力はどこへ向かっているの?」


 レフィーナちゃんとシラツユちゃんが同時に魔王城を指差した。ロゼちゃんが何かに気付いたように声をあげる。


「そうか、分かったぞ。大地の魔力を魔王城に集中させてその妖術を発動しているのか」

「正解じゃ。破壊できず、魔力感知にもかからず、ここまで完璧な外部との遮断を行える妖術など発動しようものなら、本来は他の事が出来なくなる。じゃが、主殿と黒曜が戦っているというのなら、それだけの集中力を妖術に割くことは出来ぬはずじゃ。なればこそ、この妖術は外からの魔力を使って自動で発動し続けていると見るべきじゃろう」

「自動で発動する魔法……」


 少し前の私なら、そんなもの出来るのかと疑問に思ったのだろうが、今はそれが可能なことを知っている。

 クローディアを凍結させた妖術は一度発動してしまえば後は私の意志とは関係なく発動し付けるようになっていた。きっと魔王の妖術もそういう類のものなのだろう。


「魔王の意志とは関係なく、魔王城に流れ込む魔力を使って発動を続けているって事は、それを断ち切れば自然に魔法は解除されるってことよね」

「察しが良いのう。そういうことじゃ」


 シラツユちゃんは何か自信があるようだけど、いったいどうやって大地を流れる魔力を止めるつもりなのだろう?

 私と同じようにシラツユちゃんのやろうとしている事の概要を理解したロゼちゃんが質問する。


「理屈は分かった。だが、どうやってそれを実行するんだ?」

「なあに、我ら四人がそろえば大抵の事は出来るものよ。都合よく四属性が揃っておるしのう」


 四属性というと、光と闇以外の属性のことか。


「よいか。この大地の魔力を吸い上げる魔法、おそらくは黒曜ではなくクローディアという悪魔の仕業じゃ。悪魔は自然魔力を乱すのが得意と聞くからな。長い時間と手間をかければこういった大規模な魔力の流れを操作することも出来るのじゃろう」

「言い忘れていたけれど、クローディアなら私が倒したわよ?」

「うむ。我はヴァルター、レフィーナはアレクサンダーを倒した。ロゼはおそらくグレンの言っていたハーピーを倒したのじゃろう?」

「うん。殺してはいないが、しばらくは目覚めないと思う」


 ロゼちゃんは殺さずに意識を失わせたのか。私にはそんな器用な真似をする余裕も技量もなかった。


「そうか、それなら邪魔をされる心配もなさそうじゃな。話を戻すが、既に作られてしまった魔力の流れを変えるのは至難の業じゃ。川の流れと同じじゃからな、一度流れてしまえば後はクローディアが死んでも機能し続ける」


 川の例えが分かりやすかったのか、先ほどまで首を傾げていたレフィーナちゃんが「なるほど~」と言って頷いた。


「少し具体的な話になるが、今の大地の状態は不自然になるように改変されている。つまりは前線に出て来たギドメリア軍や四天王が人間と契約していた時と同じで、歪なのじゃ」

「じゃあ、ぼくの魔法で大地を浄化すれば大丈夫ってこと?」

「そう簡単な話ではない。もはやこの町全体が歪められている状態じゃ。それは何も大地だけの話ではなく、空気や水も悪魔の邪悪な魔力によって汚染されておる。そしてそれが引力のように周囲の大地から魔力を吸い寄せているのじゃ」

「つまり、大地だけじゃなくて、空気や水も浄化しないといけないんだね?」

「そういうことじゃ。そのためにはレフィーナだけでなく、オリヴィアとロゼの力も必要なのじゃ」


 空気はロゼ、水は私が浄化しないといけないということね。

 私は綺麗に整備された水路を流れる水を一瞥する。一見すると綺麗な水なのだが、あれもクローディアの魔力によって汚染されているということか。


「この町全土を浄化せねばならぬから、かなりの魔力を使うと思うが、みな魔力量は足りるか?」

「……私は少し心もとないな。そもそも闇を浄化する魔法を使ったこともないし」

「ぼくは大丈夫」

「お姉さんは……ちょっと、いえ、かなり魔力を使っちゃったわね」

「では、我とレフィーナから魔力を分けるとするか。レフィーナ頼めるか?」

「うん」


 レフィーナちゃんの蔓が伸びてきて、私とロゼちゃん、そしてシラツユちゃんの身体に突き刺さる。


「聖属性の魔力だけ流し込むようにするね」


 すると、蔓から魔力が身体に流れ込んでくるのが感じられた。なんだか点滴みたいだ。


「このくらいでいいかな?」

「どれ…………うむ、まあいいじゃろう」


 シラツユちゃんが魔眼を使って私たちの魔力を確認して頷く。


「では、始めるとするか」


 レフィーナちゃんの蔓が身体から引き抜かれると、シラツユちゃんが私たちの顔を順番に見た。


「よいか、それぞれイメージをしっかりと持つ事じゃ。我は淀んだ大気を炎で祓う。レフィーナは大地に聖なる力を与え、オリヴィアは穢れた水を浄化して大地を潤し、ロゼは清らかな風を生んで聖なる息吹をこの町に運ぶのじゃ」


 私たちはシラツユちゃんに言われたことを頭にイメージして意識を集中させていく。

 私の役目はクローディアの魔力で穢れた水を浄化し、レフィーナちゃんが力を与えた大地を潤すこと。

 それはきっと水路を流れる水に限られた話じゃない。地中に含まれている水分全てを浄化するイメージが必要だ。


「ゆくぞ、『炎天魔法・破邪の炎』!」


 既に随分と空が暗くなってきていたのだが、シラツユちゃんの巨大な炎が天に昇ることで、小さな太陽のように町全体を照らし出す。


「『聖花魔法・豊穣の聖地』!」


 続くレフィーナちゃんの魔法で辺り一帯に植物が伸び始めた。


「オリヴィアお姉ちゃん、水分が足りない!」

「分かっているわ! 『聖水魔法・聖なる泉』!」


 私は魔王城の魔力を吸われて枯れかけていた大地に聖なる水を流し込む。

 そしてクローディアによって穢された水路の水も浄化して、町全体のあらゆる水を癒していく。


「今じゃ、ロゼ。我らの聖なる魔力をもっと広く運ぶのじゃ!」

「『神風魔法・精霊の息吹』!」


 私たちが生み出した聖なる魔力がロゼちゃんの魔法で外へと運ばれて行く。


「よし、全員そのまま魔力の放出を続けよ」


 使ったそばから外へと運ばれて行ってしまうので、私は限界まで魔法を発動し続ける。

 そして、一番魔力量の少ない私に限界が訪れたところで、魔王城から大きな破壊音がして、天へと魔力が放出された。


「あ、あれって……?」

「アルベールの閃熱破か?」


 私たちは顔を見合わせる。

 内部からの魔法が外に出たということは、魔王城内部を包んでいた魔王の妖術が破られた証拠に他ならない。


「ん? これは……」


 シラツユちゃんが何かに気付いたように呟くのとほとんど同時のタイミングで、夜空から一筋の光が魔王城へと降り注いだ。


「な、何かしら、あれ」

「分からぬ。じゃが、あの光の上からとてつもない魔力を感じるのじゃ」


 アルベールちゃんの魔法というわけでもなさそうだが、私には既に確認に行く力も残っていない。

 私は強い魔力を警戒しながらも、アキトちゃんの無事を祈った。

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