表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/227

三章 黒の竜王 十二話

今回はレフィーナ視点です。

 ぼくはミドリお姉ちゃんが魔王城へ突撃する直前で飛び降りた事で、魔王城の入口らしきところに落下した。

 すぐ目の前には見覚えのある青い鱗のドラゴンが立っており、落下してきたぼくを一瞥した後で、巨大な破壊音と瓦礫をまき散らして城内部へと突入したミドリお姉ちゃんの方へと視線を移した。


「くそっ、なんだあの龍は。ドラゴンの突然変異種族か?」


 ドラゴンが翼を広げて飛び立とうとしたので、ぼくは全身から蔓を伸ばして彼を制止する。


「あ?」


 ドラゴンは爪でぼくの蔓を軽々と引き裂くと同時に、苛立った目でぼくを睨み付けた。


「行かせないよ。君を倒すのがぼくの役目だからね」

「……お前、アルラウネか。報告は受けている。アルドミラやハウランゲルの連中がどうやったのかは知らないが、アルラウネは俺たちに立てつくってことでいいんだな?」

「種族で括って決めつけるのは、君たちの悪い癖だ。まるで昔のぼくを見ているようだよ。ぼくがここにいる理由に、ぼくがアルラウネであることは一切関係ない。ぼく自身の意志でアキトくんの力になるためにここにいるんだ」

「アキト…………エメラルドの契約者の名前か。ということは、お前もそのアキトの契約者ということか?」

「そうだよ。ぼくはエンプレスアルラウネのレフィーナ。四天王アレクサンダー、君にアキトくんの邪魔はさせないよ」

「あいつの契約者なら、ここでお前を殺せばあいつの力を削ぐことが出来る」


 これでいい。

 こいつをぼくが相手にすることでアキトくんたちが魔王と戦いやすくなる。それに、ヴィクトールが最優先と言っていたクローディアという悪魔も城の内部かロゼの行った方にいるはずだ。

 全員そろってクローディアや魔王を集中攻撃出来れば決着はすぐだろうけど、そんなことをすれば必ず他の四天王とも同時に戦わないといけなくなる。強者と乱戦になるくらいなら、四天王は一対一で倒した方がずっといい。

 多人数相手が得意なシラツユが最初に降りたのはそのためだ。

 そしてそれはぼくも同じ。四天王一人とそれ以下の軍人たちを大量に相手することに最も適しているのはぼくだ。


「しかしアルラウネ如きが俺の相手になるとは思えんな。総員、攻撃開始!」


 ぼくはもちろん気付いていたが、周囲は敵の軍人だらけだ。アレクサンダーの合図で現れた軍人たちがぼくに向かって一斉に魔法を放つ。


「『大地魔法・絶対防壁』」


 ぼくは全方向を土の壁で覆って魔法を防ぐと、地面に伸ばしていた根を操作して軍人たちの足元から襲わせる。


「何っ?」


 ぼくの魔力感知で見つけられない種族はいない。

 周囲にいた全ての種族を根で絡め捕ると、全身に根を突き刺して魔力と養分を奪う。本気のぼくにかかれば上級種族どころか最上級種族も一瞬で干からびたミイラだ。


「くっ、『暗黒魔法・冥界破』!」

「『大地魔法・豊穣の地』」


 ぼくの根が支配した範囲全てを魔法で包み、全身の再生力を極限まで高める。

 部下を一瞬のうちにミイラにされたアレクサンダーは焦って球体状の暗黒魔法を放ってきたが、今のぼくには無意味だ。

 暗黒魔法の直撃でぼくの上半身は千切れ飛ぶが、闇に侵食された部分を枯らして捨てた後で、生きている部分から急速に再生して元の身体を形成した。

 せっかくもらった軍服がダメになってしまったので、久しぶりに自分の草の葉で作ったドレスを身に纏う。


「ば、化け物か?」

「失礼な。言ったでしょ? ぼくはエンプレスアルラウネのレフィーナ。君、魔力感知は持ってるんだよね? 今から本気を出すから、それで分かるはずだよ」


 ぼくは魔力圧縮を解除して体内へと内包していた魔力を表へと出す。これによってぼくの本体が地中にあることがバレてしまうだろうが、圧縮した状態だと魔力量に限界があるので仕方がない。


「クローディアと同じ……いや、それ以上の魔力だ……」

「君の部下たちの魔力ももらったからね。おかげで絶好調だよ?」

「ふ、ふざけるな! 『暗黒魔法・冥界十字斬』!」


 アレクサンダーは怒りに任せて両翼を前方で交差させ、十字の斬撃を放つ。

 力任せの攻撃に見えて、地中の本体まで抉って攻撃できる向きに放たれているので意外に冷静だ。これは防がないとさすがに不味い。


「『宝石魔法・重式金剛壁』!」


 ミドリお姉ちゃんから貰った聖属性の魔力。

 最初は空間魔法を使おうと練習していたのだが、ぼくはどうしても上手く出来なかった。けれど、聖属性にはもう一つ魔法の種類があるのは知っていたので、そちらを試してみたらぼくとはとても相性が良かった。

 ミドリお姉ちゃんやシラツユに聞いてみたら、宝石は地中に存在している鉱物のことだからだろうと言っていた。聖なる力を持った石ならば、ぼくにピッタリの魔法だ。

 何重にも重ねられた宝石の盾がアレクサンダーの魔法とぶつかり、最後の一枚で防ぎ切った。

 やはりドラゴンはぼくから見れば大した魔力量をしていない。シラツユの言うところの歪な契約で魔力量は上昇しているようだが、それでもぼくの足元にも及ばないのだ。


「宝石魔法、それも重式だと?」

「どう? ぼくが考えた新しい魔法だよ。ぼくは動かずに戦うタイプだからね。防御魔法を強くするのは当たり前だよ」


 ぼくは攻撃を避けたりはしない。防ぐか、耐えるかだ。


「それじゃ、そろそろ終わりにするよ」


 大地から大量の根を飛び出させて、アレクサンダーに襲い掛かる。しかしアレクサンダーは飛び上がってそれを回避した。


「あっ、ずるい!」


 ぼくの蔓が届かないところまで飛行したアレクサンダーは、地上から見上げているぼくを見て、にやりと笑った。


「ふっ、そうか。考えてみれば、初めからこうすればよかったのだな。『暗黒魔法・連式冥界斬』!」


 複数の斬撃が上空から飛来する。

 大量に伸びていたぼくの蔓や根を斬り裂いて進む斬撃は、ぼくの身体とその地中にある本体を狙っているのは明白だ。


「『宝石魔法・重式金剛壁』!」


 再び宝石の盾を重ねて召喚して攻撃を防ぐ。お返しに空中のアレクサンダーへ向かって攻撃魔法を放った。


「『宝石魔法・赤色の閃熱破』!」


 超高熱の熱戦がアレクサンダーへと迫るが、彼は空中を素早く飛行して簡単に回避してしまう。


「閃熱破は見慣れている」

「くそっ」


 何発か撃ってみるが、その全てがあたらない。

 お互いに攻撃が通じない状態の中で、新たな手段に出たのはアレクサンダーの方だった。


「アルラウネ如きに使う事になるとは思わなかったが、俺の練習台になってもらう」


 そう言って彼が自分の正面に集め始めた魔力は、これまでよりもずっと強大だった。あれは明らかに普通の魔法じゃない。


「『深海魔法・海冥斬』!」


 放たれたのは、紫色の水の刃だった。おそらくは水属性と闇属性の複合魔法だと思う。


「『宝石魔法・重式金剛壁』!」


 ぼくは慌てて防御魔法を重ねるが、これまでの暗黒魔法とはわけが違う。複合魔法は宝石魔法で防ぐことは出来ない。たった一つの刃にぼくの宝石魔法は次々と破壊され、ついには目の前まで攻撃が迫ってきた。

 ぼくは大量の葉を重ねて防御姿勢を取ったが、そんなものは複合魔法の前では何の意味もない。葉も、その奥にあった肉体も、そして地中にある本体までもが一つの刃によって傷付けられた。


「ぐぅ……ま、まずい!」


 地中の本体に直撃こそしなかったが、かすってしまった。ぼくの身体を維持する機能が闇に侵食されて再生がおぼつかない。


「よし。かなりの完成度だ」


 アレクサンダーは自分の複合魔法が思い通りに決まったのを見て満足そうに笑っている。

 ぼくの苦手な空中から、ぼくの防げない威力の魔法を放つことが出来ると分かったことで、彼は完全に余裕を取り戻したようだ。

 けれど、ぼくだって暗黒魔法に対しての対抗策を考えていないわけじゃない。

 アレクサンダーがぶっつけ本番で魔法を成功させたなら、ぼくだって同じことをするだけだ。宝石魔法を練習したおかげで、ぼくは十分に聖属性の魔力をコントロールできるようになっている。ミルド村で練習した時は一度も成功しなかったが、今のぼくならきっと出来る。


「せ、『聖花魔法…………破邪の大地』!」


 豊穣の地の応用だ。ぼくの根が張ってある範囲の大地を土属性と聖属性の複合魔法で活性化させる。

 すると大地が輝きだし、浸食されていたぼくの本体の傷が再生した。それに連動して身体や周りの植物たちも再生と増殖を繰り返す。


「何っ!? 闇の浸食を打ち消したのか?」

「よくもやってくれたね……でも、ここからはぼくが反撃する番だよ!」


 完全復活した肉体でアレクサンダーを睨み付けると、周囲に新たな魔法を発動するための魔力を集束させる。


「反撃だと? そんなものさせるわけがないだろうが! 『深海魔法・連式海冥斬』!」


 複数の紫水の刃がこちらへ飛来するが、もはやそんな魔法は怖くない。

 今のぼくはさっきまでのぼくよりも強いのだ。


「『聖花魔法・連式大閃熱花』!」


 周囲に巨大な赤い薔薇が生み出されると、その花の花弁から強力な熱線が放射され、アレクサンダーの魔法と激突する。

 威力は互角。両者の魔法が消滅したが、ぼくの魔法は一発では終わらない。ぼくが魔法で作り出したのは熱線ではなく、熱線を放つ花。つまり連発が可能なのだ。

 続く二撃目の連続放射がアレクサンダーを襲う。彼は空中を飛び回って回避を試みたが、熱線の一つが彼の翼をかすめた。


「ぐぁ!」


 バランスを崩し、地面へと落下する。


「し、しまっ!?」

「逃がさないよ!」


 ぼくの大量の蔓と根がアレクサンダーの全身に絡みつく。


「ちぃっ! こんな植物――」


 アレクサンダーが爪を使って蔓を引き裂こうとした瞬間、彼の身体からガクンと魔力が減少した。

 最初は一体何が起きたのか分からなかったが、ぼくはすぐに答えに辿り着いた。

 先ほどからぼくは貯め込んだ魔力を使って破邪の大地を発動し続けている。そして、アレクサンダーが大地へと落下したことで、彼も破邪の大地の影響を受けたのだ。

 つまり、シラツユが歪な契約と言っていた彼の人間との契約が正しい形へと浄化され、契約が破棄されたということだ。


「ば、馬鹿な!? お、俺の魔力が!」


 勝負はあった。

 ぼくは次々に蔓を伸ばすことで完全にアレクサンダーの自由を奪う。

 一本一本はアレクサンダーの腕力よりも弱く、爪で簡単に引き裂けてしまう蔓だとしても、これだけの数が集まれば身動き一つできないほどに拘束することが出来るのだ。


「く、くそっ! 放せ!」

「放さないよ。君はもう終わりだ」


 アレクサンダーの身体を高く持ち上げると、ぼくは有り余った魔力を使って魔法を放つ。


「『聖花魔法・極式閃熱花』!」


 今までで一番大きな花を作り出すと、その花弁から強力な熱線が放射される。

 熱線はアレクサンダーを直撃して全身を包み込み、強力なドラゴンの鱗さえ溶かして蒸発させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ