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三章 黒の竜王 十一話

今回はシラツユ視点です

 ミドリの身体から飛び降りた我は、身体に炎を纏って大地へと着地する。普通の者がやれば身体がバラバラになるような高さからの落下じゃが、我の身体なら全く問題はない。

 さて、第一にやらねばならんのは、正面から出迎えてくれる者たちを我一人で引き付けることじゃな。


「『火炎魔法・連式螺旋紅焔』!」


 横並びにいくつも生み出した螺旋回転する炎の槍が敵陣へと一斉に突き進む。

 多少強力な防御魔法を発動したようじゃが、そんなもので我の最上位魔法が防げるわけがない。ついでにこいつもお見舞いしてやろう。


「『火炎魔法・連式大焔玉』!」


 何とか生き残った有象無象に対して、巨大な火球をお見舞いしてやる。着弾と同時に爆発するおまけ付きじゃ。人間を歪な契約で縛って力を得ていたようじゃが、所詮は竜人であり、我の魔法を防ぎきることが出来ずに消し炭となった。

 その中で唯一我の魔法から生き残った男が、猛スピードでこちらへ接近してくる。さすがにあの程度の魔法で勝負が付くほど甘くは無いようじゃ。


「『火炎魔法・極式焔玉』!」


 我の膨大な魔力を注ぎ込んだ無制限魔法を放つ。


「『岩石魔法・絶対城壁』!」


 男は我の魔法から身を隠すように岩石魔法の壁を召喚する。もはやその程度の魔法で防げるレベルの魔法ではないのじゃが、我の魔法が壁へと着弾すると同時に、側面から壁の外へと飛び出して、驚くべき速力でこちらへと距離を詰めて来た。


「『暗黒魔法・冥界剣』!」

「『火炎魔法・炎王剣』!」


 闇の剣と炎の剣がぶつかり合う。


「しばらくぶりじゃな、ヴァルター。再び人間と契約した気分はどうじゃ?」

「黙れ、シラツユ! 貴様のせいで俺はクローディアに頭を下げなければならなかった! どんな手を使おうと、今ここで殺してやる!」

「ほう? やってみるがよい、小僧。魔法変換、『炎天魔法・炎帝剣』!」


 我が火炎魔法に聖属性を注いで炎天魔法へと変換すると、ヴァルターは瞬時に危険性を理解して後方へと飛び退いた。


「今回はちゃんと退いたか。先ほどの目隠し用の魔法といい、自分の弱点をしっかりと理解した立ち回りじゃな」

「化け物が上から目線で語るんじゃねえ。『岩吹雪』!」

「『灼熱障壁』」


 ヴァルターは勢い任せに見えて意外と繊細な魔力コントロールで簡略化した上位魔法を放ってきた。無数の岩の弾丸が我へと迫って来たので、即座に炎の防御魔法で身を守る。


「おせぇ!」

「っ!?」


 次の瞬間、我の側面へと移動したヴァルターの蹴りが迫る。咄嗟に左腕で防ぐが、強烈な衝撃と共に吹き飛ばされて地面に転がる。


「『暗黒魔法・冥界斬』!」


 我が立ち上がるのを待たずにヴァルターは暗黒の斬撃を放つ。我は素早く起き上がって身を反らすが、黒い刃が我の右腕を切断して通り過ぎた。


「ちっ、まだ避けるか! 『冥界斬』!」


 辛うじて生き延びた我を仕留めるため、ヴァルターは簡略化した冥界斬で追撃をかけてきた。


「『灼熱聖域』!」


 我は炎天魔法の壁を展開してその場をしのぐ。

 何という攻撃スピードじゃ。一瞬の間に右腕を失った上に、左腕の骨にひびを入れられた。接近戦では確実に我の方が不利じゃな。


「仕方ない、あれを使うか」


 つい最近思い付いた魔法じゃが、今の状況には有効なはずじゃ。


「『炎天魔法・聖火纏い』」


 我が纏いを使った事で正面の炎の壁が解除される。するとその瞬間にヴァルターが暗黒魔法の剣を作り出して斬りかかって来た。

 我はそれを軽々と回避すると、斬り落とされた右腕の元へと走って拾い上げる。

 ヴァルターは我の速度を見て目を見開いた。


「な、なんだ、その魔法は……風走りか?」


 そんなわけがあるまい。冷静な分析すら出来ぬほどショックだったのか?


「まあ、足の速さだけならば風走りと同等かもしれんが、これを見ても同じことが言えるのか?」


 我が右腕を切断面で合わせる。すると綺麗に神経まで繋がって右腕が動かせるようになった。


「ば、馬鹿な……暗黒魔法で斬った部位が繋がるだと?」

「この魔法は我の身体機能を向上させる魔法なのじゃが、やはり聖属性だけあって闇の侵食も浄化出来るようじゃな」


 こやつが酒呑童子ほど速くなくて助かった。力は酒呑童子並でも、素早さはせいぜい紅蓮程度。この魔法で対応可能じゃ。


「さて、二回戦と行こうか。『炎天魔法・朧狐』」


 我が二人分の分身を出すと、ヴァルターは目に見えて警戒した。前回はこの魔法に意表をつかれたのだから警戒して当然じゃ。


「……俺に同じ手が通用すると思うなよ。『暗黒魔法・冥界斬』!」


 ヴァルターは我と分身の二人をしっかりと確認した後で、分身の一体に暗黒魔法の斬撃を飛ばした。そしてその魔法が分身に届くよりも前にもう一体の分身へと走って飛び蹴りをいれた。

 見事な同時攻撃で我の分身は一瞬のうちに炎へと戻って消え去ったが、我が魔力を貯める時間を稼ぐことには成功した。


「『炎天魔法・連式炎帝斬』!」


 聖なる炎の斬撃がヴァルター目掛けて飛来する。


「くっ、『絶対城壁』!」


 咄嗟に簡略化した防御魔法を作ったようだが、最上位複合魔法の前にはその程度の防御魔法は意味をなさない。攻撃を減速させることすら叶わずに岩の城壁は両断され、後ろに隠れたヴァルターを狙い打つ。全部で六つの斬撃が立て続けにヴァルターに襲い掛かったが、彼は驚異的な反射神経で太刀筋を見切って回避した。


「避けたじゃと!?」


 さすがに想定外じゃ。あの密度で放たれた六連続攻撃全てを紙一重で避けるなど、想像もしなかった。


「『炎天魔法・灼熱聖域』!」

「『岩石魔法・岩雪崩』!」

「――っ!?」


 しまった。

 我の防御魔法は地上から壁のように燃え上がる炎なのじゃが、ヴァルターはそれを見越して上空から降り注ぐタイプの魔法を放ってきた。

 我は即座に魔法の範囲から外に出たのじゃが、それによって自分の防御魔法からも出る形になってしまった。


「そこだ! 『冥界剣』!」

「『炎帝剣』!」


 闇属性の剣と複合魔法の剣ならば、ぶつかり合った際に勝つのは我の複合魔法の剣のほうじゃ。それなので遠慮なく鍔迫り合いに持ち込もうとしたのじゃが、ヴァルターは魔法の力の差を感じてぶつかり合いを避けて来た。

 あえて初撃を間合いの外で空振りさせると、同じタイミングで振りぬかれた我の剣も空を斬る。そうしてぶつかり合いを避けた後で素早く二撃目を放ってきた。


「『聖火纏い』!」


 かなり精神力に負担がかかるが、我は剣を出した状態で聖火纏いを複合発動させることで二撃目を回避する。これならば我の方が有利のはずじゃ。

 魔力量も魔法の強さも我が上であり、身体能力もいまやほぼ互角。負ける可能性はほとんどないと思ったのじゃが、一呼吸後には我は鎖骨の辺りから斜めに斬り上げられていた。

 大量の血が噴き出した後で、激しい痛みが襲い掛かってくる。

 聖火纏いのおかげですぐに傷は塞がるのじゃが痛みは本物じゃ。そう何度も体験していたら精神がもちそうもない。


「『炎天魔法・陽炎』!」


 我は妖術を使って身を隠し、一旦体制を整えることにした。

 この魔法の発動範囲内でヴァルターは我を認識することが出来ない。聖火纏いや炎帝剣を使ってしまえば存在を認識されてしまうので注意が必要じゃが、それさえ気を付けていればかなりの時間が稼げる。


「くそっ! また、あの魔法か!」


 先ほどの接近戦は完全に失敗じゃった。

 例え魔力や火力で勝っていても、肝心の剣技のレベルが違い過ぎたのじゃ。ヴァルターは格闘の方が得意そうな雰囲気があるが、剣技も中々の腕前じゃった。にわか仕込みの我が敵う相手では決してない。

 ヴァルターは我を認識できなくなったことで動揺を見せたが、すぐに冷静さを取り戻して辺りを見回し、最後には目を閉じて呼吸を整え始めた。

 さすが四天王と呼ばれているだけの事はある。あれはおそらくカウンター狙い。奴は我が魔法を使った瞬間に認識出るようになると分かっているので、どんなに近距離で魔法が発動されようとその攻撃を回避して攻撃するつもりなのじゃ。

 そのための精神集中。あの状態のヴァルターに対しては例え背後からだったとしても魔法で斬りかかるのは危険じゃろう。とはいえ、生身で殴り掛かるのもあまりよくない。触れれば認識が戻るので、大したダメージもなく妖術が解けてしまう。

 我は少しだけ悩んだ後で、ヴァルターから一定の距離を取って両手をかざした。


「『炎天魔法・連式大狐火玉』!」


 我が魔法を発動した瞬間にヴァルターは目を見開き、こちらへ向かって走り出した。


「『岩石魔法・岩吹雪』!」


 そこで使用されたのは暗黒魔法ではなく、岩石魔法だった。

 最上位の岩石魔法なので弱くは無いが、どう考えても我の魔法に対抗できるレベルではない。そのまま魔法ごと爆炎で飲み込んでしまおうと思った矢先、我は信じられない光景を見た。

 ヴァルターがばら撒いた無数の岩の弾丸を足場にして空中を飛び回って来たのだ。

 これにより、地上に限定されていたヴァルターの移動範囲が三次元的に広がり、我の魔法はかすりもしなかった。


「ふっ……これは勝てぬな」


 我は岩石魔法の間を飛び回って空中から接近してくるヴァルターを見て呟いた。


「『暗黒魔法・冥界剣』!」


 そしてついに、暗黒の剣が我の心臓を貫いた。その勢いで地面に仰向けに倒れ、口から血を噴き出す。

 我を冷徹な目で見下ろすヴァルターの顔が見えた。なるほど、死が近付くというのはこのような感覚なのじゃな。


「……これで終わりだと? そんなはずがない」


 やれやれ。ヴァルターはずいぶんと我の事を評価してくれておるようじゃ。このままこの場で眠らせてはくれなさそうじゃな。

 ヴァルターは倒れている我の首目掛けて剣を振り下ろした。


『『火炎魔法・焔玉』!』


 我の火炎魔法がヴァルターの体側に直撃して突き飛ばすと、そのまま爆発して身を焼いた。


「がはっ!?」


 今の魔法を食らってよろめく程度とは、頑丈な奴じゃ。


「な、なんだ!? どうなってる? またあの魔法か? いや、だがこちらを攻撃したというのに姿が見えない……」


 見えるわけがなかろう。今の我を見ることが出来るのは酒呑童子と魔眼を持つ者だけなのじゃから。

 我は先ほど、肉体を捨てて妖怪として霊体化する道を選んだ。心臓を潰された身体に戻れるかは賭けじゃが、ヴァルターを倒すことの方が優先じゃ。

 心臓から剣が引き抜かれたタイミングで傷口付近にのみ聖火纏いを発動して出血を最小限に抑えたが、完治する前に身体の外に出てしまったので結果は分からない。


『さて、悪いがここからは一方的じゃぞ? 『火炎魔法・連式大焔玉』!』

「――なっ!? くそっ、どこから攻撃している!?」


 ヴァルターは必死に回避するが、四方八方から襲い掛かってくる火球を避け切れずに、ついに右足に直撃させることに成功した。


「ぐっ!? あああああぁぁあああ!」


 いくら元々の治癒力が高いフェンリルとはいえ、消し炭になるほどに焼かれた部位は戻らない。ヴァルターは地面を転がった後で仰向けになって天を見上げた。

 我は彼の頭上に青い炎の魔力の身体を晒す。


「……なんだその身体は?」

「悪いのう。こちらは正真正銘の化け物なのじゃよ」

「くそが、片足じゃ勝負にもならねえ、早く殺せ」

「勝負か……では我の最大魔法で葬ってやろう」


 我が更に上空へと上がって両手をヴァルターへとかざすと、彼は我の意図を察したように両手をこちらへと向けた。


「『死岩魔法・極式鬼岩吹雪』!」


 深い紫色をした岩が吹雪のようにこちらへ押し寄せる。地と闇の複合魔法。恐らくはヴァルターのオリジナルじゃろう。我の目から見れば未完成ではあるのじゃが、あれは無制限魔法じゃ。試行錯誤の末に辿り着いた、彼のとっておきの魔法だと言える。

 実に見事じゃ。

 以前見た時は引き分けたが、戦いに勝った我が勝負に負けるわけにもいかぬ。気を引き締めねばなるまい。


「『炎天魔法・極式狐火玉』!」


 我がつぎ込んだ魔力分だけ無限に巨大化する炎がヴァルターの魔法を飲み込み、そのまま地面へと落下して彼の身体を焼き滅ぼす。


「大地へと帰るがよい。またいつの日か、今度は敵ではない立場で会いたいものじゃ」

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