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入れ替わりの先にある異世界 ~異種族と結婚するため、俺は冒険の旅に出る~  作者: 相馬アサ
第一部 似ても似つかぬ並行世界
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一章 アルラウネの森 十二話

 王都に戻った後、レオさん以外の職人たちはアルラウネに借りた土地を管理する準備に取り掛かるということで別行動になった。

 俺はレフィーナとミドリ、レオさんの三人を引き連れて、王都の中央にある役所を訪れている。

 目的はもちろん、レフィーナが赤の魔石を取得して友好種族となるためだ。それによってアルラウネがアルドミラの正式な国民として認められるからな。


「……意外と待たせるな」

「アルラウネが来る可能性があるとライムント様は話を通してくださらなかったのでしょうか?」


 ミドリが不満そうに呟いた言葉にレオさんが反応する。


「ライムント様?」

「西門でレフィーナに青の魔石をくださったアルドミラ軍の中尉です。レフィーナにはぜひ赤の魔石を取得して欲しいと仰っていたので、てっきり話を通してくださっているものかと思っていました」


 それが実際は、レフィーナが建物内に入ってきた段階でアルラウネだと大騒ぎ。

 受け付けで赤の魔石が欲しいと伝えると、番号の書かれた紙を渡されて近くのソファで待つように言われたのだが、もう三十分以上待たされている状態だ。


「恐らくその中尉さんはちゃんと話を通しているだろうな」

「それでこれだけ待たせるのですか? しかも、受付の女性もどうしたらいいのか分からないといった感じで慌てていましたよ」

「こういうところで働いている奴は決断が遅いからな。アルラウネが来るかもしれないって話を聞いてどうしようか会議をしているうちに、本物が来ちまったってところだろ。アルラウネが来るって話自体知っているのは上層部だけで末端には話が下りてきてないから、あれだけ慌てていたんだろうぜ」

「呆れるほど無能ですね」


 ミドリは苛立ちを隠さずに言い放つ。

 俺はこの程度の待ち時間どうということもないのだが、ミドリには耐えられないようだ。彼女の性格的に事前に話をしていたのに待たされるというのが許せないのかもしれない。

 レフィーナはと言うと、魔力回復のために俺の膝で眠っている。可愛いもんだ。葉緑体の詰まっていそうな黄緑色の頬をぷにぷにとつついてみる。


「ん……あきとくん……」


 レフィーナが寝言で俺の名前を呼んだ。

 何だ、この可愛い生き物。この子がいれば俺は何時間でも待てる気がする。


『28番でお待ちのお客様。4番のカウンターへお越しください』


 俺たちが渡された番号を告げるアナウンスが流れたので、レフィーナを起こして立ち上がる。


「……ん、意外と早かったね」

「そりゃ、お前が寝ていたからだ」


 寝ぼけ気味のレフィーナの手を引いて4番のカウンターへ向かうと、受付の女性に連れられて更に別の個室へと通された。

 アルラウネへの対応だし、かなり偉い人が担当するだろうとは思っていたが、中で待っていたのは役所の人ではなく三人の軍人だった。

 白髪交じりの年配の男性と、若い男女の二人。全員階級章の線や星が多いのでかなり立場が上の人かもしれない。あいにく軍隊に詳しくない俺や前のアキトの知識ではよく分からないのだが、一緒に中に入ったレオさんが彼らを見て息を呑んだので、俺の予想は当たっていそうだ。


「軍の方ですか?」


 ミドリが尋ねると、年配の軍人が柔らかく笑う。鍛えてはいそうだが、小柄で細身なためにあまり軍人っぽくない。


「私はヴィクトール。国王陛下からアルドミラ軍の元帥を任されているものです」


 彼の言葉を聞いて、俺とミドリが凍り付く。

 元帥だって?

 軍隊に詳しくない俺だって、元帥がどのくらいの階級なのかは知っている。

 つまりこの人は――この軍人らしからぬ柔和な笑顔の男性は、アルドミラ軍で一番の権力者だということだ。


「ぼくはアルラウネのレフィーナだよ。よろしく、ヴィクトール」


 レフィーナは俺たちが固まったのを不思議そうに見上げながら、いつも通りの挨拶をヴィクトール元帥に返した。


「ぶ、無礼な――」


 レフィーナの態度に女性の軍人が怒りを露わにしたが、ヴィクトール元帥が手で制す。


「よろしくお願いします、レフィーナさん。それと、ミルド村のアキトさんとエメラルドさんですね?」

「は、はい」

「その通りです」


 俺たちの事も知られているのか。受付ではまだ伝えていなかったと思うが、ライムントさんから伝わったか、そもそも俺とミドリが予想以上に有名かのどちらかだろう。


「それとあなたは……保護者の方ですか?」

「い、いえ、私は王都近辺での林業の取締役をしている、レオという者です」

「林業? 何か事情がありそうですね。それも踏まえて、色々と教えて頂けますか?」


 ヴィクトール元帥はソファに座るように手で俺たちを促す。軍で一番偉い人と話すのは緊張するが、彼を協力者に出来ればここから先の計画がより順調に進むはずだ。

 俺は心の中で意気込みつつ、ソファに腰掛ける。右からレフィーナ、俺、レオさんの順番で座った。ミドリは例によって俺の後ろに立っている。

 対する軍人サイドは、ヴィクトール元帥一人だけが俺たちの向かいに座り、二人の部下はその後ろに立っている。さっきから二人がレフィーナを睨み付けている気がするのは気のせいではないだろう。アルラウネを警戒しているというのもあるだろうが、先ほどの態度が腹に据えかねているというのが理由のほとんどだと思う。

 なんか親衛隊っぽいしな。ヴィクトール元帥に心酔していそうだ。

 俺はとりあえず、ざっくりとこれまでの経緯をヴィクトール元帥に説明した。真実と違うのは、俺の旅の目的が異種族の恋人探しから国内で暮らしている異種族の調査に変わった事と、レフィーナがプリンセスアルラウネだと教えなかったことだ。

 レオさんはもちろんだが、レフィーナもその場の雰囲気で話を合わせてくれたので助かった。


「概ね理解しました。少し質問してもいいかな?」

「はい。どうぞ」


 ヴィクトール元帥は終始相槌を打つだけで俺の話を遮らなかったのだが、質問は最後にするタイプのようだ。


「アキトさんとエメラルドさんの旅の目的は人間以外の種族の調査ということだが、どうしてそのようなことをしようと思ったんだい?」

「それは――」


 まずいな、ちょうど嘘を吐いていたところに質問が来た。なんとかそれらしいことを言って誤魔化さないといけない。


「――異種族の事が好きだからです」

「ふむ。もう少し詳しく教えてもらえるかな?」

「はい。契約者であるエメラルドは竜人ですが、この国では珍しい種族ですよね?」

「そうだね。珍しいというより、エメラルドさん一人だけだ」

「えっ?」


 そうなのか?

 レオさんに視線を向けると、小さくうなずいた。


「知らなかったのかい? まあ、もっと目立つ種族が王都に数名暮らしているので、珍しい種族程度の視線しか受けないかもしれないが、竜人とは本来ギドメリアで暮らす種族だからね。数年前は君が彼女と契約したという話で大騒ぎになったものだよ」


 ヴィクトール元帥は懐かしそうに笑う。

 王都を歩くとレフィーナだけでなくミドリにもそれなりに視線が集まっていたが、まさか竜人がそこまで珍しい種族だったとは思わなかった。

 前のアキトって俺が思っていた以上に大物扱いされていたのかも知れないな。


「話を戻そうか、それでエメラルドさんがどうしたんだい?」

「あ、はい。エメラルドと契約したことで、竜人という未知の種族の魅力にたくさん気付かされました。そして一緒に暮らしている内に、竜人以外の種族についても知りたいと思うようになっていったんです」

「なるほど。君はなかなか面白いな。何かを隠しているような気もするが、今の目は嘘を吐いている目ではないように見える」


 やべえ、すげえ観察眼だ。ほとんど本心から話を作って良かった。異種族が好きなことも、色々知りたいと思っていることも本当だからな。もう少し深掘りされたら白状するしかなかったが、何とか俺が恋人を作るために異種族の調査をしていることは隠し通せた。


「では、本題に入りましょうか。レフィーナさん、青の魔石を渡してもらえますか?」

「うん? はい」


 今までの会話はちょっとした世間話といった感じだったのだろう。少しだけ砕けていたヴィクトール元帥の言葉遣いが元に戻った。

 レフィーナは首から青の魔石のペンダントを外すと、ヴィクトール元帥に渡す。すると元帥はペンダントトップから青の魔石を外し、代わりに赤の魔石を嵌めた。


「これに魔力の登録をすれば、レフィーナさんは旅行者ではなく正式な友好種族――つまりアルドミラの国民になることが出来ます。ですが本来は種族全体が人間に敵対的だとされているアルラウネですから、そう簡単に渡すわけにはいきません。赤の魔石は青の魔石とは違い、一世代だけの物ではない。子供が産まれれば、無条件で赤の魔石が渡されるものですので」


 俺は背筋を正して、全身に軽く力を入れる。やはり何か条件を出してくるか。元帥なんかが出てきた段階で何かあるとは思っていたが、果たして何を要求されるのやら。


「交換条件として、アキトさんには私からのお願いを聞いて欲しいのです」


 俺に話題を振ってきやがった。ということは、もしかして軍隊への入隊が条件か?


「もし今後、ギドメリアとの戦いで我が軍が劣勢に追い込まれるようなことがあった場合に、援軍を頼みたいのです」

「え、援軍……ですか?」

「はい。最上級種族のエメラルドさんに加えて、上級種族のレフィーナさんと契約したということは、アキトさんは二種類の魔法を使えるうえに、彼女たちの身体の一部を祝福として得ているはず。それに南部に潜伏していたギドメリアのスパイ12名を討ち取った功績もあります。こちらとしては緊急時だけでもいいので取り込みたい戦力なのですよ」

「……じ、12名?」


 レオさんが小さく呟いて、驚きの目でこちらを見てくる。スパイの話をされて、俺はすぐに振り返る。


「ミドリ、お前いつの間に話したんだ?」


 そういえば、軍に報告すれば報酬が貰えるとか言っていた気がするが……。


「……私が服を買いに単独で行動していた際に報告しました。私の身体に合わせて仕立て直してもらったので予算を越えてしまいまして」

「それで、俺に黙って報告して報酬をもらったと」

「はい。申し訳ありません」


 おかしいと思ったんだ。翼の形に合わせて作ってもらったはずなのに、ミドリに預けていた財布の中身がそこまで減っていなかったから。こんなことなら領収書をしっかり確認しておけばよかった。


「ですが、12名というのは変ですね。私は野垂れ死にしていた承認魔石を持たない魔族を数名見付けて弔ったと報告したのですが……墓を掘り返したのですか?」

「ええ。遺体の調査を終えた後で火葬して埋め戻しましたが」

「それで後金が予想以上に振り込まれていたのですね。入金した担当者が桁を打ち間違えたのかと思いましたよ」

「待て、ミドリ。後金ってなんだ?」


 話に割り込んだ俺をミドリは面倒くさそうに睨みながら答える。


「ですから、服を買う足しにと前金だけ受け取って、調査後の後金を私の口座に振り込んで貰ったんです」

「お前、俺に黙って勝手し過ぎだろ」

「……後で、お金は半分渡すつもりでした」


 そういう意味じゃねえよ。ヴィクトール元帥の前じゃなかったら盛大にツッコミを入れてやったところだ。


「……話を進めてもいいでしょうか?」

「――っ! あ、すみません。どうぞ!」


 振り返ってミドリと話していたところにヴィクトール元帥に声を掛けられ、俺は慌てて向き直った。

 やばい。元帥の背後の二人が凄い睨んでくる。


「報告書によると、遺体の状態は通常では考えられないほど鋭い刃物で金属製の防具ごと両断されていたそうです。そして私が知る限り、そのようなことが可能な魔法を使える軍人はアルドミラにも数えるほどしかいない。分かりますか? あなたたち二人はアルドミラ軍の精鋭とほとんど変わらないほどの戦闘力を持っているということです」


 俺じゃなく、ミドリが強いだけだけどな。

 ヴィクトール元帥の背後に控えている二人はその精鋭なのだろうが、本気のミドリはこの二人よりも圧倒的に強いと思う。


「戦争の早期終結のためにも許されるのならば徴兵したいところですが、現在は民間人を徴兵するほど戦力不足ではありませんので、劣勢に追い込まれた場合に助けてほしいとお願いしている次第です」

「……先ほど援軍と仰いましたけど、ギドメリアとの戦いが劣勢になった場合に、徴兵されて軍隊に取り込まれる――というわけではないのですか?」

「はい。あまり強制してこの話し合い自体をなかったことにされたり、我々に敵対されたりすると困るのはこちらですから。ここ数年であなたに入隊を断られ続けた経験を活かし、あなたが譲歩してくださいそうなギリギリのラインを狙ってみました」


 そう言ってヴィクトール元帥はニコリと笑ってみせた。本当に絶妙なラインを突いてくる。

 戦況が不利になった時のみで、入隊ではなくあくまでも協力者。これで生還が絶望的な戦場に無理やり出撃させられたりするリスクは避けられる。

 更にヴィクトール元帥は俺を名指しで指名していたので、戦争に参加するのは俺だけということになる。

 実力的にミドリには付いてきて貰わないと俺が死ぬが、レフィーナを巻き込まなくて済むのは助かる。大切な娘を人間の戦いに巻き込んだりしたらルナーリア様に殺されるからな。


「分かりました。そういうことでしたら、その条件をお受けします」


 いざという時は二人との契約を切ってしまえば、俺が死んでも巻き添えにせずに済むだろう。


「感謝します。では、アキトさんにはこちらを渡しておきましょう」


 ヴィクトール元帥が手のひらサイズの箱を俺に差し出す。受け取って開けてみると、中には虹色の宝石が入っていた。


「これ、魔石ですか?」

「はい。アキトさんの居場所が分からないといざという時に困りますので、承認魔石を持ち歩いて欲しいと思います。青や赤を渡すのは失礼かと思いましたので、特別に虹色の魔石を用意させました」


 別に赤でもよかったのだが、特別仕様をくれるというのなら貰っておこう。でも、赤を渡すのが失礼という言葉には引っ掛かるものがある。赤の魔石を所持している友好種族を下に見ているからこその発言な気がするからだ。

 ここでヴィクトール元帥と言い争う気はないので、俺はさっさと虹色の魔石に魔力を登録した。


「では、レフィーナさんにはこちらを」

「ありがとう、ヴィクトール」


 レフィーナは赤の魔石に取り換えられたペンダントを受け取ると、嬉しそうに首にかけた。意外とあのペンダントを気に入っていたのかもしれない。

 レフィーナが元帥を呼び捨てにするたびに後ろの二人がピクリと動いて険しい顔をするのが何とも恐ろしいので、さっさと退出したいところだ。


「これでレフィーナさんは正式にアルドミラの国民となったわけですが、アルラウネの森の木が無断で伐採されるのを防ぐにはこれだけでは足りませんよね? アキトさんはこの後どうするおつもりですか?」


 興味津々だな、ヴィクトール元帥。

 こちらとしては赤の魔石さえもらえればそれでよかったので早く解放して欲しいのだが、元帥の質問を下手にあしらうと後ろの二人に何をされるか分かったものではない。面倒だがこの場で俺の考えを説明することにした。


「アルラウネの森の木はレフィーナの所有物であり、専属契約を結んだ職人にのみ販売を許すと公表しようと考えています。もちろん、木を買い取る魔石屋にも話を付けるつもりです。レフィーナが正式なアルドミラの国民になったので、アルラウネの森の権利を主張できます。これなら、もし犯人がまた無許可でアルラウネの森の木を伐って持ってきても、魔石屋が買い取りを拒否してくれますので、次第に勝手に木を伐る人もいなくなると思います」

「なるほど。ですが、それだと少し弱いですね」

「弱い?」

「ええ。魔石屋に対する強制力が弱いです。専属契約をしたからといって、裏で魔石屋が誰と取引しているかなど分かりません」

「えっ……それは……」


 魔石屋が契約を破るなんて考えていなかった。確かに、勝手に木を伐る奴がいるくらいだ。勝手に木を買う奴だっていないとは言い切れない。

 でも、それならどうすればいい?

 誰も約束を守らないなら、対策のしようがないぞ。


「そのようなことをすれば、魔石屋は契約違反として罰せられるのではないですか? 違約金が発生すると思われます」


 ミドリの言葉にヴィクトールは静かにうなずく。


「そうですね。ですが、必ずしも魔石屋の違反行為を発見できるとは限りません。魔石屋から販売される炎の魔石の量で特定できたとしても、結局は違約金を払わせて終了です。アルラウネの森の木が無断で伐採されるという問題を解決出来たわけではありません」


 ヴィクトール元帥の言う通りだ。俺がやろうとしていたことは、アルラウネの森の木が伐られるのを減らすことは出来ても、完全になくすことが出来るほどのことじゃない。

 犯人を捕まえるわけでもなく、ただ犯人が犯行を起こしにくい環境を作ろうとしていただけに過ぎないからだ。

 俺とミドリが言い返せずに黙り込むと、ヴィクトール元帥はにっこりと優しい笑顔を浮かべた。

 少しわかってきたことがある。元帥のこの笑顔は何かを企んでいる時の顔だ。


「皆さんは、魔石屋がどこから魔石を仕入れているのかご存じですか?」

「えっと、魔石鉱で採掘をしている人から……ですか?」

「正解です。そして採掘業者から直接魔石を仕入れることが出来るのは、国の認可を得た魔石屋と我々アルドミラ軍のみです」


 ヴィクトール元帥の視線がレオさんへ向けられる。レオさんは血の気の引いた顔で背筋を正した。


「どうでしょう、レオさん。あなたが所有することになったアルラウネの土地で育った木は、魔石屋ではなくアルドミラ軍に販売して頂けないでしょうか?」

「それは、はい。元々、軍隊の方にも炎の魔石用の薪を販売していますので構いませんが……」


 レオさんはちらりと隣に座っている俺を見る。


「それだと、アルラウネの森の木が手に入らない魔石屋は、今までと変わらずに勝手に木を伐って売りに来る者から買ってしまうのではないでしょうか?」

「大丈夫です。もし専属としてアルラウネの森の木を販売して頂けるのなら、アルラウネの森を警備する部隊を編成します。そして、不当にアルラウネの森の木を伐る者を発見した場合は、捉えてアルラウネに突き出すことにしましょう」


 レオさんがごくりと生唾を飲んでから、俺を見る。


「どうする、兄ちゃん。それでいいか?」

「断る理由がないですよ」

「だよな」


 レオさんは再びヴィクトール元帥に向き直って宣言した。


「分かりました。アルラウネから貰った土地で育てた木はアルドミラ軍専売にします」

「ありがとうございます。良い取引が出来ました」


 ヴィクトール元帥はにっこりと笑う。俺はその笑顔が怖くなってきた。

 俺たちの望みを叶えた上で、アルドミラ軍の利益に繋げてしまったからだ。権力で強引に権利を奪うこともできたはずなのに、俺たちに反感を抱かせずに自分たちも利益を得る形に話を持っていった。

 本来なら感謝するところだが、あまりにも出来過ぎた話なので、騙されているんじゃないかと疑いたくなるほどだ。

 話がまとまるとヴィクトール元帥は退出し、俺たちは残された軍人二人と契約書を作成した。結果として、レフィーナは正式にアルドミラの国民となり、更にアルラウネの森の木が不正に伐採されないように軍隊が警備してくるというのだから文句はない。

 俺はやり切った気持ちに浸りながら役所を後にした。

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