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入れ替わりの先にある異世界 ~異種族と結婚するため、俺は冒険の旅に出る~  作者: 相馬アサ
第一部 似ても似つかぬ並行世界
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一章 アルラウネの森 十一話

「幼気な少女に自分の唾液まみれの触手を咥えさせて……それは何というプレイですか?」

「やめろ、ミドリ。わざとらしく如何わしい表現をするな! あと、触手じゃなくて蔓だ」


 ミドリの最低な表現に即座にツッコミを入れる。こいつ、ルナーリア様と話していたと思ったら、いつの間にか俺とレフィーナのやり取りを観察していやがった。


「分かっていますよ。こちらはとっくに話し合いが終わったというのに、アキト様がいつまでも遊んでいるので頭にきてつい言い過ぎてしまっただけです」

「遊んでいたわけじゃないんだけどな。そもそもお前の行動が事の発端だろ」

「……美味しかったですよ?」

「やめろ! 二度とやらないからな」


 愛情のないキスは求めていません!


「私も二度はごめんですよ。それはそうとあなたたち三人は私たちの会話を途中から聞いていませんでしたよね? 仕方ないので説明します」


 何だろう。俺だって二度とやらないと言ったはずなのに、ミドリから二度はごめんだと言われるとちょっと傷付いた。

 ミドリはそんな俺の心の揺らぎなど気にした様子もなく、話を進めていく。レフィーナとレオさんも少し申し訳なさそうにしながら話を聞いていた。

 実際二度手間だし、よく考えるとルナーリア様の前で俺たちは自由に振舞いすぎたな。反省しよう。


「砂糖魔石はクイーンアルラウネに取っても素晴らしい魔石でした。それこそ喉から手が出るほどに。ですが、だからと言って手塩にかけて育ててきた森の木を伐って人間に渡すわけにはいかないそうなのです」

「砂糖魔石用に新しく育てるというのは?」


 レオが口を挟むと、ミドリが即座に首を振る。


「ダメですね。レオ様、例えばですがあなたがこれから幼子を養子として育てたとしましょう。その養子が大人になった頃に、あなたがどうしても欲しい物と養子の死体を交換してくれと持ち掛けられて、応じますか?」

「応じるわけが――あっ、そういうことなのか……?」

「ええ。クイーンアルラウネにしてみれば、森の木も自分の子供だそうです」


 アルラウネは植物寄りの種族だ。俺たち人間からしてみれば植物を伐ることに何の躊躇いもないが、アルラウネからしてみれば自分に近い種族を殺すのと同じということか。

 ミドリは養子と表現したが、日本人の感覚に一番近いのはペットだろうな。長年一緒に暮らしてきた愛犬の毛皮を売ってくれとか言われたら激怒するだろう?

 そういうことだと思う。


「ねえ、ママ。それなら土地を広げて人間に分けてあげるのはどう?」


 レフィーナの言葉にルナーリア様が眉を寄せる。


「どういう意味だ、レフィーナ?」

「ママが森の木を伐らせたくない気持ちはボクも分かるよ。でも、ママだって砂糖魔石は欲しいし、出来れば人間とこれ以上争いたくはないでしょ?」

「うむ。だからといって私は譲る気はないぞ」

「分かってる。でも、根を伸ばして土地を広げてあげて、そこで人間が勝手に木を育てて伐る分には構わないと思わない? 別にぼくたちは全ての植物を守りたいとは思っていないわけだし」

「そ、それは……そうだが……しかし」


 ルナーリア様は分かりやすいくらい狼狽えた。レフィーナの説得が効いているぞ!


「いや、ダメだ。魔力が足りない。レフィーナ、お前は土地を広げるのにどれだけの魔力が必要なのか分かっているのか? しかも、広げた土地を人間に渡すなど考えられん」

「魔力なら……ここにあるよ!」


 レフィーナは蔓で俺のリュックから最後の砂糖魔石の欠片を取り出すとルナーリア様に差し出す。


「これの魔力量、実際に食べたママなら分かるよね? これで増えた魔力分だけ土地を広げてよ、それで人間とのいざこざが無くなるなら安い物でしょ?」


 ルナーリア様は神妙な面持ちで砂糖魔石を受け取ると、ゆっくりと息を吐いた。


「……分かった。先ほどの分と合わせて増えた分の魔力で東側に土地を広げよう。ただし定期的に同じ量の砂糖魔石を必ず献上しなさい。頻度はそうだな――月が10回満ちるたびにしよう。それがなければ与えた土地から人間たちを追い出すことにする」

「ママ、ありがとう! どう、レオ? それでいいよね?」

「ま、待ってくれ、満月って……ええっと、どのくらいの周期だったか……」


 レオさんは満月がどの程度の周期で見られるのか分からず、焦りだす。ちなみに俺も分からないぞ。


「だいたい29日か30日ですね。基本は一か月に一度ですが、たまに一か月に二度見られる時があるので注意が必要です」


 ミドリが素早く答えてくれる。こいつ物知りだな。


「ってことは、ほぼ十か月に一度か……土地の広さはどのくらいになるのでしょうか?」


 レオさんが尋ねる。心なしか生き生きしているように見えるのは、無謀だと思われていたクイーンアルラウネとの交渉が進んでいるからだろう。


「やってみなければ正確には分からないが、この花畑の十倍ほどになるだろう」

「えっ?」


 おいおい。この花畑って100坪くらいあるぞ。1000坪で十か月10万って安すぎないか?

 レオさんも同じことを思ったのか、俺と目を合わせてニヤリと笑う。


「ぜひ、それでお願いします。砂糖魔石は必ず献上させていただきます」

「うむ。ではこれを先ほどのように液体にせよ」

「はい!」


 俺とレオさんは素早く砂糖魔石を湯煎してルナーリア様に差し出す。

 ルナーリア様は砂糖魔石を美味しそうに飲み干すと、立ち上がって後方にある巨大な花の中へと入っていく。


「では、今から根を広げるので、お前たちは東の土地の確認に向かうがいい。次に会うのは月が10回満ちた時だ。砂糖魔石の献上以外での森への立ち入りは禁止とする」


 それだけ言うと、ルナ―リア様は花を閉じてしまったので姿が見えなくなった。

 俺とレオさんは顔を見合わせて、頷きあう。


「土地の確認に向かおう」




 俺たちは少し早足になりながらもアルラウネの森を東に進んで外に出た。


「……ええっと、どこが貸してくれる土地なんだろう?」

「全く違いが分からねえな」


 俺とレオさんは困ったように首を傾げる。根を伸ばしてくれているはずなのだが、人間である俺たちには以前との違いが全く分からなかった。


「レオさん、交渉はどうなりましたか?」


 入り口で待たせていた職人たちがこちらに気付いて駆け寄ってくる。


「おお、お前ら。この辺りで何か変わったことはなかったか?」

「変わったことですか? ……さっき地震がありましたね」

「そういえば、あったなあ。でも規模も小さかったし、すぐに治まりましたよ」

「そ、それだ!」


 地震というのは、ルナーリア様の根がこの辺りに伸びた影響だろう。しかし問題はその範囲がどこまでなのか分からないことだ。


「どうするんですか、レオさん。範囲が分からないと植林も出来ないでしょ」

「ああ……地面を掘って根を確認してみるか?」


 俺とレオさんが悩んでいると、レフィーナがクイッと俺の服の裾を引っ張った。


「アキトくん。どうしてぼくを頼らないの?」

「へ? レフィーナ、もしかして分かるのか?」

「当たり前だよ! ていうか、アキトくん、さっきまでぼくの存在を忘れてたでしょ!」


 レフィーナがかわいい目を吊り上げて怒りだす。それでもかわいいんだから凄いよな。


「わ、悪かった。教えてくれるか?」

「もう……仕方ないなぁ」


 レフィーナは全身から蔓を伸ばすと、地面に小さな溝を掘っていく。どうやらそれが新しくルナーリア様が根を伸ばしてくれた土地の範囲のようだ。

 レフィーナ自身はその場を動かず、蔓をたくさん伸ばして溝を掘っているので、レオさんを含めた職人たちはビビり気味だ。

 それなりに時間がかかったので、その間を使ってレオさんは職人たちにルナーリア様との交渉結果を伝えていた。


「だいたいこのくらいかな?」


 レフィーナが溝を掘った範囲を見て、俺たちは唖然としてしまった。


 どうみても花畑の十倍どころではなかったからだ。


「ひ、広すぎねえか?」

「砂糖魔石の魔力でここまで土地に魔力を満たすことが出来るとは到底思えません。これはクイーンアルラウネが色を付けてくれたのではないでしょうか?」


 ミドリが冷静に分析して言う。

 俺も同意見だ。これは十倍どころか五十倍はあると思う。野球場くらいの広さがありそうだ。


「うん。レオはママに感謝した方がいいよ。相当無理してると思うから」

「あ、ああ。次に献上する砂糖魔石の量を増やして、他にもいくつか甘味を用意する……形でどうですか?」

「いいと思うよ」


 レオさんは土地を眺めて放心していたのだが、レフィーナに名前を呼ばれて我に返った。


「とりあえず、柵を立てるなりして土地の範囲を明確にしないとな。それと植える木も考えないと……お前ら、忙しくなるぞ、覚悟しておけ!」


 レオさんはいつもの調子を取り戻して職人たちに気合を入れる。


「レオさん、その前に王都でやることがあるでしょ?」

「あん? どういうことだ、兄ちゃん」

「アルラウネの森の木を勝手に伐っている奴を何とかしないと」

「む……確かにな。でも、どうすりゃいい? 別に法律には反してないから警察には頼めないぞ?」


 そうなのだ。レオさんたちが別の場所で植林している木はもちろんだが、保護されている天然林なら勝手に木を伐ったら罰せられるのだが、アルラウネの森は国に保護されている森ではない。それなので、あの森の木を勝手に伐ったところで警察に逮捕される心配はないわけである。


「法律に反してないのは、アルラウネが敵対的な種族で、人間の法律の外に暮らしていたからですよね? 今は友好種族になれる可能性があるレフィーナがいる。まずはレフィーナの発言力を高める方針で行きましょう」


 俺の提案にレオさんたち職人組は目を丸くして驚いたが、ミドリだけはなるほどと頷いてくれた。レフィーナは良く分からないって顔をしていたな。

クイーンアルラウネは人間よりも長生きなので、時間の感覚が違います。彼女にとって十か月はそんなに長くありません。

人間でいうところの月一の家賃くらいの感覚です。

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