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外伝 ヤマシロの夏祭り 六話

「ではでは~、ミドリちゃん借金返済おめでとう&シラツユちゃんの契約者入りを祝して~、かんぱーい!」

「か、かんぱーい」

「乾杯」

「かんぱーい!」

「乾杯なのじゃ」


 オリヴィアの超ご機嫌な音頭に合わせて、俺、ミドリ、レフィーナ、白露は乾杯する。

 俺、オリヴィア、白露は日ノ本酒。ミドリは麦茶でレフィーナはオレンジジュースだ。


「私はお酒でも良かったのですが」

「この国は20歳になるまで飲酒禁止だ」

「私はアルドミラ国籍なのでセーフでは?」

「その辺の法律関係は詳しくないから分からんが、一応やめておけ」

「……分かりました」


 ミドリが酒を飲みたがるのは意外だな。大人びて見えるが、お菓子やアイスが大好きな子供っぽいところがあるので、レフィーナと一緒にジュースを飲むと思っていた。

 結局、飲酒を俺が反対したので麦茶を飲んでいる。食べ物もあるから、ベストな選択だろう。

 それにしても、まさか連日で飲み会になるとは思わなかった。昨日は白露とヒナノの二人と散々飲み明かしたので今日は肝臓を休ませたい気分だったのだが、オリヴィアが泣いて頼むので仕方なくみんなを集めることになったのだ。

 場所は俺の部屋。酒や食べ物は全てオリヴィアが用意してくれた。


「やっぱりオリヴィアの料理は美味いな」

「ふふっ、ありがとう。でもアキトちゃん、ロゼちゃんを落とすならアキトちゃんも料理上手になっておいた方が良いわよ?」

「それは……まあ、そうだよなぁ。今度教えてくれ」

「任せて」


 そうなんだよな。

 ハーピーを口説くなら、料理は上手くないと話にならない。


「ねえ、どうしてロゼを落とすのに料理が関係するの? アキトくんが好きとか愛してるとか言えば良いんじゃないの?」


 レフィーナの知識は何処から来るんだ?

 恋愛映画でも見たのだろうか?


「ハーピーは両手が翼でしょ? だから料理を作るのは人間である男の仕事なのよ。もちろん、契約したら祝福でハーピーにも手が生えるけど、料理とか細かい作業が急に出来るようになるわけじゃないわ。だから料理上手な男の子がハーピーにモテるってわけ」

「なるほど~、アキトくんの料理って普通だからね。オリヴィアみたいになるには結構修業しないとダメじゃない?」


 レフィーナの言葉が深く突き刺さる。

 俺だって料理くらい出来ないわけでは無いが、ハッキリ言って上手くはない。

 不味い料理を作ったりはしないが、それをロゼに対してのアピールポイントに出来るほど上手くはないので、彼女の言う通り修業が必要だな。


「大丈夫よ。お姉さんが手取り足取りレクチャーしてあげるから」

「ふむ。オリヴィアが言うと如何わしい雰囲気になるのう」

「酷い!」


 白露が俺の思っていたことを代わりに言ってくれた。

 オリヴィアは意図していなかったためにショックを受けたようだが、それが彼女の良さというか、魅力の一つでもある気がするので、そのままで良いと思う。


「それにしても、アキト様は異種族の女性と見れば鼻の下を伸ばしていやらしい視線を向けていた時期から、ずいぶんと変わられましたね」

「おいミドリ、俺がいつそんなことをした」

「私の裸体をいやらしい目で見た挙句に、尻尾の柔らかい部分を触ろうとしたことを忘れてはいませんよ」

「ごめんなさい」


 でもあれはミドリがいきなり服を脱いだり、尻尾を触って良いと言ったりしてきたのも原因の一つだろう。大人しく謝るけどさ。


「アキトちゃん、ミドリちゃんにもそんなことしてたのね」

「にも? オリヴィアも何かされたのですか?」

「お姉さんは下半身を抱き枕にされて一緒に寝たことがあるわ」

「お、おい! それは内緒じゃなかったのかよ!」

「だってお姉さん、アキトちゃんに振られたし。もう二人だけの思い出として大切にしておく必要も無くなったもの」

「うっ……」


 まずい、完全にアウェーだ。

 ミドリと白露からの視線が痛い。


「あっ、そういう話ならぼくもあるよ」

「まて、レフィーナ。お前まで参加しなくていい」

「え~」

「なんじゃ、ダメなのか? 我も主殿に全身を撫で回された時の話をしてやろうと思っておったのじゃが」

「それは狐だった時の話だろ!」


 何だ、こいつらは?

 俺の契約者の癖に誰一人として俺の味方をしやがらない。どうなっているんだ!?


「まあ、アキト様がスケベなのは今に始まったことではありませんから、これ以上は良いでしょう。それに、私は元々アキト様にされたことをとやかく言いたかったのではなく、その頃から変わられたことを良い方向に受け止めていたのですよ」

「だったら早くこいつらを止めてくれよ。ややこしくなっただろうが」

「アキト様を攻めるのは面白いですから、少し様子を見ました」


 ついに本音を言いやがった。

 やっぱりこいつら、面白がっていたんだな。


「ともあれ、アキト様。一度振られた相手に振り向いてもらうのは大変ですよ?」

「分かっているよ。今はただの友達だけど、アルドミラに帰ったらちょっとずつ親密な関係になって行きたいと思っている」

「それも良いですが、一応自分の考えを先に伝えておくのも手ですよ」

「は? そりゃ、最初にプロポーズして失敗した時の二の舞だろ」


 俺はあの時、こっちの気持ちも考えろとロゼに激怒された。

 だからこそ今度は少しずつ歩み寄って、十分に仲良くなったら告白して付き合って、そこから数年くらい恋人関係を続けられたらプロポーズするような形で行こうと思っている。


「貴方は馬鹿ですか? ロゼとは既にそれなりに仲が良いではありませんか。ノーベ村では毎日のように漫画や小説を借りては風呂場で語り合って盛り上がっていた事、私が知らないとでも思いましたか?」

「えっ!? お前、どうして風呂の事まで知ってるんだよ!」


 あの風呂は宿から繋がっているとはいえ、ロゼやリズさん、それとリズさんの旦那さんくらいしか使わないところだというのに、いったいどこから情報が漏れたんだ?


「アキト様が夜な夜なお風呂セットを持ってどこかへ行くのでオリヴィアと一緒に後を付けました」

「はあ?」

「やったわねぇ、懐かしいわ。大浴場がしまっている時間だったのに、いつもちゃんとお風呂に入って帰って来るからおかしいと思ってこっそり後を付けたんだったわね」


 こいつら、いつの間に……。


「一緒に風呂とは、主殿やるではないか。それではもうほとんど恋仲と言っても差し支えないのではないか? お互いに想いを伝え合っていないだけとも取れる」

「勘違いするな。あれは露天風呂で男湯と女湯の壁越しに話していたんだ」

「なんじゃ、つまらんのう」


 この狐、何を面白がっているんだ。俺の恋愛を酒の肴にするな。


「ですが、すでに親密な関係なことに変わりはないと思います。であれば最初から気持ちを伝えて、アキト様が付き合うに足る男性かどうか見定めてもらうというのも良い手だと思うのですが」

「先に伝えて、返事は後でもらうってことか? ならもっと仲良くなってから告白したいんだけど」

「ちゃんと先に気持ちを伝えておかないと、ロゼは友人としてアキト様と親交を深めることになってしまいます。そうすると、アキト様は十分に仲良くなったつもりでの告白でも、ロゼは友人から突然告白されたと受け取る可能性があります」

「あっ」


 そうか、それだと結局いきなり告白するのと変わらないのか。

 友達だと思っていたのに裏切られた気持ちになるかもしれない。それならミドリの言うように、もう一度チャンスをくれと最初に伝えて、俺を男として見定めて貰った方がいいかもしれない。


「……ミドリの言う通りな気がしてきた」

「お姉さんも賛成よ。それってとても共感できちゃうもの。もっとはやく気持ちを伝えておけばって思った事、何度もあるわ」


 オリヴィアの言葉が俺に刺さる。

 たぶん今のは、俺に対しての後悔だろう。


「アキトちゃん、ロゼちゃんにはじっくり考える時間を与えてあげた方が良いけど、アキトちゃんは早くから準備して行った方が良いわよ。だから、明日から料理のお勉強をしましょう?」

「あ、ああ。頼む」


 ミルド村に戻ったらじっくり料理を教えてもらおうと思っていたが、それでは遅い気がしてきた。

 その後しばらく間、オリヴィアを中心とした形で料理の話題で盛り上がった。




「あっ、そういえば、白露って時々、俺たちの事を変な分類で呼ぶよな。なんとか族とか」


 ひとしきり恋愛話や料理話を話し終えて話題が尽きかけた頃に、俺は唐突に思い出して白露に尋ねた。


「ん? 人族や竜族の事か?」

「そう、それそれ。何なんだ?」

「現代には伝わっておらんのか?」

「たぶん……みんなは知ってるか?」


 俺が尋ねると、レフィーナは当然としてミドリも首を振った。


「何だったかしら……たしか村長さんが種族について調べているのを手伝った時に、古い本で読んだような気がするわ」


 そういえば、お爺さんもそんな風な言葉を使っていた気がする。

 白露が知っていて、古い書物にだけ載っている種族の分類だとしたら、現代はほとんど廃れてしまったものだろう。


「少々、小難しい話になるかもしれんのじゃが、良いか?」

「ああ、聞かせてくれ」

「私も興味があります」


 俺とミドリが答えると、シラツユは小さく頷いてから語り始めた。


「そもそも種族とは、大きく七つに分類することが出来るのじゃ。神にもっとも近い姿形をしている人族。人族から変化した亜種である魔族。堅牢な鱗を持つ竜族。自由奔放に生きる獣族。自然と共生する虫族。自然そのものである植物族。肉体を持たない精霊族。ほとんどの種族は、この七つのどれかに分類される」


 人族。魔族。竜族。獣族。虫族。植物族。精霊族。


「俺は人族で、ミドリとオリヴィアは竜族。レフィーナは植物族でシラツユは獣族か」

「うむ。ちなみに妖怪となって肉体を捨てた場合は精霊族になる」

「別の種族に変化する場合もあるのか」


 確かに妖怪はどちらかというと霊体だから、精霊に近い。


「お姉さんはドラゴンの分類で良いの?」

「お主はラミアとドラゴン、それとマーメイド辺りが混じった種族じゃろう?」

「ええ、そうらしいわ」

「ならば竜族じゃ。ドラゴンは自分以外の竜族を認めん者が多いが、本来はラミアもマーメイドもみな竜族じゃからな」


 竜族とは鱗がある種族の事を言うのだろう。


「植物族ってアルラウネ以外にもいるの?」

「トレントやドライアドなどじゃな。山奥など人気の無い自然の中に住んでおり、基本的に自分たち以外の種族とは交流を持たない故、詳しくは知られておらん。我も外国から来た者から聞いた程度で、実際にあったことはないのじゃ」

「みんながぼくを珍しそうに見てくるのはそういうことなんだね」


 トレントとドライアドか。

 何となくハウランゲルの更に西にある森の奥に住んでいそうなイメージだ。


「アキト様が人族で、シラツユが獣族だというのは分かりますが、魔族に該当する種族は何ですか?」

「身近な者だと、悪鬼がそうじゃな。鬼は全員魔族じゃ。後は西の国にヴァンパイアという種族がおるじゃろう。あれも魔族じゃな」


 なるほど、イメージ的に悪魔系の種族は魔族ということか。


「じゃあ、エルフやドワーフ、天使とフェアリーはどうだ?」


 俺はハルカの契約者の四人を思い浮かべながら尋ねる。


「エルフ、ドワーフ、天使は人族じゃな。フェアリーは虫族じゃ」

「フェアリーって虫なのか……」


 まあ、翅は蝶だけど、虫と言われるとオーラは怒りそうだな。


「主殿、天使と知り合いなのか?」

「ああ。アルドミラに一人知り合いがいる」

「それは頼もしいのう。天使は人族の中で最も強い種族じゃぞ。天使の長はエンシェントドラゴンよりも強いと言われており、黒曜が酒呑童子にもし出会ったら気を付けるように言っていたのを聞いたことがある」

「エンシェントドラゴンよりも強いって、そりゃもう神様クラスじゃないか?」

「うむ。そもそも天使は神の力を借り受けることで自身をより高位の存在へ引き上げる力を持っておる。一次的な進化に近い」


 俺はハルカとアルベールが頭に天使の輪を出した時の強さの変化を思い浮かべ、白露が言っているのがあの輪の力だと何となく察した。

 しかし、アルベールは天使の長ではないので、そこまでの強さは期待できないな。一度天界に帰って長を連れて来てはくれないだろうか?


「ああ、そうじゃ。ハーピーはこの分類の中には存在せん例外的な種族じゃぞ」

「えっ? 獣族じゃないのか?」


 鳥だって獣の一種だし、獣族で良いだろう?


「ハーピーは人族と獣族の中間的な存在じゃ。元々は鳥人と人間とのハーフと言われておるが、真実は分からん」

「鳥人……ガルーダか。確かに似ているけど、あいつらは翼が背中から生えているから違うんじゃないか?」

「うむ。じゃから我には分からん。元々そういう例外的な種族じゃったと割り切った方が良いじゃろう」


 やっぱりハーピーって種族全体で見ても異質な存在だったんだなぁ。


「主殿は自分が人間だったことに感謝した方がよいの。別の種族だったなら、どんなに恋焦がれても、ハーピーと結婚など出来ぬのじゃ」

「ああ。それは結構前から感じていた。本当に俺は運が良いよ」

「うむ。それに色恋を抜きにしても、このような美しい女性4人と契約している人間というのは全世界で主殿だけじゃろう。一体前世でどんな徳を積んだのじゃ?」


 徳というよりは、前の世界に二度と帰れないという代償で手に入れた環境だ。

 ミドリに頼めば戻してくれるのかもしれないが、俺と入れ替わった前のアキトはそれを望まないだろうし、そんな覚悟でこの世界に来てはいない。

 命の危険も何度もあったし、とても平和とは言えない世界だけど、俺はこの世界に来て良かったと思っている。


「俺と契約してくれたこと、本当に感謝しているよ。ありがとな」


 俺が素直に感謝の気持ちを伝えると、レフィーナとオリヴィアはにっこりと笑い、白露は満足気に頷いた。ミドリは照れたのか耳を赤くして水と間違えて冷酒を口に含み噴き出してむせ返った。

 その様を見てみんなで笑ったのだが、何故か俺にだけ尻尾ビンタが飛んできた。解せぬ。

 本当に他愛もないやりとりだが、これが平和ということなのだろう。俺はみんなと笑って過ごしながら、俺は自分が契約者に恵まれたことを強く意識した。

 そして、五つあった俺の契約紋も残るは風属性のみ。俺の最後の契約者は彼女しかいないと思っている。いつか遠くない未来で、みんなの中に彼女も加わっていて欲しい。

 俺は期待に胸を膨らませながら、日ノ本酒に口を付ける。

 先ほど開けた甘口の銘柄でとても飲みやすく、淡く穏やかな香りが通り抜けていく。


「こういう酒も、あいつは気に入るかな?」

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