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外伝 ヤマシロの夏祭り 三話

 夜の墓場など、日本で暮らしていた時ですら来たことが無い。そもそも、俺は肝試しをするようなタイプではなかったし、やったとしても墓場では絶対に決行しなかっただろう。


「主殿」

「うわっ!? な、なな何だ?」

「う、うむ。とんでもない驚きようじゃな……」

「う、うるさいな! お前が急に話しかけるからだろ!?」


 こっちは真っ暗闇の中を何が出てくるか警戒しながら進んでいるんだ。


「やはり手を繋ごう。こう暗いとはぐれるかもしれんし」

「うっ……分かった」


 俺は出来るだけ渋々手を差し出した感じを演出しながら白露と手を繋ぐ。


「主殿、なかなか可愛いのう」

「ぬぐ……な、何のことだ?」

「安心せい、ミドリやオリヴィアに吹聴したりはせんよ。それに、我から見れば主殿もまだまだ子供。遠慮せずに我に縋り付くが良いのじゃ」


 くそっ、もう完全に子供扱いだ。

 俺の最後のプライドとして、絶対に白露に抱きついたりはしないからな。


「あそこが墓地の入り口のようじゃな。誰かおるぞ」


 ここまでほとんど明かりのない道を進んできたのだが、墓地の入り口で人工的な明かりが見えた。

 入り口の左右にそびえる街灯に照らされているのは、ヒナノと見知らぬ男性だ。


「ヒナノ、お前も来たのか」

「一応見届けようと思ってね。こちらはこの霊園の管理人さん」


 霊園。墓地や墓場とは違う意味合いがあるのだろうか?

 こういう時、スマホが無いのは不便だ。


「まさか夜中に子供達が忍び込んで肝試しをしていたとは知りませんでした。お化けというのは何かの見間違いかと思いますが、夜行性の魔獣や魔物の可能性もありますので、調査をお願いします」


 管理人さんは深く頭を下げる。

 夜行性の魔獣か。昼に活動を全くしないタイプなら俺たちの見落としているかのうせいもあるので可能性としてゼロではない。


「分かりました。行くぞ、白露」

「うむ」


 管理人さんが開けてくれた門から霊園内に入ると、そこにはたくさんの墓石が並んでいた。


「アキト君。かなり暗いけど、人間の目で見えるの?」

「暗闇に目が慣れて来たけど、そんなに遠くまでは見えないな」

「人間の目って不便だね」

「ドラゴンの目と比べるなよ。ていうか、ヒナノは付いて来るのか? 危険かもしれないぞ?」

「私、防御力だけは自信あるから大丈夫」


 そういえば、こいつはエンシェントドラゴンだったな。

 ミドリよりも硬い鱗を持っている彼女が危険な目に会うことなどそうそうないと思うので、そこまで気にしなくてもいいかもしれない。


「それよりさ、アキト君。それってどういう風に受け取ったらいいの?」


 左隣を歩いていたヒナノは、俺の右側を覗き込むような仕草をした。

 彼女の言っている意味が分からなくて俺も視線を右側に向けると、そこには右隣を歩いている白露と繋いでいる手があった。

 即座に白露から手を放す。


「こ、これは……暗くてよく見えなかったから逸れないようにしていただけだ。別にそれ以外の意味はない!」

「ふうん。そうなんだ」


 ヒナノはわざとらしい棒読み台詞と共にクスクスと笑い出す。


「私も手、繋いであげよっか?」

「よ、余計なお世話だ」

「そう、残念だな~」


 ヒナノの奴、これまでの仕返しとばかりに絡んで来やがって。覚えていろよ。


「やれやれ。そろそろ主殿が可哀そうになってきたし、ここらで助け舟を出してやるのじゃ」

「あ、憐れむな」

「『火炎魔法・焔玉』」


 白露は火炎魔法で火球を出すと、その灯りで俺たちの周りを照らし出した。


「どうじゃ? これならいくらかましじゃろう?」

「確かに視界は開けたけど……」


 夜の霊園に漂う火球。

 どう見ても人魂だ。この狐、わざとやっているんじゃないのか?

 しかし、この光景はどこかで見たことがある気がした。

 周囲を警戒しつつ進みながら記憶をたどっていると、一つの答えに辿り付く。

 オルディッシュ島へ向かう船旅で夜中にシーサーペントに襲われて、夜の水中戦をするために軍人たちに海中を火炎魔法で照らしてもらった時だ。

 あの時海中を照らしてくれた魔法は焔玉だったのか。


「その魔法、白露のオリジナルってわけじゃなかったんだな」

「うん? オリジナルじゃぞ」

「え?」


 どういうことだ?

 形は似ていたが、別の魔法だったということか?


「……主殿、同じ魔法を見たことがあるのか?」

「ああ。アルドミラの軍人たちが使っていた」

「そうか。西の海の先でこの魔法を使う者がいるのか」


 白露は突然しみじみとした雰囲気を出しながら遠い目で星空を見上げた。


「主殿、酒は飲めるのじゃよな?」

「ああ。ツネヒサさんとたまに行く寿司屋で飲んでただろ?」

「そうじゃったな。では、今度酒でも飲みながら、我の昔話を聞いてはくれぬだろうか?」


 俺が答えるよりも前に、隣で聞いていたヒナノが反応する。


「へえ、昔話? たしかシラツユって大昔から生きている大妖怪なんだよね? 私も興味があるな」

「お前な、ちょっとは遠慮しろよ」

「え? だ、だめなの?」


 今の雰囲気は、明らかに俺と二人で話がしたいという意思表示だっただろ。


「よい。エンシェントドラゴンであるヒナノにも関係のある話じゃ」

「やった。じゃあ、お化け退治を終えた打ち上げにしよう? お父さんほどじゃないけど、私もそれなりのお酒持ってるから」

「ほう、それは楽しみじゃが……」


 白露が言葉を切ると、何かを追いかけるように視線を動かし、身構える。


「まずは退治してからの話じゃな」


 火炎魔法の灯りの外から数発の炎が飛来する。


「『灼熱障壁』」


 あまりにも突然のことだったの反応しきれなかったのだが、白露がしっかりと火炎魔法で防御してくれた。


「い、いきなり攻撃して来たぞ!?」

「子供たちと違い、我らは魔力量が多いからじゃな。そうではないかと思っておったが、嫌な予感というものは当たるものじゃ」


 俺とヒナノは完全に後手に回りながらも、周囲の闇に潜んでいる何かを見付けようと視線を動かした。


「なあ、白露。もしかして」

「もしかしなくても、あれは妖怪じゃ」


 俺は緩んで来ていた意識を集中させると、脳を完全に戦闘モードへと切り替える。


「頼むぞ、白露。妖怪相手ならお前が頼りだ」

「案ずるな。今になって人里に現れたという事は、酒呑童子が復活後に作った妖怪の生き残りじゃろう。最古参である我の敵ではない。大妖怪の格の違いというものを見せつけてやるとしようかの」

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