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二章 ドラゴン巫女 十五話

 俺、レフィーナ、白露の3人がかりで挑んだ酒呑童子は、驚異的な身体能力と高い魔力、暗黒魔法と獄炎魔法に加えて魔力を見る目のおかげで非の打ち所がない強さだった。

 レフィーナの毒攻撃も対応され、俺の翼と鱗が斬り裂かれたことで死を覚悟したが、遅れて来たミドリとオリヴィアに助けられた。

 現在、酒呑童子は水中戦でオリヴィアの超スピード攻撃にじわじわと手傷を負わされている。

 オリヴィアでは対抗できない上に水中でも威力が変わらないであろう暗黒魔法に関しては、ミドリが虚空斬をぶつけることで相殺している。

 俺の虚空閃は暗黒魔法にぶつかると完全に効力を失うのだが、虚空斬は違うようだ。

 やはり魔法の性質の違いなのだろうか?

 虚空閃は触れたものを異空間へ消し飛ばす魔法だが、虚空斬は空間を斬る魔法だ。相性の悪い闇属性とぶつかった際に虚空閃は攻撃力を失うが、虚空斬は空間を斬る能力を失っても物理的な斬撃だけは残っているのかもしれない。

 オリヴィアとミドリの猛攻でこのまま押し切れるか、もしくは窒息させることで勝負かつくかと思っていたのだが、オリヴィアが水を氷へと変化させて酒呑童子の右肩を貫いたところで事態は一変した。

 酒呑童子は全身が水刃斬による切り傷だらけで、右肩には氷結魔法で貫かれた大穴が空いている。

 そんな状態にも関わらず、毒を盛られる直前に出そうとしていた巨大な暗黒魔法を生み出したのだ。

 タイミングも完璧であり、ミドリが息継ぎのために水面に出た瞬間だった。

 暗黒魔法は水中を減速することなく進み、ミドリの不可侵聖域の一部を破壊した。

 酒呑童子は水に混じって外に出ると、地面に片膝を着いて呼吸を荒げながら、ミドリとオリヴィアを睨み付ける。

 俺と白露もレフィーナの植物に連れられて地上へと降り立った。と同時にレフィーナが俺の怪我を治療してくれる。

 両断されていた翼を戻すと、肩甲骨の辺りに激痛が走り、血が流れ出る感覚が背中を伝う。祝福で得た部位だから欠損しても大丈夫というわけではないようだ。

 目に見える右腕の怪我も明らかに治りが遅い。これはミドリの時と同じで機能不全を起こしているのだろう。翼を犠牲にした分、腕の傷はそこまで深くないので助かった。

 これならまだ動かせるし、戦える。


「無様じゃな、酒呑童子。かつてこの国を力で支配していた男の姿とは思えんぞ」

「……黙れ」


 酒呑童子は右肩を押さえて、苦痛に顔を歪めながら白露を睨む。


「碧羅と眩耀がいた時でさえここまで追い詰められたおぬしを我は見たことがない。時代の流れとは残酷じゃな。もうこの国はおぬしを脅威だと認識してすらいない。このまま過去の存在としてこの世から消えるがいい」

「黙れ、黙れ、黙れ、黙れぇ! この俺がこんなところで、負けるわけがない! 混ざりものの竜族とまだ数十年しか生きていないようなドラゴンの小娘に、鬼の頂点である俺が負けてたまるか!」


 酒呑童子は怒り狂ったように立ち上がると、俺たちに向かって左手をかざした。だらんと降りている右腕を見るに、どうやら既に動かないようだ。


「そういうの、往生際が悪いって言うんだよ?」


 レフィーナの蔓が酒呑童子の背後の地面から伸びて、彼の背中に突き刺さる。


「これで全ての魔力を吸い上げる。そうすれば君も負けたことを認められるかな?」


 レフィーナの蔓が酒呑童子から魔力を奪う。

 しかし、酒呑童子の左手の先には漆黒の球体が生み出され始めていた。


「な、なんだ? 魔力が吸いきれない!」

「ぬぅ、これは生命力そのものを魔力に変換しておるようじゃ。みな、離れるのじゃ!」


 白露が撤退するように指示を出す。

 しかし、みんなが酒呑童子から離れても、一人だけ彼の正面に立ち続ける女性がいた。


「ミドリ? 何やってるんだ!」

「アキト様、あれは彼の最後の攻撃です。私はあの魔法と正面から戦ってみたい」

「はあ? どうしてだよ!?」

「試したい魔法があるのです。私がヒールラシェル山でグレンに敗北した時の私ではないと証明するためにも、やらせてください」


 こんなに時に変な意地を張りやがって。けれど、それだけあの敗北の記憶がミドリの心に深く突き刺さっているということなのか?

 こうなったミドリは何を言っても聞くとは思えない。


「無謀な挑戦ではないんだよな?」

「勝算はあります!」

「……よし。お前の全力で諦めの悪いあいつを分からせてやれ」

「はい!」


 ミドリの力強い返事を聞き届けると、俺は少し離れた場所から見守ることにした。

 あいつがやると言ったのだ。それなら、俺はあいつの契約者として――いや、違うな。ミドリの兄として見届ける。

 すると、ミドリと睨み合っていた酒呑童子が口を開く。


「……女。名前は?」

「エメラルドです。あなたは?」

「酒呑童子――いや、名は陽炎だ。感謝する。エメラルド」

「カゲロウ。私としては今すぐに降参してほしいところですが」

「ふっ、それは出来ぬ相談だ。どうやら俺はこの時代では異物でしかないようなのでな。ならばせめて、全身全霊をかけた戦いをしておきたい」

「その気持ち、共感は出来ませんが理解は出来ます。私も全力で答えましょう」


 ミドリは右腕を手刀にして振りかぶる。

 酒呑童子も生命力を振り絞るようにして叫ぶ。


「『暗黒魔法・極式冥界破』!」

「『神風魔法・天空斬』!」


 酒呑童子が放った漆黒の球体を、ミドリが新しい魔法で斜めに斬り上げる。

 次の瞬間、暗黒魔法が真っ二つに引き裂かれ、酒呑童子の左腕が宙を舞う。

 そして酒呑童子は、ばたりとその場に崩れ落ちた。

 ミドリのやつ、暗黒魔法を斬りやがった。神風魔法という名前が聞こえたが、会わなかった間に別種の魔法を習得していたのか?

 せいぜい空間魔法の新しい魔法が完成した程度だと思っていたので、俺は面食らってしばらくその場から動けなかった。


「ん? ミドリお姉ちゃん、離れて!」


 レフィーナが突然叫び声を上げる。

 ミドリはその声に驚きながらも、こちらへと飛んでくる。


「どうしたのですか?」

「あいつの身体、おかしいんだ。もう意識も無いはずなのに、どんどん魔力が増えている。ぼくもこれ以上は魔力を吸い上げられないし、このままだと何が起こるか分からない」

「何だよ、それ。爆発でもするってのか?」

「分からないけど、そうなりそうな感じの魔力の流れなんだ」


 話を聞いていた白露が両目を見開いて、うつぶせに倒れている酒呑童子を見る。


「ふむ……酒呑め。最後の最後まで往生際が悪い奴じゃ」

「何か分かったのか?」

「何となく予想がつくのではないか? あれは自爆じゃよ。あらかじめ、自分が意識を失うような状況になったら発動するように身体に仕掛けておったようじゃ。このまま放置すれば、とんでもない規模の獄炎魔法でここら一体が吹き飛ぶじゃろう」

「んなっ!?」


 冗談じゃないぞ。

 この山が吹き飛べば、まず間違いなく神社や町にも被害が及ぶ。そんなことは許容できるわけがない。


「何とかできないのか?」

「案ずるな。これはあやつの最後の悪あがきとでも言うべきものじゃ。爆発する前に奴の身体を完全に消滅させれば、貯め込まれた魔力も魔法に変換されずにこの地に霧散するはずじゃ」


 白露の説明を聞いて、ミドリが小さく息を吐いた。


「脅かさないでください。それなら、私がまとめて消滅させておきます」

「待つのじゃ」


 ミドリの肩を白露が掴んで止める。


「何ですか?」

「最後は我にやらせてくれ。結局我はそこまで役には立てんかったが、あやつとの因縁という意味では我が一番長い付き合いじゃ。どうかトドメは譲って欲しい」

「そういうことですか。では貴方に任せます、シラツユ」


 白露は頷いて酒呑童子に近付くと、両手を天にかざした。


「よもやこのような日が来ようとはな。おぬしから魔力を注がれて妖怪となり、長い年月を共に過ごしたというのに、我はおぬしを裏切って大地に封印したばかりか、こうして引導を渡すことになった。あの頃はこのような事態は考えてもおらんかった」


 白露の魔力が上空に集まる。

 俺でも感知できるほどの膨大な魔力。もしかすると、白露は今ここで自分が出せる最大量の魔力を使うつもりなのかもしれない。


「さらばじゃ、酒呑童子――いいや、陽炎よ。『火炎魔法・極式焔玉』」


 白露が両腕を振り下ろし、上空に作られていた火球が酒呑童子の身体へと落下する。

 超高温の炎に包まれて、酒呑童子の身体は骨も残らず消滅した。

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