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二章 ドラゴン巫女 十一話

 俺とレフィーナは言葉を喋るようになった白露と共にアパートへと向かう。

 今更だが、レフィーナは巫女の仕事をサボる形になってしまった。


「アキト様」


 上空からミドリとオリヴィアが舞い降りる。

 ヒナノに二人を呼ぶように頼んだが、こんなにも早く来てくれるとは思わなかった。


「ヒナノがすぐにアキト様を追いかけるように言ってきたのですが、どのような状況ですか?」


 俺が答えるよりも先に、隣を歩いていた白露が口を開く。


「我の力が戻ったのじゃ。少し落ち着いて話がしたい故、レフィーナの部屋まで向かっておる」

「なっ」

「シラツユちゃん、喋れたの?」

「本来の我はこういう存在じゃ。今までは本調子ではなかったからの。喋りたくても声が出なかったのじゃ」


 そういえば、何か言いたそうに口をパクパク動かしている時が何度かあったな。

 ヒナノに暗黒魔法の治療を頼んでいたところを見るに、ミドリの様に身体が機能不全を起こしていたということか。


「何だか古めかしいというか、老人みたいな喋り方ね」


 何気なくオリヴィアがシラツユの口調を指摘するが、今は老人でもこんな喋り方をする奴はいないと思う。オリヴィアだって128歳なのに俺たちと変わらないじゃないか。


「かれこれ900年以上生きておるからの。老人と言われるのは仕方ないかもしれぬのじゃ」

「きゅ、900年……」


 さすがのオリヴィアも、白露のとんでもない年齢に絶句する。

 この妖孤、そんなに昔から生きているのかよ。長命種族のオリヴィアたちですら500年くらいしか寿命がないのに、それを遥かに超える年齢だ。


「その割には、声は可愛いわね」


 あまり気にしていなかったが、オリヴィアの言う通り白露の声は綺麗な女性の声だ。

 風呂で身体を洗ってやった際にメスだとは気付いていたが、ここまで女性的な声で老人言葉を喋られると違和感しかない。


「おぬしも年齢のわりに見た目も声も若いじゃろう。同じことじゃよ」

「うっ……お姉さんの年齢知ってるの?」

「主殿がいつだったか言っておったのでな。じゃが、120歳程度では我から見れば小娘同然じゃ」

「主殿……ってアキトちゃん? 酷いわよ! 女の子の年齢を勝手に言うなんて!」

「ご、ごめん」


 素直に謝っておく。

 オリヴィアも年齢は隠したいタイプなのか。100歳を越えているにも関わらず20代の見た目なので、実年齢はあまり気にしていないかと思っていた。

 でも、女の子って見た目でもないだろう。


「む……アキトちゃん、謝りながら失礼な事考えているでしょう?」

「そ、そそ、そんなことないぞ?」

「いいわよ、もう。どうせ私はおばあちゃんですよ」


 オリヴィアが変ないじけ方をしてしまった。

 さっきから無言で俺を睨んでいるミドリが怖い。


「着いた。さ、入って、入って~」


 微妙な空気のままアパートに辿り着くと、レフィーナが自分の部屋の扉を開けて俺たちを招き入れる。

 基本的にミドリの部屋に入り浸っているらしいので、レフィーナの部屋はとても殺風景だ。


「それで? どうしてぼくの部屋に集まったの?」


 全員が腰を落ち着かせたところでレフィーナが問うと、白露はニヤリと笑う。


「レフィーナが我と一番背丈が近いからのう」

「へ? どういうこと?」


 レフィーナの疑問に答える間もなく、白露の身体が炎に包まれる。


「火炎魔法!? アキト様、離れてください!」


 ミドリが慌てて俺の前に出る。


「慌てるな、ミドリ。我は敵意など持っておらん」


 白露の嘲笑うような声が聞こえた後、炎の中から金色の髪の美しい少女が姿を現した。

 炎の様な赤い瞳に、白くきめ細やかな肌。髪と同じ金色の毛で覆われた九つの尻尾。

 レフィーナと身長や外見年齢は同じくらいだが、より女性的で凹凸がハッキリとしているため、俺は彼女の裸体を見入って生唾を飲み込んだ。

 同時に、オリヴィアの手が俺の視界を遮る。


「見ちゃダメよ、アキトちゃん。レフィーナちゃん、服を貸してあげて」

「う、うん。ぼくが着ているのと同じ巫女服でいい?」

「うむ。すまんが、尻尾の穴を開けてもよいか?」

「どうだろ、借り物なんだよね」

「いいですよ。ツネヒサ様には私から話を通しておきます」

「そうか、助かる」


 ごそごそと衣擦れの音だけが部屋に響き、しばらくしてオリヴィアの手が俺の目から外される。

 目の前にはどこか神聖な雰囲気を漂わせる狐巫女の姿があった。


「……なあ、最初から俺は部屋の外で待っていれば良かったんじゃないか?」

「主殿を驚かせたかったのじゃ」

「驚いたけど、オリヴィアにすぐ視界を遮られたぞ」

「なんじゃ、我の裸をもっと見たかったのか? せっかく人の身体に戻れたのじゃ、見るだけとは言わず、今夜相手をしてやろうか?」

「んなっ!」


 な、なんてことを言いたがるんだ。

 ミドリとオリヴィアに視線を向けると、二人とも真顔でこちらを見ている。

 やめてくれ、そんな顔で俺を見るな!


「み、魅力的な提案だけど……俺、心に決めた人がいるから」

「ふふっ、知っておる。我が狐だった間、こちらが返事できぬのをいいことに、散々ロゼとかいうハーピーの魅力について語ってくれたではないか」

「お、おい! その話は!」


 くそっ、大失態だ。

 白露は知能の高い妖怪程度に考えていたので、散々俺の妄想話を聞かせたんだった。


「しかし困ったのう。この一か月、我と主殿はいつも風呂を共にしていたが、それはアルドミラに渡った際にはロゼに伝えても良いのじゃろうか?」

「や、やめろ! 俺を脅迫するつもりか!? ていうか、狐姿だったんだから、ノーカンだろ!」

「薄情じゃな、主殿。あんなに念入りに我の身体を洗ってくれていたというのに。それこそ口で言うのは憚られるところまで洗われてしまったが、中々に気持ちよかったぞ?」

「う……ぐ……ロ、ロゼには……言わないでください」


 俺はどう言い返せばいいか分からなくなって頭を下げる。

 降参。俺の負けだ。


「シラツユ、アキト様をいじめるのはその辺にして本題に入ってもらえますか?」

「人聞きが悪いのう。我は事実を言っただけじゃぞ?」

「そのようですが、この場にアキト様の契約者全員を集めたのはその話を聞かせるためではないでしょう? それとも、その姿を見せるためだけに集めたのですか?」

「道理じゃな。この姿を見せるために集めたわけでもあるのじゃが、それだけではない。そろそろ主殿をからかうのは止めにしようか」


 た、助かった。

 小声でミドリにお礼を言うと、ミドリは「ロゼさんとの話、私は聞いていませんよ」と返して来た。

 そ、そうだったか?

 てっきりもう話したものだと思っていたが、言われてみれば話していなかった気もする。

 それを言ったら、オリヴィアやサラとの話もしていないし、話していない事だらけだ。

 この話が終わったら、順を追って説明しよう。


「まずは、我についてじゃな。気付いているとは思うが、我は人間たちの言うところの妖怪に分類される種族じゃ」

「妖怪……ヤマシロで暮らしていると度々耳にする言葉ですが、実在したのですね」

「もうこの世にはほとんど生き残ってはおらぬじゃろうが、悪鬼がこの地を支配していた時代は、それはたくさんの妖怪が居たのじゃぞ?」


 船で見た映画そのままの世界だったということか。


「普通の種族と妖怪はどう違うんだ?」

「良い質問じゃ。それにはまず、鬼について話さねばならん」

「鬼って、今もいるよな。あの種族も妖怪なのか?」

「そうじゃ。大昔、妖怪と呼ばれたのは鬼に連なる種族じゃった。鬼と大鬼で力は違えど、全て妖怪と呼ばれていた。そして、その中でも飛び抜けた力を持っていたのが悪鬼じゃ」

「悪鬼?」


 俺がミドリとオリヴィアに視線を向けると、二人は同時に首を横に振った。

 俺よりも長くヤマシロで生活していた二人も悪鬼については知らないようだ。


「特級を超えた極級種族。エンシェントドラゴンと同格の力を持った悪しき大鬼じゃ。その悪鬼には強大な魔力の他に、魔獣を自身のしもべとして強化する能力があった。その力で生み出されたのが、今の時代に皆が語り継いでいる妖怪じゃ」


 悪鬼によって後天的に進化した種族ということか。


「なら、白露も?」

「元は悪鬼の手下じゃったよ。今は違うがな」

「もしかして、鬼たちと一緒に人間側に裏切ったのか?」

「当たりじゃ。そして最後は、悪鬼を道連れにして自分を地の底に封印したわけじゃが、それを主殿が解いてくれたのじゃ」

「は?」


 俺が封印を解いた?


「ア、アキトちゃん、もしかして!」

「あの時アキトくんが壊した祠って、シラツユが封印されていたの?」


 オリヴィアとレフィーナが同時に声を上げる。

 間違いなくあの祠の事だろう。

 大妖怪が封印されているとは言っていたが、まさかそれが白露だったなんて。

 そこで、俺はある事実に気付いた。

 白露は自分と道連れに悪鬼を封印したと言っていた。つまり、白露がここにいるということは……。


「アキト様、ここに来る前にそんな事をしていたのですか?」

「う、うん、まあな……」


 どうする?

 何故か白露は黙っているが、とんでもないことになっているんじゃないのか?

 悪鬼ってのがエンシェントドラゴンと同格だってことは、ギドメリアの魔王がもう一体復活したようなものだ。


「ふむ。主殿は事の重大さが理解出来ているようじゃな」


 こいつ、俺の表情を読みやがった。

 俺は観念して気付いたことを話す。


「白露は悪鬼を道連れにして祠に封印されていたんだよな。ということは」

「悪鬼も復活したってこと!?」


 レフィーナが驚いて会話に割り込んでくる。

 オリヴィア、ミドリの二人も、唖然とした表情で俺を見た。


「お、俺のせい……だよなぁ」


 もしかして、ギドメリアの魔王を倒す前に、悪鬼を倒しに行かないといけない流れだろうか?


「そう落ち込むでない。悪鬼が蘇ったのは主殿のせいではないのじゃ」

「えっ? だって、俺が祠を壊したから白露の封印が解けたんだろ?」

「そうじゃ。じゃが、悪鬼の封印はその少し前に解けてしまっていたのじゃ。奴だけが封印をすり抜けて出て行き、我は封印の中に取り残されていた。じゃから主殿が封印を解いてくれたのは我にとって僥倖だったのじゃ」


 そう言って笑うと、白露は狸の魔獣が封印されていた彼女の魔力を奪っていった話を始める。

 白露の封印が解けるところまでを細かに説明され、俺たちはやっと現状を把握でいた。


「では、悪鬼は今どこにいるのかは正確には分からないのですね?」

「そうじゃ。奴は魔力圧縮が出来る上に妖術を使うので、本格的に活動を再開するまでは場所の特定は難しいじゃろう」

「となると我々がするべきは、守りを固めるくらいしかありませんね」

「うむ。そしてもしも悪鬼がまた活動を再開したら、奴を討伐するのに手を貸して欲しいのじゃ」

「私は構いません。ひっそりと隠れて暮らすのなら手出ししませんが、イズモの皆さんに危害を加えた場合は許しません」


 相変わらず、ミドリが殺意高めに答える。

 だが、それだけイズモの生活が気に入っているからとも言える。最近はたまに笑顔も見せてくれるようになってきたし、悪鬼には出来る限り隠れ住んでいて欲しい。


「お姉さんも、もしも戦いになるようなら、出来る限り協力するわ」

「ぼくも。カナやお爺ちゃんがいるここを守りたい気持ちは一緒だよ」


 全員の視線が俺に集まる。

 この流れで俺が断るとでも思ったのか?

 いや、予定調和というか、けじめの様なものだろう。あえて口に出すことで、決意を固める儀式なのだと思う。


「白露、俺とお前は契約者同士だ。手を貸して欲しいだなんて、水臭いことを言うな」

「主殿……」

「俺が手を貸さないわけないだろ? 何百年にも渡る因縁を、俺が断ち切ってやる」


 こうして俺たちは、悪鬼討伐へと気持ちを一つにするのだった。

余談ですが、契約者たちの身長はオリヴィア、ミドリ、シラツユ、レフィーナの順番です。シラツユとレフィーナはほとんど同じです。

外見年齢は、オリヴィアが20代半ば、ミドリが20前後、シラツユとレフィーナが15歳くらいです。レフィーナはアキトと初めて会った時からかなり成長していて、大人びて来ています。

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