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三章 ワーキャットの里帰り 十五話

「トウマ、アキト、お喋りは後だ!」


 上空から巨大な鷲に乗っているアルラウネが叫ぶ。

 見ると、ドラゴンが俺たちに向かって暗黒魔法を放とうとしているところだった。先ほどと同じ漆黒の魔力を放射状に発射する気に違いない。


「ヤバい。みんな避けろ!」

「いいや、アキト。大丈夫だ」

「えっ?」


 俺が聞き返したのと同時に、後方から光が押し寄せる。

 夜の暗闇をかき消す光の激流。膨大な魔力の塊がドラゴンに直撃する。

 ドラゴンは攻撃しようとしていたところだったので、回避が間に合わなかったようだ。光の激流を腹に受けて数百メートル後方に吹っ飛んだ。


「おい、今の魔法ってまさか……」


 俺は振り返って、光の魔法が飛んできた方向を確認した。


「お、お待たせして申し訳ありません! ヴェンデルガルト少尉、ただいま到着ですわ!」

「アキト殿、ご無事ですか!?」


 俺たちの隣に、エンデ少尉が馬車を引いて到着する。馬車から顔を覗かせたボニファーツ中尉が俺の無事を確認してホッとした顔をした。


「ふん。アキト、あんた何勝手にやられそうになってるのよ?」


 そして馬車の屋根の上に、小生意気な顔をした人間の少女が立っている。

 まさか俺が、こいつに助けてもらう事になるとはな。


「ありがとう。お前が来てくれるなんて思わなかったぞ、ハルカ」

「何言ってるのよ。あんたが呼んだんでしょうが」


 ドラゴンを吹き飛ばした光の魔法はハルカの宝石魔法か。俺の空間魔法は奴の鱗に弾かれて無効化されるのだが、宝石魔法は違うようだ。


「確かに呼んだけど、まさかこんな北西の外れまで来るとは思ってなかったよ。カールハインツ中将の隊に合流しなくていいのか?」

「そっちはリクハルドとオーラに任せたわ。それと東側はゲルミアがアルベールと一緒に暴れてるから問題なし。それならあたしはあんたのところに来るに決まってるでしょ?」


 ハルカはいたずらっ子のように歯を見せて笑う。

 本当に子供の様に可愛く笑う奴だ。馬車の上にいなかったら頭ぐらい撫でてやったかもな。


「それにしても、アルドミラの勇者の力には脱帽ですよ。あのドラゴンを一撃とは」

「何言ってるの、ボニファーツ中尉。あの程度でドラゴンが倒せるわけがないでしょ」


 ハルカの言葉と同時に、吹き飛ばされたドラゴンが立ち上がり怒りの咆哮を上げる。宝石魔法が直撃した胸の部分は鱗が砕けて血が流れているが致命傷には見えない。


「ほらね?」

「そ、その様ですね……どうしますか? 我々だけ全速力でとばして来たので、本隊が到着するまであと10分はかかりますよ?」

「大丈夫よ、あたしの分隊とアキトがいれば絶対に負けないわ」


 ハルカは馬車の上から飛び降りると、こちらを睨んでいるドラゴンへ向かって歩き出す。

 俺はウェインから降りると、ハルカに駆け寄った。


「ハルカ、無茶はするな。とにかく時間を稼ぐことだけを考えて援軍が到着したら総攻撃だ」

「嫌よ。そんなことをしたらどれだけの被害が出ると思ってるの? あいつの攻撃はあたしたちじゃないと対処できないわ。ボニファーツ中尉、本隊が到着したら、森へ突撃しなさい。そっちに他の敵がいるんでしょ?」

「り、了解です。ハルカ中尉」


 ハルカの奴、昇進したのか。相変わらずあまり言う事を聞いてくれないが、今回はハルカが言っていることの方が正しい気もする。


「仕方ないか……俺と、ハルカ、それと何でいるのか知らないが、トウマもやれるのか?」

「任せてくれ。俺にはウェインとジェラード、それにアザミがいる。全員素早さ自慢なんだ。あいつの攻撃がいくら強力でも、当たらなければ大丈夫さ」


 あの大きな鷲はジェラードというのか。それに乗っているのはレフィーナの娘たちの長女であるアザミ。無茶さえしないでくれればスピードによる撹乱が期待できそうだ。


「アキト、あたしの分隊はトウマだけじゃないわよ」


 エンデ少尉の馬車から、もう一人の人物が下りてくる。

 見慣れた栗色のショートカットの女性。トウマがいるので頭の片隅ではもしかしてと思ってはいたのだが、こんなところで出会うはずがないという想いの方が強くて違和感しかない。


「カレンか?」

「それ以外に誰がいるのよ」

「いや、でもカレン、お前が戦場に――」

「アキト、来るよ!」


 カレンに理由を聞く前に、ドラゴンが翼を広げてこちらへ突っ込んできた。

 両翼に黒い魔法を纏っている。


「『暗黒魔法・冥界十字斬』!」


 一定距離まで近付いたところで、ドラゴンは翼から暗黒魔法の斬撃を飛ばして来た。

 十字に重なった斬撃が回転しながら俺たちへと迫る。魔力感知が無くても分かる。あの魔法は最上位魔法だ。


「ここは任せて。『深淵魔法・不可逆領域』!」


 カレンは俺たちの正面に赤黒く禍々しい壁を生み出した。そこに直撃したドラゴンの暗黒魔法は、吸い込まれるように消滅する。


「なっ!?」


 不可侵領域ですら防げない暗黒魔法を消滅させただと?

 カレンの魔法に俺だけでなくドラゴンも驚いたようで、それ以上距離を詰めようとはせずに、空中に留まった。


「勇者の小娘。何だ、その女は?」


 ドラゴンが警戒するようにハルカに尋ねる。


「ふふん。さすがのあんたもカレンの魔法には驚いたようね。いくらあんたの鱗でも触ったらただじゃ済まないわよ」

「ちっ、エメラルドの契約者に勇者ハルカ、それに闇属性を使う女か。さすがに分が悪いな」

「あら? 誰がそれだけだって言ったの?」


 ハルカが不敵に笑う。

 それと同時に、ドラゴンが何かを感じたのか真上に顔を向ける。

 次の瞬間、ドラゴンの右目から赤い血が噴き出した。ドラゴンは痛みと怒りを混ぜ合わせたような叫び声をあげた。


「今よ、畳みかけるわ! 『宝石魔法・虹色の閃熱破』!」


 ハルカが巨大な虹色に輝く宝石を魔法で出すと、そこから極太のビームのようなものが発射された。

 しかし、ドラゴンは呻き声をあげながらもその攻撃を事前に察知したように回避する。


「嘘っ!? あの状態で避けられるの?」


 ハルカがとっておきを避けられて驚きの声を上げた。

 やはりあのドラゴンは侮れない。怒り狂っているように見えて、常に冷静にこちらを観察している。


「アキト、今がチャンスだ。行くぞ!」

「お、おう! 『疾風魔法・風走り』!」


 俺は再び風を足に纏うとドラゴンに向かって駆け出した。アザミを乗せたジェラードとトウマを乗せたウェインも疾風魔法を使って共に接近する。

 十分な距離まで近付いたら、一斉に魔法で攻撃を開始。

 しかし、ドラゴンは右目を潰されながらもこちらの位置を完璧に把握しており、最小限の動きで魔法を弾いていく。


「ダメだ、鱗が硬すぎる」

「もう片方の目を狙え、トウマ! 『空間魔法・虚空閃』!」


 ドラゴンは目を狙われていることが分かっているので、頭を素早く動かして虚空閃を弾く。


「人間が調子に乗るなっ!」

「ジェラード、ウェイン、下がって!」

「『氷結魔法・絶対氷壁』!」


 アザミが空中から指示を出し、ドラゴンに近付きすぎていたジェラードとウェインが即座に後方へ回避して氷との激突を避けた。


「またこれかよ! 気を付けろトウマ、氷ごと攻撃してくるぞ!」


 さっきは不意打ちでやられたが、もう油断しない。分かっていれば対処は可能だ。


「――私に任せろ、アキト」

「え?」


 上空から女性の声がする。

 サラと契約した祝福で『ワーキャットの聴力』を得ていたおかげでわずかに聞き取れた声は、とても聞き覚えのある凛とした声だ。


「『雷鳴魔法・天雷』」


 ズドンと大きな音を立てて、ドラゴンに天空から雷が落ちる。

 俺は分からなかったが、ドラゴンは魔力感知で上空から魔法が迫っていることに気付いたようだった。しかし、あまりの魔法の速さに避けるのが間に合わずに翼に直撃して地に落ちる。


「今よ! くらえ、クソトカゲ!」


 天使の輪と翼を出したハルカが、待っていましたとばかりにドラゴンに斬りかかる。両手に持っているのは以前ドレンで一緒に訓練している時に自慢してきたゲルミアさんとリクハルドさんお手製の二振りの魔剣だ。

 しかし、ドラゴンは素早く起き上がって左目を狙ってきたハルカの剣を左腕の鱗で受け止める。


「しぶっといわね! さっさとくたばりなさいよ!」

「黙れ、小娘が!」

「うわっ!」


 ドラゴンは腕力でハルカを弾き飛ばすと同時に、後方へ飛び退く。

 すると、先ほどまでドラゴンがいた場所に何かの魔法が降り注いだ。恐らくは疾風魔法だ。


「『連式冥界破』!」


 ドラゴンは上空に向かって暗黒魔法を簡略化して放つと、俺たちから逃げるように北の空へと飛び去って行く。


「え? ちょっと、嘘でしょ、この状況で逃げる気!? アキト、トウマ、じゃんじゃん攻撃しなさい!」

「ハルカちゃん、深追いは禁物だよ。そもそも、後ろ向きのドラゴンに効く攻撃を持っているのはハルカちゃんだけだろう?」

「あたしはもう、ほとんど魔力が残ってないのよ!」

「なら仕方ないだろ? 諦めようよ」

「ううぅ~、今日こそは倒してやろうと思ってたのにぃ!」


 ハルカは悔しそうに地団駄を踏んでいる。

 俺は血気盛んなハルカを懐かしく思いながら、張り詰めていた緊張を解くように息を吐いた。

 すると、東の地平線から太陽が顔を覗かせ、陽光がリネルの里を照らしていく。

 ドラゴンとの戦いでずいぶんとこの里を破壊してしまった。場所を選んでいる余裕が無かったとはいえ、ここに住んでいる人には申し訳ないことをしてしまったな。


「そうだ、西の森でレフィーナやオリヴィアが戦っているんだ。助けに行かないと」


 彼女たちのことだから無事だとは思うが、その他の人たちの安否も気になる。今ここにいる戦力が一気に森に雪崩れ込めば、ギドメリア軍など簡単に撃退できるだろう。


「その必要はないぞ」


 上空から、言葉と共に一人の女性が舞い降りる。

 桃色の髪の毛と翼に彩られた、世界一美しい女性がそこにいた。


「ロ、ロゼ?」

「久しぶりだな、アキト」

「……あ、ああ。本当に久しぶりだな」


 会わなかったのは半年ほどのはずなのだが、もう何年も会っていなかったような感覚がある。

 彼女の突然の登場に唖然としていると、彼女は首を傾げた。


「理由を聞かないのか?」

「えっ? あ、うん、確かにそうだ。どうして、必要がないんだ?」


 危ない、危ない。

 トウマとカレンの登場ですら意味が分からないのに、ここにきてロゼまで現れたものだから、俺の脳がフリーズしそうになってしまった。


「私が上空から確認したからだ。元々、向こうは終始優勢だったようだが、ドラゴンが撤退したタイミングで生き残っていたギドメリア軍は全員北東方向へと撤退した」

「そうか、良かった。ハーピーの視力は流石だな、上からの援護も助かったよ」

「あのドラゴンがたいしたことなかっただけだ。グレン並みの強さだったら私ではどうしようもなかっただろう」


 そこでグレンを比較に出すはどうかと思う。あいつに匹敵する強さを持っているのは、それこそ魔王くらいだろう。


「さすがね、ロゼ。魔王軍の四天王をたいしたことないだなんて」


 ハルカが地べたに座り込んで休みながら言う。


「四天王?」

「ギドメリア軍の四人いる大将の事よ。そんなことより、アキト、なんか食べるもの出してよ。お腹空いたわ」


 そんなことよりで終わらせられる内容じゃなかっただろ。何だよ、四天王って。またRPGみたいな設定出してきやがって。


「ちょっとは我慢しろよ。先に森にいるみんなの状況を確認したい。怪我人がいると思うし」

「そんなの、行ったところであたしやあんたにはどうしようもないことじゃない。それともあんた、回復魔法使えるようになったの?」

「それは……」


 使えない。

 けれど、だからといってここで先に休憩を取るというのはどうなのだろうか?


「アキト、ドラゴンの相手はあたしたちしか出来ないことなのよ? なら、もしもドラゴンが再び攻めてきた時のために、あたしたちがすることは一早く魔力を回復させることなのよ」

「た、確かに」


 魔力の回復は必要だ。

 とくにハルカは強力だが消費のとても激しい魔法を使う。回復スピードを速めるためにも、休憩と食事は必要不可欠だ。


「分かったら早くなんか出してよ。あんたに呼ばれてから、あたしたちがどんだけ無茶苦茶なスケジュールでここまで来たと思ってるの? 少しは労いなさい」


 ハルカに睨まれて気が付いた。彼女たちは王都ボルテルムの会議後に中将に呼ばれて来たのだとすれば、他のハウランゲル軍よりも早くにこの場に到着したのは完全にイレギュラーだ。

 それこそ、休憩や睡眠の時間も削ってやって来たに違いない。

 俺はチラリと森の方向を見る。


「アキト殿、森の方は私にお任せください。ハルカ中尉の言うように休息を取るべきです」


 ボニファーツ中尉の一言が決め手となり、俺はハルカの横に腰を下ろした。腹が減っては戦が出来ぬとはこのことだ。


「カップ麺でいいか?」

「ええ? ……仕方ないわね、カレー味はあるの?」


 何でこいつはこんなに偉そうなんだ。

 脳内で文句を言いつつも、俺はハルカやみんなに食事を提供した。

ドラゴンの中での最終的な警戒レベルは、ロゼ>ハルカ>アキト>カレン>トウマたちでした。

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