籠の鳥
紙芝居なので口語訳されてる設定です。
疑問が疑いになってから、私は人々の話を注意して聞くようになった。
…でも。そう簡単に上手くいくものではない。
「いやぁ、今年は当てたね。きっと豊作だ。」
「そういえば今年生まれた子、そうそう花ちゃん。立っちができるようになったんですってね。」
「明日、俺、町まで買い物行ってくるよ。」
「昨年壊れちまった農具あるかい?」
「あー。まだ使えるな。このくらいなら簡単に治せるだろう。」
「虎くん、トンボが蜘蛛の糸に引っかかっているの見つけてさ、助けようとして派手に転んだらしいんだ。」
「あら、大丈夫なのかしら。」
「その後ケロッとしててな、まんま農作業手伝いだしたらしい。若いもんにはかなわんなぁ〜」
「最近紅葉のお裁縫の腕、上がってきたのよ?ほら、繕ってもらったの。」
………一生懸命に考察して、でもこんなありふれた会話に答えなんて無くて、ただ疲れるだけだった。
数日同じような状態が続き、私は大分真実を知ろうとするのを諦め始めていた…
***
無論、明日何が起こるかなんて分からない御時世。
一寸先だって分からないんだから。
よもや、ずっと隠されてたことを教えてもらえる、なんて思いもしなかった。
***
朝のこと。
畑仕事に出かける前のお父さんが
「いやぁすまんな。そろそろ寿命なんだ。作っといてくれないか?」
断る理由などない。
「はい。お父さん。喜んで。」
***
「だいぶできてきた。」
と、独り言を呟いた時
ふいに外が騒がしくなった。
…かと思えば
「紅葉!ちょっと来て!お願いだから出てきて!お面は忘れないこと。良いわね⁈早く‼︎」
何時も穏やかなお母さんが焦った声で呼んでいる。
私は慌てて戸を開けた………
***
「今日はここまで〜。続きは明日のお楽しみ〜」
パタリとベレー帽の彼は蓋を閉めた。
非常に綺麗で繊細な絵だった。これを作り上げるのにどのくらい時間がかかったのだろうか。もしや、彼の本職は画家なんじゃないだろうか、なんて思った矢先。
「えー、おじさんまた絵、描き終わってないの?」
子供達が不服そうに尋ねた。
彼はバツが悪そうに頭を掻きながら
「んま、そういうこと。」
と言って自転車の荷台から水飴を出し、手際良く配り始めた。
「今日は描き終わってなくてごめんだから御代は要らないよ。さ、貰ってって。」
…紙芝居ってそういうものだったか?
「ねえおじさん、なんでお母さん焦ってたの?」
彼はその子の口に水飴を放り込みながら
「それは明日のお楽しみだってば。ほら。そろそろお家に帰りな。」
と言って笑って躱した。
子供はもごもごとさよならを言って去っていった。
そろそろ俺も帰るか、と立ち上がった…が
「兄ちゃんや。ちょっと待ちな。」
…呼び止められてしまった。
「何か御用ですか?聞かせていただいた御代なら払いますが。水飴はちょっと。」
そう言いつつポケットから御財布を出そうとした俺に対し、彼は大袈裟に手を振り首を振って辞退した。
「いやいや。俺は自分の作った紙芝居を聞いてもらうことが何よりもの"御代"だから。それより、兄ちゃん。」
なんですか、と口が開く前に
「この紙芝居の元になった話を君は知っているんじゃないかい?」
ぴくりと肩が上がる。
「…いや、覚えていないのかもしれない。
でも…
最近夢を見なかったかい?」
全てを見透かすような目。
断ることなどできない声の圧。
「勿論、
真紅の瞳の女の子の夢だよ。」
ゴクリと唾を飲み込んだ。
気付いた方もいらっしゃると思いますが、これまで一切男の子主人公君の名前でてない(ーー;)のです。
僕、書いてて今更気付いて焦ってます。
次回名乗ってくれるかな(_ _).。o○←コラッ