??話 カルネラ・アルスバーンの記憶
お蔵入りになった話です。4月に書いたっきり放置してました。
アルストロメリアは最初、敬語をつかってましたが、カルネラの影響で口が悪くなったという設定でした。
私の名前はカルネラ・アルスバーン。王立研究所、本だらけの研究室の一室に私はいた。弱冠18歳という若さで博士号を取得した私はこの王立研究所で勤めていたのだ。
「世界5分前仮説ですか……」
その前に白髪の教授-ボーア・シュトレイゼンがパイプタバコを吹かしながら話をしていた。
「ちょっとした、興味本位だよ。同じ科学者として若い者の意見は聞きたくてね」
「科学者ではなく術者です。ボーア教授」
「ああ、そうだった。我々は想いの力を研究する術者であったな」
建前上、術者を名乗る。王立研究所の職員は皆が想いの力に興味があるが、科学者らしい研究をする人もいるのである。ゆえに、積み上げられた本には数式しか書かれていないものもあるのだ。
「世界5分前仮説って言うと、世界が5分前に誕生したというやつですね」
「そうだ。ただし、人々の記憶はすでに記憶されてる状態で誕生するのだ。たとえ、君が5分前にコーヒーを飲んでいたと記憶していようとも、その記憶は植え付けられたものとも考えることができる」
「それでは否定も証明もできないじゃないですか」
「それもそうだ。ただハルヴェイユ教授を見ただろう。想いの力だって、これが意味するのは何だと思う?」
「世界5分前仮説が有り得るということですか」
「彼ならやりかねんだろ。だって、喋るカエルだ。何でもありなんだよ、この世界は」
「そんなまさか」
ハハハといって教授と笑った。そもそも5分前、過去が存在するかなんていままで考えたことがなかった。
◇
とある日のことである。《想いの力》の実験をしていた。
「では、次は1000本の剣を召喚してください」
そう言うと、術者は詠唱する。
「《完全な世界の再現》」
すると、並行世界から顕現されたであろう無数の剣がそこに召喚された。そして、消えていくのである。
――2秒か。召喚されてから消えるまでの時間。
では――
こうやって《想いの力》を知っていった。
◇
今日からはちょっと特別な実験を始めた。死者の蘇生である。《不完全な世界の顕現》により死者が復活するのか実験していた。
「被験者はエルワード・ユッケ。強盗殺人の死刑囚か」
私はその被験者を椅子に固定すると頭巾を被せて視界を塞いた。そして、彼の首元をナイフで抉りとったのだ。返り血が私にもかかった。人を殺すのには抵抗はない。私は科学者だ。モルモットはもっと殺した。人間の一人くらい、なんてすでに私は壊れているかもしれない。
被験者は失血死した。死亡を確認したあと《想いの力》を詠唱する。
「《不完全な世界の顕現》」
それにより被験者が〈死ななかった世界〉を召喚する。実験は成功した。死者も復活できる。これで誰も死なない世界が創れるのではないかと思われた。
この実験を数回繰り返した。生きては死ぬ被験者を見てもすでに何も感じなくなっていた。私の心はもうないのだ。
そうして、とある異変に気づいた。
「あれ?」
〈死ななかった世界〉を召喚したはずなのに、〈首元が抉られた世界〉が召喚されたのだ。
何度繰り返しても〈首元が抉られた世界〉が召喚されたため、被験者は蘇生不可となった。てか、魔力を使いすぎたか、意識が……。目が覚めたら冷たい死体の横で眠ってしまっていた。
◇
次の日、私は《完全な世界の顕現》による実験をした。《完全な世界の顕現》は、《不完全な世界の顕現》などで歪まされた世界を元の世界に戻す力だ。
昨日殺してしまった死体に詠唱をかける。
「《完全な世界の顕現》」
すると、蘇生不可であったはずの死体は生き返ったのである。
「これは時間遡行ではないか?」
ただ、私はその時気づかなかった。死体はそのままに別の並行世界の被験者を召喚したことに。
*
世界を召喚するということは時間を操作するのと同じことだったのだ。
「これを俺にかけたら、俺はタイムトラベルできるのか……?」
それでも私はタイムトラベルをしてみたかったので、自分に《完全な世界の顕現》を詠唱した。
「《完全な世界の顕現》」
淡い小さな光が雫となり落ちる。その波紋の作りだす波により世界が揺れるのだ。だんだんとだんだんと、現実が消えていき新たな世界が現れた。
「…………な、何か? 変わったのか」
辺りを見渡してみるが何の変化もない。実験は失敗した。そう思った時だった。
「うおおおおおりゃあああああ」
後ろから声がした。そして次の瞬間、私は少女にドロップキックを食らっていた。そして正面から転がっていったのだ。
「どあああああ!」
「私の睡眠を邪魔するなんてどこのお人ですか? 世界を創造し、誰にも邪魔されない世界を作り上げたというのに、ピンポイントで私を召喚するなんて」
見てみると身長130cmくらいの髪長い、白いワンピースを着た少女がいた。
「な、なんだ貴様は!?」
「私? 私ですか? 私はアルストロメリアと申します。神です」
少女は丁寧にお辞儀した。