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一輪の花  作者: 雨井蛙
五章 最終決戦
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42話

 マリーは自室の机に向かっていた。後ろ手に髪をひとつに束ねている。読んでいるのはあの喋るカエルが執筆した『想いの力概論』。《想いの力》を綴った書籍には並行世界論についての記載もある。


「過去、現在、未来が同時に存在するのは、想像が並行世界の一部という考えからも導けるわね。リンゴを食べる前と食べ終わった後を想像できるなら、並行世界には過去も、現在も、未来も同時に存在するということ。でも――」


 (未来を想像できるのは「預言者」にならないかしら……? 私が想像した世界が未来と一致するなら、それは「預言者」になる。でも、あくまで想像は並行世界の一部なのだから、想像した世界と現実が一致するわけではない)


「今、現在も『もし〜〜だったら』っていうIFの世界が考えられるように、未来も無数のIFの世界があるのだわ。私はそれらの一つの世界しか体験出来ない」


 過去も同じように考えられる。人々の過去とは体験した記憶によって一つしか存在しないように感じる。しかし、過去についても『もし〜〜だったら』というIFの世界が存在するわけだ。過去・現在・未来には無数の並行世界が存在し、それらを区別することはできない。よって、過去=現在=未来が導ける。

 それでもマリーは納得できなかったようで、読んでいた本をパラパラとめくるのだった。適当に開いたページには並行世界について次のような解釈が記されていた。


 ――――

【並行世界の解釈】

 宇宙(世界)が多数存在するというものです。量子論における『シュレディンガーの猫』において、箱の中の猫を「生きてもいて死んでもいる状態」という重ね合わせの状態から、箱を開けたときに「生きている世界」と「死んでいる世界」に分岐して、猫が生きていたら生きている世界に自分はいて、猫が死んでいたら死んでいる世界に自分はいると解釈するものです。これは多世界解釈と呼ばれます。


【世界線の導入】

 世界を線であらわします。世界が分岐すると言えば、二股(<)を想像されますが、この線を延長して平行に書いてると考えて下さい。過去―現在―未来の順で表すなら、世界α(アルファ)は次のように表されます。


 α――過去――現在――未来――


 こういった世界(宇宙)が複数存在するというのが並行世界です。たとえば、世界α(アルファ)、世界β(ベータ)、世界γ(ガンマ)は次のように並行に存在します。


 α――過去――現在――未来――

 β――過去――現在――未来――

 γ――過去――現在――未来――


【時間のずれの導入】

 過去、未来は果たして想定する必要があるのでしょうか。『シュレディンガーの猫』において箱を開けたときに世界が分岐するのだとしたら、箱を開けることを1時間後に延長したり、1年後に延長したりすることもまた分岐になると考えます。つまりは、世界α(アルファ)、世界β(ベータ)、世界γ(ガンマ)は次のようにも表されます。


 α――過去――現在――未来――

 β――現在――未来――

 γ――――――過去――現在――未来――


 世界β(ベータ)が箱を開けるタイミングを早めた、世界γ(ガンマ)が箱を開けるタイミングを遅めた世界です。これらが同時に存在するのが並行世界でしたから、過去・現在・未来も同時に存在することになります。ゆえに、現在という認識だけで時間が形成できます。今度は縦にみるのです。世界を線で表したのなら、縦にみると、点になるはずです。


 世界α(・)世界β(・)世界γ(・)


 と、これが世界の最小単位と言えるでしょう。世界は過去も現在も未来も同時に点在してることになります。――――


 *


 そうしてマリーは読書を終えると、準備に入る。部屋の広い空間に向かって手をかざし目を瞑る。世界を想像しその世界に渡るのだ。マリーは一つ心に決めていた。後継者カルネラ・アルスバーンを止めることだ。

 マリーは全ての並行世界に渡り、全ての世界を平和にする。


「メイドたちに別れの言葉は……いや、いらないか。別に私の存在が消えるわけじゃない……」


 マリーは想いを噛み締める。また戻ってくればいい。《新たなる世界の複製》があればこの世界を創造することだってできる。マリーにとって、とてつもなく長い旅になってもこの世界にとっては一瞬だ。


「《正当なる観測者の権限》」


 マリーの想いは結実(けつじつ)し、新たな想いの力を目覚めさせた。《想いの力》の一つ、《正当なる観測者の権限》は体ごと別の並行世界に移動する力。いわゆる逆召喚である。

 もうマリーは迷わない。誰に言われようともマリーの決めた『生きる意味』なのだから。

 マリーがこの世界にいる意味――――それは全ての世界を『完全な世界』に変えることであった。

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