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一輪の花  作者: 雨井蛙
一章 偽りのマリー
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00話 追憶

 そこは何もない世界。何も存在しない高次元の世界に一人の少女-Amaryllis(アマリリス)がいた。


「よし出来たわ!」


 少女は何かを(つく)っていた。その黒い透明の球体は、まるでスノードームのようで中に小さな光が点々としていた。その光は星々で銀河そのものであり、少女が創っていたのは、世界そのものであった。少女は〈神〉であったのだ。


「ね、見てよ、ハルヴェイユ。誰も悲しまなくて、誰も苦しまなくて、誰も死なない世界を創ったわ。完全な世界よ。」


 神-アマリリスの使いであるカエルが出てくる。そのカエルは神の使い-天使でありながら、知恵の神でもあった。アマリリスに世界の創り方を教えた者である。


「アマリリス様。それではダメです」


「なにが?――」


 アマリリスがその完全な世界を覗いてみると、そこは完全な世界、誰も悲しまず、誰も苦しまず、誰も死なない世界であった。しかし、その世界は変化のない、止まった世界であったのだ。


「あれ?おかしいな、ちゃんと創ったのに」


「時間が存在しないのですよ。その世界には」


 ハルヴェイユが何かを唱えると、アマリリスが創ったものと似たものが創造された。


「あーずるい!私の知らない力!」


 せっかく頑張って創った世界もこのカエルにとっては造作もない簡単なことであった。創り出されたその世界はアマリリスのものと少し違っていた。


「すこし、違う?」


「そうです。アマリリス様の創った世界と99.98%一致した世界です。しかし、この誤差で時間が創られます」


 アマリリスは自分の創った世界とカエルの創った世界を重ねる。


「確かに少し動いたわ。つまり、もっと創ればいいわけね」


 そしてアマリリスはたくさんの世界を創った。それは99.98%の世界、それの99.98%の世界、と00.00%の世界になるまで世界を創り続けたのだ。


「これが99.98%の世界、これがさらに99.98%の世界だから、えーと99.960004%の世界で…………で、これが0%の世界!」


 全ての世界を創り終えるとアマリリスは覗いてみた。そこは活気のある動いている世界であった。

 その世界に時間が創造されたのだ。


「なかなかいいわね」


 しかし、アマリリスは気づいた。その世界は怒りや恐怖、悲しみで溢れていたことに。


「あれ?どうして?誰も悲しまなくて、誰も苦しまなくて、誰も死なない完全な世界のはずだったのに……」


 アマリリスが創ったその99.98%の不完全な世界は、誰かが悲しんで、誰かが苦しんで、誰かが死んでしまう不完全な世界だったのだ。


 アマリリスは絶望した。


「私のせいで、たくさんの人が苦しんで、悲しんで、死んでしまったのだわ。私のせいで」


 少女は神であるというのに人を想ったのだ。

 それは神としての禁忌であった。

 そして知恵の神であったハルヴェイユが言った。


「アマリリス様、あなたは人として生きるのです。そしてその世界を導くのです」


 そのカエルの取り出したのは、黄金の光り輝く球体だ。それは《想いの力》であった。


「ありがとう。ハルヴェイユ」


 神であったアマリリスは人になり、人として世界を導くのだ。《想いの力》を使って、不完全な世界を完全な世界に創り変えるために。


 しかし、アマリリスは高次元の存在であったため低次元の存在に変わるとき、彼女は二人に分裂した。三次元のサイコロも二次元の展開図になるように、高次元の存在であった彼女もまた展開されたのだった。


 そうして二人の少女が現世に顕現した。

 その一人がアマリリスであり、もう一人がアルストロメリアであった。


 アルストロメリアは神であった頃を覚えていた。

 しかしそれは断片的で、彼女は世界を創造し時間を創造することだけを覚えていた。それは一つの想いの力、《世界つむぎ》という力になったのだ。それはその世界に時間をもたらしたが、彼女の創る世界は不完全な世界であった。アルストロメリアは、不完全な世界を完全な世界に変えるという使命を忘れていたのだ。


 一方、アマリリスの方は順調であった。


「うん、いいわね」


 上機嫌に造っていたのは石像だった。知恵の神-ハルヴェイユから黄金の光り輝く球体-《想いの力》を授かるところを石像として残そうとしていた。


「よし、ここに神殿を建てましょう。私を祀りあげるのよ」


 現人神は人間を従えると宮殿を建てさせたのだ。そして、数十年王女として人を導いたアマリリスは《想いの力》によって完全な世界を創り出そうとしていた。

 彼女が初めて使った《想いの力》である。


「《完全な世界の再現》」


 その《想いの力》は、不完全な世界を完全な世界にする力であった。

 そのはずだった。

 その力は一時的で、100%の完全な世界もすぐに99.98%の不完全な世界に戻ってしまうのだった。


「そんな…!どうして!?」


 その《想いの力》は失敗作だったのだ。


 しかし、彼女は諦めなかった。さらに十余年が過ぎた頃、彼女が自分が不老不死であることに気がついた頃に、次の《想いの力》を使い完全な世界を創ろうとした。


「《不完全な世界の顕現》」


 それは別の世界を現実にし、〈足し引き〉することで、この世界を完全な世界にするものだった。


「やった!上手くいったわ!」


 このとき初めて、アマリリスは使命を果たしたのである。不完全な世界を完全な世界に創り変えたのだ。しかしそれは、たくさんある世界の一つに過ぎなかった。


 アマリリスは別の不完全な世界に行くために用意した新たな《想いの力》、《正当なる観測者の権限》により世界を(また)いだ。


 その別の世界を目の当たりにしたとき、彼女は驚愕したのだった。


「……嘘?前より酷くなってる…」


 アマリリスは、その世界が前の世界で使った《想いの力》によって〈足し引き〉された結果だと理解する。

 そして彼女は完成した完全な世界に戻り、その世界を元の不完全な世界に戻したのだった。

 このとき使ったのが《完全な世界の顕現》である。


 アマリリスは絶望した。


「また、私のせいで、たくさんの人が悲しんだのね、私のせいで……私のせいで……」


 完成させた完全な世界も不完全な世界に戻り、彼女は振り出しに戻ったのである。

 そして、彼女は完全な世界を創ることを諦めたのだった。


 そして数十億年が経ったあと、堕天したハルヴェイユに再会する。


 アマリリスの記憶もすでに朧気であり、彼女の体は痩せ細り干からびていてなお生きていた。

 それは使命を放棄した不死ゆえの罰である。


「覚えておいでですか?アマリリス様。ハルヴェイユです」


「…あら?…ハル…ヴェイ…ユ。来て…くれたの?私、だめ…だった…みた……い」


 アマリリスはにこやかに笑う。


「ワタクシの力で転生させて差し上げましょう」


「転…生…?」


「そうです。生まれ変わるのです。そして新しい体を手に入れるのです」


「あは……は、嬉し…いな。私、子供……産めなかったから…その子の教育……どうしよう…かな?……なんて…ふふ…可笑しい…でしょう?」


「では、その子にはワタクシが教育を施しましょう」


「それは……安心ね…」


 堕天したハルヴェイユがアマリリスを看取ったあと、アマリリスは転生の力を受けたのだ。

 ハルヴェイユが学院なるものをその世界に築き上げた頃、アマリリスは転生し蘇った。しかし、その記憶は完全に失われていて、Amaryllis(アマリリス)と言う自分の名前すら思い出せなかったのであった。


「…mary…?マリー?」


 その名を聞くとハルヴェイユは「おはようございます。マリー様」と敬称をつけて呼ぶのであった。

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