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一輪の花  作者: 雨井蛙
一章 偽りのマリー
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01話 見知らぬ花畑にて

 (どこ、ここ?)


 少女が気が付いたときには、そこは花畑の上だった。

 赤や黄、紫で彩られたその花畑に少女はいた。


 (あれ? なんでここにいるんだっけ?)


 少女は記憶を失っていた。

 かれこれ数時間、花畑を彷徨っていた。一歩、歩くたびに踏み潰される花によって、純白のワンピースに色が着いていった。少女の脚も、赤や黄色、紫といった鮮やかな色で彩られていくのだった。でも、景色は変わることはない。

 少女のいた世界は無限に続く花畑の世界だった。

 少女は諦めて、その場で膝を抱えて座りこんでしまった。ふと、目に止まったのは枯れかけの花である。


(可哀想、きっともとは綺麗な花だったんでしょう)


 少女はそう思いつつ綺麗な花を想像した。すると、本当に枯れかけの花が生き生きとした花になった。


「うそっ! どういうこと!?」


少女はその花をまじまじ観察した。何の変哲もない普通の花だ。


(再生した? 私はただ想っただけなのに?)


 ハッと思いついた。少女は今度は別の花に枯れた花を想像した。そしたら、今度は本当に枯れた花になった。その世界には想っただけで現実を変えられる力があった。そうしている内に、少女の目はうつろうつろとしてきた。


(あれ? 何だか急に眠気が……)


 少女は眠気に抗えず、眠ってしまった。


 ——ぴょんぴょんぴょん。


 (あれ、なんの音?)


 少女は花畑の向こうから聞こえる奇妙な音で目が覚めた。少女は、キョロキョロとあたりを見回してみるけど、誰も居ない。


 ——ぴょんぴょんぴょん。


 (やっぱり、聞こえる……じゃあ、花がぴょんぴょん鳴いているとか? ぴょんぴょん泣く花なんて聞いたことがないわ)


 ——ぴょんぴょんぴょん。


 (確実に何かがいる!)


 ガサガサと近くの花が動いた。そこに何かがいる。おそるおそる、しかし確実に、もう無限に感じられた時間に飽きてきたところに、ようやく刺激が現れたのだと、少女はこの機会を逃すすべない。

 少女は、早く、確実に、音のあるじを掴んだ。


 ——ムニュッ。


 音のあるじはさほど大きくなく、少女の両手でやっと覆える大きさで、肌触りは……


「きゃあ! 気持ちわるっ!」


 少女はその掴んだ『何か』を放り投げたのだった。結構遠くまで飛んでいく、これではもう戻ってこられまい。

 しかし、あれは、何だったのだろう?

 ひとつに、ムニュッという感触からスライムの可能性がある。ここはファンタジー世界で少女は伝説の勇者だった、と。そして、冒険の始まりの敵であった。

 それとも、ぴょんぴょんと跳ねる動物としてウサギの可能性がある。けどそれだったら、モフモフの触感にアラカワイイなんて言うのだ。

 しかし、少女の掴んだそれはどちらでもなかった。それは、ぴょんぴょんと動き小動物で感触が悪い生き物。


「ぴょんぴょんぴょん」


 結構遠くに投げたのに戻ってきた。その音のあるじは、何と! 喋るではないか!


「いきなり投げるなんて! 酷いじゃないですか!」


 それは——脊椎動物亜門せきついどうぶつあもん両生綱(りょうせいもう)無尾目(むびもく)に分類される動物——カエルであった。


「こんにちは、カエルさん……」


 ◇


 永遠に続く花畑で少女は喋るカエルと出会ったのだった。少女がやってるのは土下座。カエルに説教されてる少女がいた。


「ごめんなさい」


「まったく、マリー様は何故そういつもいつも、突発的に行動なされるのですか」


 (はは、カエルに叱られるって世界にわたしだけなんじゃないかしら? てか、マリーって誰かしら?)


「もしかして、誰かと勘違いされてるのじゃないかしら?」


「んまあ!」


 喋るカエルは口をぽんかり開けたまま固まってしまった。そのまま墨画にすれは鳥獣人物戯画(ちょうじゅうじんぶつぎが)になっただろう。それでもカエルじゃなくてウサギが良かった。


「またそうやって言い訳をして。この世界の『姫』である自覚を持てとさんざん言ってきたじゃないですか!」


 (うん? ひめ? 姫ってあれか。プリンセスのことかしら?)


「ごめんなさい。やっぱり人違いじゃないですか?」


「んまあ!」


 また、口をぽんかり開けたまま固まってしまった。でも、説教に飽きたのだろうか。「王宮に帰りますよ」と言い、そのカエルはぴょんぴょんぴょんと進み始めた。

 少女は最初、どうすればいいのか分からなかったのだろう。しばらくその場で立ち止まっていた。すると「何をしているのですか! 早く!」と、おっかないカエルに従ったのだった。

 して、この花畑、抜けられるのだろうか。少女は、とりあえずカエルについて行ってはいるが霞む先さえも花畑であって、抜けられそうにない。


「では、ここらへんに出口をつくりましょう——《完全な世界の顕現》」


 喋るカエルがそう詠唱すると、淡く小さな光が発せられるとその光が世界を波打たせる。波紋のように広がると世界が新しい世界に変わっていった。それは紛れもない現実であり、その喋るカエルは花畑を何もない大地に変えたのだ。


「これは?」


「これは『想い』です。もし永遠に続く花畑があったなら、という想いが作り上げた現実」


「想い?」


「そう、《想いの力》。並行世界をありのままの現実にする力。それが《想いの力》です。……この大地が花畑であった世界もあれば、何も無かった世界もある。そんな無数にある並行世界をこの世界に顕現する力です」


 『顕現』とは『召喚』とも言い換えられる。並行世界とは、私たちが暮らす世界と似ても似つかぬような別の世界である。世界(宇宙)のどこかにはそんな世界があるのかもしれない。その世界の一部をいまの世界に召喚する力が《想いの力》であったのだ。


「てか! 《想いの力》はさんざん教えてきたというのに。何故、覚えていらっしゃらないのか! このハルヴェイユ、長年マリー様にお仕えしたというのに!」


 どうやらこの喋るカエルは、ハルヴェイユというらしい。それで、少女はマリーってお姫様に勘違いされてるのようだ。


「ごめんね、ハルヴェイユ。ちょっと、からかって見ただけ」


 少女は嘘をついた。本当は何も思い出せないけど、喋るカエルの勘違いに同調したのだ。


「んまあ!」といって喋るカエル、ハルヴェイユはまた口をぽんかり開けたまま固まってしまった。


 (マリーとして生きたら分かるかしら? わたしがここにいたのも、存在する意味も、分かるかもしれないわ。だって、マリーってお姫様なんでしょう? お姫様なら多くのことを知れるはずだわ)


 気づいたら見知らぬ花畑にいた少女は、これからはお姫様マリーとして生きることになる。本当のマリーに少し申し訳ないが、何も知らないこの状況を変えられると思ったのだ。


「それに、お姫様ってちょっと憧れてたんだあ」


 少女は少し浮かれながらも、その喋るカエルに着いていったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カエルが出てくるとは驚きです。いいですね。後は誰かと勘違いされている点もいいかな。 [一言] 世界感が独特で面白いですね。
[気になる点] 「うげぇ! 気持ちわるっ!」 てか、マリーって誰かしら? 姫ってあれか 「てか! 《想いの力》はさんざん(以下略 この辺り、口調がイメージに合いません 加えて、他の方にも指摘されて…
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