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第七話:教団幹部たちがそろいもそろって変態紳士だった件


ウルン教団の神殿。アルトゥルラ山の高峰に抱かれるような位置に建てられた教団の本拠に入ると、始めは聖堂や祈祷室、巡礼者用の宿泊坊など、ごく一般的な教団施設に立ち入ることが出来る。空気はやや薄いが、精霊術士の調整によって、神殿の周辺は気温が多少暖かくなるような術式がかけられている。


聖堂を抜けて奥に進んでいくと、途中で教団の衛士に止められる筈だ。その奥には、教団幹部と教主の近侍など、ごく一部の教団関係者しか立ち入れないエリアがある。そこは、真のウルン教の中枢である。


そのエリアの一角。教団幹部用の会議室の大テーブルに、今、10人にぎりぎり届かない程度の数の男たちが座し、重苦しい雰囲気を漂わせていた。もうたっぷり5分ほどの間、会議室では沈黙が続いている。


テーマは、「教主様にお会いしたい、と言う信者の数が増え続けている」という問題についての話だった。教主が信者たちの前に姿を見せなくなってから既に二月近くが経ち、中には「教主様は既に亡くなっているのではないか?」などと詰問してくる信者もいる始末だ。


「……やはり、お伝えするべきではないのか?」


一人の幹部が、まるで重苦しい雰囲気に耐えかねた為に仕方なくそう言ったかのように、気が進まない様子で口を開く。


「…お伝えするとは、どのようにお伝えするのだ」


同じく、他に応えるものがいないから仕方なく答えているかのように、気が進まない様子で一人が応じる。


「………他に言いようがあるまい…」


言葉を続ける。


「「もうバレてますから幹部には協力させてください」と言うしか…」


そう。実際のところ、教主の思念術によるカモフラージュは、教団本部の幹部には殆ど通用しておらず、教主が「パメラ」の姿になっていることを、彼らはずっと前から知っていたのである。


教主は、神聖術については達人といっていい腕なのだが、思念術については「素人よりかなりマシ」という程度。それがいつまでも、それぞれが優秀な術士である教団幹部たちに通用しているわけがなかった。


それを何故黙っていたのかというと、理由はひとつ。


「しかし…それを伝えるということは…あの、「バれてない」と思い込んでいるパメラちゃんの教主しぐさを見られなくなるということだぞ…!?」


「ああ…あれは可愛いな…」


「パメラちゃんかわいい…」


「サンテ教マジグッジョブ…」


「おれ、あれ以来初めて心底「この教団に入って良かった」って思った…」


サンテ教というのは、教主に幼女化の呪いをかけた敵対教団のことである。


教団本部の幹部連は、揃いも揃って「幼女を遠くから暖かい目で見守る」という行為に心からの幸せを感じる、端的に言ってしまうとダメ紳士の集団だった。彼らは、「正体がばれていないと思って教主のカモフラージュをしているパメラが可愛いから」という、本当にたったそれだけの理由で、パメラの思念術が空振りしていることを今まで指摘せずにいたのである。


ちなみに言っておくと、全員聖職者である。


「いや、しかし待て…「もう無理に教主の振りをしなくていいんだ」と理解して、我々の前で自然にふるまってくれるパメラちゃん…というのも捨てがたいのではないか…?」


一人の幹部の言葉に、場の雰囲気が真剣さを増す。


「た、確かにそれは一理あるが…だがこれは後戻りが出来ない選択なのだぞ?一度川を渡れば、二度と「自分が教主に見えていると思っているパメラちゃん」は見られないのだ」


「更に言えば、「ストレス解消の為、村の子どもたちと遊んでいるパメラちゃん」も見られなくなる可能性があるな…」


「もう普通に、「この教団の教主は幼女です」と対外的に発表してしまえばいいのではないか?逆に教団の人気が出るかも知れんし、「どうしてこうなった」と思っているパメラちゃんが見られる可能性も」


「しかしそれ信者の傾向が偏りまくるのではないか」


「全く分かっておらん!さっきから〇〇のパメラちゃん〇〇のパメラちゃんと、どんな状況にあるかに関わらず、パメラちゃんの可愛さは不変であろうが!!」


「分かっておらんのは貴様の方だ!状況と心理描写を差し置いてただ「可愛い」とだけ言っておればいいのであればイメクラは存在せぬわ!」


「イメクラなどと破廉恥なことを!少女について話す時性的なワードはご法度というルールを忘れたか!!」


「別にパメラちゃんとイメクラを結び付けて話しているわけではなかろうが!!貴様のような、言葉尻を捕らえるだけの繊細チンピラがいるから文化の発展が止まるのだ!!」


「あァ!?」「やンのかこら!」「やったろうじゃねェかこら!!!!」


最後には、ガタガタと机を立ってつかみ合いの喧嘩にまで発展する。繰り返しになるが、全員聖職者である。


「やめぬかバカもの!!!!!」


ひときわ大きな声と、机をたたく音がその場を貫く。お互いの胸倉をつかみ合っていた教団幹部が、動きを止めてそちらに視線を向ける。


近侍長のリゲル・ヌイーゼンが、じっと射貫くような視線を幹部たちに投げかけている。


「我々がいがみ合ってどうする。区々たる意見や嗜好の違いなどとるに足りぬもの、我らみな「パメラちゃん可愛い」という点で意見は一つではないか。諸賢、まずはそこに立ち戻られよ」


「む…」


「だ、だが…」


「…いや、その通りだ、私が軽率だった」


お互いに謝罪し合い、席に戻る。彼らは根本的な部分で同志であり、紳士でもあった。1つの価値観を共有する仲間同士なのだ。


その場が落ち着いたところで、リゲルは重要な問題を口に出す。


「信者のこともさることながら…パメラちゃんは現在、神の降臨によって自分にかけられた呪いを解かれようと考えておられる。我々としては、当然これを阻止せねばならん。かといって、教主のご命令に逆らうわけにもいかん」


部屋に緊張が走り、会議室がざわめく。「呪いが解けてしまう」ということは、イコール「パメラがいなくなってしまう」ということでもあり、それは彼らにとって精神的な死に等しい。


「そ、そうだ…その問題があった」


「しかし…そもそも神の降臨など可能なのか?レルセム王女は我ら全員束になっても歯が立たん強さだし、他の条件も全く整っておらん」


「ヴェルデ殿がレルセム王女を懐柔しようとしていると聞いたが」


「たとえ懐柔したところで、炎皇と水皇をどうしようと?パメラちゃんは何を考えておられるのだ」


議論が活性化する。共通の敵に対して、人は結束し、一つになるものである。今教団幹部は、「パメラの解呪」に対して一丸となって立ち向かおうとしていた。


「まずは、パメラちゃんが炎皇と水皇をどうしようと考えているのか、を探ることが先決のようだな…」


リゲルの重々しい言葉に、列席者がそろって頷く。


たとえダメ人間であろうと、彼らは全員、心を一つにした紳士たちなのである。


ウルン教についての描写は一旦ここまでで、次回から場面が転換します。

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