(96)野趣(やしゅ)
人とは妙なもので、長期間、便利な都会生活をしていると、ふと、自然の中で暮らしたくなる。そうして、その野趣な環境に包まれことで気分がホッコリと癒され、助かる訳だ。^^ この感覚は、本来、潜在意識として身体に備わった太古からの本能的なものなのかも知れない。閑静な森林に囲まれた別荘でのリビング[生活]や、キャンピング[テントを携帯的な家とした自然の中の生活]、クライミング[登山]、ケービング[洞窟探検]、ラフティング[ラフトと呼ばれるゴムボートを使用した急な渓流の沢下り]、ハイキング[自然やハイキングはハイキング ^^ まどと言わずに解説すれば、歴史的な景観を楽しむために軽装で、一定のコースの遠足]などといった自然の野趣に慣れ親しむことで、束の間の、ギクシャク[この中には生理的な快適さも含まれる]した生活感を忘れる。ある種の世俗からの離脱行為だ。野性味が呼ぶ訳である。^^
キャンプ場で、野趣あふれる木と木を擦り合わせる摩擦熱による自然着火を試みる父親がいる。三人の子供が見ている手前、体裁もあるのか、必死だ。
「ババ、ぜんぜん点かないじゃん!」
「妙だなぁ~? この前は一髪で点いたんだが…」
点けたこともないのに、父親は知った風な口を利く。
「早くカレー作ろうよぉ~~! ライター、あるよ…」
「いやいや、この野趣がいいんだ…」
そこへ、母親がテントの中から現れた。
「野趣もいいけど、このままじゃ日が暮れてしまうわっ!」
「お腹が減ったよぉ~~っ!」
一番下の子供が泣き始めた。これでは野趣もへったくれもない。
「分かった…」
父親は、こりゃ、野趣では助からんな…と思えたのか諦め、ライターで火を点けた。
野趣に拘れば、助かるものも助からない・・というお話である。^^
完




