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(87)元(もと)

 もととは元々あったものことである。物はかたちがあって分かりやすいが、事にはその形がなく、漠然ばくぜんとした出来事だから忘れられやすい。では、その元が何をもって元とするのか? が問題となる。分かりやすく言えば、その元々あった物や事の元は何なのか? ということだ。平成が元号げんごうなら、次の元号は何なの? という話ではない。^^

 二人の老人が様変さまがわりした工事後の町をながめながら小高い丘のくさむらへ座り、話し合っている。

「綺麗になりましたなぁ~!」

「はあ、まあ…」

「浮かぬ顔をされておられますが、なんぞ訳でも?」

「確かに綺麗になりました。綺麗にはなりましたが、どこか元あった風情ふぜいが消えましたな。これでは助かるものも助かりませんっ!」

「はあ、それはまあ、そうですが…。それは時の流れ・・でしょう」

「いやぁ~、それはどうですかな。元は元々あった風情ですから、時が流れようともどろうと、変わらんものだと私ゃ思っとりますが…」

「元々ですか?」

「はいっ! 元々あった風情です」

「では、建てかえ前の町に建っていた建物の前に建っていた建物の風情は元ではないと?」

「… いやいや、そりゃ、元の風情でしょう」

「ということは、建てかえ前の町の風情は元の風情ではない・・ということになりますが…」

「ははは…、そうなりますかな」

「はいっ! そうなります」

「ははは…考えてみりゃ、元なんてものは、いい加減なものですなっ!」

「ははは…深く考えるほどのことでもないですな」

「ははは…そのようですな」

 二人の老人は話し合うのが馬鹿馬鹿しくなったのか、立ち去った。

 元とは何なのか? などと深く考えず、軽く考えた方が助かる訳だ。^^


                  完

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