(5)お決まり
世間では誰が言うともなく行われる[お決まり]のコースがある。社会常識として日常で起こる現象で、別にしなくてもいい訳だ。^^ だが、しないと周囲の者から冷たい目で見られるから、それを避けるために、いつの間にか、するでなくさせられている行為である。自身がそう思えれば、それはそれで何の問題もない訳だが、そう思わない人にとっては目に見えない強制力があり、納得できる愉快なものとはならない。^^
通勤、通学ラッシュ時の、とある駅に到着した電車内である。多くの乗客がドアが開いた途端、車内に雪崩れ込み、ごった返している。その中に紛れ込むように乗った老婆が、周りを多くの客に取り囲まれ、苦しそうにしている。縦長の座席が目の前にあるのだが、状況は悪く、ぎっしりと人が座っている。老婆の周りに立つ客達は、気の毒そうな目で老婆に視線を送る。そして、その目は座っている客達を冷たい視線で舐るように見回す。恰も、『立って譲るのがお決まりだろうがっ!』とでもいう目つきだ。やがてその視線は、必死に小型ゲーム機を弄っている中学生に一点集中した。中学生は気づかず、黙々(もくもく)とゲーム機の画面を見続ける。『こりゃ、ダメだっ!』と思えたのだろう。立っている客の視線は、次の獲物を探すかのように二人の青年サラリーマンへと向けられた。一人はスゥ~スゥ~と快い寝息を立てながら首を振り振りウトウトしている。もう一人は真面目に目を開けて座っているだけだ。
「ぼ、僕ですかっ!?」
視線の圧力に屈したのか、真面目に座る青年サラリーマンはそう言いながらヒョイ! とその場で立ち上がった。ウトウト眠るもう一人の青年サラリーマンは、頑張りの残業続きで睡眠不足だった・・という事情があった。
頑張っていれば、結果としてお決まりのコースから逃れられ、助かる[注;助からない場合もある]・・という、これもどうでもいいような話である。^^
完




