プロローグ
初めまして。圭です。
よろしくお願い致します。
四月、校庭に咲く桜が今年も新入生を歓迎するかの如く、その大きな幹にこれでもかと花を咲き乱れさせ、これからの新生活へエールを送っている。
かく言う僕は、この高校の最上級生になってしまったので、この桜を見るのは実に三回目だ。
これまでの学校生活を振り返るに「つまらないやつ」だったのだろう。目立つことを避け、クラスの中でも一人は居るであろう「あいつは何を考えているのかわからない」と言われてしまうような生活を送ってきた。
その結果として僕は、友達と呼べる人間が一人もいなかった。別に寂しくは無い。常人であれば必ず、作ってしまう友達というものに頼らずとも、学校生活を送ることができるという事を、今、僕が体現しているだけだからだ。
これは逆に、誇るべきことであるように感じる。しかし、その誇りも他人が自分と距離を取っているから得られたものだ。他人に目をつけられてしまっては、どうする事も出来なかった。というのも先ほど、友達無しという誇りは霧のように散ってしまったからだった。
始業式、式とは名ばかりの注意事項の列挙。そして、ストレスが頭頂部を侵略し、髪という髪がストレスに屈服させられた校長の無駄話を聞くだけの行事。
多くの生徒はこの苦行を乗り越え、新たな友人と送ることになるであろう、楽しいスクールライフを夢見て胸を弾ませている。僕は今まで始業式に何かを感じることもなく、ただ一人でその光景を俯瞰するだけだった。
しかし、今年の僕はなぜかクラスの中心人物とも思える人間に目をつけられた。
「今年も一緒だね、三年連続同じクラスなの君だけだね。よろしくね!」
彼は部活動に所属しているわけではないが、底抜けの明るさとコミュニケーション能力で、確か一年の頃から中心にいた人物だったと思う。
「あ、あぁそうなんだ。こちらこそ、でいいのか?」
「何言ってんのさ、ずっと一緒にいるんだ、あんまり話してなくても友達のようなものだろ?」
はて、はてはて。彼は一体何を言っているんだ?
まるで意味がわからない。今まで話したことがないのに友人なのか?
いや、彼の文化圏は友達というハードルがもはや存在せず、その場にいるもの全てが「友達」なのだろう。うん、きっとそうだ。と自分に言い聞かせることにした。
「え、あぁ、友達ね。うん、友達友達。アハハハ…」
「ところで、今週の日曜日、暇?」
それは今まで友達という存在と無縁だった僕にとって、あまりに突然で、僕の脳はその言葉を理解するのに少し時間を要した。
「え?日曜?たぶん、」
「暇なんだ!よかったら家行ってもいい?家近いでしょ、お昼頃に行くね!」
僕は狼狽した。そもそもまだ僕は「たぶん」という言葉までしか発していない。その後に続く言葉を、彼は聞くこともなく話を進めるつもりか。
彼はなんなんだ?彼にとっての友達とは誰とでも家に気兼ねなく行ける関係なのか?百歩譲っても友達ということを、ようやく理解したところだというのに。普通の高校生というものはここまで突然に予定を立てるものなのだろうか?だとしても、この展開は強引すぎないだろうか。
僕はこのままでは、と慌ててささやかな抵抗を試みた。
「え!?待った待った!いくら何でそれは急すぎだ!」
「急なんかじゃないよ!大丈夫、大体一時間だけだから!また日曜日!」
それだけを言い残して、彼は新たなクラス分けに活気付く教室を後にした。
「ちょっと!ちょっと、待てって!」
ようやくそう言えたのは、彼が教室の扉を閉めたと同時か少し遅く、彼の耳には届かなかった。
かくして、僕に大きな不安と共に高校生活初めて、友達(?)が出来たのだった。
その夜、懐かしいことを思い出した。
あれは、中学に入学するの頃だっただろうか、もしかしたらもう少し後かもしれない。当時はまだ付き合いのある、幼馴染という奴が僕にもいたことがある。
そいつは当時、まごう事なく友達であった。そんな奴も中学に入学した頃か、学年が変わる頃に、すっといなくなり、もう顔を合わせることもなくなった。連絡を取るのも煩わしかったので、今どうしているのかなんてことは、露ほども知らない。
もし、あいつとまだ友達であったなら、この超展開にもついていけたのだろうか…。等と考えてもみたが、どっちにしろ今いないのだから意味がないのでやめた。
そうして僕は来たる日曜日に対し、為す術もないままにただドキドキするしかなく、同様に押し寄せる不安に押しつぶされないよう、必死に羊を数えて眠るしかなかった。