第6話 -オモチャ遊び-
……目が覚めて時計を見るともう天辺をまわっていた
本当に疲れていたらしい、寝すぎて体がだるい…
ふと机を見ると何かメモのようなものがおいてあった。
「おはよう、起こしても全然起きないから先に行きます!サラダを冷蔵庫に入れておいたのでたべてください、コンビニ弁当ばっかり食べてないで野菜もしっかりとりましょう 追伸:あんたの部屋の隣に誰か引っ越してきたみたい!」
あぁ、謹慎くらったの伝えるの忘れてた…まるで母親だ、昨日本当の母親に会ってきたがあの人もこんな風にしてくれるのだろうか…
よく考えたらどうやって入って来たんだ?まぁ鍵閉め忘れてたんだろうけど…
ふと自分のだらしなさを実感したヒスイだった。
「さてと」
服を着替えて歯を磨き、ドレッシングを大量にぶっかけたサラダをたべたて散歩しようと外にでた、するとちょうど誰かが隣の部屋に入っていくのが見えた。
そう言えば書き置きの最後に何か書いてあったな…
また今度偶然会ったあいさつすればいいかと思い、素通りしようとしたが、中で騒いでいる複数の声がどうも聞き覚えのある声で嫌な予感がした。
「ダメです!ダメですよモルさん!」
この声は…
「うるさい、いいからお前は外に出てろ!破片が飛んで来てもしらんぞ」
「ママ、ママ!ドラコはここにいていい!?」
「お前は好きにしろ、あとママじゃないと何度言えばわかる?」
ガチャン!とドアが開き、女の子が飛び出してきてヒスイにぶつかった。
「あ、ごめんなさい!いいところに来てくれました…モルさん達を止めてください!」
やはりマーリン…今はマリンっぽいな
あとの2つの声は恐らく…
「モル…?モルドレットか?」
「あ…えっと、そのままの名前では何かと面倒だからって『モル』と名乗るようにと円卓の皆さんがお決めになったそうで…」
「嘘だろ…なんでそんな危険人物を野放しにしてるんだよ…」
「アーサー王が皆さんを何とか説得してくれたらしいです、多数決はギリギリだったみたいですけど…」
「それにしても普通はキャメロットで保護するべきだと思うが?」
「ペリノア様の意見で、『閉じ込めてバカを起こされるより、リードをマーリンに持たせて外を歩かせた方が安全』だそうです、確かにワタシとマーリン以外にモルさんを止められる人はいないし、ドラコちゃんもモルさんの言うことなら聞くので、それが一番かもしれませんね。」
ドラコちゃんというのは竜の少女の事だろう。
中をそっと覗くと、どこぞの偉大な先生のような女がドデカいハンマーを手に持って壁を向いて立っていた
それを後ろでワクワクしながら見守る少女、も昨日みた顔だ。
「おい…」
「っせーの!」
ドカン!
一撃で壁がひとりひとり通れるくらい吹き飛んだ
壁の向こうの部屋にいた同僚の騎士がパソコンの前で唖然としている
「よし。」
「よよよよしじゃないよ!!何なんだキミたちは!?」
彼は『ゾーイ』騎士だがろくに出勤もせず部屋でパソコンばかりいじっている、いわゆる引きこもりだ
「お前がゾーイだな?ガウェインから伝言だ。」
そう言って肩に担いでいたハンマーを置くと、ポケットから書類のようなものをだして読みはじめた。
「理由のない無断欠勤が規定の日数を大幅に超えている為、王国騎士団第12地区部隊隊長『ガウェイン・ヘイルウッド』の権限により、あなたを免職します。不服がある場合は即時、第12地区部隊本部に出頭されたし。だそうだ。」
モルは紙をそのままポイっとゾーイに投げた…ゾーイは急いで拾って紙を拾い、内容を確認した。
「そ…そんな!」
「わかったらさっさと出てけ、お前に騎士を名乗る資格はない…あぁそうだ、サボっていた間に不正に受け取っていた給料の分ここにあるものはすべて回収しろとか言ってたなぁ…差し押さえってやつか?」
「う、嘘だ!」
「なぁドラコ、言ってたよな?」
「言ってた言ってた!」
最後のはもちろん嘘だ、言ってない。
「く…くそぉぉぉぉ!!!」
ゾーイは泣きながら出ていった、本部へ行ったのだろうか?
「どこまでが本当でどこまでが嘘なんだ?」
モルが穴の向こうから顔をだした。
「あぁ、ゼロの息子か、ヒスイ…だったか?」
「退去命令は本当ですけど、壁に穴を開けていいなんて言われてませんし、彼の物をとっていいとも言われてません!」
「堅いこと言うな、とりあえずベッドは他人が使っていた物など気色が悪いから取り返えるとして…」
部屋を物色し始めたモルにピッタリついて回るドラコ、本当に親子のようだ。正直微笑ましい。
「…マーリンは?」
「昨日はずっとマーリンが働きっぱなしだったので今はグッスリ眠ってます、ワタシ達うまく言えませんけど交代で寝ることが出来るんです。体に限界が来たら二人とも寝ちゃいますけど…あ、でもワタシも一応モルさんの魔力奪取はできるので安心してください。」
「質問責めにして悪いが、あいつらが勝手に外出歩いたりしたらまずいんじゃないか?お前も四六時中一緒にいる訳じゃないんだろう?」
「そうですね、騎士の仕事の時はモルさん達にはなるべくここにいるようにお願いしてあります。守ってくれるとは思いませんけど…なのでマーリンがモルさんの現在地と視界の覗き見ができるようにしておいたらしいです。モルさんには伝えてないので大丈夫だと思います!」
何が大丈夫なのかはわからないが、とりあえず今すぐ危機が訪れるということは無さそうだ。
「はぁ…頼むから隣で騒ぐのはやめてくれよ?」
「が、がんばります…」
望み薄だ、しかしこいつらの事を周りの奴等にどう説明すればいいのだろうか…特にアリスは関わる事が多いだろうし。
「頼んだぞ、じゃ」
「どこへ行くんですか?自宅謹慎ですよ!」
「監視されてる訳でもねぇのにそんなの律儀に守る必要ねぇよ、お前も犬の散歩でも行ってこい」
犬の散歩…何が言いたいのかはわかる自分も嫌だが流石に酷すぎる…
「あ、でしたらもし暇なら街を案内していただけませんか?ワタシの時間はあの公園で15年間止まっていたので何もわからなくて…」
そうだった、この15年間で世界は変わった…異常なまでの技術の進歩、異常なまでの建物の建築速度…なんだろう、急に違和感を覚えはじめる。
「…ヒスイさん?」
マリンが心配そうに覗きこんできた、しばらくボーッとしていたようだ
「あぁすまん、これから『オプティマス』っつう技術開発ギルドに行く予定なんだが…丁度よかった。」
???
…………寮から数分のところにある駅から街
竜の子供、半竜、星の語り部と時をかける少女、そして半神ギルガメス…
濃すぎるメンバーが歩いて行くその先に、技術開発ギルド『オプティマス』のビルはあった。
モルも未来化した街に興味があったのか、すんなりついてきた、ドラコが手を繋ごうとしてきて鬱陶しいのでポケットに手を突っ込んで歩いている。
中に入ると受付の女性「あらヒスイさん、今日は賑やかですね」と言ってニッコリ笑い、内線で誰かに連絡した
「扉が勝手に開いたぞ?こんなくだらん魔法は初めてみたな」
「ママお腹すいた…」
「ママじゃないから俺は知らん」
ここに来るまでのわずかな時間で何度も聞いた、このやり取りはもう聞きあきた…
しばらく待っていると奥の扉から若い科学者風の男が出てきた。
「やあヒスイ、いつも悪いね。」
「よぅアンジール、こっちも好きでやってるんだ気にすんな。」
「そちらの美女達は?」
マリンは頬を赤らめて照れたが、モルは殺気混じりの目で睨み付けた
「美女だなんて…」
「ママ!美女だって!」
「殺すぞ? 」
え?殺…
「何でもない!そこの赤っぽいのがマリンで、そっちの荒っぽいのがモルド…じゃなくてモルだ、でちっこいのがその娘のドラコ」
「娘のドラコです!」
「ちゃんと挨拶できてえらいね!小さな美人さん」
「ヒスイお前後で覚えとけよ?」
無視してアンジールに着いて奥へ進んだ。
エレベーターに乗って地下へ、地下やら冥界やら陰気臭いとこばかりで嫌になるが、今回はほとんど遊びで来ているので苦ではない。
「どうもこのエレベーターってのは好かんな。」
「閉所恐怖症かなにかか?」
「いや、こんな狭い箱の中に何人も入って息苦しいったらない。」
「まぁ狭い箱にはずっと入ってたけどな。」
「………」
何も言い返してこなかった、ちょっと意地悪が過ぎたかもしれない…
ポンッ、と音がなり扉が開いた。
長い廊下の途中にいくつもの部屋があり、ガラスの向こうで白衣を着たもの達がせっせと作業をしている。
「さぁ、入って」
廊下の一番奥にある一際大きい自動ドアをくぐると、大きな研究室の横に巨大な…本当に巨大な空間が広がっている。
「すごい…!」
椅子に座ってコーヒーを飲んでいる男がいる、騎士の制服を着ているようだが…
「げ…アルフレッド…」
ヒスイの顔がひきった、苦手な人物なのだろうか?
「ん?ヒスイじゃないか!久しぶりだね!今日は休みなのかい?」
とても爽やかで笑顔の似合う男性だ、どうやら男の方はむしろヒスイの事をよく思っているようだ。
「ま、まぁな…」
「おや?キミが女の子を連れて歩いているなんて珍しいな、それも美女揃い」
ちょっと言い方が勘にさわるが美女と言われると照れるマリン。
「娘のドラコです!」
「おや、しっかり挨拶できてえらいね!お母さんは…」
顔を上げて二人を見ると、ドラコがモルに抱き付いた。
「ドラコのママはね、モルって言うんだよ!」
「そっか~、かわいい娘さんをお持ちですねモルさん。」
もう反応するのもめんどくさくなったのか完全に無視された、アルフレッドは何か悪いことでも言ったのだろうかと申し訳なさそうな顔をしている。
「マリンです、最近12地区部隊に入隊したのでよろしくお願いします!」
「あぁキミがマリン君か、話は聞いてるよ、なんでも城に乗り込んでアーサー王に直接入隊を申し入れたとか。いったいどうやって王の部屋までたどり着いたんだい?」
『城に乗り込んでアーサー王に直接入隊の申し入れをした』確かに事実だが微妙に良くないとられ方をされてるいる気がする…
「ははは…それは内緒です…」
「そんな事よりなんでお前がここにいるんだよ?」
アルフレッドは第15期騎士の主席で、ヒスイ達第12部隊が守るここ首都ログレスではなく、ブリテン王国の中で最も治安の悪いと言われている街…ディケイドを守る第10部隊に配属された超エリートだ、あそこには闇ギルド(オプティマスのように国の認可を受けていないギルド)が多くあり、騎士と闇ギルド…闇ギルドと闇ギルドの武力衝突は日常茶飯事で、死者も少なくはない。
「もちろん仕事だよ、新しく導入を予定している『レイブレード』を試用させてもらいにきたんだ。」
「『レイブレード』は実はヒスイの技を参考に作られたんだよ。」
「そうだったのか!流石僕のライバルだね。」
魔力を剣の刃の周りで固めて、斬撃を飛ばすヒスイの得意技の一つだ。
別にヒスイしかできない技というわけではない…やってみたら何故かうまくいった、普通の人は魔力のコントロールが非常に難しいというだけで何年も時間をかけて練習すればある程度なら形になるだろうが彼のこれは別格で、飛ばした斬撃の魔力が非常に濃く、非常に鋭い、それと何故か緑色をしている。恐らく昨日みた胸のなかにある何かのせいだろう。
「さっさとはじめるぞ」
ヒスイはレイブレードを受けとると、ドアを開けて隣の巨大な空間に入っていった。
「まずはブレードを起動してみてくれ。」
レイブレードには物理的な刃は付いていない、柄にあるトリガーを押すと使用者の腕から魔力が自動的に供給され起動する。
ブン…と鈍い音が鳴り、ブレードを魔力の刃が覆う。
普通に技を使う時とは違い、緑ではなく白の魔力が具現化している。
「いい感じだね、じゃあ早速発射してみてくれ!」
遠くの方に案山子のような的が現れた、あれを狙えという事だろう。
ヒスイは集中し、狙いを定める…そして一歩踏み込み、ブレードを振った。
半月型の斬撃は空中を綺麗に進み、目標に当たった…的は半分くらい切れて上半分がブラブラぶら下がっている。
「だめだ、途中までは安定してるんだが50メートル超えた辺りで一気にブレているみたいだ。」
「う~ん…何が悪いんだろう?出力は十分のはずだし…」
それまで黙って見ていたモルが腰のドラコを引き剥がし、部屋に入っていった
「ちょっとキミ!」
モルはヒスイのとこまでいくとブレードをもぎ取って構えた。
「的を出せ」
「え?」
アンジールが困った顔でヒスイを見ると、彼はコクリと頷いた。
的が出現すると、直ぐに片手で振った…普通の剣よりも重いはずだが彼女は易々と振り抜いた。
斬撃はヒスイの時よりも素早く飛び、的を真っ二つに切り裂いた。
「おぉ!」
「魔力が強すぎるんだよお前は、生まれからして普通ではない奴が普通の人間用のオモチャなんぞ使っても上手くいくはずもないだろうな。」
「お前だけには言われたくないね。」
「ワ、ワタシもやってみたいです!」
マリンも勝手に中に入って行き、アルフレッドもアンジールに声をかけて入って行った…ドラコは既にモルの腰に張り付いている。
マリンはモルからブレードを受けとると、すでに何体か出現している的を狙って振ってみた。
モルほど速度は出なかったが最後まで安定して飛び、これもまた真っ二つになった。
「やりました!すごく楽しいですねこれ!」
モルがオモチャと言っていて、そのつもりで使ったのかは知らないが、これはれっきとした武器だ…人をも殺し、凶器となりえるものだ…
「ドラコもやる!」
「お前はだめだ、子供のオモチャじゃない」
「でもさっきママがオモチャって言ってたよ?」
一生懸命作った物をオモチャオモチャと言われ落ち込むアンジールをヒスイは横目で見て心のなかで手を合わせた…
「いや、それは…そうだこれは大人のオモチャだ」
男3人はその言葉に少々ヒヤッとしたがマーリンは寝てるようだし女性陣はわかってないようだったのでホッとした。
「え~」
「ちょっといいかな?」
アルフレッドがマリンからブレードを受け取り、同じように起動し、同じように発射してみた。
すると的は真っ二つにはなったが何か腑に落ちないような顔をしている。
「むむむ…」
「どうだったアルフレッド?キミがOKすれば直ぐにでも量産に移るよ」
「いや、すまないが僕にその決定権はないよ、隊長に見せるためにこれ一つ借りていってもいいかな?」
「いいけど壊したら弁償してくれよ?」
「ありがとう、それよりキミ達」
アルフレッドは他の4人に向き直った。
「実は一つ頼み事があるんだ…」




