第2話 出会い
予想以上に時間がかかってしまいました
申し訳なく思っております
★の所は視点が変わりますという記号です
ここはどこだろう?さっきまで暗闇の中にいたはずなのに、背中に圧迫感がある。ということは、地面があるのだろう。けれど、土の感触はしない。頭の下に関してはこれ程柔らかいものがあるのかと疑いたくなるものが下に引かれている。目を開けようとするも、何かが瞼を開けさせないように瞼に指が添えられた。
「焦らないで。大丈夫。彼らは生きている」
俺にはその言葉が何のことを意図しているのか分からなかった。ただハッキリしていることは俺はその言葉に安心したということ。安心した途端、段々意識が遠のいていく。
「もうおやすみ。次はあなたが私を呼んでくれることを願ってる」
そこで、俺の意識は途絶えた。
★
私達はいつも通り森の中で遊んでいた。森の中では鬼ごっこ、かくれんぼ、果物採りなどで遊んでいる。けれど、今日はいつもとは違う日だった。
「え?人間が孤毒の森を抜けてこの森に入った?」
因みに言うと、私達は森と話すことが出来る。完全な会話ではないが、雰囲気とかで言いたいことが分かると言った感じだ。
孤毒の森というのは植物が森を淘汰しており、動物は彼らの捕食対象でしかない。厄介なことに彼らは自衛手段として毒を用いる。そのせいで孤独の森の土や水、空気といったものは毒が含まれている。
あの森を超えるにはいろいろな毒の対処が必要だがそれを1人で攻略したとなると本当に人間なのかと疑いたくなる。
見聞きした話によると、人間には良いもの、悪いものがいたと言うが良いものは悪いものにいいように扱われ消滅したとかなんとか。けれど、私は他人の目から言われたことを鵜呑みにできず、自分の目で見て判断したかった。
「ねえ、人間の入った方向ってどっち?」
故に私は森に問いかける。
「おいシル、まさか行くなんて言うなよ」
「シル、流石にそれは危ない」
私の友達のカリーとアリラが私を止めにかかる。
「えー!いいじゃん!みんなも気になるでしょ?」
「気にはなる。でも、リスクが高すぎ」
アリラに一蹴され、カリーはその言葉に頷く。
「分かりましたよーーだ!大人しくしてるよーー」
それを見た2人はまたいつもの事かとため息をついた。
そして、その夜
シルはこそりこそりと家を抜け出し、そろりそろりと村を抜けようとしていた。ようやく出口まで差し掛かった時、シルの両肩が掴まれる。
「ど・こ・に・い・く・の?」
そこにはアリラとカリーがいた。
「うぇぇぇえぇえ!?何でここにいるの?!」
「何でって、お前があの顔したら次にどんな行動取るかなんてお見通しだ」
「うん、シルは案外顔に出るから」
全部バレていた。
「お、お願いします!ちらっと!ちらっとだけでもいいから見に行かせて~」
シルは合掌し神様に祈るようなポーズで頼み込んだ。
「いいぞ。というか、ここで止めてもどうせお前は勝手に行くのは目に見えてるからな」
「行くなら、3人で行ったほうがいい」
「ほんと!2人ともありがとおぉ」
「今回は間に合ったから許す。ただし、次から村の外に出る時は誰か1人連れてけ。1人で行った場合は俺ら2人がかりでたっぷり説教な」
嬉しさで有頂天になるのもつかの間、今まで興味本位でちょくちょく村の外に無許可で出たことがあるのもバレていて、その上釘を刺されてしまい、トホホとシルは少し落ち込んだ。
「森さーん、この辺りー?」
あれから歩くこと十数分。森に場所を尋ねながら探索する。森からは肯定の意が帰ってきた。
「じゃあ、ここからは油断なく、警戒していこう」
アリラとカリーは頷く。そして、バラバラになる。先程、ここに来るまでにある程度の作戦というか進行を決めておいた。まず全員がバラバラに別れる。この方が索敵範囲が格段に広いからだ。正面が私、左前方がカリー、右前方がアリラである。別れてから5分おきに光の魔法で頭上に合図を送る。それを各々の分確認したら奥に進む。敵を見つけたら合図をあげずに相手の見える所に待機、明かりが上がらない場合は赤い明かりを上げその場所に急行すると言った具合だ。
そうして15分経った。普段歩くような森はとっくに過ぎており、慣れてない森を進んでいると方向感覚が狂ってしまいそうになる。迷わないようにと意識して進んでいたせいか、周りが物静かになったのに私は気が付かなかった。
「あれ?なんか見通しが悪くなってるような?」
少しずつだが白い靄がかかってきた。
奥に行くほど濃さも増していく。
私は恐れを抱きながらも1歩1歩と歩いていく足を止めることは出来なかった。
★
「面倒。早く帰りたい」
シルがいつものように好奇心から探り出しに行くだろうとは思っていた。けれど、こんな夜中に不慣れな場所まで行くとは思わなかった。どうせ人間なんて孤毒の森を抜けてきたなら死んでいるだろう。
「あ、15分。«明かり»(ライト)」
目印となる魔法を頭上にあげる。左の奥の方にも明かりが上がる。あそこにカリーがいるのだろう。しかし、数秒待ってても左手前のシルのいる辺りから明かりが上がらない。
私はすぐに赤い明かりをあげ、左に向けて走る。前からも赤い明かりが上がる。
シルがいたと思われる場所に着くやいなや不自然な現象に見舞われた。周りに水源が無いはずなのに靄がかかっていた。当然ここは高所でもない。カリーとも合流し、靄の中に突入するも入った場所に戻される。何度やっても同じ結果で、靄を風で飛ばそうにもいくらでも奥から発生する。飛ばした瞬間を狙っても同じ結果になってしまった。もう私たちにはどうする事も出来ない。ただ無事に帰ってくる事を祈るしか出来なかった。
★
靄の中を突き進んで少しばかり経った。周りは白くにごり1歩先は闇の中であった。
「こんなに奥行あったかなぁ?」
いくら何でもこれだけ歩けば森の終わりすなわち孤毒の森に入ると思っていたけれど、未だに超えていない。靄が晴れるか森を超えるかどっちが先だろうと考えていると靄が晴れてきた。ようやく出口かと思い開けた視界に出る。そこには木に座り、もたれ掛かる少年をいた。少年のいた木の後ろは世界が変わるように毒々しい土や花が咲いている。
この時、私には目の前にいる少年がどこかの手練れかもしれないという可能性を殆ど考慮していなかった。
「ちょっと!君大丈夫?!」
私の問いかけにも少年は反応せずそのまま居座っていた。私は傍により胸の辺りに耳を当てる。
トクン......トクン......。
まだ動いている。まだ死んでいないのだ。
しかし、その音はか弱くとても心細く感じかれた。
「もうちょっとだけ踏ん張って!家に着いたら毛布と食べ物があるから!」
私はその少年が危険な状態にあるのを知り、いてもたってもいられなくなり、家へ連れ帰り、療養することにした。
少年を背中に乗せ、来た道を戻る。
そのとき、少年が座っていた辺りからこんな声が聞こえた。
「ありがとう」
私はその声で後ろを振り返るが誰もいない。
ひとまず少年を休ませることを優先しようと考え、出口に向け走り出した。
★
優しい日差しを感じる。温もりを感じる。
その虜になり覚めたくない、と思ってしまう。けれども現実はそんな甘くなく意識がはっきりしてくる。次第に完全に意識が覚醒してきたので、周りを見渡す。ここは自分の知らない場所のようであり、家の寝室だろうと当たりをつける。まずは人を探し、ここはどこか尋ねることにしよう。寝てる状態から起き上がり、立ち上がろうとするも、体は膝から崩れ落ちてしまった。体は回復していなかったという事だ。森の中を飲み物のみで過ごした結果、身体の筋肉は衰えに衰えまくって自分の体すら支えられない状態になってしまった。大きな音をたてながら倒れた俺は、隣の部屋から誰かが起きたような物音を聞いた。その物音は俺の部屋まで続き、その扉が勢いよく開かれた。
「やっと起きたー!」
元気溌剌、迅速果断とはこのことを言うのだろう、これらの体現者のような子が部屋に入ってきて、俺の体に飛びついてきた。
「うんうん、生きてるっていいよねー」
俺の胸に耳を当てながらこの子はそう言った。心臓の鼓動でも聞いているのだろうか。
グーッ
その時俺のお腹の音が辺りに谺響する。響いた後では目の前の子が一瞬驚いた顔をするもすぐに納得した顔をした。
「寝てる間何も食べてなかったもんね、何か作ってくるよ!」
と小走りに部屋を出ていった。
待つ間俺は手持ち無沙汰となり、現状を把握することにした。森に放り出され、さっきまで飢餓の中無我夢中で彷徨ってたはずだ。
「で、確かそこで気を失って...」
失った後のことに焦点を当てる。けれどもそこで記憶は途切れている。
何か大切な物が関係していた気がする。
だから、懸命になって思い出そうとする。しかし、何も分からなかった。思い出そうとする度、それらは残滓のように淡くひかり、掴むことが出来ない。次第に輝きを失うかのように薄れている気がし、数秒後には消えてしまいそうだった。消えてしまう最後の瞬間まで記憶を巡らす。
そのおかげで、一つだけ忘れずに残った物があった。それは......
「作ってきたよー!」
豪快に扉が開き、先程部屋を出ていった子が戻ってきた。
「はい、林檎のすりおろし!」
そして、目の前に給仕された食器の中にはその通りに林檎のすりおろしが入っていた。
ただすりおろしただけのものなのだが、皿に盛られたそれは俺の食欲を刺激した。
赴くままに添えられた匙でリンゴを頬張る。それはただの果実だ、けれどもただの食事という意味には収まらなかった。それも当然と言えるのだろう。悠夜は意識が戻ってからろくなものを食べていない。いや、食べる事すらしていないだろう。この7日間、悠夜は地獄のような日々にいつ終止符が打たれるのか分からず、いつ死ぬかわからない恐怖と戦っていたのだ。よって、安息の地と言えるような場所で美味しいものを食べる、今のこの環境がとても嬉しく、歓喜に震え涙する程だった。
「...............」
ただ泣きながら食べていく。
これは夢でふとした瞬間に消えてしまうかもという恐れから今のうちにすべてを自分の物にしてしまおうと急き立てる。
そこにそっと声をかける者がいた。
「大丈夫、それは君のために作った物だ。誰も取りはしないよ。その調子だとすぐ無くなるね。お代わりいる?」
こちらの心うちをすべて理解したような発言だった。
遠回りに指摘され、あまりよろしくない食べ方をしているのに気が付き、顔を伏せる。気まずさ故に断ろうとするも、
グーッ
空気を読んだか読んでないかは別として、顔を伏せたまま「お願いします」と答えた。
2、3杯お代わりした所ではらが満腹になり、久しぶりの充足感にひたっていた。
「ねぇねぇ!知り合いになった事だし、名前を教えてよ!私は精霊でシルっていうの。精霊ってわかる?」
彼女の問いかけに俺は首を横に振る。
「精霊っていうのはね、簡単に言うと魔力の集合体に自我が芽生えた存在だよ」
魔力?聞き覚えのない単語が出てきた。俺はその点についてシルに詳しく教えてもらう。
「魔力っていうのは空気の中にあるエネルギーをもった物質かな。普通空気のある所にはある筈だよ。地質、地形、場所によってその濃度は変わっちゃうけど」
「そ、そうなのか、、」
いろいろと出てくる新たな情報を必死になって整理しようと試みる。俺が沈黙したのを機に今度はシルが俺に尋ねる。
「あなたの名前は?」
今更ながら気がついた。
シルは名乗ったというのに俺は名乗っておらず、それよりも先に色々質問していた。
シルという少女は次はあなたの番と言いたげな顔をして、楽しそうにしていた。
「俺の名前は......」
俺は"覚えてない"。けれども、"知っている"。
「黒宮悠夜」
消えゆく中で唯一手に出来た、思い出せたものだった。
続きは多分もっと後になると思われます
今、高3なのでセンター試験という名の地獄というか関門というか。
まあそのせいで遅れるというより2月までは執筆時間がろくにとれませんのでよろしくお願いします。