自分の最後
男の前にはある男が病院のベットで寝ていた。
寝ている男はとても痩せこけており、点滴も繋がれ、心電図モニターは直線を示していた。
「これは.........誰だ?」
そこに看護師が2,3人が慌てて入ってきた。
「黒宮さん!黒宮さん!しっかりしてください!」
「担当医に緊急オペの要請を、準備もお願い!」
「は、はい!」
慌ただしい様子を見ながら何故か運ばれていく男を見て、不思議と他人じゃない感じがした。
そして、場面が変わる。
そこは葬式場だった。
さっき運ばれていった男が今度は棺桶の中で寝ている。
そこには"見覚えのある"参加者が数え切れないほどいた。
そして、参加者は最後の言葉を棺桶の中で眠る"俺"にかけていた。
「悠夜くん、元気でね…」
「てめぇ...なんで俺より早く逝っちまうんだよ」
「君の分まで生きるから向こうで見ててくれよ?」
参加者は泣きながら笑顔で語りかけていた。
俺は見覚えのあるやつらが知人であると推測したがならば何故この状況を見て"悲しそうだな"としか思えないことが酷く不快に感じた。
そして次は場所が変わる。
そこには川沿いに1本、満開の桜があった。
この景色は見たことがあった。3人の子供が桜の下で遊んでいる。俺はその光景がひどく懐かしく感じ、そこに走り出した。だが、それらは霞のようで触ると霧散していき、残された俺には虚無感だけが残った。
「ようやく来たね黒宮悠夜、君は僕をどれだけ待たせるんだい?」
不意に桜の方から声が聞こえ、その方を見る。
そこには桜の枝に腰掛けた小さな女の子がいた。俺は虚無感のせいからか強く言ってしまう。
「お前は誰だ、此処はどこだ、どうして俺の名前を知っている、なんで俺を待っていた?」
「わぁお、最初から怒涛の質問の嵐だね。ま、別に良いけど。」
少女はおどけた様子で質問を返し、桜の枝から飛び降りた。
「あぶっっ!?」
枝からの高さは2m50cmくらいあり、少女がそこから飛び降りたので、俺は思わず受け止めようとする。が、少女の体は受け止めようとした俺をすり抜けて、着地する。俺がすり抜けたことに疑問を抱いていると、
「じゃあ、質問に答えますか!まず僕はこの桜の意思だよ。精神体?と言えば分かるかな?それで此処は僕の精神世界。で、どうして君を知ってたかっていうと...」
と少女は俺の質問に見切り発車のように返答していく。
「ちょ、ちょっと待て。整理させろ」
俺にはよく分からないものを見せられた後でこのマシンガントークはキツく少し時間を貰った。
「よし、続けてくれ」
情報の整理を終え、少女にそう告げた。
「どうして君を知っていたか。それは僕が"君達"を小さい頃から知っているから。」
その時の少女は母親が息子にするような表情をしていた。俺はその面持ちに何かを感じ言うのを躊躇った。
「じゃあ次。なんで君を待ってたかっていうと、ある人と交わした約束を守るためだよ、そのために10年待った」
「じゅ、10年?」
「うん、君はしぶとく"生き延びた"から」
俺は10年という長い時間を待っていたということに唖然とするが、その後の発言が衝撃的すぎた。
「生き延びた?おい、まさかここに来る前に見たあれは...」
「ん?その言い方だと自分の葬式でも見たのかい?そうだよ、君は死んだんだよ」
それを聞いて、俺はあの葬式の参加者が見覚えがあり、寝ていた男に親近感が湧いたことに納得した。
その態度を少女が気にしたらしく、
「あれ?君は慌てないんだね?なんかこう、(はぁ?ふざけんじゃねーよ!)とか(まだやり残してる事があるのに!)とかないの?」
と首を傾げた。
「んー、そういう未練とか後悔とかはないんだが、葬式で俺の為に泣いてくれたやつらの事を全く覚えてないのはやっぱり寂しいな」
と恥ずかしくて少女から顔を背けて言った。
「え?記憶がないの?ちょっと待って。確かこの子は事故で...ブツブツブツブツ...」
少女は少し驚きながら何か独り言を言ってい
た。
「なるほど、だからあの約束か...。あ、ごめんね。つい考え事を。と、まあその話は置いておいて本題に入ろう!」
どうやら考え事は方がついたらしく約束の内容に入るようだ。
「僕は君を"守ってくれ"と頼まれた!」
そして静寂が訪れる。
「え?それだけ?」
「うん、それだけ」
余りにも簡潔な約束に驚きもしたが更なる疑問が出てきた。
「俺はお空に還るんじゃないのか?」
そう、"守る"と少女は言った。ならば必然的に攻撃してくる者がいるはずだ。空の上に攻撃してくる者などいるのだろうか?
「それは僕にも分からない、だけどこれが約束だから僕は君を守る。おっと、そろそろだね」
少女は急に話を切り上げた。まだまだ疑問はあったが自分の周りに白い光が出始めた。
「なんだ、これ?」
俺は自分の周りを見回す。そして気がついた。
「あ、手が消えかかってる」
白い光が消えつつある手から、次は足からと、あっという間にに全身から白い光が出ていた。
「最後にこれを渡しておくね」
と少女は俺の頬に口付けをする。
俺は突如の出来事に固まっていたが、少女は手を振って俺を見送る。
「次は"3人で来てね"」
そして俺は白い光に飲み込まれた。
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少女は1人となった世界でため息を漏らす。
「まさかの記憶障害...。まああんな事があったらそうなるのも無理ないか」
少女は知っていた。今までここにいた男がどんな人生を送っていたかを。だから、切に願う。
「次はハッピーエンドにしてあげたいな」
そして再び静寂が訪れた。
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