第8話 霊剣ファントム
ふと、俺はファリスの使っていた大剣を目にした。
「この娘はこれを軽々と振り回すのか……」
大剣を持ってみた。だが、地中深くに埋まっているかのようにびくともしない。
「重っ! やっぱ無理か……」
その時、俺の握っていた大剣は、突然眩しい光を放ち、形状を変え始めた。そして、形状が固定化され、美しい装飾を施された刀となった。俺は、刀になった大剣をファリスに見せた。
「刀に変身したぞ、どうなってるんだこれ」
この不思議な現象の説明を求めると、ファリスはゆっくりと答えた。
「その剣は、『霊剣ファントム』持ち主の精神を反映し、形を成す武器っス。それと、この武器は人を選ぶんスが、どうやらあっしはこいつに嫌われたっス。今の所有者はまぎれもなく、主様っス」
「え、この刀、俺の物でいいのか?」
──まさか、剣を仲間化したとでもいうのか? それが、本当なら、効果の幅は、かなり広いかもしれない。仲間銃の効果はまだ未知数であると、俺は感じた。
「主様に使われるなら本望っス」ファリスは俺の持っている刀を見て首を傾げた。
「ふーん、じゃ、有り難く」
「刀という武器は初めて見るっスね」
ファリスは、目を輝かせて刀を見ていた。ファリスにとっては、初めて見る武器らしい。
ひとまず、俺は刀を鞘から少しだけ抜いてみた。見た目は普通の刀だが、何か別の力が宿っているような気がした。刃に纏わりつく怪しい紫色の光は、振った時に何かを発生させるような、そんな力を感じる物だった。とりあえず刀を鞘に収める。そして、確認しなければならないことがあった思い出した。
「ファリス、王様に謁見することは可能か?」
俺がその言葉を発すると、ファリスは少し暗い顔をして問いに答えた。
「それは無理っス主様。私はSSSクラスの任務を達成したんスが、討伐隊の兵を無駄に死なせたとかという罪状で、SSSクラス任務達成の資格と剣聖の称号を剥奪されたっス」
「じゃあ、お前を通して王様に会うことはできないのか」
「主様、申し訳ないっス、お役に立てなくて。ですが、あっしは殺してなんかないっス! 殺ったのは、あの時同じパーティーにいた勇者だったんス!」
「勇者!?」
「そうっス。勇者は、あっしの最終奥義『ファイナルエンド』を『コピアリング』という謎の腕輪で私からコピーして、味方がいるのにも関わらず、後ろから放ったんスよ」
「コピー?」
「挙句の果てに勇者は行方不明、生き残った兵からは、その勇者の所業をあっしがやった事にされる始末……なんせ、技が私の技だったんで、弁解のしようがないっス……その兵の証言であっしは全責任を負ったっス。」
「そんなことがあったのか……じゃあ、俺たちでSSSクラス任務を達成するしかないようだな」
「お役に立てず、すまないっス」
ファリスとの話が一段落する。結局、正攻法しかなさそうなので、SSSクラスの依頼を見てみることにした。掲示板の中央に、ひときわ大きな依頼書が貼ってあった。SSSクラス任務と書かれている。俺は、その大きな依頼書を眺めた。
《
SSSクラス任務
日時指定有
依頼内容 北の魔女 勢力討伐戦
達成条件 北の魔女及びそれに属する勢力の殲滅
人数制限 20人以上
備考 依頼主はSSクラス任務以上達成者に限る
人数が指定日に揃わない場合 予定は延期する
依頼主 ツンダーラ帝国 国王 ツン・デ・レイ
》
俺は、依頼書の備考欄が気になった。
「SSクラス達成が必要なのか」
直接SSSクラスの任務は受けられないということだろう。しょうがないので、SSクラスの任務に目を移した。SSクラス任務は3つあった。 討伐任務が2つ、素材の入手の任務が一つだ。これらの任務には、受注条件は付いていないようなので、安心してうけられる。俺は、その中で簡単そうな依頼、素材の入手の依頼書を見た。
《
SSクラス任務
日時指定無
依頼内容 薬の素材の入手 作成
達成条件 指定ドラゴンの尾の入手 賢者ソエルに薬「アンテイル」を生成してもらう
人数制限無
備考
依頼主 ミツーユ商会 ミツユスキー
》
──依頼主はミツユスキー!?
「ミツユスキー、任務、依頼しているのか?」
俺は、ミツユスキーに尋ねた。
「ええ、家庭の事情というやつで……」
「それはわかった。だけど、何故素材集めがSSクラスなんだ?」
ミツユスキーは答えた。
「ドラゴンを倒すだけならSクラスでもいいんですが、問題は賢者ソエルなんですよ」
「賢者?」
俺は首を傾げた。
「薬の生成をお願いすると、必ず難問を押し付けてくるんです。それをクリアしないと請け負ってくれないんですよ」
「難問か……」
賢者に難問を出されたとしても、いざとなれば、仲間銃を使って簡単にクリアしてしまうだろう。だが、むやみに仲間を増やすのも考え物だ。相手の能力次第では仲間にしないでもないが……。
「今までその難問をクリアした冒険者はいないんですよ、どうしたものか……」
「ここに、その難問をクリアしそうな冒険者がいるだろう!」
仲間の頼みだ。ここは引き受けて当然だろう。たとえ、難問がダメだったときは、脅してでも、賢者に薬を作らせればいいだけの話だ。まあ、未来の大魔導師と元勇者パーティーのファリスもいることだ。問題はないだろう。
「そうですね、ご主人様なら……」
ミツユスキーは期待に胸を膨らませた様子で、話しかけてきた。
「あっしもいるっスからね」
「タカシ様は必ずわたしが守ります」
メイデンとファリスは、自信満々な様子だ。
「それじゃあ、君たちの力、貸りるよ」
「大将が手を煩わす必要はないっスよ」
「任されました! タカシ様!」
彼女たちは、快く引き受けてくれた。
任務は決まった。俺は依頼書を掲示板から外し、カウンターで受付を済ませる。
「今日はこちらでお休みください。2階に宿泊部屋を用意してあります」
ミツユスキーは、2階への通路へと案内してくれた。部屋は、大きいベッドやバルコニーのある、広い部屋だった。
「気が利くねミツユスキー、一応礼をいっとくよ、ありがとう」
「滅相もないです」
何か忘れている気がしたが、俺たちはギルドの2階の宿泊所で休むことになった。