第6話 ミツユスキー
──この状況、なんとかしなくては……。
なるべく大きな騒ぎにはしたくない。俺は、ない知恵を絞り、ごまかすための作戦を実行した。
「おっさん、しっかりしろ!」そう言って、ミツユスキーの肩をゆする。
案の定、屈強な男達が俺に話しかけてきた。
「どうした兄ちゃん、何があった!」
「と、突然このおっさんが倒れたんです!」
「なんか、でかい音もしたよな、あれなんだったんだ」
「音って何ですか? わかりません! おっさん、しっかりしろ!」
俺は、音の事を聞かれても反応せずに白を切り、ミツユスキーの意識が回復するのを待った。
人が大勢集まり始めた。そんな中、ミツユスキーはゆっくりと目を開け、俺の方を見て話しかけた。
「あれ……ご主人様……どうして」
俺は、ミツユスキーが仲間になった事を第一声で確認した。
「みなさんもう大丈夫ですよ、なんともないです。立ちくらみで倒れるなんてらしくないですよ!」
「私……立ちくらみで倒れて気を失ってたんですね……支えてくれて有難うございます」
ミツユスキーは、丁寧に礼を言う。作戦通りに事が運んだ。ミツユスキーが、立ちくらみで倒れた様に見せかけることができた。それを見ていた周りの屈強な男達は、興味を失ったようにざわつくのをやめた。
「立ちくらみかぁ」
「殺しかと思ったぜ」
「でも、さっきの音はいったい……ま、いいか」
屈強な男達は、ゆっくりとラウンジへと戻っていった。ひとまず、ピンチをしのぎ切ることに成功した俺は、髪を引っ張られたメイデンの様子を伺った。
「髪、大丈夫か?」
彼女のツインテールの髪の毛は、片側だけ解れていた。
「大丈夫です、タカシ様」
メイデンは、髪の毛を直し始める。金色の髪に手櫛を通し、綺麗に整えていた。
「もしかして、彼女はお連れ様でしたか」ミツユスキーは俺の顔色をうかがうように話す。
「ああ、そうだ」俺は強気で答えた。
「先ほどのご無礼、お詫び申し上げます」ミツユスキーは彼女に深く頭を下げた。
「身売りしなくて、済んだのかな」メイデンは髪を整えながら安心した表情を見せた。
それにしても、この銃声は厄介だ。撃つ度に人目を引いてしまう。面倒に巻き込まれない様に対策を考えなくてはいけない。それと、確認しなければいけないものがある。それは、弾数だ。
俺はマガジンを抜き、弾丸を抜いて弾数を確認した。残りの弾丸は5発だった。つまり、あと5人仲間にできるわけだ。だが、仲間を5人増やしてどうする?
──俺はこの地で何をする?──
撃った人を無理やり仲間にしてしまうこの銃で、何ができるのか考える必要がある。まず、俺が何をしたいかだ。俺としては、楽に生きていくのが理想だ。なら、その目的に合う人物を仲間にしなくてはいけない。
楽するには金が必要だ。金の力は、おそらくこの世界でも絶大だ。とりあえず商人を仲間にできたのは願ったり叶ったりだ。だが、それではちょっと足りない。どうせやるなら、この国の権力者を仲間にしてしまったほうが、色々な意味で楽できるのではないか。例えば、王様とかだ。王様を仲間にすれば、この国でやりたい放題だ。
俺は、ミツユスキーに問いかける。
「なあ、ミツユスキー。この国の王様は金持ちか?」
ミツユスキーは答えた。
「この『ツンダーラ帝国』の『ツン・デ・レイ』国王ですね。この国は一応、魔鉱石の取れる資源国家なので、そこそこ金持ちですよ」
ターゲットは決まった。『ツン・デ・レイ』国王がターゲットだ。
「王様に会うにはどうすればいい?」
「いやいやいや、私どもでは謁見すら叶いません。謁見が叶うとすれば、SSSクラスの任務を達成した時に報奨と称号を貰う時ぐらいです。ただし、SSSクラスの任務ともなると、一般冒険者には少し難しいですねぇ~」ミツユスキーは難しそうな顔をして話した。
やはり、国王ともなると、そう簡単に事は進まない。
「じゃあ、一般冒険者じゃないSSSクラス任務の達成者がいればいいのか。でも、この辺にそんなやついるの?」
「この界隈ではちょっと……!!」ミツユスキーは突然気づいたように、目線をラウンジの方に向ける。「ああ、うわさをすれば……例えば、あの人です。小柄で赤い髪。赤い鎧を着た、大剣を持つ女性。確か名は……『死神ファリス』」
「ああ! あいつは!!」
俺は、ミツユスキーが見ている女性を確認した。小柄な体格に大剣、赤い髪と赤い鎧。
「さっき俺にぶつかった奴じゃないか!」