第3話 ケンタ君
俺とメイデンは、冒険者ギルドを探す為、広い町を探索した。だが、ただ歩き回っているだけではたどり着けない。場所を知らないのは俺も一緒だ。なので、近くの住人に聞いてみることにした。
荷馬車のマークのような看板のある建物を見つけた。建物の奥の車庫には、幌付きの馬車と高級な馬車が置かれていた。
「ここは、貸馬車のようです」
メイデンが答える。
「そうか……なら、話が早そうだ」
運び屋なら、地理に詳しいだろうと考えた俺は、ここで、道を訪ねる事にした。
「すいませーん、誰かいませんか?」
しばらくして、車庫の奥から誰かが出てきた。
「お待ちくださーい」
出てきたのは真っ赤なロングヘアーでヒョウ柄の水着でパレオを着飾った女性だった。だが、よく見ると、下半身が馬だった。おそらく神話やゲームなどで、ケンタウロスと呼ばれている半人半馬の種族だろう。ちょっと驚いたが、異世界なら、こういう種族がいてもおかしくはない。
ひとまず、その女性に声をかける。
「あの、冒険者ギルド探してるんだけど、場所分かりますか?」
すると、女性は、元気よく声を上げる。
「いらっしゃいませ! なんでも運ぶ、運び屋ケンタウロスでーす。冒険者ギルドをお探しのようなら、私にご依頼ください。銀貨1枚でお送り致しまーす」
「いや、場所を聞きたいんですけど……」
「銀貨1枚でお送り致しまーす」
ケンタウロスはニコニコしながら、同じ言葉を繰り返した。話がまるでかみ合わない。お金を取る気満々なのが手に取るようにわかる。それに、ここへ来たばかりの俺は、お金など持ち合わせてはいない。しょうがないので、メイデンの資金を訪ねてみる。
「メイデン、お金ある?」
「ないです」
即答だった。『世の中金か……』そんな言葉が頭をよぎった。
俺はだんだん腹が立ってきた。面倒くさくなったので、仲間銃をポケットから取り出し、ケンタウロスに銃口を向けた。
「な、何をするんですかお客様?」ケンタウロスは、銃口を向けられた事に気が付いたが、意味が分からない様子だった。
俺は無慈悲にトリガーを引いた。銃声が車庫内に響き渡る。
「ヒギャー」
ケンタウロスは悲鳴を上げ、感電したように倒れる。俺は周囲を気にしたが、幸い誰も近くにいなかったので、安心し、ほっとため息をついた。
暫くしてケンタウロスは、ゆっくりと起き上がる。
「わたしは、運び屋ケンタウロスでーす。なんなりとお申し付けくださーい、ご主人様」
ケンタウロスの俺に対する態度が変化した。ここまで態度が豹変するとなると、銃の効果を信じざるをえない。やはりこの銃は本物だと、俺は確信した。試しに、命令を出してみる。
「俺達2人を冒険者ギルドに連れて行ってくれるか、ケンタウロス……いや、名前じゃないのか。挨拶が遅れたが、俺はタカシだ。君は?」
「私はケンタウロスのアリシアでーす。ご主人様の頼みなら、何処へでもお運びしまーす」
「君の名前はケンタウロス・ノアリシア? でいいのかい?名前長いな……俺としては、ケンタ君の方がいいのだけど……いい名前だよね!」
俺はちょっと調子に乗って、ケンタウロスを勝手に命名してみた。
「はい! ご主人様がそうおっしゃるなら! とても素晴らしい名前を有難うございまーす!」
本当は、変な名前を付けられて困る顔を期待したのだが、あまり効果はなかった。冗談のつもりだったのだが、これも銃の効果なのだろうか。俺は、このふざけた命名にも文句を言わないケンタウロスを、足として、迎えることにした。
さっそく俺とメイデンは、ケンタ君の背中に乗せてもらい、冒険者ギルドを目指した。ケンタ君の毛並みはとてもふさふさしていて、乗り心地も快適だ。さらにメイデンは後ろから俺の腰に手をまわして嬉しそうに抱きついていた。自転車の後ろに女の子を乗せた事のない俺が、こんな場面に出会えるなんて本当に俺は幸せ者だ。仲間銃に感謝しなくてはならない。
俺達は、30分程度町を移動して、大きな建物のある場所に着いた。
「ご主人様、着きましたー。ここが冒険者の集うギルド施設でーす。冒険者登録は勿論、クエスト依頼、転職、装備販売、簡易医療施設、宿泊施設、食事処までありまーす」ケンタ君は、ガイドの様な口ぶりで話す。
「ここがギルドか」その大きな建物は、神殿風の外観だった。
「初心登録は無料でーす」
「無料?」
異世界の場合、ギルドへの登録があるなら、できるときにやっておくのがセオリーだ。と、俺は記憶していた。
「俺も登録できるのか? 本当に無料なのか?」
「ご主人様も登録するなら、受付で出来ますよー」
「じゃあ、俺もやっとこうかな。よしメイデン、いこう」
「はい、タカシ様」
俺とメイデンは、ケンタ君から降りた。その直後、ケンタ君は、少しそわそわしながら話しかけてくる。
「あと、ご主人様。少々お時間が欲しいのですが、私用で出かけてきていいですかー? 持ってきたい物があるんですけど……」
「あ、いいよ。ちゃんと迎えに来てくれるなら」
「ありがとうございまーす」そういうと、ケンタ君はさっさと何処かへ行ってしまった。
さあ、冒険者ギルドに登録だ。俺とメイデンは、ギルド施設に足を踏み入れた。