工作員
城門から少し離れた監視塔の陰に、黒子の姿をした男がいるのが見えた。
「メイデン、あそこの塔の後ろの黒子、怪しくないか?」
「任せてください」
メイデンは地面を蹴った。ここから30メートルぐらい離れている場所なのだが、まるで距離を感じさせない速さだ。メイデンは、隠れている黒子に襲い掛かる。
「やめろ貴様! くそお!」
サヤを捕まえていた黒子は、ダガーで首を切りつけた。だが、サヤには傷一つ付かなかった。
それもそのはずだ……サヤは人間ではない。
サヤを切りつけた黒子は「なぜだ……なぜ切れない!?」と、言葉を放つと、砂のように崩れ去った。どうやらメイデンが、本体にきつい一撃を食らわせたらしい。
メイデンは、攻撃で気を失った黒子の服をつかみ、引きずってきた。
「本体、捕まえました」そして、黒子の頭巾をはぎとった。顔は、ごく平凡な男だったが、額に小さく鷹の入れ墨が彫られていた。
異変に気付いた衛兵が、現場に集まってきた。
「どうしました、勇者殿?」
「襲われたんだ……こいつ、誰だかわかるか?」
「この男は多分、間者です。額の入れ墨は、ディーバ帝国の工作員の印です」
「なんてわかりやすい……」
「では、この男、我々が連行します。勇者殿、お気をつけて」
そういうと、衛兵たちは、工作員の男をつれて、この場を立ち去った。
どうも、この国はきな臭い……俺は、そう感じた。