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毒リンゴは甘く囁く  作者: 百瀬
ハローワールド
8/12

7 デビュタント(2)

私生活でバタバタしてしまい、更新遅れてしまいました。

あわてて書いてしまったので、誤字脱字多いかと思います。

のちほど修正しますので、そっと流してくださると嬉しいです。

よろしくお願い致します。

 穀倉地帯に囲まれた町・ヴェルシュタニアで育った平民の女の子、ルーシアが、王都・シュタインベルグに来てたった一ヶ月。

 彼女はなぜか、王家主催の舞踏会へ参加していた。


 平民には珍しい魔法の才があるからと、両親を置いて訪れた王都。

 母の弟、叔父であるフランシスは、この国の政治を司る政務大臣を務めるサントラム公爵家の現当主であった。父と結婚するまで母も、サントラムに名を連ねた貴族令嬢であったという。


 叔父のフランシスとむかった王城では、なぜかあらわれた第一王子レジナルド・アランデールがあらわれた。

 目の前で交わされるフランシスとレジナルドの貴族的やりとりを、平民育ちのルーシアはとうぜん理解できなかった。突然、横柄な態度で訪ねてきて、遠まわしな皮肉で「お前ブスだな」と言ってきたイケメン。それがルーシアのレジナルドにたいする印象となった。

 遅れてあらわれたのは、軍務大臣を務めるバラティエ公爵家後継のユーリ・バラティエ。10歳になるレジナルドよりも、ひとつ上の11歳の彼は、レジナルドの近衛騎士として既に勤めているらしい。

 そしてなにより、彼はこの国では初めて見る日本人顔であった。格好いいなぁとぼんやり思うが、どことなく既視感がある姿である。


 王子と公爵家の跡取りかつイケメンという二人を目の前にしても、のんきに構えていたルーシアは、仏頂面な幼馴染の珍しく動揺した姿を面白がった王子によって、はた迷惑な招待状が送られることなど、気付けるはずもなかった。


 叔父のフランシスの計らいで手配された魔法の家庭教師は、同い年の少年、ルイ・モンフォールだった。魔法大臣を務めるモンフォール家の跡継ぎである彼は、膨大な魔力量と膨大な魔法学の知識、類稀な魔法の才能をもっていた。

 彼に師事すれば「町のみんなを助けられる」と浮かれたるのも束の間、国中の貴族たちが集められる王家主催の舞踏会への招待状が、ルーシアへ届けられる。平民のルーシアに、一度会っただけの王子、レジナルドの「ご友人」として。


 レジナルド殿下の初お披露目になる10歳の生誕祝賀会までの一ヶ月は、慌ただしく過ぎ去った。魔力の制御に魔法の習得。貴族としての振る舞いやダンスをみっちりと叩き込まれたのである。合間にはサントラム婦人と仕立て屋によるドレスの着せ替え人形。忙しい日々だったが、復習のために通った夜の図書室では、サントラム家後継で、従姉弟にあたるアシルとよく出会った。市井の話や、平民の子供の遊びなどを話すと大層喜んだ。会話を重ねるごとに親しくなり、舞踏会当日には「僕が姉さまをエスコートする」とダダをこねるほどに、懐いてくれた。


 可愛かったなぁ、とルーシアが浸っている間にも馬車は進み、王城へと到着した。

 「挨拶があるから」と公爵夫妻と早々に別れ、ルイとふたり会場を歩く。

 豪奢なシャンデリアのもと、色とりどりの衣装で着飾った貴族たちが行き交い、会話に花を咲かせる。その様は以前、魔力測定のために訪れたときより数段も華やかで、別世界に感じられた。

 ここは、貴族の世界なのだと。


 「メシ、食うか?」


 なれない前髪のせいか落ち着かない様子のルイの視線を辿れば、壁際に立食形式の食べ物や飲み物が置かれている。スイーツコーナーに集まる女性たちの姿はまるで、前世でいうホテルビュッフェのようだ。世界が変わってもやはりそこはかわらないらしい。もっとも、そこにいるのはご婦人が中心で、若い令嬢たちの姿はそこにはない。


 視線をずらせば、スイーツの他にも、国中から集められた料理に、思わず喉が鳴る。人波が偶然開けた先には、肉汁滴る焼きたての最高級フュルフ鳥の丸焼き。北京ダックを連想させるフュルフ鳥に、目を奪われていると、それを切り分ける料理人と目が合う。料理人は優雅に肉を切り分けると、ニコリと微笑み肉の乗った皿をかたむけた。ルーシアとフュルフ鳥の距離はおよそ15m。届かないはずの匂いが脳内で生成され、十分すぎる刺激がルーシアの腹を襲う。

 食べたい。すごく食べたい。ジューシーな肉にかぶりつきたい。

 でも、今はどうしても食べるわけにはいかない。


 「うっ……、い、いや、いらない」


 必死にフュルフ鳥から目をそらし、想像された匂いや前世で知った味覚を頭を振って散らす。

 食べたい。しかし、今のルーシアは食事を楽しめる状態ではないのだ。たとえ、この先一生食べられないであろう最高級肉が、目の前で微笑んでいたとしても。

 

 「お前の家族を蔑むわけじゃないが、」と前置きしてから、周囲には聞こえぬようルイが顔を近づけ囁く。


 「……平民じゃ、あんな上等な肉食べられないだろ。菓子だってそうだ。サントラム家でも、お前は遠慮してほとんど手をつけない。今日ぐらい食べとけよ、な?それとも、なにか理由でもあんのか?」


 周囲に出自が無用にバレないよう考慮してくれたのだろう。しかしいかんせん距離が近い。わずかに屈んで、顔を真正面から至近距離でみつめられている。イケメンに。前世でもこんな経験はなかったのではないか。


 「その、うん。……食べられないの」


 すぐ近くから向けられるルイの視線から、逃げるように目をそらしながら言葉を返す。ルイは親切心で言ってくれている。でも、だからこそ、言えない。

 ここは適当に言って誤魔化そう。それに、前髪を上げたせいで隠されていないイケメン顔に、至近距離で見つめられながら囁かれるなんてこれ以上耐えられない。

 だって、ゲームだったらスチル確定だよ、この状況……!


 ボサボサに伸ばされた髪で今まで見えなかったが、ルイはイケメンなのだ。

 深い藍色の髪は、整髪料でほどよく整えられ、長かった前髪もサントラム家の優秀な使用人によってしっかりセットされた。

 シャンデリアの明かりを受けたラベンダー色の瞳は、淵から中央にかけて色素が薄くなっていて、一度覗き込めばズイと引き込まれてしまう。必死にそらしても、ツンとした鼻に、薄い唇から漏れる色香に目が引き寄せられる。

 

 「そ、その、緊張しちゃって、食欲なくて」

 「実際目の前にすれば案外食えるぞ、取ってくる」


 人だかりを縫うようにして、ルイは先ほど見つめていた肉の方へと消えていってしまった。

 今世では、貴族の食べるようなお菓子はほとんど食べていない。しかし、前世の記憶が、それらの美味しさを想像させる。

 もし一度でも食べたなら、前世知った味覚を鮮明に思い出させ、平民の生活に戻った後も、食べたくてたまらなくなってしまうだろう。

 親切心で言ってくれたルイにそれを話すのは、その優しさを仇で返すような気がする。現に、自ら取りに行ってくれた。


 けれど、食欲がないのも嘘ではない。

 それは入場してから常に注がれ続けている複数人からの視線。敵意を内包する視線は、すこしずつ鎖で締め付けられていくようですらある。一挙手一投足を敵意の視線で監視される状況に、指先ひとつ動かすのにも緊張する。とてもじゃないが食事をできる気がしない。


 視線の主は、婚約者のいない貴族令嬢たちだろう。そして、原因はルイだろう、ともルーシアは考えていた。

 もっさりした男子が、急にイケメンだと発覚したら、目で追ってしまうものだ。それにルイのモンフォール家というのは、この国の貴族のトップ4に入る大家。そんなイケメンが、デビュタントもしていない田舎育ちの芋臭い女をエスコートしていたら、そりゃ「誰よ、あの女」となるだろう。貴族令嬢たちにとっては死活問題なのだ。令息たちにとっても、モンフォール家の影響力は無視できない。素性の分からない女がいれば探るのは当たり前のことだ。


 前世から染み付いた一般市民根性が邪魔をして、ルーシアは、向けられる視線をたどることすらできない。下手に目を合わせても、平民のルーシアに良いことは起きるとは考えられない。

 それに、もしここで問題を起こしたら、サントラム夫妻や故郷で待っている両親に迷惑をかける。だからこのまま耐える他ない。


 ルイがそばから離れれば、一時的でも視線から開放されるだろう。ルーシアはそんな甘い考えを抱き、そっと胸をなでおろしていた。

 しかし、そうは問屋が卸さないのが現実である。


 「ごきげんよう、そちらの方。お名前を伺ってもよろしいかしら?」


 振り向けば、眩しい赤髪を縦ロールにした令嬢とその取り巻きらしき令嬢が3人。前世の少女漫画ならば、主人公のライバルが取り巻きをともなって屋上に呼び出す場面に似ている。

 表面だけ繕われた薄氷をこわさぬように、彼女らを刺激しないよう慎重に、貴族令嬢の礼をとる。


 「……、ごきげんよう。ルーシア・ブランデスと申します」


 ここでひとつでも粗相をすれば、集中攻撃されるに違いない。前世の黎那としての記憶が、警鐘を激しくうち鳴らしている。


 「あら、きいたことありませんわ。皆さんはご存知?」

 「いいえ、わたくしも知りませんわ」

 「ええ、わたくしも。まるで平民のようなお名前ね」


 赤髪たてロールの言葉に、取り巻きたちも調子を合わせ、ルーシアを嘲るように笑う。傍から見れば、令嬢たちが仲睦まじく談笑しているように見えることだろう。曇ったルーシアの表情以外は。


 「ところで。どうしてあなたのような方が、モンフォール公爵家のルイ様にエスコート頂いているのかしら?高級なドレスを纏えば、お側にいられるとでも勘違いしてしまったのかしら。なんだか可愛そうだわ。勘違いしているあなたも、あなたをエスコートしないといけないルイ様も」

 「その通りですわ。いつも一人でいらっしゃるルイ様に、どうやって擦り寄ったのかしら。少しばかり整った容姿だからといって不埒だわ、はしたない」


 サントラム家に縁があるだけの平民と国を支える大貴族の令息。令嬢たちの疑問はもっともだ。

 夫人が用意してくれたドレスが高級なのも、それが不釣り合いであることも、間違ってない。


 だから言い返せない。

 そもそも、平民が彼女たちに、意見することなんてできない。


 ルーシアは俯き、唇を噛んでひたすらに耐えていた。

 聞かれたことだけ返して耐える。これもいつか終わる。


 「良い案が浮かびましたわ!今からカトリーヌ様をエスコートいただくのはいかがかし?」


 取り巻きの一人が、妙案とばかりに手を合わせる。


 「そんな、たかが伯爵家のわたくしをエスコートだなんて、公爵家のルイ様に失礼に当たりますわ」

 「そのように美しく思慮深いカトリーヌ様ならば、ルイ様も喜んで引き受けてくださるに違いありませんわ」


 形だけ謙遜する赤髪たてロールも満更でもない様子で、取り巻きの言葉に機嫌よくしている。


 早く終われ。私のエスコートなんてどうでも良いから、赤髪たてロールの相手してあげてよ、とルーシアは俯きながらルイに念を飛ばしていた。


 すると、そこに近づく新しい影がひとつ。


 「麗しいお嬢様方。ご歓談中失礼します」



しばらくは二日ペースで更新できるように頑張ります。

次話もよろしくお願いします。

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