5 ルイ・モンフォール(2)
前話で誤って途中投稿してしまいました。
あとから書き足すのもと思い、短いですが2話に分かれております。
2016/03/03
納得いかなかったので、加筆しました!
フランシス伯爵ですが、公爵に変更しました!
国随一の蔵書を誇るサントラム家の図書館。
翌日から始まるルーシア嬢への魔法講義のための資料探しを兼ねて散策していた。抱える魔法書が、10を超えた時、吹き抜けの図書館の階下から会話がきこえた。
『――もしかして、あなたが!』
声の主はいけ好かないこの屋敷の令息、アシル・サントラムだった。
フランシス公爵によく似た天使のような容姿美の悪魔。社交界へのお披露目、デビュタントはまだだが、すでにご婦人たちの間では噂の美少年。
昨年、魔力が検知され俺が、その扱い方を講義したのだが、なんとも小憎たらしいガキだった。そのくせ、さすがはサントラム家の後継というべきか頭は良い。まだ俺よりも2つ下の8歳にも関わらず、貴族としての礼儀作法なんかも完璧。しかし、コイツは、その年ですでに歪んでいる。
そっと、柱の影に身を隠しながら、階下をのぞく。上手な猫かぶりで愛想を振りまくアシルと、困惑した様子のルーシア嬢の姿がある。
『はじめまして。僕の名前は、アシル・サントラムと申します』
そう名乗ると、アシルは相変わらず完璧な貴族の礼をとった。
まてよ、いま。アシルが「はじめまして」といったか?ルーシア嬢の年齢は明らかにアシルよりも上だ。純粋なサントラム家の子供であるならば、姉に当たるルーシア嬢とこんな時間に初対面なんてことはありえない。つまり彼女は、外からの子供だ。
父へ良い報告ができそうだ、とそのまま聞き耳を立てれば更なる事実を知ることとなった。
『――大変嬉しいのですが、私は平民なので……』
そう、彼女がはっきりと口にしたのだ。たしかに昼間、彼女ははっきりと「公爵家の令嬢ではない」と否定した。それは嘘ではないのだろう。
では、なぜ公爵はサントラム家の者として紹介してきた?なぜこんなにも厚遇して面倒見ている?将来の手駒にするためか?平民の子供を裏の仕事をさせる「草」として育てるのは珍しいことじゃない。でもそういう子供は大抵、貧困街で生まれた者たちだ。
しかし、昼間にこの目でたしかに見た。ラズベリー色の瞳。
それは何よりも、彼女がサントラム家の人間であることを証明していた。
あれほどの礼儀作法や品の良さをもつ平民なんて、豪商の娘でもそうそういない。貴族令嬢のような気品、容姿に不釣合いな戦闘力、くわえて複数属性な上に溢れるほどの魔力量。
戦闘力をのぞけば、サントラム家の令嬢として文句ひとつない少女。むしろ、護身のためといえば悪くない特技だ。
なのに、どうして「平民だ」というのか。
お前は、いったいどこからあらわれた何者なんだ。
アシルが去ると、脱力したようにルーシア嬢は、ぺたりと座り込んでしまった。
彼女の事情はわからない。だが座り込む姿に、もしかしてルーシア嬢までアシルに、と思うと自然と足が彼女へと向かっていた。
アシル・サントラムは、貴賎に対して異常に執着している。
公爵家に仕えるのは、貧しい男爵家の令嬢なども多いが、とうぜん平民の者が多い。あいつは、平民を同じ人間だとは考えない。王族とラズベリー色の瞳のみが尊い。それがヤツの信念だ。他は虫けらだとでも思っているのではないだろうか。
ラズベリーの瞳を持ち、平民を名乗る彼女に対し、ヤツが危害を加えないとは限らない。十分に危険だ。
声をかけようか、という時に、ため息を吐くように彼女が口をひらいた。
「なにあれ、可愛すぎなんだけど。そうか、あれが天使……」
「おまえは馬鹿か?」
警戒心の欠片もない言葉に、思わず返してしまった。
俺の登場に一瞬驚いたものの、すぐに意味のわからない返答をしてきた彼女に、警告だけしてすぐに去った。
もし平民出身だとしても、あれだけ魔法を使えるならば、近いうちに魔法省入りするか、貴族として生きていくことになるだろう。しかし、彼女はあまりにも無防備すぎる。
自分のチカラとその瞳を、貴族たちがどれだけ欲しているのか。どんな手を使って利用してこようとするのか。そんなものは知らないと書かれた彼女の顔は、間抜けで、純粋で、けがれを知らない、可愛い顔だった。
――2年前の俺も、あんな顔をしていたんだろうか。
故郷に帰ったら、町のみんなのために魔法を、とこぼした彼女の悲劇はこれだけじゃないようだった。
翌日、心地良い陽光の差す午前のこと。
「お嬢様ー!大変ですぅー!お嬢様宛にレジナルド殿下、生誕祝賀会の招待状が!」
あずま屋でおこなう魔法の授業。穏やかな時間は唐突に打ち破られた。
王族は、振る舞いや教養、知性など王族に必要なもの全てを、生まれて10年で叩き込まれる。それまで公爵以上の貴族、平民たちの目に触れることはない。生誕祝賀会は、その封印が解かれる特別な会となる。当然だが、王城からの招待状なしに入場することは叶わない。貴族であれば男爵家にも招待状が届くが、母が平民に降嫁しているルーシアにその参加権はない。
「ルーシア嬢も参加権を?」
招待状を持ってきたルーシア付きの従僕、リルが頭を振って答える。
「いえ、お嬢様は、レジナルド殿下のご友人として特別招待されるそうです」
ご友人、という言葉に疑念を抱きながらも、しかし、これは好機かも知れない。どうせ王都から離れられなくなるだろう彼女と親しくなれば、魔法省への勧誘も容易くなる。貴族令嬢としてお人形にするには、彼女はもったいないチカラを持っている。それに、魔法省なら我が家の領域。人のために魔法を、という願いも叶えてやれるかもしれない。双方に悪い話じゃない。
「ふむ、」と思案するように顎に手をついてから、自然を装ってルーシアに話しかける。
「お前がよければエスコートする」
「……え、あ、えっと?」
明らかに状況を飲み込めていない様子のルーシアに、興味なさげに魔法書をパラパラといじりながら話す。自然に、なんとなく誘うように言ってから、もしかして、とある可能性が浮かんだ。
「アシルなら参加できる年齢じゃないからエスコートはできないし、俺なら家格も釣り合うから問題ないだろ、ってまさか。一人で参加するつもりじゃないよな?」
「はい、そうです」という顔をしてから、ルーシアはゆっくりと顔を逸らした。
そもそも自分以外に貴族の知り合いなんていないだろう、いや、王子から直接招待状か届いたということは。レジナルドとその側近であるユーリとは面識があるのか。もし、レジナルドに気に入られたとなると、と考えたところで、ルーシアが小さく話した。
「あの、オネガイシマス」
「わかった。平民と言ってたけど、ダンスは大丈夫なのか?」
昔の自分を思い出しながら、これだけ礼儀作法や所作がしっかりしていれば大丈夫だろうと、形だけ問えば。
「ダン、ス……?」
「、もしレジナルドに誘われたら、お前に拒否権はないぞ」
「ウソだろ?」とでも言いたげな様子のルーシアの肩を叩いて現実を教えてやる。コイツは、ほんとうにこれから苦労するかもしれない。
レジナルドの祝賀会まであとひと月。
正体のわからない奴だが、どうにも憎めない性格と抜きん出た魔法のチカラ放ってはおけない気持ちにさせらる。
あくどい貴族どもに悪用されない程度には、面倒をみてやってもいい。なにより、現状でこれだけ魔法が使えるコイツなら、もしかしたら。




