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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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90(ひかり) ラリー

 ゲームも終わりに近付き、互いに慣れが出てきたからか、ラリーが続くようになります。


 藤島ふじしまさんがスパイクを決め、21―20。


 サーブは霧咲きりさきさん。コーナーを狙って外した先程のことを気にしてか、コートの中央部に打ちます。


 それを有野ありの可那かな先輩がチャンスボールにして、相手の攻撃。セッターの逢坂おうさか月美るみ先輩は、レフトの赤井あかいしずく先輩を使ってきます。


 ブロックは、ミドルブロッカーの北山きたやまさんが佐間田さまだ珠衣みい先輩をマークしているので、市川いちかわしずか先輩一枚。それを見越したサイド攻撃でしょう。


 しかし、やられてばかりはいられません。私は今回、前衛フロントではほとんどできることがなく歯がゆい思いをしました。前衛フロントではお荷物だった分、得意分野テリトリーである後衛バックで埋め合わせをしてやります。


 赤井先輩が跳び上がるのと同時に、私はBC(バックセンター)の定位置から、市川先輩のブロックが塞ぎ切れていないコース――赤井先輩と目が合う位置まで踏み出します。ブロックアウトなどを狙われると勇み足になってしまいますが、少なくとも、赤井先輩は序盤に一度がら空きのクロスに打ち込んできました。分の悪い賭けではないはずです。


 ばちんっ、


 速いっ! と思いましたが、思うだけの余裕がありました。生天目なばため信乃のの先輩の角度のあるスパイクで目が慣れていたおかげでしょうか。赤井先輩は読み通りクロスへ打ってきました。手を出せば届きます。リベロはチームの最終(Red)防衛線(Line)――むざむざ抜かれるわけにはいきません。


「――っ! カバーお願いします!」


 予想以上の重さ。レシーブには成功しましたが、ボールが前に飛びませんでした。ただ、不幸中の幸いなのは、ボールの落下点――BR(バックライト)には霧咲さん(セッター)がいるということです。


「ナイスレシーブ! 藤島、行くよっ!」


「はいっ!!」


 腕を振って藤島さんに指示を出す霧咲さん。藤島さんもレフトに開いて、二段トスを打つ気満々です。霧咲さんは慎重に狙いを定め、とーん、と対角レフトにオープントスを上げます。


「来ますよ、月美さん!」


「わかってる……」


 対するブロッカーは、逢坂先輩と珠衣ミィ先輩の二枚。藤島さんは、しかし臆さず、むしろ勇ましく、踏み込んでいきます。


「フォロー、オーケーです!」


 岩村いわむら先輩と北山さんと私――三人でブロックフォローに入り、跳び上がった藤島さんを見上げます。藤島さんは自身の最高到達点で、霧咲さんのトスを叩きます。そして、


 だがんっ!


「いっ……! ワンチです!!」


 今日一番のスパイクだった気がしますが、珠衣ミィ先輩が触ります。これには藤島さんも悔しそうな表情。


「っしゃあ、十倍返しにしてやれ!! 珠衣ミィ!!」


「言われなくても――」


 珠衣ミィ先輩がワンタッチしたボールを、有野先輩がきっちり逢坂先輩へ。逢坂先輩はゆったりと余裕を持ってジャンプし、ネットの上でボールを捉えると、迷いなく珠衣ミィ先輩に合わせます。コミットの北山さんと、初めから速攻狙いだった藤島さんの二人が、絶好のタイミングで並んで跳びます。


 ブロッカー二人の背中で珠衣ミィ先輩の姿が隠れ、これはシャットもあるか、と思った次の瞬間、


 ――ふっ。


 ほとんど無音に近い柔らかなボールタッチで、無人のFL(フロントレフト)にフェイント。しまった……! と思った時には、ボールが落ちた後でした。


「くっくっくっ! 力押しするなら相手を選びたまえ、とおるくん! 目の前の珠衣ミィをどこの珠衣ミィだと心得える! 畏れ多くも珠衣ミィだよっ!」


 ばばーん、なんて効果音が似合いそうなボーズで藤島さん(着地直後)を見下ろす珠衣ミィ先輩。言動はとにかく藤島さんを手玉に取ったその実力は確かなものです。


「ぅう……っ」


 珠衣ミィ先輩の名口上に感じ入るところがあったのか、藤島さんは肩を震わせてその場に立ち尽くします。私はその背中に駆け寄って、ぽんっ、と手を置きました。


「ぁあぅ……三園みそのさぁん……!」


 ええ!? 藤島さん!? ちょ、なんでちょっと泣いてるんですかあなた!?


「ごめん……せっ、せっかく……三園さんがレシーブしてくれたのにぃぃぃ!」


「い、いえ、決して藤島さんのせいではありませんよ……」


 むしろ後方からの二段トスをよく強打しましたよ。私のほうこそフェイントを読めなくて申し訳ないくらいです。せっかく藤島さんが珠衣ミィ先輩の強打を牽制してくださったのに。


「ぅぅ……! つ、次は……頑張る、からっ!」


 ごしごし、と袖で涙を拭って、藤島さんはずんずんと定位置コートポジションに戻ります。なんだか若干近寄り難いオーラが出ています。大丈夫でしょうか。


 と、何やら視線を感じたのでそちらを見ると、ベンチにいる宇奈月うなづきさんと目が合いました。宇奈月さんは、私と目が合った瞬間、超にこにこして(ぶい)してきます。


 ……大丈夫な気がしてきました。


 額に滲んだ汗を拭い、私も定位置コートポジションに戻ります。


 スコア、21―21。


 全部拾ってやる、です。

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