表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
96/374

89(可那) 熱

 ったく月美るみのやつ。おかしくなるならおかしくなるって先に言えよ。いや直ったみてえだからいいけど。


 まあ……原因になんとなく心当たりみたいなのはあるが、深く考えると面倒臭そうだから後回し。


 そんなことより目の前の試合ケンカだ。


 小夜子さよこが意地のブロックアウトでサイドアウトをもぎ取り、20―20。


 ここからは、細けえことより気合いがモノを言ってくる20点台。サッカーで言えばPK戦。互いに互いの顔面をフルスイングで殴り合う。そして2点差つけて(ワンツーフィニッシュ)決めたほうの勝ちだ。


 小夜子や月美、それに信乃ののたち下級生にとって、この練習試合は練習試合以上の意味はないだろう。


 だが、二年前のあの瞬間、コートの中にいたあたしにとっては、そうじゃない。


 市川いちかわしずかは、サーブを打つことで、あの時のことにケジメをつけた。


 あたしも、今度はきっちり最後まで全力で試合ケンカして、ケジメをつける。


 市川静がそうだったように、あたしにも、待たせてる人がいる。


 あれから前に進めたと、聞かせたい人がいる。


 そして、どうせなら、報告には勝利オマケを副えたいわけだ。


 サーブは小夜子。月美は……とりあえず大丈夫そうだな。向こうの攻撃は二枚。藤島透エースと、セッターもできる目つきの悪いヤツ。


 主審の笛が鳴り、一呼吸置いて、ばしっ、と小夜子がサーブを放つ。ボールは、藤島ふじしまとおると目つきの悪いヤツと後衛バックの初心者の間。あっちの一番大きな穴(ウィークポイント)だ。案の定三人は揃って二の足を踏む。これはお見合いもあるんじゃねえか――と思っていると、


「藤島さん!」


 鋭い指示こえが飛ぶ。癖っ毛頭の小さいヤツだ。その声に反応して、固まっていたはずの藤島透が弾かれたように動き出す。続いて目つきの悪いヤツが速攻、初心者もブロックフォローへと意識を移す。藤島透のカットは、最初の躊躇いの分だけ真芯から外れ、多少ネットに近い位置に上がる。ま、今は市川静セッター前衛フロントだからリカバリーは利くだろう。


 あわやサービスエースから、速攻が使えるレベルまで立て直してきた。ここであっさり決められると、相手をノらせちまう。そうはいくかよ。


 市川静はこちらに背を向けて跳び上がる。あそこからツーは難しいだろう。仮に来たとしても小夜子が詰めてる。しずくもそれを感じ取って速攻に備えている。珠衣ミィは藤島透を警戒。市川静は、果たして、速攻(Aクイック)を選んだ。雫がブロックに跳ぶ。遅れて珠衣ミィも手を出す。目つきの悪いヤツはその間に打ってくる。


 前に出たほうがいいか? いや、待て、そういや珠衣ミィの手はここからさらに伸びるんだったな。


 ばしっ、とワンタッチ。珠衣ミィが勢いを殺したボールは、バックセンターのほぼ定位置へ。あたしは慌てて下がりながら(危うく同じミスするとこだったじゃねえか!)、オーバーハンドでボールを捉える。


「お前珠衣(ミィ)コラー! 触るなら止めろっつったろうがああ!」


「だからなんでチャンスにしたのにキレられるんですかー!?」


「八つ当たりだよ、ばーか! 文句があるなら決めてから言え!」


「とどまるところを知らない理不尽!!」


「おらああ、行くぞっ!!」


 チャンスボール――と叫びながら、あたしはボールを月美に繋ぐ。身体が後ろに流れているから、指先と腕に気持ち力を入れて。月美は前衛フロントだし、カットは短いより長いほうがいいだろ。


 どさっ、と受け身を取って後ろに倒れたあたしは、即座に立ち上がる。ボールは大体狙い通りのところへ行ってくれた。ブロックフォローに入りながら、元の調子に戻った月美がゆったりとセットアップするのを見る。


 月美が選んだのは、珠衣ミィ。相手もそれを読んでいたのか、ミドルブロッカーだけじゃなくサイドブロッカーも止めにくる。三枚ブロック――だが、珠衣ミィなら。


「こらしょっ!!」


 ばしんっ、


 と速攻クイックらしからぬ重音を響かせ、珠衣ミィのスパイクはブロックを弾き飛ばす。ボールは相手コートのコーナー深くへ。


「っ……! 三園みその殿おー!!」


「お任せですっ!」


 癖っ毛頭がボールを追っている。あの足なら届きそうだ。癖っ毛頭は、しかし、走るだけでもさわれそうなボールを、敢えてフライングで取りにいった。それがただのカッコつけじゃねえってのは、あたしも守備専門リベロだからわかる。


 あいつは、一直線に走っても届くボールに対して、後ろから回り込むようなルートを選んだ。ゆえに最後はフライングでタイミングを合わせることになったんだ。


 深いコースに来たボールを真っ直ぐ走って取ったんじゃ、身体の正面がセッターのほうを向かない。それだと腕だけでボールをコントロールすることになる。


 だが、後ろから弧を描くように回り込めば、身体ごとボールを捉えられる。フライングの勢いも含めて、より正確にセッターへ『運ぶ』ことができるんだ。


 ただ拾うだけじゃない。チャンスボールにするための技術テクニック


 癖っ毛頭のファインプレーのおかげで、ボールはぴったり市川静の元へ飛んでいく。今度もAクイック―レフト平行のコンビ。たぶん藤島透レフトだろ、と思っていたら、その通りだった。


 珠衣ミィと月美の二枚ブロック。元々珠衣ミィ藤島透エース狙いだったので、壁に隙間はない。あたしはブロックアウトに備えて深めに守る。フェイントっぽいと思ったらダッシュすりゃいい。


 だが、そこはあの珠衣ミィが最大警戒するだけのアタッカー。二枚ブロックのさらに横――インナー・クロスにスパイクを叩き込んできた。雫が反応しているが、さすがに無理だ。


 ――だんっ!


 スコア、21―20。


 決められたってのに思わず頬が緩む。そうさ。敵は強いほうが面白おもしれえ。


「っしゃあ、次だ! 一本集中して行くぞ!!」


 得点を決めた城上女あっちの声を食うように、あたしは叫ぶ。やられたものは仕方ない。やられた以上にやり返しときゃ、最後には勝てる。


 相手のサーブは、目つきの悪いヤツ。前衛フロントには短髪の初心者。依然、城上女(向こう)の高さは十分過ぎるほどある。


 が、こっちもあと一つ回れば信乃が前衛フロントだ。さっさとサイドアウトを取って、一気に攻めるに限る。


「っさあああ来いやああ!!」


「「おーっ!!」」


「声が小せええええええ!!」


「「おおー!!!」」


 身体中が熱を帯びていた。それは、けれど、二年前と違って、決して不快な熱ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ