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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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88(史子) ブロックアウト

 どうも。烏山史子(ふみこ)です。『とりやま』じゃないです。『からすやま』です。


 まさかの逆転に、突然のタイムアウト。わわわっ、と慌てました。こういうとき、タオルから渡せばいいのでしょうか? それともドリンクから? 渡す順番は? やっぱり三年生方から? 一番へとへとな方から?


「フミフミ、落ち着くのだ。ドリンクは籠ごと出せばみんな適当に取っていくから」


「そ、それだと両手が塞がってしまいます! タオルはどうすれば……」


「それくらいはるがやるよ」


「はる先輩! かっこいい! 大好きです!」


「少し将来が心配になるチョロさだなフミフミ」


 そう言ってはる先輩は私の頭をくしゃくしゃと撫でます。きゅんきゅんです。


 とかやってる間に皆さんが帰ってきて、私は皆さんのお話の邪魔にならないように立ち回るのに精一杯で、飲み終わった人からドリンクを回収しなきゃ! と思ってわたわたしていたら、タイムが終わってしまいました。


 タイムって……こんなに忙しいものなんですね。なんだか月美るみ先輩の調子が悪かったみたいですけど、こんな短い時間で気持ちを切り替えられたのでしょうか。


「あ、あの、皆さん、大丈夫だったんでしょうか?」


「んー? たぶん大丈夫だと思うよ?」


「根拠は?」


「雰囲気? みたいな?」


 はる先輩! 疑問に疑問で返すのはやめてくださいっ!


「こういうときはね、コートにいる選手みんなを信じるしかないんだよ。ベンチにいるはるたちが暗い顔してても何が良くなるわけでもない。だから、ほりゃ、応援するぞフミフミ!」


 くっ、はる先輩……! 自分の状況把握能力のなさをそれっぽいこと言いつつ頭を撫でて誤魔化そうとするとは卑怯なりです! そんな簡単に言いくるめられる私ではないですよ!


「みなさーん! 頑張ってくださーい!」


「フミフミの苗字ってなんだっけ? チョロ山?」


「からすやまです!」


 さて、そんな私たちの応援が届いたのか否か、可那かな先輩の高い声が響き渡って、プレー再開です。


 サーブは可那先輩よりも小さい方(ちなみにカラス可那先輩カナリアより大きくて、155センチあります)。ボールはしずく先輩のところへ。カットはいい感じに月美先輩に返ります。それを月美先輩が、レフトの小夜子さよこ先輩にトス。


 小夜子先輩は、スターティングメンバーの中では一番小柄です。セッターの月美先輩よりも背が低いのです。対して、城上女あちらのブロッカーは二人で、高さはどちらも珠衣ミィ先輩と同じくらい。大丈夫でしょうか……不安でなりません。


「大丈夫。よく見てなって」


 すっかり私の頭を手の置き場にしているはる先輩。私は息をするのも忘れて小夜子先輩を見つめます。とん、とん、とテンポのいい助走。ぱっつんの前髪が激しく揺れています。やがて、だんっ、と力強く床を蹴り、両腕を振り上げ、小夜子先輩は宙に舞います。きりりと引かれた白い右腕。ボールはその手に吸い込まれるようにネット上を滑り、そして、今だ! というところで腕が振られ――それは弓道の弓を引く瞬間を思わせます――スパイクが放たれます。


 直後、


 だだんっ、


 とブロックに阻まれます!


 ああっ――私は思わず下を向いて目を瞑ります。


「まだまだああああああっ!!」


 可那先輩カナリアの声!? えっ、と私は顔を上げます。ボールは……、っ、上がってます! まだ落ちてません! プレーは続いています!


「月美ちゃん!」


「小夜子!」


 小夜子先輩と月美先輩が声を掛け合います。もう一度こちらの攻撃です。コンテニューです。


 ふわっ、


 とレフト上空に上がるトス。今までの月美先輩のトスより、優しさが当社比50%アップみたいな感じです。ネットから十分に離れた小夜子先輩がまた、とん、とん、とステップを踏みます。


「やっちまえ、小夜子おお!!」


 きーん、と可那先輩カナリアの声がコート中に響く中、小夜子先輩の二度目のスパイク。それは、


 だごっ、


 またブロックに阻まれます! そして今度は――可那先輩の詰めている位置とは逆に落ちていきます! 万事休すですか!?


 ばむっ、と無情にもボールが床を跳ねます。そんな……と顔を覆ってしまいそうになりますが、主審の方の腕が、すっ、と私たちのほうに伸びます。


 …………あれ?


「なんでですか? ブロックされたのに……?」


「今のはブロックアウトだよ」


「ほえ?」


 ブロックアウトって、城上女あちら岩村いわむら先輩がぼごがごやってたアレですよね? でも、岩村先輩の打ったボールはネットを越えていましたが、今のはこっち側に跳ね返ってきましたよ?


「ネットのどっち側でも、ブロッカーがワンタッチしたボールがコートの外に落ちれば、打った側の得点になるんだよ」


「なっ……! なるほどお! その手がありましたか!」


「うん。バレーのルールが定められた時からある手だよね」


 ブロックアウトにはブロックアウト(こっち)とブロックアウト(あっち)があるわけですね!


「相手ブロッカーが高いとき、小夜子先輩は積極的に当てにいくことが多いんだ」


城上女あちらの岩村先輩もそうですよね。あ、えっと、あのボブカットの」


「城上女のぽっちゃりさんのアレは……当ててるんじゃなく壊しにきてる、かな」


 はる先輩はぶるるっと身震いして腕を擦りますが、すぐに笑顔を取り戻して言います。


「ま、信乃やはるみたいに、ブロックの上をいくスパイクだけが強いスパイクではないってこと。小夜子先輩のああいうの見ると、はるも頑張らなきゃなーって思うよ」


 おおっ! はる先輩にリスペクトされるとはさすが小夜子先輩! なんたって部長ですもんね! 素敵です!


「チョロ山さん、記録つけなくていいの?」


「わっ、忘れてました!?」


 スコア、20―20。


 ここからは、先に5点取ったほうの勝ち。なんだかサドンデスじみて来ました!

<バレーボール基礎知識>


・ブロックアウトについて


「ネットのどっち側でも、ブロッカーがワンタッチしたボールがコートの外に落ちれば、打った側の得点になるんだよ」


 と結崎さんが説明して、烏山さんは『ブロックアウトにはブロックアウト(こっち)とブロックアウト(あっち)があるわけですね!』と納得しています。


 この、ブロックアウト(こっち)とブロックアウト(あっち)。起きている現象は似ていますが、主審のハンドシグナルはそれぞれ違うものになります。


 烏山さんの言う『ブロックアウト(あっち)』とは、ボールがブロッカーの手に触れて、それが相手コートの外に落ちることを指します。この場合、主審は『ワンタッチアウト』を示すハンドシグナルをします。


 烏山さんの言う『ブロックアウト(こっち)』とは、ボールがブロッカーの手に跳ね返されて、それが自軍コートの外に落ちることを指します。この場合、主審は『ボール・アウト』を示すハンドシグナルをします。


 審判に慣れていないと、後者の場合も『ワンタッチアウト』のハンドシグナルをしてしまいそうになります。


 しかし、後者の場合に『ワンタッチアウト』のハンドシグナルをすると、それは、ブロックされて跳ね返ってきたボールが『アタッカー(あるいはブロックフォローに入った選手)の身体に当たってコートの外に出た』というような意味になってしまいます。


 このように、バレーでは時々、得点したのがどちらなのかはわかるけれど、それをどういうハンドシグナルで示すのが正解なのかわかりにくいケースがあります。

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