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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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87(珠衣) 部長

 なんだか月美るみさんの様子がおかしい。


 それに気付いたのは、一度目のトスミス。もちろん、バックトスでライトブロードに合わせるのはかなりの高等技術(テク)で、状況次第では月美さんだってトスを乱すことくらいある。


 だけど、可那かなさんから上がったチャンスボールで月美さんの手元が狂うのは、さすがにただ事じゃない。


 可那さんのサーブカットと月美さんのトスはみなみ五和いつわの生命線。それが揺らいでいる。そして恐ろしいことに、その理由がさっぱりわからない。わからないまま次のプレーが始まって、今度は小夜子さよこさんへのトスが乱れた。


 むろん放っておくことはできず、小夜子さんがタイムアウトを取る。片手で顔を隠して俯いている月美さん。小夜子さんに背中を押されてベンチまでやってくると、今度は深い溜息。玉手箱でも開けたみたいに急激に弱っている。本当に何がどうなってるんだ……?


「いきなりどうした、月美」


「ああ……いや」


「いやじゃねえよ。明らかに変だろ」


「うん……。そう、それが、ちょっと説明が難しくて」


「……もしかして、一周前の三枚ブロックのこと、気にしてるの?」


 心配そうな声で言ったのは、小夜子さんだ。


「そう……いうことになるのかな、うん。端的に言えば」


「ああ、そういやあんときも今も、あたしの正面にサーブが来たな」


 口をへの字に曲げて腕を組む可那さん。遅ればせながら、珠衣ミィもなるほど――と状況を理解。


 つまり、月美さんは、どこに上げてもまた三枚ブロックされるんじゃないかって、急に不安になったんだ。珠衣ミィ的には三枚ブロックがどうしたって感じだけど、セッター目線だとブロッカーを散らせなかったって責任を感じて、どうにかしなきゃって思うだろう。しかも、南五うちの必勝パターンである可那さん始まりの攻撃だから、さらにプレッシャーが掛かっていたはずだ。


 そうとわかれば、解決法は簡単。三枚だろうと四枚だろうと、珠衣たち(アタッカー)が決めればいいのだ。


 みんな辿り着いた答えは同じだったようで、直後に珠衣ミィ信乃ののしずくの(あとノリ的にはるも)目が合う。月美さんの力になりたい――それは珠衣ミィたち全員が同じ気持ちだ。珠衣ミィたちは決め役(フィニッシュ)を誰にするかを視線で主張し合う。そして、


「わかった」


 誰よりも先に名乗りを上げたのは、小夜子さんだった。


「じゃあ、次からは私に上げて。全部」


 珠衣ミィたち四人は目配せをやめて小夜子さんを見る。表情は普段と変わらないナチュラルスマイルだけれど、瞳は真剣そのもの。いやいやここは珠衣ミィが! なんて出しゃばれる空気じゃない。


 南五にエース(自称)は四人いる。珠衣ミィと信乃と雫とはる。


 けれど、南五に部長はただ一人しかいない。すなわち、小夜子さんだ。


「なんならあたしに上げてもいいんだぜ?」


 可那さんは挑発的な笑みを月美さんに向けて言う。決まりだな、という意味だ。月美さんの硬かった表情が、柔らかさを取り戻す。


「あんたのスパイクは反則的だからダメ。二重の意味で」


「だとよ。じゃあ頼むぜ、小夜子」


「うん。頼まれた」


 しっかりと頷いた小夜子さんは、ふふっ、と吹き出すように笑って、珠衣ミィたちを見る。


「もし私でうまくいかなかったときは、みんなよろしくね」


「「はいっ!」」


 揃って返事。異論はない。全会一致だ。


 ぴぃぃ、とそこでタイムアウト終了の笛。


「っしゃあ、一本集中!」


「「おーっ!!」」


 気合を満タンにして、珠衣ミィたちはコートへ戻る。その途中、さり気なく月美さんの顔色を伺う。うん、たぶん、大丈夫そう。


 ……それにしても、と思う。


 珠衣ミィは月美さんとは小六からの付き合いだけれど、こんな弱り方は見たことがない。可那さんはサーブカット以外だとムラっ気があるし、珠衣ミィたちがダメ過ぎるときは小夜子さんもキャパオーバーする。対して月美さんは、言わばチームの遊び部分。誰かが不調のとき、そこに負担が掛からないようバランスを保つ役目を担っている。


 その月美さんが揺さぶられる――今回は持ち直せそうだけど、もしそれもできないくらい崩されたら? 遊びが機能しない状態でチームに圧力がかかったら……?


 嫌な想像だ。


 というか、もしかして、音成おとなるに勝ったって、こういう感じの『勝った』なの?


 いやいやいやいや、音成なんて揺らぐ要素ほとんどなくない? 一体何があったんだろう……気になる。けど、お姉ちゃんに聞いたって教えてくれるわけないしな。んー……。


「どうした、珠衣ミィ?」


「いえ、大丈夫です。珠衣ミィのことはご心配なさらず!」


「ならいいけどよ。ちゃんと集中しろよ」


「それはもちろん! 負けられませんからねー!」


 可那さんに簡易悩殺ポーズを見せて、珠衣ミィはダッシュで初期位置コートポジションであるネット際に向かう。


 スコアは、20―19。


 そうだ。負けられない。珠衣ミィは負けるわけにはいかないんだ。


 城上女じょじょじょにも、お姉ちゃんにも、ね。

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