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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
72/374

65(音々) 県内最高の左

 珠衣ミィさんとかいう元県選抜のセンターにクイックを決められ、0―1。


 今のはあたしのブロックが遅れたのがよくなかった。思っていたよりトスが速いから、もっと素早く跳ぶか、攻撃を読むかしないとまた抜かれる。


 藤島ふじしまは、相手の攻撃がセンター中心かもしれない、と言っていた。確かに、センターの二人は、どちらもレフトの二人より高い。センター線が主力で、レフトはサブウェポンって可能性は大いにある。そして、それは必然的にレシーブが安定してるってことを意味する。たぶんあの黄色いリベロがかなり上手いんだろう。


 主砲エースセッター対角(ライト)にいるし、一般的なレフトエース中心の組み立てにはならない。ブロックするときは、それを念頭に置いて、マークする。


 いや、その前に、攻撃を決めてしまえばいいのよね。高さだけなら、あたしだって珠衣ミィさんとやらに負けてない。


 笛が鳴る。サーブが打たれる。また北山のところ。けど、これくらいの球威なら――と、あたしはオーバーハンドで取りにいく。


 指に力を込めて、弾くようなオーバーハンド。同じオーバーでも、サーブレシーブとトスでは感覚が全然違う。まだ慣れていないせいか、カットは少しライト側に流れる。


「悪い、宇奈月うなづき!」


「どーってことないぜ!」


 宇奈月は言葉の通り完璧なセットアップを見せた。たまにびっくりするんだが、宇奈月は落下点に入るのが異様に速いときがある。


 っと、感心してる場合じゃない。速攻に入らなきゃ。相手ブロッカーは眼鏡の人が一枚。センターの珠衣ミィさんとやらは、本命が藤島だと読んでいるのか、ややレフト寄り。これなら――。


 たっ、と跳ぶ。しゅ、と速攻のトス。あたしはターン気味にボールを捉える。


 だっ、ごっ!


 レフトブロッカーをかわしたつもりが、ワンタッチを取られた。珠衣さん(センターブロッカー)が追い付いて手を出してきたのだ。


「ワンチです!」


「んなろっ!?」


 ブロッカーによって勢いを殺されたボールは、しかし、黄色いリベロが構えていた位置とは逆サイドに。読みを外された形のリベロは慌てて手を伸ばすが、届かない。


「こらー、珠衣ミィ! 半端に手ぇ出してんじゃねえよ! お前が触らなきゃド正面だったぞ!」


「ええっ、珠衣ミィのせいですか!? 可那かなさんが定位置にいればチャンスボールだったじゃないですか!?」


「るせえ、ばーか!! ……あ、確かにその通りだな」


「もー! なんで可那さんはいつもよく考えずにキレるんですか!?」


「よく考えるヤツはハナからキレたりしねえよ!!」


「か、可那さんのくせに正論を……っ!?」


 騒がしい人たちね――というのは置いておくとして。


 ブロックに追い付かれたことも、リベロに正面回られてたのも、ひやりとしたわ。


「ナイスキー、ねねちん! サーブもよろしく!」


 向こうから渡されたボールをあたしに押し付けて、宇奈月はにこにこと笑う。


 ……そうよね。1点は1点。素直に受け取っておきましょう。


 これで、1―1。


 一応、前衛フロントとしてやることはやった。あたしは後衛バックに下がり、サービスゾーンに立つ。宇奈月が振り返ってあたしに視線を送ってくる。大丈夫。わかってるって。


 打ち合わせ通り、ここから半周はあたしがセッター。理由は三つ。優先順位の高いほうから、北山の速攻を使うため(北山と宇奈月のコンビはまだ仕上がっていない。あたしとならギリ形にはなる)、レシーブが下手なあたしの守備サーブカット参加を避けるため、そして攻撃の枚数を増やすため。みんなの希望ポジションと今できることを考慮して、今回はこのような変則ツーセッターを採用した。


 あたしは宇奈月に頷きを返して、サーブの構えを取る。南五なんいつは四人レシーブ体制。セッターの他に、センターも攻撃に専念するためにネット際に上がっている。


 少数レシーブ体制はあたしたちも音成おとなる相手に試したが、あれは中心となるリベロの守備範囲が広くないと成立しない。加えて、戦術的にはカットがきっちり返ることも必須事項。カットが乱れて速攻が使えないのでは、センターが攻撃に専念する意味がなくなってしまうからだ。


 最初から当たり前にあのフォーメーションをしてきたということは、あれで今まで戦ってきた実績と経験があるってこと。それだけで相当なレベルだとわかる。向こうの珠衣さん(センター)は元県選抜。サーブカットだって人並み以上にできるだろう。そこを敢えて攻撃に集中させているんだから、あたしたちみたいに、あたしや北山のサーブカットに難があるから――みたいな消極的な理由でやっているわけではないはずだ。


 うーん……どこに打ってもリベロに取られそうな気がする。それくらいの存在感があるのよね、あの黄色カナリア。やや迷って、ばしっ、とあたしはリベロを避けるように打つ。


 が、そのせいでボールは相手の裏エースのほぼ正面へ。確か部長の三年生。イージーミスには期待できないだろう。コンビ攻撃が来る。


 あたしはバックライトに急ぐ。後衛の守備位置プレイヤーポジションは、岩村いわむら先輩がバックレフト、三園みそのがバックセンター、あたしがバックライトだ。サーブレシーブは予想通りのAカット。相手の攻撃は二枚。センターの県選抜か、レフトの眼鏡で一つ結びの人か。セッターは独特のゆったりとした動きでボールを捉え、


 とっ、


 とまさか(!)のツーアタック。


 左手のスナップを利かせて、ボールをこちらのコートのど真ん中に落としてくる。対策としては岩村先輩かあたしが拾うか、藤島がブロックするかだが、あたしたちは誰一人としてそのツーに反応できなかった。


 ぴっ、と審判の笛でようやく我に返る。まんまとやられた。悔しいと思うと同時に感心する。ここまで見事な――敵ばかりか味方まで出し抜くくらいの――ツーアタックはなかなかできるものじゃない。


 しかし、相手セッターは特に喜ぶでも安堵するでもなく、既にこちらに背を向けてサービスゾーンに歩き始めていた。


 その背中からは、この程度のことならいつでもできる、という自信が感じられる。


 むう……厄介そうね。名前なんていうんだったかしら、あのセッター。


 スコアは、1―2。


 サーブはそのセッター。音成の獅子塚ししづか先輩みたいなことをされると困ってしまうが、どうだろう。今回はあたしがサーブカットに参加してないし、一本で切れればいいんだけど……。


 ばしっ、と思っていたよりは普通のサーブが来る。ボールは岩村先輩のところへ。あたしはネット際に上がる。岩村先輩のカットは、少し短めだった。でも、全然許容範囲。あたしはバックトスで藤島にライトセミを上げる。っと、ちょっとネットに近いかも――でも、藤島なら、


 だばんっ!


 強烈な音。よしっ、と思わず言いそうになるが、直後に北山が「ぬぎゃ!」と悲鳴を上げ、藤島が「うっ」とうめいたので、声は引っ込んだ。


 何が起きたのか――もちろんそんなことは見て理解していたが、信じるのに時間が掛かった。


「ふっふっふ、ショックを受けることはないよ、とおる! 珠衣ミィが相手ならこういうこと(ドシャット)もあるさっ!」


「あっ、あの! 珠衣ミィちゃんはこんなこと言ってますけど、止めたの私ですからっ!」


 藤島に向かって横ピースの笑顔を見せる相手センター――珠衣ミィさんとやら。


 そして、大手を振って味方に自分の活躍をアピールするセッター対角(スーパーエース)


 名前は、確か、生天目なばため信乃のの


 藤島より背の高い、二年生。


 立沢たちさわ先輩が気をつけろと言っていた――県内最高のサウスポー


 なんでライトブロッカーが主審側こっちまで出張ってきてるのよ、と思ったけれど、レフトの北山はないものとして、最初から藤島狙いで主審側ライトに寄ってたのか。


 にしても、あの藤島を一発目からシャットアウトできる人間が……いるところにはいるものなのね。


「ご、ごめん、ブロックされちゃった……」


「いや、あたしこそ、よく考えずにトスしてたわ。次からは気をつける」


 藤島のほうががっしりしてるから大きく見えるけれど、数字の上では生天目信乃のほうが2センチほど高いらしい。それに、よく見ると手足がひょろりと長い。ブロッカー向きの身体をしている。


「ドンマイです。切り替えていきましょう」(三園)


「つ、次はフォローするっス!」(北山)


「カット短くてごめんねぇ」(岩村先輩)


「ねねちん、私、速攻じゃなくてレフトに回ったほうがいいー?」(宇奈月)


 あたしと藤島の周りにみんなが集まってくる。試合開始早々、なんだか苦しい展開。こっちの連続得点からスタートした音成のときとは真逆の立ち上がりだ。


「こ、今度は決めるからっ!」


 藤島が少し無理をしているような感じ。ここは宇奈月の言う通り、レフトに回ってもらって相手のブロッカーを散らしたほうがいいか。もしカットが乱れて二段トスをすることになったら、トスはネットから離して……とあたしは次の攻撃を頭で組み立てる。


「よーし! さー来おーい!!」


 声を張り上げる宇奈月。不安そうな様子はない。


 そうよね。まだ始まったばかり。焦ることはない。今回はあたしのトスが悪かったけど、ちゃんと上げれば、藤島はそんな簡単には捕まらないはず。


 あたしは守備位置コートポジションについて、サーブを待つ。


 ぴっ、と短い笛が鳴った。

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