64(透) 立ち上がり
城上女子VS南五和。
相手の部長――前髪ぱっつんさんが放ったサーブは、北山さんのところへ。
北山さんは、この一週間で基本のパスはかなり上達した。でも、サーブカットはまだまだだ。持ち前の運動神経で、落下点を見極めて正面に回り込むまではできるが、そこからボールを目的のところへ『運ぶ』のは、一朝一夕にできることじゃない。
「うぬっス!?」
北山さんのカットは、肘の近くに当たったのか、大きく跳ねて後ろに逸れる。岩村さんがそれを追う。間に合いそうだけど、落下点はエンドラインより後ろ。二段トスは厳しいか。
「透ちゃん、お願ぁい!」
ぽーん、と綺麗な山なりのボールが飛んでくる。タイミングは取りやすい。ただ、さすがにネットから離れ過ぎている。私は軽くジャンプして、ばしっ、とミート優先のアタックを相手コートに打ち込む。
「らあああっくしょおおおお!!」
うっ……リベロの黄色い人の正面。完全にチャンスボールになってしまった。もっと際どいコースを狙うべきだったかな? いや、でも、それでアウトになったら元も子もないし……むむむ。
なんてぐちぐち悩んでいるうちに、相手の攻撃。
セッターのなで肩さんが前衛だから、攻撃は二枚。センターの珠衣さんとレフトの眼鏡ポニーさん。一発目だしレフト――いや、一発目だからこそ珠衣さんか。
結論から言うと、その予想は当たった。
けど、止められなかった。
だんっ、
とターン方向に決まるAクイック。霧咲さんの上を抜かれた格好だ。指は掠めていたみたいだけど、珠衣さんのクイックはかなり重い。半端なブロックじゃ止められない。
「ナイスキー、珠衣」
「当然です! なんたって珠衣ですからっ!!」
きらーん、なんて効果音が似合うポーズで喜びを表す珠衣さん。相変わらずだったので、ちょっと笑ってしまう。
「悪い、藤島、抜かれたわ――って、どうしたの?」
「あっ、いや、ごめん。なんでもないよ」
「向こうのセンター、高い上に重いわね。手がびりびりするわ」
「珠衣さんは、中三のときに県選抜だった人だよ。控えだったけど、強いのは今見た通り。たぶん……向こうの攻撃の中心はセンターなんじゃないかな。あと、あのセッターの人だけど」
「ちょっとタイミング取りにくいわよね。ボールコンタクトまではゆったりなのに、触れた瞬間加速するあの感じ。緩急に慣れるまで、もう少し掛かるかも」
「見た感じ、トスそのものは霧咲さんと同じくらい速いと思う。ブロック振られないように気をつけて」
「了解。しかし、ミドルブロッカーも楽じゃないわねぇ」
「楽なポジションなんてないよ」
「ま、そうなんだけどさ」
そう言って、霧咲さんは右手で眉間に触れた。眼鏡の位置を直す仕草が咄嗟に出ちゃったのかな? 部活中は眼鏡掛けてないのに。
なんてぼんやり見ていると、霧咲さんの顔がみるみる赤くなった。
「い、一本取るわよ、藤島!」
「あ、う、うんっ!」
スコア、0―1。
笑い合ったり照れ合ったりするくらいの余裕は、まだ、ある。
大事な立ち上がり。傷が深くならないうちに、取り返さなきゃ。