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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第一章(城上女子) AT城上女子高校
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5(透) ミニゲーム

 ――翌日・五時間目


 その日の体育の授業は、五月のゴールデンウィーク明けにあるクラスマッチの練習だった。


 前回種目決めをしたとき、私は色々ある中から、バスケットを選んだ。それは、クラスの友達に誘われたからで、それ以上の理由はない。


 屈伸をしていると、件の友達――道重みちしげ幸子さちこさんに背中を叩かれた。


藤島ふじしまさん、頼りにしてるね!」


 笑顔でそう言って、彼女はまた他のチームメンバーのところに向かった。


 藤島(とおる)


 私の名前。英語の授業で自己紹介するのが、恥ずかしくて仕方がない。


 なぜなら、I am tall。洒落ではない。私は身長が181センチもある。


 我ながら溜息をつきたくなるほど肩も腰もがっしり骨太で、体力測定ではほとんどの分野で満点を取るほどの屈強で頑健な身体。


 オリンピックなんかをテレビで見ていても、単純な身体的ポテンシャルで私を越える女子はそうそう見かけない。


 スポーツで期待されるのは、もう慣れっこだ。


 期待通りの結果を出せるとは、限らないけれど。


「ねえ、藤島」


「は、はい!」


 立位体前屈中に呼び掛けられて、慌てて身体を起こし、振り返る。わりと近くに顔があって驚いた。猫背で背中が丸まっているとは言え、私と目線の高さが合う女子は珍しい。実際、一組には彼女一人しかいない。


霧咲きりさきさん……」


 銀縁眼鏡を掛けた、美少女というよりは美少年といった感じの、シャープな顔立ちの美人さん。


 身長は170センチ以上ある。一年一組で、私の次に背が高い人。名前は、霧咲音々(ねおん)さん。


 中三の最後の夏、女子バレーボールの地区大会。決勝リーグの最終戦で、私は彼女がセッターをしていた霞ヶ丘(かすみがおか)中と対戦した。


 微妙に、気まずい。


「オフェンスなんだけど、とりあえずあんたにボールを集めるってことでいいかしら。道重はディフェンスを主にやるつもりらしいから、攻撃の中心は藤島で」


「あ、うん。じゃあ、ゴール下で待ってる。高めのパスくれれば決められる……と思う、たぶん。離れたところからのシュートは自信ないけど……」


「わかった」


 私と霧咲さんは、クラスマッチで同じチームを組む。私がパワーフォワードで、霧咲さんがポイントガード。バレーにおける中学時代の私たちのポジションと、役割はそう変わらない。


 ちなみに、霧咲さんをチームに引き込んだのも、道重さん。道重さんはバスケ経験者で、『ガチで優勝狙うから!』と意気込んでいた。クラスマッチには二年生も三年生も出てくるけれど、私がいる時点で、決して無理のある話じゃない。


 力任せにゴール下に割って入って、霧咲さんからボールをもらって、そのままシュートを決めればいいだけ。


 自惚れではない。それくらいのことなら小さい頃から何度もやってきた。体力勝負なら私は負けない。


 少なくとも、高校のクラスマッチのレベルなら。


「……ねえ、藤島」


「なに?」


「あんた、バレーやらないの?」


「えっ?」


 薮から棒が出てきた。


「昨日、話してるの聞いたの。玉中たまちゅうのリベロと、あとなんか声のデカい変なヤツと」


「ああ……うん、そんな感じ」


「なんで? あんた県選抜にも選ばれてたのに、もったいないわよ」


「それは、まあ、そうなんだけど……」


 私は首の後ろに手を回して、言葉を濁す。霧咲さんは、ふん、と鼻を鳴らして眼鏡を押し上げた。


「そっか……藤島は高校ではバレーやらないのか」


「え、えっと……そういう霧咲さんは……?」


「あたし? あたしはやらないわよ。バレーなんて興味ないもの」


「そ、そうなの……?」


「ええ。でも、あんたには――あたしたちに勝って地区優勝した落中らくちゅうの〝黒い(Headlong)鉄鎚(Hammer)〟には、続けてほしいな、と思って」


「それは……」


 なんかちょっとずるくない……?


 なんて言えるはずもなく。


「おーいっ! 二人とも、ミニゲームするわよー!」


 道重さんからお呼びが掛かる。私と霧咲さんは話を切り上げて、コートの真ん中に集まっているチームメンバーのところに向かった。


「こちら、一年二組の……なんだっけ?」


「チーム『スーパースターズ』です!!」


「私それ初耳ですよ、宇奈月うなづきさん」


 私と霧咲さんは揃って目を丸くした。


 噂をすればなんとやら。確かに今日は二組と合同だったけど、まさかこの二人もバスケにエントリーしていたとは。


 昨日、私をバレー部に勧誘してきた二人。霧咲さん曰く『玉中のリベロ』と『なんか声のデカい変なヤツ』。


 玉中のリベロとは、本名を三園みそのひかりさんという。私より30センチ以上小さい人で、薄茶色の癖っ毛頭がふわふわしている。


 それと、声の大きな人――背も同年代の女子の中では高い方だ――は、名前を三日月みかづきウサさん……じゃなかった、宇奈月実花(みか)さんといったはず。中学のバレーの大会では、見たことない。


「よろしくお願いします、藤島さん」


 真っ直ぐに私の目を見て、背筋をぴんと伸ばし、小さな手を差し出してくる三園さん。


「よろしくねっ、霧咲さん!」


 隣では、少し眉を顰めた霧咲さんと、満面の笑みの宇奈月さんが握手している。


「負けないわよ、幸子」


「こっちの台詞よ、珠実たまみ


 あっちはあっちで火花を散らしている。あとでそれとなく道重さんに聞いたところ、道重さんと星野ほしの珠実さんは同中のバスケ部同士だったとか。


 そんなわけで、ミニゲームは始まった。

登場人物の平均身長:160.3cm


<バレーボール基礎知識>


・アンダーハンド


 基本のパス動作の一つです。主にレシーブで用いられます。


(1)両手で手刀を作ります。


(2)両手の四指(人差し指〜小指)を、直交するように重ねます。右手と左手のどっちが上でも構いません。


(3)四指を重ねたまま、両の手の平で卵かピンポン玉を包みこむイメージで、親指の側面同士、掌底同士を合わせます。


(4)手を重ねたまま、腕がぴんと伸びるまで前に突き出します。


(5)仕上げに、親指の爪先をぐっと下に向けます。このとき、手首から肘にかけて、腕の内側が上を向き、平たい面が生まれると思います。その平たい面でボールを捉えるのが、アンダーハンドです。


・オーバーハンド


 基本のパス動作の一つです。主にトスで用いられます。


(1)両手をパーにします。


(2)親指と親指、人差し指と人差し指の、指先同士を近付けて(くっつけません)、三角形を作ります。


(3)その三角形を、ぴたっとバレーボールに押し付けます。


(4)続いて、中指、薬指、小指と、順番にボールに押し付けていきます。


(5)両手でボールの型が取れたら、ボールから手を放します。


(6)その型を保ったまま、軽く肘を曲げ、三角形を頭の上に上げていきます。正面を向いたまま上目遣いで三角形の中心が見えるくらいの角度まで上げれば大丈夫です。


(7)そうして頭の上で構えた両手でボールを捉えるのが、オーバーハンドです。

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