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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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61(胡桃) 暴れ金糸雀《Untamable Canary》

 可那かなが暴走するという予想内のアクシデントはあったものの、そこからは事前の打ち合わせ通りに進んだ。


 みなみ五和いつわ高校バレー部のアップが終わるまでは、城上女(わたしたち)がコートを使って練習。切りのいいところで交換し、南五和がコートを使って練習する。その間、わたしたちは休憩を取って、コート外でできることを。そのあとは、両校揃ってスパイク&サーブ。そして小休憩を挟んで試合、という流れだ。


 今は、コートを明け渡して、休憩をしているところ。わたしはしずかが逃げないように入口付近に立って、南五なんいつの練習を眺めていた。


 と、小脇にボールを抱えた実花みかが、隣にやってくる。


「くるみー先輩、南五和の方とはお知り合いなんですか?」


「同中出身者が二人いる。二人とも中学時代はチームメイトだった」


「それは、どの方とどの方ですか?」


 ひょこ、とひかりも現れた。実花とひかりに挟まれる形で、わたしは答える。


「一人は、今、南五和の部長をしている江木えぎ小夜子さよこ。あの前髪ぱっつんショートカットの」


「なるほど。もう一方のほうは?」


「もう一人は、件の黄色いの」


「しずしず先輩にお熱を上げている方ですね!」


「そゆこと。本名は有野ありの可那かな。中学時代からとにかく騒ぎばかり起こしていた大問題児。あの髪の色も当時からで、中央地区では〝暴れ(Untamable)金糸雀(Canary)〟で通ってる」


「声も綺麗なソプラノですしね」


「本人的にはもっとドスを利かせたいらしいけど」


 そのとき、耳聡くわたしたちの会話を聞き取った可那が、練習しながら器用にガンを飛ばしてきた。とりあえず無視しておいた。


「ちなみに、くるみー先輩、他の南五和の方はわかったりしますか?」


「レギュラーメンバーのことは、一通り」


「よろしければ、教えていただいても?」


「うん。いいよ」


 南五なんいつは、チャンスボールからのコンビ練習をしていた。レギュラー陣はわたしたちから見て左のコートにいる。わたしは目についたメンバーから名前を挙げていく。


「まずは、セッターの逢坂おうさか月美るみ。三年生で、中学でもセッターをしてた。ちなみに音成おとなる芽衣サマメィと同じ中学」


佐間田さまだ先輩は中央地区の出身だったんですか?」


「うん。大田おおた第一だいいち中学っていって、県大会常連の、中央地区の筆頭校。芽衣サマメィは当時の大田おおた一中いっちゅうのダブルエースの片割れ」


「ほえー」


「で、その大田一中のダブルエースの芽衣サマメィじゃないほうが、今右のコートでブロックしてる南五和のセンター。二年生の佐間田さまだ珠衣みい


「ん? あの、それは」


芽衣サマメィの妹。珠衣サマミィ


「なんと……」


 ひかりは口をぽっかり開けて驚いている。この子がこんな風に感情を露にするのは珍しい――などと思っていると、コートにいる珠衣サマミィから「ちょっとそこ!」と大声で訂正が入った。


珠衣ミィ珠衣ミィですからっ! 芽衣じゃないほう(サマミィ)とか言わないでください!」


 何やらこだわりがあるようだった。


「お姉さんとは、随分違ったタイプの方なんですね」


「うん。プレースタイルもけっこう違う。強いってとこは一緒だけどね。大田一中の佐間田姉妹(サマメィ&サマミィ)と言えば、中央地区で知らない人はいない」


「だから佐間田妹(サマミィ)じゃありません! 珠衣ミィ珠衣ミィです!!」


 わたしは「悪い」と片手を上げておいた。姉妹というのは複雑めんどうなもののようだ。


「えっと、次は誰がいいか」


「くるみー先輩! あの左打ち(サウスポー)の方はどこのどなたなんですか!?」


 実花が目を輝かせて見ている方向には、恐ろしく背の高い子がいて、ちょうどスパイクを打つところだった。ふわりと上がったトスを、ばんっ、とアタックライン上に叩き付ける。高い打点からの、角度のあるスパイクだ。


「あの子は、生天目なばため信乃のの。二年生。南五のセッター対角(スーパーエース)。可那が引き込んだ子らしくて、バレーは高校からなんだとか」


「ということは、バレーを始めてまだ一年しか経っていないんですね。とてもそうは見えません」


「去年の新人戦でデビューして、大活躍。以降は『県内最高の左』で通ってる。ちなみに183センチ」


「とーるうより高いんですね!」


「15センチくらい分けてほしいです」


 とおるに頼んでみるといいよ、とは言わない。あの子なら本気でどうにかしようとしかねないからだ。


「あとは、小夜子の対角の、レフトの赤井あかいしずく。サ――珠衣ミィの対角の、センターの結崎ゆいざきはる。二人とも二年生」


「強豪校にしては、レギュラーの二年生率が高いんですね」


「今の南五和は、三年生が可那と小夜子と月美の三人しかいない」


「なるほど」


 わたしは時計を確認する。ジャスト、休憩時間終了だった。


「よし。じゃあ、練習を再開しようか」


 わたしは万智まちの姿を探して、アイコンタクトを取った。静と話していた万智は笑顔で頷いて、透と音々(ねおん)梨衣菜りいなの三人(時々素振(すぶ)りをしていたので、たぶんスパイクについて話していたのだろう)に声を掛け、わたしのところに集合する。


「もう少ししたら全体練習に移るから、それまではスパイクカットね。まずは万智、打ってあげて」


「りょおーかいでぇす!」


 その後、五時を少し回ったくらいで、わたしの一つ上の元主将・桑本(くわもと)紀子(のりこ)さんがやってきた。これで、今日来ることになっているOGは全てだ。


 南五を含めての全体練習になってから、静はわたしとともに球出しに回った。練習に参加すれば、サーブを打たなければならなくなるからだ。


 そして、全体練習を終え、サーブ練習で散らばったボールを片付け、小休止という名の試合準備に入る。


 コートのあちらとこちらに分かれる城上女じょじょじょ南五なんいつ


 主審はカトレアさん。副審は片桐かたぎり里奈りなさん。スコアボード係は衣緒いおさんと紀子さん。


 線審ラインジャッジについては、有難いことに南五の下級生が快く引き受けてくれた。


 立場的に宙ぶらりんの静は、作戦ボードを使ってポジションの最終確認をするわたしの後ろで黙っている。


 それぞれの思惑を胸に、ゲームは始まろうとしていた。

登場人物の平均身長:164.6cm

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