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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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56(胡桃) その後

 一昨年のインターハイ県予選。その二日目。


 市川いちかわしずかは、試合会場に姿を見せなかった。


 それは、けれど、想定内の出来事だった。


 一日目、みなみ五和いつわ高校の棄権により、二回戦を突破したあと。


 南五和高校の監督から、城上女うちの監督含むわたしたち城上女メンバー全員に、直々に謝罪と説明があった。


 南五なんいつのリベロ――有野ありの可那かな――が、朝から体調を崩していたこと。


 南五の誰もそれを把握していなかったこと。


 幸い、大事には至らなかったこと。


 城上女で唯一、有野可那という大問題児おおばかものを知っていたわたしは、さほどショックを受けなかった。むしろ、大事に至らなかったと聞いてからは、遠慮なく憤怒した。


 けれど、他の城上女メンバーはそうではなかった。


 みんな、少なからず心にダメージを受けているようだった。


 特に静は、可那の無事を聞かされてもなお、顔を強張らせたままだった。


 当時の城上女うちの監督は、そんな静に、無理はしなくていい、と言った。明日は自宅休養でも構わない、と。静は監督の提案に従った。


 そして、静を欠いた城上女バレー部は、翌日の準々決勝、第二シードの柏木大かしわぎだい附属高校と対戦し、大敗を喫した。


 もちろん、それは純粋な力の差であって、前日のことを引きずって、とかそういうのではない。


 なんとなれば、わたしたち城上女じょじょじょバレー部は、準々決勝当日その朝、試合会場に着くなり南五和高校バレー部一同に出迎えられ、監督・部長・可那を中心として改めての謝罪を受けたのち、盛大に激励されたからだ。


 主将の川戸礼亜カトレアさんは、城上女バレー部を代表して、南五の監督、部長、そして可那と握手を交わした。


 南五和の皆さんの分まで頑張ります、とカトレアさんは笑顔で言った。


 さらに、試合が始まると、南五バレー部の面々は、応援席からわたしたちに声援を送ってくれた。


 その中で――あるいはコート内の選手たちを含めても――一番声を張り上げていたのは、可那だった。


 わたしたち城上女バレー部は、前日のことを引きずるどころか、前日を超える熱量で戦った。


 少なくとも、わたしの目には、そう見えた。


 先輩たちは心置きなく全力以上でプレーしていた。最後まで諦めずに戦った。負けても晴々としていた。父兄や南五バレー部から暖かい拍手をもらった。監督の有難い言葉で何人か泣いた。その後の打ち上げではみんな笑っていた。


 ただ、その輪の中に、静がいないというだけ。


 多少のアクシデントはあったものの、概ね良好、100点満点中99点、限りなくベストに近いベターな終わりを、わたしたちは迎えたのだ。


 そうして、三年生が引退し、休養日を挟んで、桑本くわもと紀子のりこ新キャプテンの下で練習が始まった。


 そこに、静の姿はなかった。


 やがて、由紀恵ゆきえも来なくなった。


 形の上では、退部ではなく、休部。


 一年生は、事実上わたし一人になった。


 その後、静とは個人的に話をした。全部で三回。一回目は『まだ気持ちの整理がついてないから』と、二回目は『実はサーブが打てなくなって』と、三回目は『私のことはほっといてほしい』と、バレー部への復帰を断られた。


 その三度目の会合を区切りに、わたしは、本人の希望通り、静を放っておくことに決めた。


 由紀恵は、まあ、最初から放っておいた。


 こうして、二年生八人と一年生一人の計九人となった城上女バレー部は、その後も活動を続け、途中に万智まちの入部と監督の異動を挟んで、最高地区ベスト8、県大会出場叶わずという、ほぼ例年通りの成績を残すこととなる。

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